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FEATURE / PREMIUM

Garage's The Outdoor Journal

# 005
How to Dig?

ディグる店主たち。

アウトドアを楽しむひとびとのなかで、一目置かれるショップがいくつかあります。
その理由は品揃えだったり目新しさだったり、理由はさまざまだけど、
一番のキモはその店主の目利きぶりかもしれません。
アウトドア界屈指の目利きであるスタイリスト平健一さんが、
そんな店主たちを知らないわけがありません。
平さん曰く、なかでも「mountain mountain factory」と「COMPASS」、
奇しくも徒歩圏内にあるこの2ショップのディグ能力はハンパじゃないとか。
両者が揃うとどこまでアウトドアを深く掘れるのか、御立合いです。

Photo_ Yuya Wada
Stylist_ Kenichi Taira
Edit_ Yuka Koga
Design&Development_ BONITO

mountain mountain factory

キャンパーの
よろず相談所。

名古屋の中心街からすこし外れ、
車通りの多い名古屋高速3号大高線沿いに
忽然と姿を現すのが
「マウンテンマウンテンファクトリー
(mountain mountain factory)」。
昨今のアウトドアブームを牽引する
人気ショップとは思えない、
知るひとぞ知るといった佇まいです。
インスタグラムや口コミでしか知らなかったキャンパーは、
実際に来て驚いたはず。
通称「MMF」と呼ばれるこのショップのオーナーであり、
平さんとも旧知の仲の山口慎也さんを訪ねます。

PROFILE

BRAND

MMF 代表

NAME

山口慎也

DATA

古着屋のバイヤー(21歳まで)、広告業、ベンチャー企業でのIPO経験を経て、趣味のアウトドアを仕事にするため、2017年に独立。地元である愛知県に戻り、「マウンテンマウンテンファクトリー」を立ち上げる。その後、国内最大級のアウトドア即売会「フィールドスタイル」での出店をきっかけに、個人でアウトドアギアをつくるガレージブランド集団「M16」を組織。

マウンテンマウンテン
ファクトリーができるまで。

Interview by Shinya Yamaguchi 01

足を踏み入れてみれば、いや外からちらりと覗くだけですぐに納得できます。
所狭しと並ぶギアは、売り切れ続出でそうそう買えないようなレアものから、
いまホットな新作まで、道具マニア垂涎のラインナップ。
と思いきや、よく見ると定番の良品もきちんと置いてあり、他のショップとは一線を画しています。

「ガレージブランドのアイテムは意外と置いてないです。すぐに売れてしまうんですよ」
確かに、見渡す限りレアものばかりかというと、
そういうわけでもない店内。オープンから5年ほどたった「mmf」は、
当初はアウトドアショップだという意識はなかったと言います。

「以前は広告、店舗開発、経営企画など
多岐にわたる仕事をしていました。
小さかった会社が
どんどん大きくなるのは
面白かったけど、
会社を拡大する中で
地元のお父さんお母さんが
やっているような、
カルチャーの根付いたお店を
退かせてしまうこともあって心苦しかったです。

『黒船が来たぞ!』とか言われていて」

20代はファッションや音楽が好きで、
ストリートシーンに身を置いていた山口さん。
さらに以前は古着店での勤務、
海外でのバイヤーを担っていました。

カルチャーを重んじる精神とは反する働き方に、
矜持が許さなかった部分が
あったのかもしれません。

「会社の拡大に伴って、自分が動く仕事が
少なくなってしまって退屈だったこともあって、
次は“人のためになるような仕事をしよう”と
思って会社を辞めました。
やることは決まってなかったけど、
若い頃にストリートで遊んでた仲間で、
やってることはカッコイイのに
仕事になっていない連中が結構いたんで
その人らを仕事とつなげる
コネクターになれないかなとは考えてました」

都内で働いていた山口さんは
地元である愛知に戻り、
事務所の物件探しをしていました。
そこで、いまの「mmf」のテナントに
出会ったと言います。

「何度か目の前を通っているうちに何となく気になってきたのが最初です。“なんだこのボロい小屋は?”と思って見ていたのですが、これも縁かなと思いここに決めました。コンサルという仕事なら、働く場所はどこでもいいかなと思ったので」

