FEATURE / PREMIUM
# 005
How to Dig?
ディグる店主たち。
アウトドアを楽しむひとびとのなかで、一目置かれるショップがいくつかあります。
その理由は品揃えだったり目新しさだったり、理由はさまざまだけど、
一番のキモはその店主の目利きぶりかもしれません。
アウトドア界屈指の目利きであるスタイリスト平健一さんが、
そんな店主たちを知らないわけがありません。
平さん曰く、なかでも「mountain mountain factory」と「COMPASS」、
奇しくも徒歩圏内にあるこの2ショップのディグ能力はハンパじゃないとか。
両者が揃うとどこまでアウトドアを深く掘れるのか、御立合いです。
Photo_ Yuya Wada
Stylist_ Kenichi Taira
Edit_ Yuka Koga
Design&Development_ BONITO
キャンパーの
よろず相談所。
名古屋の中心街からすこし外れ、
車通りの多い名古屋高速3号大高線沿いに
忽然と姿を現すのが
「マウンテンマウンテンファクトリー
(mountain mountain factory)」。
昨今のアウトドアブームを牽引する
人気ショップとは思えない、
知るひとぞ知るといった佇まいです。
インスタグラムや口コミでしか知らなかったキャンパーは、
実際に来て驚いたはず。
通称「MMF」と呼ばれるこのショップのオーナーであり、
平さんとも旧知の仲の山口慎也さんを訪ねます。
PROFILE
BRAND
MMF 代表
NAME
山口慎也
DATA
古着屋のバイヤー(21歳まで)、広告業、ベンチャー企業でのIPO経験を経て、趣味のアウトドアを仕事にするため、2017年に独立。地元である愛知県に戻り、「マウンテンマウンテンファクトリー」を立ち上げる。その後、国内最大級のアウトドア即売会「フィールドスタイル」での出店をきっかけに、個人でアウトドアギアをつくるガレージブランド集団「M16」を組織。
マウンテンマウンテン
ファクトリーができるまで。
Interview by Shinya Yamaguchi 01
足を踏み入れてみれば、いや外からちらりと覗くだけですぐに納得できます。
所狭しと並ぶギアは、売り切れ続出でそうそう買えないようなレアものから、
いまホットな新作まで、道具マニア垂涎のラインナップ。
と思いきや、よく見ると定番の良品もきちんと置いてあり、他のショップとは一線を画しています。
「ガレージブランドのアイテムは意外と置いてないです。すぐに売れてしまうんですよ」
確かに、見渡す限りレアものばかりかというと、
そういうわけでもない店内。オープンから5年ほどたった「mmf」は、
当初はアウトドアショップだという意識はなかったと言います。
いつの間にかアウトドアショップに。
Interview by Shinya Yamaguchi 02
山口さんとキャンプの最初の接点はどこにあったのでしょうか。店名から紐解きます。
「25年ぐらい前にバイヤーをやっていた時代、友人たちと『マウンテンマウンテンキャンドルファクトリー』という屋号を持っていました。
全国のレイブを回りながら、自作のキャンドルを販売していたんです。
そこで寝泊まりする手段がテント泊だったので、自分にとってのキャンプは手段なんです。
彼らにはお店の立ち上げでも内装を手伝ってもらったりして、屋号も貰い受けました」
キャンプの面白さを現場で知る。
Interview by Shinya Yamaguchi 03
ただの批判で終わらないのが山口さん。
キャンプでそんな人を見かけると、声をかけて話を聞きに行きました。
「喧嘩売ってるって思われてたと思います(笑)。
キャンプもいまよりもっとゆるい雰囲気で近くの人にも話しかけやすかったので、
『なんでこんなスタイルなんすか?』とか言って。
でもそうやって会話していると仲よくなってきて、彼らの言ってることがわかる部分も出てきました。
どうしてキャンプが楽しいのか、なぜその道具を使っているのか。
キャンプのためのキャンプも楽しいもんなんだな、と思えてきました。
その後はソロキャンプにはまり自己満足の道具沼に…」
M16って?
ガレージブランド集団のことを
根掘り葉掘り!
キャンプトレンドのなか、
流星のごとく登場して瞬く間に業界を牽引する存在となったガレージブランド集団「M16(エムシックスティーン)」。
山口さんは職人集団である彼らをまとめ上げるボスでもあります。
ほとんど情報のない公式サイトに代わって、山口さんにQ&Aに答えてもらいます。
ガレージブランド…個人あるいは小規模でキャンプ道具を製作し、販売するブランドを指します。
「こんな道具があれば」と思いついたキャンパーがガレージ脇で手を動かしてつくったような、
痒いところに手がとどくアイテムが多く、熱狂的なファンがつくほど人気のものもあります。
MEMBER
Question 01 /
「M16」とは?
