FEATURE
A GIFT TO MYSELF Vol.01 賢者の贅沢。自分へ贈る最高のギフト。
MONTHLY JOURNAL DEC. 2022

A GIFT TO MYSELF Vol.01
賢者の贅沢。自分へ贈る最高のギフト。

今年も残すところあと僅か。1年の締めくくりに自分へのご褒美を考えている方も多いはず。いろいろな選択肢があるなかで、一通りファッションを楽しんできた大人たちはこれまで一体何を手にしてきたのだろう。ここでは〈マディソンブルー(MADISONBLUE)〉の中山まりこさん、〈ゴッド セレクション トリプルエックス(GOD SELECTION XXX)〉の宮﨑泰成さん、選曲家で音楽プロデューサーの田中知之さんに声を掛け、自分へのギフトについて話を聞きました。それぞれのご褒美に対する考え方からモノ選びのこだわりが見えてきます。

03 : Interview with Tomoyuki Tanaka コロナ禍を経て戻ってきた物欲という名のモチベーション。

PROFILE

田中知之
プロデューサー、選曲家

「The Fantastic Plastic Machine」(FPM)の名義で、オリジナル作品の他にアーティストのプロデュースやリミックスを手掛ける。DJとして国内はもちろん、海外でも数多くプレイ。「東京2020オリンピック」の開会式と閉会式、「東京2020パラリンピック」の開会式では音楽監督を務めた。ヴィンテージウェアのコレクター、マニアとしても知られる。
Instagram:@tomoyukitanaka

ー今回、ご紹介いただくものは何になりますか?

田中:ヴィンテージのバッグとベスト、そしてベンチウォーマーコートですね。バッグとベストはちょうど昨日、名古屋で手に入れたばかりのものです。コートも10月くらいに沼津で買ったものなので、本当に最近買ったご褒美ですね。

ーこれはミリタリーバッグですか?

田中:そうですね。なにか機械を入れるための専用のバッグだと思います。底面には配線用の口があって。お店でたまたま見つけて肩に掛けてみたらサイズがちょうどよかったので購入しました。

名古屋の「mitsuru」というヴィンテージショップで購入したショルダーバッグ。ミリタリーならではの精悍な顔つきはもちろんのこと、大きすぎず小さすぎない絶妙なサイズ感が田中さんの琴線に触れたという。

ーお店の方もどんな用途でつくられたものかご存知なかったんですか?

田中:初めて見たと仰っていました。僕が思うに第二次世界大戦の前半か、それよりも前のものだと思います。パーツはアメリカ軍のものですね。僕は見たことのない軍用バッグを見るとつい買いたくなります。大砲を入れるためのケースも持ってて、そうゆうバッグは特殊なだけに生産数が少なかったり、状態のいいものが限られたりしてなかなか市場に出回らなくて。カメラバッグとしてレンズやカメラを入れるのにもこのバッグはいいかなと。DJをするときヘッドホンやUSBを入れるのにもちょうどよくて「これはいいな」と思って買ってしまいました(笑)。

ー続いてこちらのベストも同じお店で買ったんですよね。

田中:古着って、ずっと探しているものと、まったく予想だにしないものに出会うパターンがあると思うんです。そういう意味でこのベストは前者のほうです。コンディションがよくて、なおかつサイズが合うものを探していたんですよ。〈ブルービル〉っていうブランドのもので、おそらく50年代くらいのもの。そして紐のプライスタグもついているので、おそらくデッドストックですね。

こちらも名古屋の「mitsuru」で手に入れた、〈ブルービル〉というブランドのハンティングベスト。本当はLサイズが欲しかったという田中さんだが「Mでもギリ着れた」とのこと。

ーそしてこちらのコートですね。

田中:こちらは出会い頭系のものです。スポーツ選手がベンチで着るコートで、僕が思うに40年代のアイテムだと思います。よく見るとヘリンボーンの柄が肩は縦に入っていて、それより下は横に入っているんです。生地自体はボンディングされていて裏側が起毛素材になっています。

背中にはインディアンのモチーフがプリントされていて、その状態があまりにもいいから現行のものかと一瞬疑ったんですが、店主の方が当時のものだと仰っていて。調べると、アメリカの高校のスポーツチームでした。こういうアイテムは前立てにロブスターフックが使われることが多いんですが、こちらは珍しくスナップボタンになっています。

コートとかジャケットの中でもこうゆうガバッと羽織れるものがぼくは好きで、これはいままで見てきた中でも存在感があっていいんですよ。

沼津の「JOUJOUKA」にてゲット。セットインスリーブではなく、肩周りと胴体部分で分かれた珍しいパターンのコート。形が美しく、ヴィンテージとは思えないモダンなシルエット。

ー古着という特性上、ご褒美を買いに行くというよりも「探しに行く」という感覚が強いんでしょうか?

