CLOSE
FEATURE | TIE UP
feat. LE LABO香りと記憶のプレイリスト。上出遼平

feat. LE LABO
香りと記憶のプレイリスト。上出遼平

フランスの文豪、マルセル・プルーストは、名著『失われた時を求めて』の中で香りから昔話へと物語を展開した。いまでは“プルースト効果”なんて呼ばれているけれど、懐メロなんて言われるくらい音楽にも同じ効果があるはずだし、どちらにもその人の個性が垣間見えるはず。そんな考えのもと、〈ル ラボ(LE LABO)〉とともに、香りと記憶をテーマにしたプレイリストの連載企画を始めます。毎月最終金曜日に更新予定です。

LINE UP
  • 上出遼平
  • 安田翔平
  • 小谷実由
  • 河村康輔
  • 高橋ヨーコ
  • 加藤成順
  • 甲賀加純
  • オカモトレイジ
  • 内田文郁
  • BIGYUKI
  • Lee Izumida & 世良田奏大
  • miu
  • 高岩 遼
  • 森 洸大
  • 真鍋大度

-about LE LABO-

2006年にアメリカ・ニューヨークで誕生したスローパフューマリー。クラフツマンシップを重んじ、厳選した原料のみを使用。ラベルに最大23文字を選んで入れられるパーソナライズサービスや、一部店舗でフレグランスをその場で生成してもらえるフレッシュ ブレンディング、使用済みボトルに同じ香りを詰め替えるリフィルサービスなど、手にした人にとって愛着が湧き、長く使用したくなるモノづくりをしている。

Selector

上出遼平
安田翔平
小谷実由
河村康輔
高橋ヨーコ
加藤成順
甲賀加純
オカモトレイジ
内田文郁
BIGYUKI
Lee Izumida & 世良田奏大
miu
高岩 遼
森 洸大
真鍋大度

Selector15_上出遼平 香りは情景だけではなく感情も蘇らせる。

連載ファイナルとなる15回目のセレクターは映像ディレクターの上出遼平さん。世界中を旅して回る上出さんにとって、香りは五感の中でもっとも記憶と強く結びつく感覚。そんな香りと記憶の関係性について、自らの思い出を振り返ってもらいつつ話してもらいました。

PROFILE

上出遼平

1989年生まれ、東京都出身。映像ディレクター、プロデューサー。『ハイパーハードボイルドグルメリポート』の企画、撮影、編集のすべてを行う。2023年11月に自身初の小説『歩山録』(講談社)を発表。

ーセレクトされたのは「BAIE19」ですね。雨上がりのウェット感を表現した香りではありますが、どこが気に入りましたか?

〈ル ラボ〉BAIE 19 ¥29,700[50ml](ル ラボお客様相談室)※2023年12月22日時点
長い間日照りが続いた後の最初の雨に伴う独特な香り、ペトリコールを表現した「BAIE 19」。ドライジュニパーベリー、パチュリ、グリーンリーフ、ケイド、ムスクなどにより、雨で濡れた大地が放つ独特なウェット感を表している。

何かの匂いとすごく近かったんですよね。幼い頃の記憶なのか、家族と旅行にいったときの香りなのか、何なのかわからないんですけど、たしかに覚えているんです。きっと使っているうちにハッと思い出すタイミングが来るんじゃないかと思って。それも楽しみで選びました。

ー懐かしさがあったということですね。

そうですね。あと、ぼくは山登りをするんですけど、1番好きな瞬間はテントで寝泊まりした次の日の朝、外へ出た瞬間に寒さと一緒に鼻へスッと空気が入ってくる瞬間なんです。その山の香りに近いような気がしました。

ー上出さんの中で、まさに香りと記憶が強く結びついていることがわかるエピソードですね。

五感の中では香りがもっとも強く記憶と繋がりますよね。アフリカにもよく行きますけど、タラップを降りたときに香りがしてきて、その瞬間にアフリカへ来たってスイッチが入るんですよね。油の匂いや人々の体臭、そういったものが混ざり合った香りというか。

ー海外の香りは思い出と強く結びつきますよね。

思い出という意味では、一時帰国して久しぶりに実家で暮らしているんですけど、先日トイレで某ハイブランドの香水が置いてあることに気づいたんです。それは幼い頃からずっと家にあり続けている母親のものなんですけど、その香水を中学生の頃とかに、デートやイベントへ出かけるときにこっそり使っていたんですね。それで、久しぶりに見つけたもんだから嗅いでみたら、当時の感情まで呼び起こされるような気持ちになりましたね。悪いことをしているけどワクワクが止まらないような感覚だったり、その香りならではの官能的な気分だったり。香りは本当にいろんなことを思い出させてくれると感じました。

ーでは、「BAIE 19」のプレイリストはどんな内容になっていきそうでしょうか?