「何度か目の前を通っているうちに
何となく気になってきたのが最初です。
“なんだこのボロい小屋は?”と
思って見ていたのですが、
これも縁かなと思いここに決めました。

コンサルという仕事なら、働く場所は
どこでもいいかなと思ったので」

すぐさま物件を押さえると、
友人知人を集めて突貫工事。
内装や外観は自前です。
4月に退社し、
6月には「mmf」をオープンしていました。

いつの間にかアウトドアショップに。

Interview by Shinya Yamaguchi 02

山口さんとキャンプの最初の接点はどこにあったのでしょうか。店名から紐解きます。

「25年ぐらい前にバイヤーをやっていた時代、友人たちと『マウンテンマウンテンキャンドルファクトリー』という屋号を持っていました。
全国のレイブを回りながら、自作のキャンドルを販売していたんです。
そこで寝泊まりする手段がテント泊だったので、自分にとってのキャンプは手段なんです。
彼らにはお店の立ち上げでも内装を手伝ってもらったりして、屋号も貰い受けました」

その後、ベンチャー企業に入社し、
そこでもキャンプとの繋がりがありました。

「7年か8年前にクルマの撮影をするとき、
人から紹介されて初めて平さんに会いました。
それ以来、キャンプの企画や撮影は
ずっとお願いしてました。
“おしゃれなキャンプする人がいるんやな〜”
って思ってました」

退社してからは、
原点に立ち返ろうと考えていた山口さん。
バイヤー時代を思い出し、渡米も敢行します。

「バイイングして土日だけのお店も
開いてみようかなと思いまして。
でもアパレルにはあんまり
興味がなくなっていたので、
道具類を買い集めていたんです。
それでオープンしてみたら、
なんとなくアウトドアっぽいお店になってました」

中二病になろうと思って、という山口さんは、
以前はヴィンテージファッションに惚れ込み、
海外の危険な場所まで足を踏み入れていました。
しかし古着ブームとともにヴィンテージの定義や
敷居の高低が曖昧になり、山口さんの中で
ヴィンテージ熱は冷えてしまいます。

「古着ブームもあって、ヴィンテージの
購買層がチャラチャラしてきたというか。
自分はこの一枚のために命かけて
買い付けに行ってるのに、
ステータス的にヴィンテージを買ってる奴らに
売りたくないなって思っちゃった(笑)。
だから自分は最初はキャンプに対しても
アンチでした。
品評会みたいに道具をずらーって
並べているのとか。

“目的があってその手段として
キャンプがあるはずなのに、
キャンプのためにキャンプをするのって
何が面白いんだろう?”と正直懐疑的でした」

キャンプの面白さを現場で知る。

Interview by Shinya Yamaguchi 03

ただの批判で終わらないのが山口さん。
キャンプでそんな人を見かけると、声をかけて話を聞きに行きました。

「喧嘩売ってるって思われてたと思います(笑)。
キャンプもいまよりもっとゆるい雰囲気で近くの人にも話しかけやすかったので、
『なんでこんなスタイルなんすか?』とか言って。
でもそうやって会話していると仲よくなってきて、彼らの言ってることがわかる部分も出てきました。
どうしてキャンプが楽しいのか、なぜその道具を使っているのか。
キャンプのためのキャンプも楽しいもんなんだな、と思えてきました。
その後はソロキャンプにはまり自己満足の道具沼に…」

山口さん流のリサーチの結果、
「mmf」はアウトドア好きが足しげく通う
お店として確立しています。

「オープンして驚いたのは、道具の使い方を知らない
お客さんが多いことです。
ありがたいことにキャンプがブームになって、
この店に来てくれる方も増えたのですが、
インターネットで拾える情報ってどうしても
偏りが出るんだなと実感しました。