いろんな方面の職人たちが自分で抱えるちっちゃなブランドが所属するチームです。イベント仲間でもあり、一緒にキャンプに行くグループでもあり。
Question 02 /
立ち上げの経緯は?
愛知で開催されるアウトドアの展示即売イベント「フィールドスタイル」に、出店したのがきっかけです。「出てみたいけど、やり方もわからないし規模的にも難しい」という人たちが何人かいるのを知って、自分が取りまとめてチームで出るのがいいだろうと思っていろいろ声をかけたらこんな大きなチームになっちゃいました(笑)。
Question 03 /
活動内容は?
立ち上げの経緯の通り、主にイベント出店です。「フィールドスタイル」を含め、年4回はどこかに顔を出してます。「うちのイベントも出て欲しい」って依頼をもらうことも多くなってるんですが、全員集まるのは結構ハードルが高いので回数は絞ってます。イベント後の飲み会ではお互い意見交換したり、今後のことを話したり。
Question 04 /
キャンプスタイルは?
イベントだったり、タイミングが合えばプライベートでもキャンプに行きますけど、お互いのアイテムを飾りあってキャンプサイトがガレージブランドだらけっていう感じではないですよ!? むしろインスタグラムで見るような凝ったサイトよりは断然シンプルな方だと思います。自分に必要なものだけ揃えてキャンプサイトをつくっているイメージです。そこで喋ったり食事をしたり、試作品のテストをしていることも多いですね。
Question 05 /
ガレージブランドの
良し悪しは?
ガレージブランドのよさはスピード感だと思うんです。キャンプで感じた不便なことを自前の技術を使って解決するから、シンプルで早い。しかも毎週毎週キャンプに行ってるような玄人たちが突き詰めてつくっているものなので、信頼性は高いです。キャンプが流行り出してからは、ちょっとイロモノの印象が強くなってしまったのが個人的には残念です。ガレージブランドからキャンプをはじめる人たちが出てきて、情報もインターネットで豊富に入るようになって、孤高の職人だった人たちが一気に“会えるアイドル”みたいに映るようになってしまったというか。消費されすぎてるような感じがしますね。趣味だったキャンプが仕事になって、それで食べていけるっていうのはいいことでもあるから難しいところなんですけど。
Item
mmfの掘り出し物。
山口さんとも昔から親交の深い平さんに、
「mmf」をぐるりと見渡してもらい、これぞというアイテムをセレクトしてもらいました。
店長の北島さんイチオシも要チェック。
SHOP DATA
-
店名:
mountain mountain factory /
マウンテンマウンテンファクトリー -
住所:
愛知県名古屋市昭和区白金2-14-5
-
時間:
平日 12:00〜20:00 /
土日祝 10:00〜19:00 -
定休日:
木曜日
-
インスタ:
普遍なもの、
不変なものを起き続ける店。
名古屋を訪れるたびに
平さんが立ち寄るというこのショップは、
MMFとはまた違った趣き。
一見気がつかないこの場所にコンパスはあります。
コンパクトな店内は、ある人が見れば釣具屋、
ある人が見れば古着屋、
ある人が見れば民芸品屋…
平たく言えば雑貨屋ですが、
そう簡単にはくくれない秩序と混沌がありました。
PROFILE
BRAND
COMPASS
オーナー
NAME
杉戸伸行
DATA
都内のインテリアショップなどで15年ほど勤務。その後、2012年に地元である愛知に戻り、名古屋市中央区栄にショップ「コンパス」をオープン。2020年に、現在の名古屋市中区千代田へ移転する。週末はもっぱら釣りに出かけ、インスタグラムにはその釣果がずらり。
気の向くままに集めてみました。
Interview by Nobuyuki Sugito 01
名古屋に降り立つときに、平さんが必ず立ち寄るという「コンパス」。
アウトドアショップかと思いきや、そういう訳でもないようで。
釣りとは切っても切れない関係。
Interview by Nobuyuki Sugito 02
目ざといひとなら気づくはず。
