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Let’s Eat vol.1ビリヤニと心中覚悟のオンリーショップ。その覚悟と強さ。
MONTHLY JOURNAL JUNE 2022

Let’s Eat vol.1
ビリヤニと心中覚悟のオンリーショップ。その覚悟と強さ。

2021年、ビリヤニだけを提供する「ビリヤニ大澤」が神田にオープンしました。“ただおいしいビリヤニをつくりたい”。その思いを具現化したお店をつくるために、目標金額500万円のクラウドファンディングで集まった金額は、なんと1,300万円オーバー。それだけで、大澤さんのビリヤニへの圧倒的な期待値の高さが伺えます。“ビリヤニ or Die!”とでも言いたくなるような心意気で開いたお店は完全予約制で、メニューはビリヤニ、飲み物、以上! これ一つで生きていくと覚悟を決めた男の強さをぜひここから感じ取ってみてください。

PROFILE

大澤孝将

1989年、長野県生まれ。出張で訪れた南インドでビリヤニに出会い、ビリヤニの沼に。経堂の「ガラムマサラ」でインド料理、スパイスへの見識を深めつつ、一方でビリヤニのためのシェアハウス「ビリヤニハウス」、間借りのビリヤニ屋「ビリヤニマサラ」などでビリヤニを究めんとする。コロナ禍でビリヤニがつくれなくなったショックで体調を崩し「ガラムマサラ」を辞め、のちにクラウドファンディングで資金を募り、2021年8月に「ビリヤニ大澤」を神田でオープンした。

理性でつくるビリヤニ。

ー 大澤さんの「ビリヤニハウス」にお邪魔したことがあるんですが、お互い知らない人たちが30人以上も一軒家のリビングに集まって、大皿のビリヤニを食べているその光景に衝撃を受けました。実際、どういう場所だったんですか?

ビリヤニは一度に大鍋で炊いた方がおいしいんです。大鍋で炊けるキッチンの設備があり、かつ大量につくっても同居人がたくさんいれば消費できるから、ということでシェアハウスにしたんです。Facebookで、ビリヤニを炊きますと告知して応募してきた人たちにもビリヤニを提供していましたが、おっしゃる通り30人以上がリビングに集まって、大皿でドンと出した炊きたてのビリヤニをみんなで小皿にとって食べてました。すごく理想的なビリヤニの提供スタイルが、「ビリヤニハウス」でした。でも、コロナ禍で大人数が集まれなくなってしまって、しかもそれが何年も続くという話だったので、「ビリヤニハウス」もビリヤニもオワコンだなって。

ー その話はあとでお伺いしたいんですが、その前にビリヤニとの出会いはどんなものだったんでしょうか?

大学を卒業して、飲食とはまったく関係ない仕事をしていたんですけど、旅が好きだったので、理由をつくってインドに出張に行ったんです。南インドだったんですが、南インド料理はそんなに好きじゃないなと思って、色々と食べ歩いていたら、「ビリヤニ」とメニューに書いてあって。食べてみたらめちゃくちゃおいしくて、もうどハマりしてしまい。

インド滞在中は、毎日の目的がビリヤニを探すことで、1日中ビリヤニを食べ歩くということを繰り返してました。日本に戻ってビリヤニを食べようと思ったら、当時2010年頃には全然見つからないし、あったとしてもビリヤニ風チャーハン日本版みたいな、ビリヤニの名残を全然残してないようなものばかりで。どこに行ってもこれじゃない! って、すごいイライラしていたんですけど、店を貸し切れば、つくってくれるっていうことになったんです。

ー 自身でつくるようになるまでに、もう一段階あったんですね。

貸し切りをしてみたんですけど、当時ぼくは20歳ちょいで、ビリヤニを食べたい人を一度に20~30人も集められなかったんで、mixiで「この日にビリヤニを食べませんか?」とメッセージを送ったり、ハッシュタグで「#ビリヤニ」とツイートしている人全員にDMを送ったりしてました(笑)。中には、おいしい食事に誘っているだけなのに、怒ってくる人もいたり。

ー 大澤さんは「ビリヤニは、大きな鍋でつくった方がおいしい」とおっしゃってますが、店を貸し切る理由は、大鍋でつくらないとビリヤニが不味いからなんですか?

一度にたくさんつくった方がおいしくなるし、ビリヤニは手間がすごいかかるんですよ。たとえば、うちの場合は、この鍋一つで調理時間に4時間かかります。五口のコンロをフル活用してようやくできる。もっと少量の簡単なレシピでも2~3時間はかかります。だから、カレー屋さんがやろうとすると、他の仕込みができないので嫌がる。

ー なるほど。

お店を貸し切りにしたりといろいろとやっていく中で、「日本ビリヤニ協会」の立ち上げや、「ビリヤニを一緒につくる会」をやっているうちに、もしかしたら自分でつくった方がうまいんじゃないかって。で、初めてビリヤニをつくってみたら、自分の中でレベルが結構高かったんですよ。これなら、自分でつくった方が全然いいわってなっちゃって。自慢じゃないけど、いまでも他の有名店とかにビリヤニを食べに行くと、自分が初めてつくったビリヤニのレベルの味がする。ぼくはそこから10年分進化しているわけですからね。

ー それまで、たとえばカレーづくりにはまったりとかはしてないんですか?

研究をするくらいの勢いで、チャーハンにはすごいはまったけど、ビリヤニをつくるために、初めてスパイスを買ったくらいです。いまは解像度が上がったんで分かるんですけど、料理の才能がある人は高級料理…、たとえば、和食やフレンチ、イノベーティブとかそういう世界に行くんです。でも、もちろん全員がそうではないけど、インド料理業界はダメな人も多いので、ちゃんとやればそれだけで十分やっていけるんです(笑)。

ー まだレシピも出回っていないような当時、何を頼りにつくったんですか?

食べていたら、分かるというか…、つくるのはずっとみていたけど、つくる気はゼロの“食べ専”だったので…。どうやったんでしょうね、ネットで調べた気がしますね。

ー そのレシピから相当アップデートされたんでしょうね。

レシピって手順しか書いてないから、すごい嫌いなんですよ。何か目的があるから、その手順は生まれるけど、目指すところは何かということが伝わってないとダメですよね。たとえば、十分煮ればいいとあっても、煮詰めるのか、100度をキープしたいのか。それによって完成したメニューの水分量が全然違う。つまりは、食材の塩分濃度も味も変わってくる。

ぼくのレシピは、基本的に分量しか書きません。今までの経験をもとにした、ベストの数値や比率を出しています。昔からぼくは化学が好きでしたけど、化学の思考を持って料理するだけで全然おいしくつくれるんです。この作業は、この状態をつくり出すことを目指してる、みたいにしていくと普通につくれてしまう。

ー いまのお話を聞いていて、「料理は科学だ」と言われている話を思い出しました。

ぼくからすると、科学以外に何かあるの? って感じです。ぼくはセンスがないから、ただ理性でつくっているだけ。トップレベルのすごい料理人たちは、センスがいいということなんですが、それは誰も思いつかないかつ、誰が食べても感動するようなおいしさを提供できる人たちのことをいうんです。

INFORMATION

ビリヤニ大澤

東京都千代田区内神田1-15-12 佐藤ビルB1F

完全予約制。予約はこちらから。

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