かっこいいブランドや道具をたくさん知っている人でも、
意外に基礎的な部分がすっぽり抜け落ちていたりします。
そこを丁寧に説明できるのがお店のいいところなのですが、
どうしてもひとりひとりのお客さんに
時間をかけてしまうことになるので、
お店が変に混雑しないように土日だけじゃなくて
毎日開けることにしました」

「mmf」はさまざまなお客さんに向けて
広く開かれています。
現店長の北島さんと、山口さんも時々店に立ち、
提案やアドバイスを積極的に行なっています。

「いまのキャンプ道具は
アースカラーばっかりだから、
マグカップは赤とか差し色入れて行こうよ、
とかそんな話ができればいいですね。
古い道具でいいのを紹介したり。
ヴィンテージショップってどうしても入りにくい印象
がありますけど、
この店はごちゃ混ぜで置いてるので
敷居は低いと思います。

たまにびっくりするんですけど、
お店を立ち上げる相談をしにくる人がいたりします。
『ファンです!』ってニコニコしながら、
『どんなものを置いたら
売れますかね?』って聞いてきたり。
もうそんなん、好きなもの置けば
いいんじゃないって思います(笑)。

じゃなきゃ続かないですしね。
いいお店が増える分には業界の底上げになるので、
ぼくとしてもうれしいんですけど」

ガレージブランド集団のことを
根掘り葉掘り!

キャンプトレンドのなか、
流星のごとく登場して瞬く間に業界を牽引する存在となったガレージブランド集団「M16(エムシックスティーン)」。
山口さんは職人集団である彼らをまとめ上げるボスでもあります。
ほとんど情報のない公式サイトに代わって、山口さんにQ&Aに答えてもらいます。

ガレージブランド…個人あるいは小規模でキャンプ道具を製作し、販売するブランドを指します。
「こんな道具があれば」と思いついたキャンパーがガレージ脇で手を動かしてつくったような、
痒いところに手がとどくアイテムが多く、熱狂的なファンがつくほど人気のものもあります。

MEMBER

ASIMOCRAFTS / アシモクラフツ INAVANCE / インアバンス H&O / エイチアンドオー OLD MOUNTAIN / オールドマウンテン GRINDLODGE / グラインドロッヂ The Arth / ざぁ~ッス SomAbito / ソマビト TRUNK ZERO / トランクゼロ SANZO KOMUTEN / サンゾー工務店 NATUAL MOUNTAIN MONKEYS / ナチュラルマウンテンモンキーズ NORAs / ノラズ neru design works / ネルデザインワークス BYCRUISE ORIGINALS / バイクルーズオリジナルズ BONFIRE GO OUTSIDE / ボンファイヤーゴーアウトサイド BALLISTICS / バリスティクス 38explore / ミヤエクスプロー MMF / エムエムエフ

Question 01 /

いろんな方面の職人たちが自分で抱えるちっちゃなブランドが所属するチームです。イベント仲間でもあり、一緒にキャンプに行くグループでもあり。

Question 02 /

愛知で開催されるアウトドアの展示即売イベント「フィールドスタイル」に、出店したのがきっかけです。「出てみたいけど、やり方もわからないし規模的にも難しい」という人たちが何人かいるのを知って、自分が取りまとめてチームで出るのがいいだろうと思っていろいろ声をかけたらこんな大きなチームになっちゃいました(笑)。

Question 03 /

立ち上げの経緯の通り、主にイベント出店です。「フィールドスタイル」を含め、年4回はどこかに顔を出してます。「うちのイベントも出て欲しい」って依頼をもらうことも多くなってるんですが、全員集まるのは結構ハードルが高いので回数は絞ってます。イベント後の飲み会ではお互い意見交換したり、今後のことを話したり。

Question 04 /

イベントだったり、タイミングが合えばプライベートでもキャンプに行きますけど、お互いのアイテムを飾りあってキャンプサイトがガレージブランドだらけっていう感じではないですよ!? むしろインスタグラムで見るような凝ったサイトよりは断然シンプルな方だと思います。自分に必要なものだけ揃えてキャンプサイトをつくっているイメージです。そこで喋ったり食事をしたり、試作品のテストをしていることも多いですね。