自分が普段聴いている旅のプレイリストにしようかと思います。基本的に旅ばかりしているんですけど、ぼくは旅の行きと帰りの道中によく音楽を聴くんですよ。だから、序盤は出かけるときの心が盛り上がっていくような曲から始まって、だんだんと旅が終わりに向かっていくような内容になるんじゃないかと思います。

ーちなみにボトルへ入れた「ETAH」はどういう意味なんですか?

秘密です(笑)。わかる人にはわかると思うんですけど、最近好きな4文字なんですよ。いろいろと想像してみてください。

Selector14_安田翔平 デンマークを思い出す山の香り。

連載14回目のセレクターは目黒のレストラン「Kabi」のオーナーシェフ、安田翔平さん。香りと記憶の繋がりについてデンマークに住んでいた頃の記憶も思い出され、そこには料理とも繋がりもある様子。香りと記憶と音楽、そして料理。この4つの結び付きについて、仕込み真っ最中のお店で伺ってきました。

PROFILE

安田翔平

大阪の料理学校を卒業後に渡仏。帰国後、大阪の2つ星レストラン「La Cime」で働く。その後、世界最速で1つ星を獲得した東京・白金台のレストラン「Tirpse」でスーシェフを務めた後、2015年12月より約1年間デンマークへ渡り、2つ星レストラン「Kadeau」でシェフに。帰国後の2017年11月、目黒に「Kabi」をオープンし、現在にいたる。

ーお香や香水などの香りがするものはお好きですか?

家にいるときはお香を焚いたりしますね。白檀が好きなんです。ぼくは旅館が住みたいくらい大好きなんですけど、特に好きな旅館で使われていたお香の1つが白檀だったので、それを自宅でも使用しています。

ー白檀で好きな旅館が思い出されるように、香りと記憶は繋がりが深いものだと思いますが、香りから何かを思い出すことはありますか?

以前、デンマークのレストランで働いている頃に、お店の裏手にある山へ食材をピックしに行っていました。松やエルダーフラワーを採取したりしていて、そのときの山の香りが記憶と深く結びついていますね。腐葉土の上を歩いていると、季節の花の香りがしてきて。あの山の香りが大好きなんですよ。料理にも山の香りを使いますし、出身が岡山県の山奥なんでその記憶にも繋がるんです。

ーデンマークの山で食材を集めるというのは、すごく素敵な響きですね。

ぼくが住んでいたのはボーンホルム島なんですけど、夏は食材がすごくたくさんあって冬は気温がマイナス10度とか、すごく寒くなるので食材が育たない土地だったんです。それで、春や夏の間に山でいろんなものを採取して保存し、冬に使うというのが北欧の保存文化なんですよ。

ーなるほど。それが現在の料理のスタイルにも反映されているわけですね?

ええ、日本料理ともマッチする部分が多いんです。日本も発酵食品や保存食が多いじゃないですか。そこが共通してくる部分ですね。それこそ発酵食の香りから記憶を引き出されることもよくありますね。

ーセレクトされた「JASMIN 17」は自然な香りが魅力的ですが、まさに安田さんの好みが反映されているように思いますね。

はい。森の香りがする気がしましたし、自分の好みにフィットすると感じて選びました。こういう自然な香りが好きですね。

〈ル ラボ〉JASMIN 17 ¥29,700[50ml](ル ラボお客様相談室)※2023年11月30日時点
ジャスミンのナチュラルな香りの魅力をつめこんだ香りは、シンプルでありながらユニークな香調が魅力。ムスク、サンダルウッド、バニラと合わさり落ち着いた甘さのハーモニーを奏でる。

ーラベルには“no muss no fuss”と刻印されていますが、このメッセージにはどういう由来があるんですか?

デンマークにいる頃に、好きなレストランで見つけた言葉です。その意味を聞いてみたら、「肩ひじ張らずにリラックスしていこう」って意味だと教えてもらってすごく気に入ったんですよね。それで、「Kabi」の合言葉的な感じでずっと使っているんです。

ーそのキャッチコピーも「Kabi」と安田さんの人柄が伝わってきていいですね。音楽はどのようなジャンルがお好きなんですか?

