ラン、ゆきの、ラン!
ー先ほど、冒頭の10分のお話を伺いましたが、逆に最後をどう締めるのかももちろん大事ですよね。という意味では、ラストシーンの岸井さんのあの顔の表情はすごかったです。
岸井:撮影は、太陽が傾いていってしまうから、すごく時間がなかったことを覚えてますね。
三宅:恐ろしいのは、焦っていることを隠そうとどれだけ取り繕っても、岸井さんには全部ばれる。というか、僕はせっかく一緒につくるんだから、さらけ出したいし、駆け引きもしたくない。岸井さんを信頼して、自分の持っているマジックの種のようなものを明かす感覚で、こういうことをしたいと伝えて話していました。僕を正直にいさせてくれたというか。だからあのラストシーンを撮るときも、焦りつつも集中してました。ああいうものは、予想すらできないので、とにかくすべてを託して、こっちは何もすることができない。とにかくカメラをただ置かせてもらうだけなんですよね。結果、見事に終えることができた。だから、この映画はやっぱり岸井さんの映画なんです。

ー今回は、16mmフィルムで撮影したそうですね。デジタルとちがい無尽蔵ではないからこそ、準備含めて、役者のテンションもちがうんですか?
三宅:僕は、16mmで撮るのは初めてだったんです。気楽なもので、撮影中は楽しい、楽しいと言っていたんですけど、撮影部が本当にプロフェッショナルに働いてくれていたということがクランクアップした瞬間にわかったんです。というのも、フィルムを装填・交換する撮影助手の岡本さん、そしてセカンド助手の村上くんの二人は特に、撮影中ほとんど笑ってなかったなと。フィルムには絶対にミスがあってはいけないということで、緊張感を持って仕事をしてくれて、最後撮り終わった瞬間に満面の笑みで、完全に解き放たれた顔をしていたんです。ああ、このひとたちのおかげなんだなと。
撮影部チームをいま代表として話しましたけど、他の全スタッフも同じで。撮り直しがきく環境じゃないから、画面に映る小さなもの一つまで、さあどうするかって。信じられないレベルの強度の集中力を持って働きつづけてくれて、その積み重ねとして、ワンショットワンショットを撮った末に、やっと大きな映画になったと思います。
岸井:フィルムの装填は、本当に緊張する仕事ですよね。
三宅:超緊張する仕事だと思う。それがいわゆるベテランではなく、これからの世代というか、今回の撮影クルーのなかでもいちばん若かったであろう、岡本さんことオカリンが見事に全うしてくれたことがすごくよかったなと。
ー今作の三宅さんへの公式インタビューでは、映画館は特別な場所で、日常で見逃しそうなものをつぶさに観るのが映画館だとおっしゃってました。もちろん、この映画は映画館で見てほしいですか?
岸井:もうそれしかないですよね。映画としてつくったんだから、映画館で観てほしいです。
三宅:間違いなくそうですね。
ーお二人とも監督と俳優として、テレビやその他の映像作品などさまざまなメディアフォーマットに触れてこられたかと。そういうフォーマットは意識しますか?
三宅:僕の場合は、いろいろなフォーマットで仕事させてもらったおかげで意識するようになりました。で、あえて言い切ると映画館が最高ですね(笑)。たとえば、スーパーで売っている有名店のラーメンもそれなりにうまいし、なかにはびっくりするときもあります。でも、店に行って味わう本物の味こそいちばんという考えがベースにあります。
岸井:映画館で観るように、今作は音オタクたちが音も計算してつくってくださってますから。音もそうだし、映画館のスクリーンで、ジムの埃を見てもらいたい。16mmのよさがいちばん発揮できる場所は映画館ですね。この映画を観終わって席を立つと、日常の景色を見るその目が変わるような気がします。
三宅:岸井さんも、映画が好きで、映画館に通うことがもう習慣になってるらしく。めちゃくちゃ忙しいのに、どうやっているの? と聞くと、普通に走ってるらしいんです(笑)
岸井:文字通り、本当に走ってます(笑)。いままで、どれだけ映画館の階段を駆け上がったり降りたりしてきたか。どこかで撮影が終わって、これならいけるかもと、スマホで調べるとここから45分だけど、タクシーの方に43分で行けませんか? って。予告とかも事前に調べておいて、本編までに間に合うようにといつも走ってます。