Question 05 /

ガレージブランドのよさはスピード感だと思うんです。キャンプで感じた不便なことを自前の技術を使って解決するから、シンプルで早い。しかも毎週毎週キャンプに行ってるような玄人たちが突き詰めてつくっているものなので、信頼性は高いです。キャンプが流行り出してからは、ちょっとイロモノの印象が強くなってしまったのが個人的には残念です。ガレージブランドからキャンプをはじめる人たちが出てきて、情報もインターネットで豊富に入るようになって、孤高の職人だった人たちが一気に“会えるアイドル”みたいに映るようになってしまったというか。消費されすぎてるような感じがしますね。趣味だったキャンプが仕事になって、それで食べていけるっていうのはいいことでもあるから難しいところなんですけど。

Item

山口さんとも昔から親交の深い平さんに、
「mmf」をぐるりと見渡してもらい、これぞというアイテムをセレクトしてもらいました。
店長の北島さんイチオシも要チェック。

[ SANZOKOUMUTEN ]

RODAN

  • STANDARD ¥20,350
  • HANGETSU ¥23,650

おすすめしている人

職業:スタイリスト
名前:平健一さん

販売が予告されるたびに売り切れ必至の焚き火台。「スタンダード」と「ハンゲツ」を組み合わせることで、これまでにない形に仕上がります。かくいう平さんも一台持っている愛用者。

[ IGLOO ]

Retro Picnic Basket
Cooler 25 qts

  • ¥27,300

おすすめしている人

職業:mmf代表
名前:山口慎也さん

ヴィンテージのクーラーボックス…と思いきや、実はこれは現行モノ。クーラーボックスの雄〈イグルー〉のレトロスペシャルエディション。見た目は90年代でも、機能は令和クオリティです。

[ DELTA/MT ]

Extreme X

  • 30L ¥19,800 39L ¥28,600
  • 73L ¥33,000

おすすめしている人

職業:スタイリスト
名前:平健一さん

かつてアウトドアの収納に、工業用の無骨なアルミコンテナしかなかった時代。そこに目をつけた「mmf」が注文し、マットブラックに塗装したモデルができました。塗装の下は通常のアルミコンテナなので使っているうちに剥げてくるのですが、その味わいもいいんだとか。

[ F/CE. ]

CORDURA COOLER
CONTAINER

  • ¥28,600

おすすめしている人

職業:MMF店長
名前:北島陽さん

数々のクーラーを見てきた北島さんも太鼓判を押すクーラー。CODURA 500デニールのリップストップファブリックを使い、高い防水性と強度を実現します。ファッショナブルでありながら、しっかり冷える機能性に惚れ込んでいるのだとか。

SHOP DATA

  • 店名:

    mountain mountain factory /
    マウンテンマウンテンファクトリー

  • 住所:

    愛知県名古屋市昭和区白金2-14-5

  • 時間:

    平日 12:00〜20:00 /
     土日祝 10:00〜19:00

  • 定休日:

    木曜日

  • インスタ:

    @mmf_tools

普遍なもの、
不変なものを起き続ける店。

名古屋を訪れるたびに
平さんが立ち寄るというこのショップは、
MMFとはまた違った趣き。
一見気がつかないこの場所にコンパスはあります。
コンパクトな店内は、ある人が見れば釣具屋、
ある人が見れば古着屋、
ある人が見れば民芸品屋…
平たく言えば雑貨屋ですが、
そう簡単にはくくれない秩序と混沌がありました。

PROFILE

BRAND

COMPASS
オーナー

NAME

杉戸伸行

DATA

都内のインテリアショップなどで15年ほど勤務。その後、2012年に地元である愛知に戻り、名古屋市中央区栄にショップ「コンパス」をオープン。2020年に、現在の名古屋市中区千代田へ移転する。週末はもっぱら釣りに出かけ、インスタグラムにはその釣果がずらり。