普段はアンビエントやテクノを聴くんですけど、料理を考えるときにも音楽からインスパイアを受けることがすごくあります。たとえば、DJのセットリストがあったとして、その流れはレストランのコース料理の流れにもすごく似ているんです。起承転結だったり、起伏があったりするというか。だから、常に音楽を聴きながら料理のことも考えているんです。

ー「JASMIN 17」から連想されるプレイリストはどのような感じになりましたか?

朝から山に入って行って、山奥深くまで探索しているうちに夜になっていく。そんなイメージをしながらつくってみました。

Selector13_小谷実由 香りは記憶を蘇らせる装置。

連載13回目のセレクターは、ファッションモデルや執筆家として活躍する傍ら、クリエイターとさまざまな形で表現を行なっている小谷実由さん。音楽好きで、レコードなどのアナログメディアを好む小谷さんにとっての香りと記憶と音楽とは?

PROFILE

小谷実由

1991年東京生まれ。14歳からモデルとして活動を始める。自分の好きなものを発信することが誰かの日々の小さなきっかけになることを願いながら、エッセイの執筆、ブランドとのコラボレーションなどにも取り組む。J-WAVE original Podcast『おみゆの好き蒐集倶楽部』ではナビゲーターをつとめる。猫と純喫茶をこよなく愛す。通称・おみゆ。

ーこの連載は香りと記憶をテーマにしていますが、小谷さんにとってこの2つの結びつきは強いと感じますか?

すごく結びつきが強いと感じるタイプですね。香りを起点に思い出を引き出すことが多いです。たとえば、20代の頃に憧れていた人がいて、その人はローズの香水やバニラっぽい甘い香りの香水をつけていたので、いまだにその憧れを追いかけるように同じ香りを集めたりもしています。香りからその人のことを思い出して勇気をもらったりしています。

ー小谷さんにとって、香りは記憶を呼び覚ます装置でもあると考えられますね。セレクトしていただいている最中、「PATCHOULI 24」と「LABDANUM 18」で迷ってらっしゃいましたね。最終的に「LABDANUM 18」を選ばれていました。

そうですね! パチュリの香水を夫が使っていまして、私としてもリスペクトがある人が使っているということもあり親近感を覚えた香りだったんです。迷った結果、「LABDANUM 18」にしましたが、これは思い出にある人の香りではなくて、好きな場所が連想されたり、自分が本当に落ち着く気持ちになれる香りですね。そういう意味で、誰かのことを考えて香りを選ぶという、これまでの選び方ではなく自分自身の気持ちと向き合って好きになった香りだと思います。実際に試したときにスッと肌に馴染んだ気がして心地よさを感じましたね。

〈ル ラボ〉LABDANUM 18 ¥29,700[50ml](ル ラボお客様相談室)※2023年11月10日時点
ウッディなラブダナムに、シベットやカストリウムといったアニマルノートをブレンドした「LABDANUM 18」は、品のある甘さと力強いスパイシーさを併せ持つミステリアスな香り。静かであたたかみのある香りは、どこか芯の強さを感じさせる。

ー相性のよさも感じられたんですね。今回、プレイリストをつくっていただきますが小谷さんはレコードなどのアナログも好きなんですよね?

はい、レコードは好きで集めていますね。でも最近はカセットテープもすごく好きで。

ー最近はどんなジャンルの音楽を好んで聴いていますか?

カセットで聴くとなるとアンビエントが落ち着くので好きです。心がキュッとなるというか。どこか懐かしさも感じられて、香りと同様に記憶が蘇るような感覚がありますね。そういう気持ちになりたいときにカセットで音楽を聴いたりしています。

ー再生装置にもよりますけど、カセットの音にはどこかローファイな風合いを感じるものですよね。

そうですね、放課後に音楽室から聴こえるピアノの音のような、ちょっと遠くで鳴っている音楽が耳に入ってくるような感覚が好きで、それに近いのかも。

ーそれでいうと、今回の「LABDANUM 18」からはどんなプレイリストが生まれそうでしょうか?

香りと音楽の結びつきについては、いままで深く考えたことがなかったので、これを機にそういう音楽の聴き方ができたり香りについて考えることができると思うと楽しみです。プレイリストは「LABDANUM 18」が一番自分の心の中心に近くて好きだと思えるものを選んだので、普段から聴いている曲をセレクトしたいですね。当たり前のように頭の中で再生できるような大好きな楽曲でプレイリストをつくりたいです。

Selector12_河村康輔 原点とも言えるアメリカでの出合いを彷彿させる香り。

連載も12回目。今回プレイリストを担当してくれるのは、世界的に活躍し続けている河村康輔さん。じっくりとフレグランスを選ぶのは初めてのことだそう。どんなセレクトになるのでしょうか?

