ドラマにはならない、聾のひとの生活のひだ。

ー三宅監督自身が、自らの体を使ってボクシングを体験するということも重要なのかなと。監督がそうするのは珍しいのではないでしょうか?
岸井:珍しいと思います。
三宅:いやいや、たかだか3ヶ月ではあるんですけど、ボクシングの話をできる相手がいることや、松浦さんが本当に丁寧に自分の体を見てくれるのが嬉しかったですね。それこそ家族以上に僕らの体を見てくれて、いま集中しているのかどうかというメンタルまで見てくれました。そんなふうにひとと接することができることに刺激を受けたし、本当はこの取材にも松浦さんを呼びたいくらい。
岸井:本当にそう!

ー岸井さんにとっては、ボクシングも聾もどちらも知らない世界だったわけですよね。役を通じて、その世界に触れるというのはどんな感じですか?
岸井:すごく楽しいし、おもしろい体験でした。(聾のひとが主要キャラクターとして出てくる)ドラマ『愛していると言ってくれ』『オレンジデイズ』『星の金貨』をこれまでに観てきていたんですけど、でもそこには起床方法やどんな振動を感じてるのかという、生活がより見えるようなシーンはあまりなくて。でも今回の撮影の準備段階では、連盟の方々に聞くと教えてくださいました。ドラマチックじゃないからと、ドラマでは描かれない些細なことについても全部。
ーおもしろそうですね。たとえば?
岸井:カラオケが好きでいくひとがいたりとか、ベースが強くて振動が伝わりやすいからヒップホップを聴くとか。劇中でケイコとカフェにいる山口さんと長井さんは実際に耳が聞こえないんですけど、劇中あのままにすごくお喋りなんですよ。
三宅:そうそう。山口さんと長井さんとの仕事も楽しかったですね。