気の向くままに集めてみました。

Interview by Nobuyuki Sugito 01

名古屋に降り立つときに、平さんが必ず立ち寄るという「コンパス」。
アウトドアショップかと思いきや、そういう訳でもないようで。

「〇〇屋さん、と括られたくなくて、
どんな店かひと口では言えないような店にしています。
新しいものも古いものもまぜこぜで、
木彫り熊があったり釣り具があったり。
アウトドアのものは多いけど、
もっと広くカルチャーを扱っています。
ま、強いていうなら、自分の興味のままにものを
集めてできた店って感じですね」

見回すと釣り具があったり服があったり、
絵や置物、本なんかも。
なんとも不思議な店です。

「だから来てくれるお客さんの反応も2パターン。
“おお、すごい!”とワクワクしてくれるひとと、
“なんだこの店は?”とちょっと見て
帰ってしまうひとがいます。
常連のお客さんは掘り出し物を
探すのを楽しみに来てくれるみたいですね」

杉戸さんのセレクトに
惚れるひともいれば去るひとも。
常連を熱狂させるもの選びの目線は
どこで培ってきたのでしょうか?

「以前はインテリアショップで
バイイングを担当しつつ、
長く東京で暮らしていました。
雑貨なんかは
結構自由にやらせてもらっていたので、
興味の幅を広げながら、
あれこれ開拓していました。
何もなければそのまま東京に
居続けたかもしれません」

山口さんと同じく、杉戸さんも愛知県が地元です。
里帰りのきっかけは
2011年に起きた東日本大震災でした。

あの地震のあとで、
このまま東京にいるのもどうなんだろう、
と思うようになりました。

「それで会社員を辞めて、
準備を整え、
2012年には栄の方でこの店をはじめたんです。
仕入れのノウハウなんかはあったので、
立ち上げは結構スムーズでしたよ」

そして入居していたビルの老朽化をきっかけに
千代田へ移転。
いまの場所ではもう2年ほど
お店を営んでいます。

釣りとは切っても切れない関係。

Interview by Nobuyuki Sugito 02

目ざといひとなら気づくはず。
ジャンルレスに見える「コンパス」でも、ロッドやリール、魚の絵など、釣り関連の道具やグッズはとくに多く置かれています。
ショップのインスタグラムも釣果づくし! 杉戸さん、実は熱心な釣り人なのです。

「ボーイスカウトに所属していたこともあって、昔からアウトドアはずっと生活とともにありました。
遊ぶと言ったら山とか川とかで。家から木曽川が近かったので、
学生のころは夏休みの補習をサボって川釣りに行ったりしてました(笑)
帰ってから母親に“あんた、なんで日焼けしてるの?”って聞かれて“体育で…”とか無茶な言い訳したり」

とはいえ、東京にいるあいだはすこしお留守だったよう。

「都内にいると車を持つのも郊外に出るのも
一苦労なので、行けて年に2、3回って感じでしたね。
それも近郊の管理釣り場だったりして。
愛知に戻ってからしばらく経って、
車で1時間くらいの距離に
釣りで有名な川があったので
“久しぶりに行ってみるか”
と釣り具を持って出かけたら釣れちゃいまして。
“面白い!”と、以来、ハマりっぱなしです」

杉戸さんのスタイルは
基本的に川でのフライフィッシング。
鳥の羽で虫に似せた“毛鉤=フライ”を
釣り糸の先につけて流し、魚を釣る方法です。
子どもの頃の経験も合わせて、10年ほどの経験者。

「魚の動きを読み、彼らの食べるものを学び、
じっくり狙うのが楽しいんです。

“来週ごろからあの川であの虫の羽化が
はじまるはずだから、フライはアレか…”と
考えながら毛針をつくり、
休みの日に週1ペースで川に出かけています」

獲物を求めて、杉戸さんは初夏と秋には北海道まで足を伸ばします。

獲物を求めて、杉戸さんは初夏と秋には
北海道まで足を伸ばします。

「この7月頭、北海道で50cm級の大物が釣れたのは
かなりテンション上がりましたね。
やっぱり狙ってでかいのが獲れるとうれしい。
本州では大きくても30cmほどで、
しかも大半が放流魚。
ひとの手が入ってない天然物が釣れるのは
日本だともう北海道くらいなもんです。