PROFILE

河村康輔

1979年、広島県出身。コラージュアーティスト、グラフィックデザイナー、アートディレクターとして、数々のブランドやアーティストとタッグを組む。ルーツにあるのはハードコアパンクカルチャーであり、ハードなビジュアルで世界中を魅了する。

ー今回セレクトされた香りは「THÉ MATCHA 26」ですね。

〈ル ラボ〉THÉ MATCHA 26 ¥29,700[50ml](ル ラボお客様相談室)※2023年10月27日時点
クリーミーなフィグにほんのりと香るベチバーとシダーウッドが落ち着きを持たせ、ビターオレンジが高揚感をもたらす「THÉ MATCHA 26」。サラッとつけやすく、繊細で優しい、調和のとれた香りは、ただの飲み物以上に様々な背景や意味をもつ「抹茶」と捉え、侘び寂びという文化や空間を感じさせてくれる。

はい。そもそもフレグランスを選ぶこと自体が初めてに近いんですけど、こうしてお店に来てセレクトしてみて、自分の好みが意外に感じましたね。「THÉ MATCHA 26」と「AMBRETTE 9」で、どちらにするかすごく悩みました。もっと刺激的で香りが強く残るものを選ぶんだろうと思っていたんですけど、こういう甘さのある香りを好きだったとは(笑)。

ーどの辺りが気に入りましたか?

とにかくリラックスできる香りだと感じました。純粋にすごくよい匂いだと思いましたし、家でも屋外でもつけていたいと思えた点がポイントでしたね。あと、ふわっと紙っぽい匂いがしたような気がして、自分の記憶とも結びつく部分があったんです。それで落ち着いたんだと思います。

ーまさに香りと記憶についての連載なのですが、「THÉ MATCHA 26」の香りからどんなことを思い出されましたか?

ぼくの場合、香りから過去のシーンや場所を思い出すことが多いんですよね。自分が19歳くらいの頃に初めてアメリカに行って、ウィンストン・スミス(U.S.ハードコアパンクシーンの伝説的コラージュアーティスト)というずっと憧れていた人のスタジオに行ったんですけど、あのときの記憶がふと蘇ってきて嬉しくなりました。独特の匂いって具体的に説明できないものじゃないですか。でも、どこか自分のアトリエの匂いにも近しい部分があって。改めて考えてみると、多分、古本や古雑誌などにある古紙の匂いからくるものだと思うんです。

ー特に河村さんは古雑誌などを数多く所持されていると思いますし、コラージュの素材となるものの香りが繋がっているというのは興味深いです。香りがクリエイションにも通じるということになりますね。

そうですね。「THÉ MATCHA 26」の香りと、その場面、そこで起こったできごとの記憶がリンクして繋がって、自分にとっては馴染み深く親近感のある香りだと感じたんだと思います。そういう意味では「LAVANDE 31」の香りは子供の頃にかいだ祖父の家を思い出して懐かしい気持ちになったりだとか。匂いが人の感情を揺さぶるんだから面白いものですよね。

ーたしかに! この「THÉ MATCHA 26」から連想されるプレイリストはどんな感じになりそうでしょうか?

こうしてつけている間にもどんどん香りの雰囲気が変化しているし、最初の紙っぽさから、木の感じもしてきているんで、どこか二面性を感じますね。プレイリストもそういう感じになるかもしれないです。けっこう最初からハードで強めなセレクトもいけるかもしれないし、ゆるくまったりした曲も合うだろうし。そういう幅広いセレクトになるかもしれないですね。…考えているうちに全然違うものになるかもしれないけど(笑)。

ー楽しみにしています!

Selector11_高橋ヨーコ 香りはリラックスできるプライベートなもの。

8月と9月は、世界の中でもセレクトされた都市のためにつくられ、普段はそこでしか手に入らない香水が日本でも手に入る特別な時期。この2ヵ月間は、いつもより頻度を上げて更新していきます。今回は、フォトグラファーの高橋ヨーコさんのインタビューを写真と共にお届けします。

PROFILE

高橋ヨーコ

1970年生まれ、京都出身のフォトグラファー。2010年に渡米し、カリフォルニアでの生活を経て2020年に日本へ帰国。2021年には10年間暮らしたベイエリアをまとめた写真集『SAN FRANCISCO DREAM』を刊行。その他、多数の写真を出版している。

ー香りと記憶と聞いて思い出すことはどんなことですか?

