装飾性を省くことで、装飾として見せていくという考え方。
ー 話をこのショップに戻しますが、お店をつくるにあたってコンセプトなどは考えていたんですか?
中室:お店のコンセプトは、佐々木さんと一緒に考えていきましたね。もちろんその前にブランドのコンセプトを電話でお伝えしていて。
佐々木:最初電話でしたよね。その後すぐに会って、さらに細部を詰めて。そこでもうほぼ骨格のようなものはでき上がっていました。
中室:佐々木さんってすごいんですよ。会ったときに「この前、電話で話した感じ、こういうことだと思うんです」って言って、バァッとイメージとなる画像を見せてもらって。それがもうドンピシャだったんですよ。

佐々木:〈モノリス〉ってシンプルで普遍的なデザインなのに、すごく機能的につくられていますよね。一見すると普通なんだけど、実はすごく高品質。それが新しい日常をつくるというか、とにかく興味が湧くプロダクトだったんです。そういうロジックを空間化するには、どうしたらいいかを考えたんですよ。
それで頭に浮かんだのが、ウィーンにある「ヴィトゲンシュタイン・ハウス」でした。ヴィトゲンシュタインという哲学者が、彼の姉のためにつくった邸宅なんですが、入ってみると言葉にならないような静寂を感じる空間なんです。すべての部屋がシンメトリーの構成になっていて、ひたすら同じサッシュ(窓枠)が連続している。とにかくデザインのルールが明確なんですよ。全く装飾がなく、サッシュの配置と空間構成のみが装飾になっていて。そうした機能自体が装飾になっているところが〈モノリス〉とリンクするんじゃないかと思い浮かんだんです。
中室:ぼくもヴィトゲンシュタインについて調べたんですけど、時期的にはバウハウスの影響をもろに受けているんですね。
佐々木:思想的にすごくロジカルなんです。
中室:〈モノリス〉のプロダクトって、すごくロジカルにつくっているんですよ。それはブランドの哲学でもあるんですけど、合理的な機能とデザインを追求していて。だから「ヴィトゲンシュタイン・ハウス」を説明してもらったときに、すごく腑に落ちた感覚があったんだと思います。
佐々木:それでこの現場を見にきて、すごく天井が高いんですよね。この高さがあれば、コンセプトを実現できるなと思ったので、そこから具体的なプランを練っていきました。


中室:すごく高いですよね。天井の網まで3.75メートルあって、その上にダクト類なども見えているから、本来はもっと高いんですよ。
佐々木:天井裏のこの構造ってひたすら機能の塊なんですよ。それを隠さずにあえて見せようって中室さんと話していて。工場っぽいというか、インダストリアルな雰囲気がありますよね。これらはすべて理由があって存在している機能なので、あえて装飾として見せることで空間に取り込むという考え方ですね。
そしてすべての壁面をシンメトリーにデザインして、天井の網と床のグリッドもリンクさせています。

ー 空間の随所にモノリスの比率に合わせた設計がされていると聞きました。
佐々木:モノリスの石板は “1 : 4 : 9” という比率で、それを念頭に置きながら、必要な箇所にそれを落とし込んでいくという考えで進行しました。例えば、この什器の土台は、完全にモノリスの比率でつくっています。
ー このガラスケースもそうですか?
佐々木:4 : 9 に近しい比率になっています。商品サイズから陳列棚の寸法を割り出し、機能を満たすこと、そしてエントランスドアと全く同形状とすることを意識しています。なおかつこのドアはスライドして壁面に収納されます。
ドアって次の空間への入り口ですよね、そして通常はガラスケースのなかってもっと華やかですよね。でもここではドアを開くとモルタルの棚板と裸電球しかない。そんなシンプルな新しい日常のなかに〈モノリス〉のバッグが置かれている絵が頭のなかに思い浮かんだんです。

中室:このドア、すごくいいですよね。本当はすべてのドアを収納して、ガラスケースを開放した状態で営業をスタートするつもりでいたんですが、でき上がりを見たときに閉めたままでもいいなと思って。
お客さまが声をかけて、スタッフがこれを開くところから接客がスタートする。その後、違う商品を見るためにまたドアを開いて。そうやって接客のきっかけや展開をつくる上で、このドアがすごくいい働きをしてくれるんじゃないかと思っています。そういうオペレーションが想像しやすい。
あと、いい意味ですごく緊張感のある内装に仕上がったなと。
ー 緊張感のあるお店というのは、一方ではリスクもあると思うんです。
佐々木:いまは少ないですよね、そういうお店。
中室:「新丸ビル」に入るということで、いい意味で浮いた存在にならないといけないなって感じていたんですよ。この建物から切り離された空間の必要があると思っていて。だから緊張感というのはひとつのキーになると思っています。

ー 佐々木さんにお声がけしようというのははじめから決めていたんですか?
中室:以前、福岡の「FROM WHERE I STAND」というお店のプロデュースを担当したときも、内装を佐々木さんにお願いして。そのときの仕上がりが衝撃的で忘れられないんですよ。これまでさまざまなショップのオープンに立ち会ってきましたけど、あそこまでの感動はなかった。それから間が空いて、自分のブランドのショップをつくるとなったら、絶対に佐々木さんにお願いしようと思っていたんです。