だから一回北海道で釣ると、
本州じゃ満足できなくなるんですよ」

感覚を磨きながら
セレクトし続ける。

Interview by Nobuyuki Sugito 03

日本に限らず海外まで杉戸さんは買い付けに出ます。
そして出張を口実に釣りへ…いやむしろ、釣りのついでにバイイング。
釣りのためならどこへでも、と杉戸さんが熱狂するほど、お店のラインナップは濃く深いものになっていくのです。

「海外だとイギリスによく買い付けに出かけます。
当時、アメリカものを扱っているショップは周りに多かったので、何か違うことがやりたくてイギリスへ行くようになりました。
歴史が長い分、古いものも多くて、自分はヨーロッパの道具が好きです。

行くのはアンティークマーケットで、気候がいい6月に大きなマーケットが集中するので、そこを狙って行くことが多いですね。
都心は物価が高いので、レンタカーで郊外まで走ります。
で、その6月って釣りにもいい時期で。マーケットは昼頃に終わるので、午後は釣りしてます。
他の場所に行くこともありますが、基準は釣りができる川が近いかどうか。
商売にも関わる大事なことですから、釣りするために買い付けに行ってるし、釣り具も経費で落としてます(笑)」

と言いつつ、杉戸さんが濃厚なセレクトができるのは、ブレない価値観があるからです。

「ジャンルに固執したくない気持ちと同じく、流行に踊らされたくないとも思っています。
“人気のアレを入荷しよう”なんてことはしたくなくて、いつも同じものが買える店でありたいから、
置かれているものがものすごく入れ替わるようなことはないです。

いいものはずっといいと思うから、古いからいい、新しいからいい、という見方はしないです。
実用的でずっと変わらないものが選定基準ですね。
だから道具みたいなものはすこし多いかもしれません。
とはいえ昨今のアウトドアブームを対岸で見ながら“うちは乗れてないな〜”なんて思いつつ…(笑)」

Exhibition

見ていてうるさくない、絶妙な配置でたくさんのモノが並ぶコンパスでは、
買い物以外にも鑑賞する楽しみがあります。
“買えるものと買えないものの区別がつかないんですよね!”と
平さんも嬉々としてあれこれ丹念に見て回っていました。

毛鉤をつくるときには、さまざまな鳥の羽を使う。毛鉤のために養殖されている鶏もいる。
杉戸さんはこれらを輸入したり、また近所の公園でカラスの羽を拾って使ったり。こちらは店内ディスプレイ。

北海道のタイヤーがつくった毛鉤。丁寧に毛鉤の名前がタグづけされた5個セット。

「コンパス」の店長、アックス。水は苦手。杉戸さんと釣りに出かけてもアックスはクルマで留守番係。

釣りの巨匠である開高健氏のサイン入りベストがかけてある。常連さんがくれたものだという。
曰く、“開高さんは普段気難しいけど、お酒を飲むと気前がよくなる”。

Shopping

もちろんお買い物もどうぞ。
平さんが以前見つけて以来、
立ち寄るたびに買い物せずにはいられない「コンパス」で、
ついつい食指の伸びたアイテムをピックアップ。
価格はお店でご確認を。

PICKUP
ITEM
01

ピッケル

コンパスの密かな目玉であるピッケル。昨今のアルミやカーボンではなく、昔ながらの木製シャフトのものがたっぷり置いてあります。山に登る、ただそのためにつくられたシンプルな機能に惹かれてつい仕入れてしまうんだとか。ちなみに1万円どころの価格ではないので、なかなか売れないのがちょっと悩み。でもファンは多いようです。

PICKUP
ITEM
02

エルメスのナイフ

知る人ぞ知る、エルメスの刻印が入ったヴィンテージのハンティングナイフ。アウトドアに最低限必要なのはナイフですから、いいものを使うっていうのは道理です。持ち手の素材はさまざまですが、とりわけ美しかったのはバッファローホーンでできたもの。“キャンプ場でなくしたら泣きます!”と平さん。