よく香りが記憶に残るという話を聞くんですが、以前、手紙をもらったときにいい香りがして、その香りがする度にその差出人のことを思い出すことがあったんです。それで、たしかに香りが強く記憶と結びつくものなんだなと実感した思い出がありますね。

ー普段から撮影で海外に行かれているイメージが強いのですが、海外の匂いなどで記憶に残っていることはありますか?

自分の場合は匂いよりも色が記憶に残ることが多いですね。たとえば、中国に初めて行ったときに空気が黄色に思えたりとか。写真にもそれが反映されていると思います。香りというと、誰かのことを思い出したり、とあるレストランや特定の小さなスポットを思い出したりとか。どこかの国を連想するというより、そこにいた人や場所のことを思い出しますね。だから、自分にとって香りはパーソナルな思い出やプライベートな時間と結びつくものなんだと思います。

ー海外へ旅する際、目的地となる国はどのように決めているのでしょう?

旅は写真を撮るためにしているので、行ったことがない国の中で、行きたいと思える国へ行っています。依頼されてというのも多くありますが、作品撮りをしに行くことも多いですね。撮りたい対象をずっと追いかけているプロジェクトもあるので、同じところに何度も行ったりもします。それこそベルリンには毎年2,3回行っていました。明日(インタビューの翌日)からは、アメリカに行ってきますし、帰りにはサンフランシスコに寄る予定です。

ーいいですね! さて、今回セレクトいただいた香りは「NEROLI 36」になります。選んだポイントはどこにありましたか?

すっきり爽やかな香りが好みに合いました。植物の匂いがするというか、それこそ草花の香りが心地よく、野生っぽさが感じられて自然な感じですね。でも、セレクトするのは本当に難しかったです。今回のお話をいただいてから1ヶ月ほど悩んでしまいました。

〈ル ラボ〉NEROLI 36 ¥29,700[50ml](ル ラボお客様相談室)※2023年9月29日時点
オレンジブロッサムエッセンスの別称である“ネロリ”に、ローズやムスク、マンダリンオレンジ、ジャスミンなど多彩なエッセンスを融合した「NEROLI 36」。爽やかさの中に落ち着いた優しい印象もあり、あたたかみを感じさせる豊かな香り。

ーすっきり爽やかな香りが好みなんですね。

香りものは好きで、いろいろ試しに買うんですよ。ハーブとしてはローズマリーとかセージ。あと、フランキンセンスとかラベンダーの香りが好きですね。体に着けるものに限ってはスモーキーなのは苦手で、草や花の香りの中でも爽やかなものが好みです。柑橘系の酸味ある香りも好きですね。そういうところが「NEROLI 36」と合ったんだと思います。

ーラベルに入れたのは「2309 Woolsey st.」です。

はじめてアメリカに住んだときのバークリーの住所ですね。せっかくなので何か記念になるものを、と思って。本当はメガネマークがよかったんですけど!(笑)。

ー撮影をするときなど、作業中に身につける香りはあったりしますか?

作業中はそこに没頭しちゃっているんで何もつけないですね。集中しているんで他のことが気にならない状態になっちゃっているというか。それもあって、リラックスしたいときにアロマオイルやキャンドルを使ったりしますね。「NEROLI 36」も植物の香りが心を落ち着けてくれそうです。プレイリストもリラックスできる植物を連想させるような内容になるんじゃないかと考えています。

ーありがとうございます! ヨーコさんにとって香りは、リラックスするための切り替えというのもあるかもしれないですね。

ただ、人によって香りが長く残る人と残らない人がいるそうなんですよ。自分は体質的に残らない方らしいなので、このいい香りがもっと残ってほしいと思うんですけどね。いい香りの人がうらやましいんです(笑)。

Selector 10_加藤成順 音楽と香りは振り返っていい存在。

8月と9月は、世界の中でもセレクトされた都市のためにつくられ、普段はそこでしか手に入らない香水が日本でも手に入る特別な時期。この2ヵ月間は、いつもより多くの人にセレクトしていただきます。今回のセレクターは、MONO NO AWARE、MIZの加藤成順さんです。

PROFILE

加藤成順

八丈島出身。2013年結成のバンド・MONO NO AWAREのギタリストであり、同バンドのボーカル&ギター、玉置周啓とアコースティックユニット・MIZとしても活動する。

ー香りと記憶をテーマにした連載なのですが、香りが記憶に結びつくことはありますか?