田中:そうですね。自分が気に入るアイテムに出会うって、すごく幸運なことだと思うんです。大きな仕事を成し遂げたからといって、必ず手に入れられるものでもない。出会い頭というのがまずあるから、なかなかご褒美認定しづらいんですけど(笑)。

ただ、僕はここ数年、コロナ禍だったこともあって、あまり古着屋に行けませんでした。デカイ仕事もあったんですが、心の余裕もなくて気分がそこまで上がらなかった。やっぱり買い物って、気分が上がってから行くのが楽しいじゃないですか。だから、買い物に行くこと自体が僕にとってはご褒美でもあるんですけど。

それにいい古着を手に入れるには神通力みたいなものも必要で、“引き” がないといいものと巡り会えない。手繰り寄せるものなんですよ。そういう意味でもやっぱり気持ちが大切なんです。

ーそれが今年に入って気分が乗ったということなんでしょうか?

田中:そうですね。もういいよなっていう感じで今年は結構買いました(笑)。ようやくコロナの規制が緩和されたのが大きいですね。買い物って僕はクリエイティブだと思ってて、物欲という名のモチベーションが戻ってきたんですよ。

ーその中で今年は狙っていたものも手に入れられて、いいご褒美になったなと。

田中:気持ちが大切と話しましたけど、やっぱり欲しいものっていうのは、店内を隈なく探すんです。例えばパンツにしても、このモデルの、この年代の、さらにはコンディションがいいものってなると、お店の中にたくさん積み上がってるパンツの山から、見つからないかもしれないのに苦労して探すわけです。そこに気持ちがないとやっぱり見つけられない。10年経っても探しているものが見つからない場合もあるんです。だから欲しいって願い続けて探す、これに尽きますよ。

ーやっぱり、やる気と根気が必要なわけですね。

田中:そうですね。なにかを欲する気持ちが重要です。コロナのときはそれが薄まっていましたが、ようやく蘇ってきました。やっぱりユニークなものが手に入ると嬉しいし、みんなが欲しがっているものよりも、どちらかというと、見知らぬものをディスカバーするのが好きなんです。それで誰も見たことない一品に出会えたら嬉しい。仮にそれが高額なものでも、「こういうのを買うのは自分だけだろうな」と自己満足に浸れるのもまた一興だなと思うわけです(笑)。

ーそういう気持ちも含めてご褒美なわけですね。

田中:ご褒美って、本当にすごい言い訳ですよね(笑)。

ー最後に、田中さんにとって今年がどんな年だったのか、そして来年をどんな年にしたいか教えてください。

田中:今年は大学で客員教授みたいなこともやらせてもらったり、食の現場でもお手伝いさせてもらうことがあったりと、新しいことにチャレンジできた1年でした。

音楽的にも、以前より向き合う時間が増えて、色んなことにトライできたんですよ。ゼロをイチにするってすごく手間と時間がかかるんですけど、今年はそれができた。それはアーティストとして、すごく喜ばしい時間でした。自分でも納得できるクリエーションができたので、2023年はそれをアウトプットしたいですね。音楽ってマネタイズがすごく難しい時代に突入しているので、ゆっくりそれをどうするか考えたいと思います。

本来はそれが売れることで収入を得て、高いヴィンテージでも買おうかなってなるんですけど、それをすっ飛ばして、すごくいい楽曲ができたからもう買っちゃおうかなってなってますね(笑)。

ーその分を2023年で回収できればいいですね(笑)。

田中:そうですね(笑)。だけど、来年も経済を回すという言い訳をしながら自分が好きな古着屋さんを回って、いいものがあればまた買っちゃうと思います。また来年も取材していただければ、新しいネタが増えていると思いますよ(笑)。

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