PICKUP
ITEM
03

開高健グッズ

見て楽しむだけではなく、実はひっそりと値段がついているものもあるんです。このアルミ製のボトルもそう。昔、開高氏が仕事でスコットランドへ赴いた際、ウイスキーを入れて持ち運んだという貴重なものです。本来はミルクボトルで、保温保冷の機能はまったくありませんので悪しからず。

PICKUP
ITEM
04

バブアーのジャケット

昔ながらのオイルドジャケットが好きで、いつも切らさないよう集めているという杉戸さん。手入れをするほど味が出るところや、その道具性に惹かれているのだとか。ちなみに独特なオイルの匂いがあるので、電車ではちょっと着にくいかも、とのこと。

PICKUP
ITEM
05

木彫り熊

木彫りの熊といえば北海道ですが、実は起源はスイス。昭和初期、北海道の人々がスイスの木彫りの熊を手本に彫ったのがはじまりです。鮭をくわえているのは日本独特のもので、あの定番のもの以外にもさまざまな表情、動き、大きさの熊がいるのです。

SHOP DATA

  • 店名:

    COMPASS

  • 住所:

    愛知県名古屋市中区千代田2-16-20
    安井ビル 2階

  • 時間:

    11:00〜19:00
    (月曜のみ、11:00〜17:00)

  • 定休日:

    火曜日

  • インスタ:

    @compassnagoya

ディグるふたりはモノ、
ひとをどう見る?

「mmf」の山口さんと「コンパス」の杉戸さんは、
じつは以前からの知り合いです。
独自の視点でモノを見る彼らの、
プライベートなおしゃべりを少し覗かせてもらいました。

Talking dy Yamaguchi&Sugito 01

ー それぞれのお店に行き来されるんですか?

山口

山口 : ふらっと行きます。セレクトは全部いいけど、ピッケルとか置いてあるのが昔からめちゃめちゃかっこいいなと思ってました。

杉戸

杉戸 : 全然売れないけどね。デザインが好きなんですよね。ピッケルとしての用途以外何もないけど、そこが潔くてかっこいいなーって。

あとぼくはすいません、行ったことなくて…。クルマで前は通るけど!

山口

山口 : 来てくれたことないわ(笑)

杉戸

杉戸 : 正直、ひとの店に行くとそのラインナップが頭に入って、影響されるのがちょっとやだっていうのはある。無意識でインプットされちゃって、次に自分が買い付るときに同じものを買ったりしそうなのが怖い。

山口

山口 : 多分年代的にね、同じだから分かる。ぼくもインスタとか雑誌を見るのが大嫌いなんですよ。少なからず“あ、こういうのが流行ってるんだ”とか思って気になってしまう。道具は普遍的なものでいいはずだから、流行を気にする必要はないはずなんですよ。とはいえ買い付けのときに何も知らないのはダメだから、北島に“お前はインスタ見といてくれよ”と(笑)。

ー 誰かのおすすめがノイズになるんですか?

杉戸

杉戸 : 自分では気にしてないつもりでも、やっぱり無意識で入ってくるんですよ。

山口

山口 : それだったら実際にキャンプへ行ったり、釣りに行ったりして、自分から出会いに行った方がいいです。たとえば友達が使ってる道具を“めっちゃいいじゃん!”って取り入れるのはいいかなって思います。

SNS、本当好きじゃなくて、なんか久々に会った奴でも“この前、俺がインスタに上げた〜”って話しはじめてきたりして。

杉戸

杉戸 : そのひとの投稿をこっちが見てる前提で話すひと、いますよね。

山口

山口 : “いやごめん知らない…”って(笑)。SNSがあると会わなくても勝手に情報が入ってきちゃって、ある種寂しいです。まあ上手に使えないだけなんですけど。

杉戸

杉戸 : ひとが釣った魚のことはすごく気になるけどね。“おお、あれあそこの川で釣れてんだ”とか。

山口

山口 : そういう限定的な使い方はいいですよね。

Talking dy Yamaguchi&Sugito 02

ー 東京と名古屋、どちらも経験されてるお二人から見て違いってなんでしょう?