ジャンルレスに見える「コンパス」でも、ロッドやリール、魚の絵など、釣り関連の道具やグッズはとくに多く置かれています。
ショップのインスタグラムも釣果づくし! 杉戸さん、実は熱心な釣り人なのです。
「ボーイスカウトに所属していたこともあって、昔からアウトドアはずっと生活とともにありました。
遊ぶと言ったら山とか川とかで。家から木曽川が近かったので、
学生のころは夏休みの補習をサボって川釣りに行ったりしてました(笑)
帰ってから母親に“あんた、なんで日焼けしてるの?”って聞かれて“体育で…”とか無茶な言い訳したり」
とはいえ、東京にいるあいだはすこしお留守だったよう。
感覚を磨きながら
セレクトし続ける。
Interview by Nobuyuki Sugito 03
日本に限らず海外まで杉戸さんは買い付けに出ます。
そして出張を口実に釣りへ…いやむしろ、釣りのついでにバイイング。
釣りのためならどこへでも、と杉戸さんが熱狂するほど、お店のラインナップは濃く深いものになっていくのです。
「海外だとイギリスによく買い付けに出かけます。
当時、アメリカものを扱っているショップは周りに多かったので、何か違うことがやりたくてイギリスへ行くようになりました。
歴史が長い分、古いものも多くて、自分はヨーロッパの道具が好きです。
行くのはアンティークマーケットで、気候がいい6月に大きなマーケットが集中するので、そこを狙って行くことが多いですね。
都心は物価が高いので、レンタカーで郊外まで走ります。
で、その6月って釣りにもいい時期で。マーケットは昼頃に終わるので、午後は釣りしてます。
他の場所に行くこともありますが、基準は釣りができる川が近いかどうか。
商売にも関わる大事なことですから、釣りするために買い付けに行ってるし、釣り具も経費で落としてます(笑)」
Exhibition
コンパスを観る。
見ていてうるさくない、絶妙な配置でたくさんのモノが並ぶコンパスでは、
買い物以外にも鑑賞する楽しみがあります。
“買えるものと買えないものの区別がつかないんですよね!”と
平さんも嬉々としてあれこれ丹念に見て回っていました。
Shopping
コンパスで買う。
もちろんお買い物もどうぞ。
平さんが以前見つけて以来、
立ち寄るたびに買い物せずにはいられない「コンパス」で、
ついつい食指の伸びたアイテムをピックアップ。
価格はお店でご確認を。
SHOP DATA
-
店名:
COMPASS
-
住所:
愛知県名古屋市中区千代田2-16-20
安井ビル 2階 -
時間:
11:00〜19:00
(月曜のみ、11:00〜17:00) -
定休日:
火曜日
-
インスタ:
ディグるふたりはモノ、
ひとをどう見る?
じつは以前からの知り合いです。
独自の視点でモノを見る彼らの、
プライベートなおしゃべりを少し覗かせてもらいました。
流行に踊らされない技術。 Talking dy Yamaguchi&Sugito 01
ー それぞれのお店に行き来されるんですか?
山口 : ふらっと行きます。セレクトは全部いいけど、ピッケルとか置いてあるのが昔からめちゃめちゃかっこいいなと思ってました。
杉戸 : 全然売れないけどね。デザインが好きなんですよね。ピッケルとしての用途以外何もないけど、そこが潔くてかっこいいなーって。
あとぼくはすいません、行ったことなくて…。クルマで前は通るけど!
山口 : 来てくれたことないわ(笑)
杉戸 : 正直、ひとの店に行くとそのラインナップが頭に入って、影響されるのがちょっとやだっていうのはある。無意識でインプットされちゃって、次に自分が買い付るときに同じものを買ったりしそうなのが怖い。
山口 : 多分年代的にね、同じだから分かる。ぼくもインスタとか雑誌を見るのが大嫌いなんですよ。少なからず“あ、こういうのが流行ってるんだ”とか思って気になってしまう。道具は普遍的なものでいいはずだから、流行を気にする必要はないはずなんですよ。とはいえ買い付けのときに何も知らないのはダメだから、北島に“お前はインスタ見といてくれよ”と(笑)。
ー 誰かのおすすめがノイズになるんですか?
