美しいと思ったものには手が伸びてしまう。

ファッションやデザインの世界に住む多くの人たちが、尾崎さんのこだわりに一目置く。培ってきた経験や、そこで育んできたセンスと審美眼は、そう簡単に真似できるものではありません。自分の好きなものに対してとにかく貪欲であるのは間違いないのですが、それをストイックと一言で片付けるのは短絡的すぎるかもしれません。
「愛とセンスがあるものがぼくは好きで、マーケティング的につくられたものよりも、目の前にいる人たちに向けて愛を込めてつくられたものに心を打たれる。自分で買うものもそうしたものを選んでいるし、自分でデザインする服もそういう気持ちでつくっていますね」


「このコーヒー屋さんもそうなんですよ」と話す尾崎さん。オフィスに到着する前、近くにある「BE A GOOD NEIGHBOR COFFEE KIOSK」にて毎朝コーヒを買ってから出勤するといいます。それが尾崎さんの毎朝のルーティンなのです。
「ぼくはコーヒーを四六時中飲んでいるんですけど、テイクアウトしてパッと持ち帰られるお店が好きなんです。ここは美味しいコーヒーをさっと淹れてくれるし、こだわりのある豆を使っているのに値段もそんなに高くない。多いときは1日で3回来てしまうこともありますね(笑)。日曜日はお休みなんですけど、豆も買えるから、休日に仕事があるときはそれを使ってオフィスで自分でコーヒーを淹れるんです。スタッフの皆さんもすごくいい人たちで、絶対になくならないでほしいお店のひとつです」
そんな話をしながらコーヒーを片手にクルマに乗り、オフィスへと向かいます。



「運転している時間がぼくは好きで、なにもできないじゃないですか。スマホも見れないし、だからこそ考える時間ができる。次のシーズンにどんな服をつくろうとか、そういうことを運転しながら考えることが多いですね。景色の一部から服の色を決めたりもして、唐突な色とかはあまり使わないんです」

「あと、クルマってすごく合理的な乗り物だと思うんですよ。目的地まで早く到達できるし、無駄な時間がない。贅沢な話ではありますけど、タクシーを拾う時間を考えたら、自分で運転して目的地まで向かったほうがいいなとぼくは思うんです。そのぶん考えごともできますし、最近はクルマを運転している時間って大切だなとしみじみ感じますね」



オフィスに到着すると、早速仕事に取り掛かる尾崎さん。そこには〈ヤングアンドオルセン ザ ドライグッズストア〉のアイテムはもちろん、自身で集めたヴィンテージやアンティークがズラりと並びます。
「古いものが好きというのは否めないですね(笑)。古いっていうのは20年以上前のものってよく言われていますけど、そこから先にはすごく広い選択肢があって、その中からコレだと思うものを見つけるのが好きなんです」


「むかしのものってやっぱり良いつくりのものが多いんです。さっき話したみたいに、愛とセンスで溢れているというか。小商いが多かったと思うので、地に足がついたものづくりがされている。そうした歴史を踏まえながら、それを現代的な目線で捉えて、造形が美しいと思ったものには手が伸びてしまいますね」

「古着やインテリアは着たり使ったりができるけど、骨董品なんかは見て眺める以外に使い途がない。ぼくの場合はそういうものからデザインのインスピレーションをいただくケースもありますが、じゃあどうしてそれに価値があるかといえば、やっぱり美しいからだと思うんです。だから骨董として残っている。捨てずに大切にされてきた理由がきちんとあるんですよね」
