鳥羽さんの思う、ヒトレシピのよさとは?
ー 鳥羽さんが未知の料理をつくるときは、最初のアプローチとしてその料理の背景や歴史まで掘り下げるんですか?
鳥羽:そうっすね、一回勉強します。その料理の定義が一番重要で、以前ガパオライスのバジルが少なすぎて、タイの人に「これはガパオライスじゃない!」と怒られたことがあったんです。そこから歴史のある食べ物に関しては、歴史を学んだ上で、いまであればどうするかを考えます。だから、今日のビリヤニは、既存のレシピを見て、バスマティライスをもっとパラパラにするために、茹でる時にちょっとオイルを入れます。そうやって、既存の歴史の流れから、自分なりのアレンジを加えたり。

鳥羽:でも、建築もそうなんじゃないですか? 昔の日本家屋とかを知らないとできないのかなと。常さんがこの間までクラウドファンディングで募集していた尾道のプロジェクト(築110年以上の木造家屋を改修し、新施設として再生する「LLOVE HOUSE ONOMICHI」。この秋オープン予定)もまさに日本家屋じゃないですか。知らないでいきなり手をつけると、大変なことになっちゃうでしょうね。
長坂:そうですね。大体のことは知らないといえば知らないんですけど、教えてもらいつつ、理解しながらやっていきます。
鳥羽:ぼくも都度インプットしていく感じです。だから知らないことは、逆にすげえ楽しいっすね。ビリヤニを試作した時も、テンション高かったもん。カレーの段階でめっちゃ美味しくても、炊いたら味が薄いとか逆に塩辛いってことも結構あるらしくて。あとは、水分量が多すぎてもダメとかあるみたいで、パラパラにすることはめちゃくちゃ考えたんです。勉強になったし、この知見を活かして、次のコースに入れようっていうくらい、いい食べ物でした。
長坂:それはすごいよかった。めちゃくちゃうれしいです。
鳥羽:このヒトレシピのよさってそこにある気がしていて。常さんに美味しいものを食べて欲しいっていう、料理人としての原点のようなことをやる価値はすごくあるなと。お母さんが子供につくるみたいなことと同じだし、それが一番愛情があっていいなと思うんです。
長坂:ぼくの仕事も、お店でも住宅でもその人と話し、面白いと思ったらそれを素直に聞きつつ、どうやって一緒につくろうかと考えます。どんな建物でも、人と人でつくっていく感じです。
鳥羽:その意味では、常さんもぼくも対象になる人がいないと、ものをつくれないっていう意味では似てるのかもしれませんね。


長坂:「自分(長坂さん)の中で一番素敵なものをつくってください」って言われても、つくれないかもしれない。場所があって、人がいて、そこで面白いって思わない限りはなかなかつくれない。
鳥羽:建築も人が入ってこそ、息吹きや気配が見えるようなところもあるし、ぼくら料理人もつくるのはいいけど、食べてもらう人がいないと意味がないんです。建築と似てますね。
長坂:建築として、この話面白いなってことを、来たお客さんにできるだけ感じてもらえばいいなと思ってぼくはつくってるので。面白いと思う話が最初にないと、どうしていいのかわからないかもしれない。
鳥羽:そう、理由が本当にないっていうか。そのモチベーションのとっかかりっすよね。話を聞いて改めて料理すると、自分としても、原点に還りつつもう一段ステップアップしたみたいな感じになるかな。だから、いつもインタビューでも言ってるんですけど、やりたい料理がないんすよ。その人に、その場所で喜んでもらいたい料理だから。相手の希望をフラットに受けてから、どう返すかっていうことがモチベーションになる。