杉戸 : 自分では気にしてないつもりでも、やっぱり無意識で入ってくるんですよ。
山口 : それだったら実際にキャンプへ行ったり、釣りに行ったりして、自分から出会いに行った方がいいです。たとえば友達が使ってる道具を“めっちゃいいじゃん!”って取り入れるのはいいかなって思います。
SNS、本当好きじゃなくて、なんか久々に会った奴でも“この前、俺がインスタに上げた〜”って話しはじめてきたりして。
杉戸 : そのひとの投稿をこっちが見てる前提で話すひと、いますよね。
山口 : “いやごめん知らない…”って(笑)。SNSがあると会わなくても勝手に情報が入ってきちゃって、ある種寂しいです。まあ上手に使えないだけなんですけど。
杉戸 : ひとが釣った魚のことはすごく気になるけどね。“おお、あれあそこの川で釣れてんだ”とか。
山口 : そういう限定的な使い方はいいですよね。
東京のひと、名古屋のひと。 Talking dy Yamaguchi&Sugito 02
ー 東京と名古屋、どちらも経験されてるお二人から見て違いってなんでしょう?
山口 : ここではうちとかコンパスさんみたいなお店って珍しいんですよ。
杉戸 : 名古屋の人は東京で流行ってる〜みたいなのが好きですからね。芸能人の誰々が使ってる、とか。
山口 : どこぞのもんでどこで売られてるのか。お墨付き文化とかいうけど、独特ですよね。それでいてお金はあるから、〈ルイ・ヴィトン〉が世界で一番売れるなんて言われるのもそういうことです。
杉戸 : だからうちは名古屋のひとより東京から来てくれるひとのほうがお金使ってくれてるんじゃないかな。何の説明も書いてないから、値段が高いのか安いのか判断がつかないって思われてるのかも。
山口 : そうそう、マルシェとかやると分かりますよ。東京だと値段も見ずにパッと“これください”って言われることが多いけど、名古屋だとまず値段から商品名、説明文、じーっくり見る。
杉戸 : 新車とか好きですよね。うちもあの値段で売ってると“え…これって中古ですよね!?”って言われたり。
山口 : 中古って(笑)。 ぼくも昔、近所のおばあちゃんが来て“あんたのとこ、中古のもの色々やってるんでしょ、うちで使ってないの置いてくわ”って古いキャンプ用品色々置いて行ったことがありました。
杉戸 : リサイクルショップ扱い(笑)。
山口 : そうそう、でもよく見たらデッドストックのいいやつが混じってたんですよ。だから“4万くらい値段つきますけど、買い取りましょうか?”って言ったんですけど“いい、いい、中古だで”って。
アウトドアの行く末、
なんて知らない!
Talking dy Yamaguchi&Sugito 03
ー アウトドアって今後どうなっていくんでしょうか。
山口 : 俺が一番見失ってるとこですよ! はっきり言って知ったこっちゃないというか(笑)。自分が楽しいことをできれば。
杉戸 : 自分が楽しい釣りができれば。
山口 : ほんと。プロキャンパーってなんですか? 誰がプロのライセンスを与えてるの? みたいな。好きに遊べばいいんですよ。
杉戸 : 自分が何が好きなのかよくわかんないような人が多くなってますよね、つい情報に踊らされちゃうんだと思う。
ー 二人から聞くと説得力がありますね。ちなみに若い頃から流行に踊らされないスタイルだったんですか?
杉戸 : めっちゃしましたよ! 一通り経験して、流行の無意味さを知ったのかな。キリがないんですよ。
山口 : しかも若い頃はプロ意識を持って極めようとしすぎますよね(笑)。だからやめるとき、全部黒歴史だーってぶん投げて一切封印しちゃう。でも自由な時間ができたなら、もう一回中二病に戻ってもいいんじゃない?
杉戸 : 自分が本当に好きなものはなんなのかって考えてみてもいいですよね。
山口 : とくに僕らと同じ40代、50代くらいのひとは、きっと20代で楽しい時間も過ごしてると思うし、そこにもう一回立ち返ってもいいかも。そこからでも遅くないですよ。
眼を磨き、
モノを捉える。
ふたりの店主も、平さんも、
ひょいと何気なくモノを選んでいるようで、
経験と知識に裏打ちされたセンスが
その一手に宿っています。
時間をかけて、多くのモノと向き合ってきた
彼らの審美眼は本物でした。
一朝一夕にはいかないけれど、
流行り廃りに揉まれながら
兎にも角にもモノに触れていけば、
だんだん見えてきそうです。
いま来ているビッグなアウトドアウェーブを、
フイナム的にライドしていく本連載「Garage’s(ガレージーズ)」。
アウトドアフィールドで活躍するスタイリスト、平健一さんをナビゲーターにつけ、
気になる場所やものを見つけては西へ東へと足を運びます。