山口

山口 : ここではうちとかコンパスさんみたいなお店って珍しいんですよ。

杉戸

杉戸 : 名古屋の人は東京で流行ってる〜みたいなのが好きですからね。芸能人の誰々が使ってる、とか。

山口

山口 : どこぞのもんでどこで売られてるのか。お墨付き文化とかいうけど、独特ですよね。それでいてお金はあるから、〈ルイ・ヴィトン〉が世界で一番売れるなんて言われるのもそういうことです。

杉戸

杉戸 : だからうちは名古屋のひとより東京から来てくれるひとのほうがお金使ってくれてるんじゃないかな。何の説明も書いてないから、値段が高いのか安いのか判断がつかないって思われてるのかも。

山口

山口 : そうそう、マルシェとかやると分かりますよ。東京だと値段も見ずにパッと“これください”って言われることが多いけど、名古屋だとまず値段から商品名、説明文、じーっくり見る。

杉戸

杉戸 : 新車とか好きですよね。うちもあの値段で売ってると“え…これって中古ですよね!?”って言われたり。

山口

山口 : 中古って(笑)。 ぼくも昔、近所のおばあちゃんが来て“あんたのとこ、中古のもの色々やってるんでしょ、うちで使ってないの置いてくわ”って古いキャンプ用品色々置いて行ったことがありました。

杉戸

杉戸 : リサイクルショップ扱い(笑)。

山口

山口 : そうそう、でもよく見たらデッドストックのいいやつが混じってたんですよ。だから“4万くらい値段つきますけど、買い取りましょうか?”って言ったんですけど“いい、いい、中古だで”って。

Talking dy Yamaguchi&Sugito 03

ー アウトドアって今後どうなっていくんでしょうか。

山口

山口 : 俺が一番見失ってるとこですよ! はっきり言って知ったこっちゃないというか(笑)。自分が楽しいことをできれば。

杉戸

杉戸 : 自分が楽しい釣りができれば。

山口

山口 : ほんと。プロキャンパーってなんですか? 誰がプロのライセンスを与えてるの? みたいな。好きに遊べばいいんですよ。

杉戸

杉戸 : 自分が何が好きなのかよくわかんないような人が多くなってますよね、つい情報に踊らされちゃうんだと思う。

ー 二人から聞くと説得力がありますね。ちなみに若い頃から流行に踊らされないスタイルだったんですか?

杉戸

杉戸 : めっちゃしましたよ! 一通り経験して、流行の無意味さを知ったのかな。キリがないんですよ。

山口

山口 : しかも若い頃はプロ意識を持って極めようとしすぎますよね(笑)。だからやめるとき、全部黒歴史だーってぶん投げて一切封印しちゃう。でも自由な時間ができたなら、もう一回中二病に戻ってもいいんじゃない?

杉戸

杉戸 : 自分が本当に好きなものはなんなのかって考えてみてもいいですよね。

山口

山口 : とくに僕らと同じ40代、50代くらいのひとは、きっと20代で楽しい時間も過ごしてると思うし、そこにもう一回立ち返ってもいいかも。そこからでも遅くないですよ。

眼を磨き、
モノを捉える。

ふたりの店主も、平さんも、
ひょいと何気なくモノを選んでいるようで、
経験と知識に裏打ちされたセンスが
その一手に宿っています。
時間をかけて、多くのモノと向き合ってきた
彼らの審美眼は本物でした。
一朝一夕にはいかないけれど、
流行り廃りに揉まれながら
兎にも角にもモノに触れていけば、
だんだん見えてきそうです。

WHAT’S Garage’s

いま来ているビッグなアウトドアウェーブを、
フイナム的にライドしていく本連載「Garage’s(ガレージーズ)」。
アウトドアフィールドで活躍するスタイリスト、平健一さんをナビゲーターにつけ、
気になる場所やものを見つけては西へ東へと足を運びます。

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