ぼくの中で香りと音楽は過去を振り返って思いを馳せていいものだと思っているんです。他のものだと自分から過去の思い出に浸ろうとしている感覚があるので好みじゃないというか。その点、音楽であれば、それを聴いたときのことや場所、イベントのことだとか。自然と思い出が蘇ってくるものだし、それが楽しいですよね。香りも同様で、ふと記憶にある匂いがしたときにハッと記憶が呼び覚まされます。それが具体的に何なのかを説明できないところも、香りと記憶の面白さなんだと思います。

ーでは、香りが制作している音楽などに影響を与えることはありますか?

ありますね。特にMIZの方はそういう感覚を大切にしています。具体性はなくとも空気感としての香りの存在を意識していて、その曲を聴いたときに香りと結びついた記憶が思い出されるようなものになればいいなと考えていますね。たとえば、雨上がりのアスファルトの匂いなんかは地元の八丈島を思い出すんですけど、そういう要素が楽曲に含まれていたらいいなと思いますね。

ー仰る通り、雨上がりのアスファルトの匂いってどこかノスタルジックですよね。

そうですね。ぼくの場合は地元の風景が連想されるんですけど、他の人だったら違うものが脳裏に思い浮かぶでしょうし、そういうところが香りが持つ1番の面白さですね。同じ香りから全然違うことを考えていたり、一緒の場合もあったり。そんな曖昧さがいいんだと思います。

ー今回、9月のみ日本でも展開される、各都市限定のシリーズ「シティ エクスクルーシブ」から好みの香りをセレクトいただきました。都市の香りが数多く並ぶ中から、選ばれたのは「GAIAC 10」、東京限定の香りというのが意外でした。

他の都市のものを選んだ方がいいのかな?というのはあったんですけど、自分にとってもっとも自然な感じがして、そこが逆に面白かったです。なんだか、自分には東京がフィットしているんだろうなと思わされたというか。都市としてはパリが好きだったりするんですけどね。

ー香りの好みがマッチしましたか?

はい。ウッドっぽさがあってリラックスできる香りが好きなんですけど、それが「GAIAC 10」だったので、好みで自然と東京の香りをセレクトしていました。これまでフレグランスを毎日つけたり持ち歩いたりする習慣はなかったんですけど、こうして〈ル ラボ〉 の香りを知ることができたので、今後つけてみようかなと思います。この出会いをいいきっかけにしようと思って。

〈ル ラボ〉GAIAC 10 ¥45,100[50ml](ル ラボお客様相談室)※2023年9月22日時点
東京限定の香り「GAIAC 10」は、ガイアックウッドやシダーのウッド系に、4種のムスクを漂わせた繊細な香り。気分に関係なく、昼も夜も肌に寄り添ってくれる。普段は他の都市では手に入らない特別感も魅力。

ーでは、この香りからどんなプレイリストができましたか?

東京をイメージしたというよりは、リラックスできたりあったかい気持ちになれるプレイリストをつくってみました。

ーありがとうございます。活動についても教えてください。MONO NO AWARE、MIZ、共にどういう状況にありますか?

バンドの方は全国津々浦々、あっちこっちライブして回っている状況ですね。並行してどちらも制作をしているような状況です。かなり活発に活動している状況で、忙しいけど楽しんで過ごしていますよ。

ー音楽はもちろんだと思いますけど、何か個人として熱中していることなどはありますか?

些細なことですけど、つくれるときは弁当をつくったりしていますね。忙しい中でも食生活はしっかりさせたいと思っていますし、料理自体が楽しいですからね。

ーちなみに得意料理は?

麻辣香鍋。火鍋とか好きなんですよ。いろんな食材を混ぜてスパイスを使って。つくり置きできるし、何入れても美味しいのでよくつくっています。他にもいろいろつくっているんですけど、パッと思いつくのはそれですね。

ーえ、食べてみたい…。ぜひ今度料理の話も聞かせてください!

Selector 09_甲賀加純 香りで蘇る、人や街の思い出。

8月と9月は、世界の中でもセレクトされた都市のためにつくられ、普段はそこでしか手に入らない香水・シティ エクスクルーシブが日本でも手に入る特別な時期。この2ヵ月間は、頻度をあげて更新します。今回のセレクターは〈コウガ(KOWGA)〉のデザイナー甲賀加純さんです。

PROFILE

甲賀加純

2021年秋冬シーズンにスタートしたウィメンズブランド〈コウガ〉のデザイナーであり、今野直隆氏によるブランド〈マジック スティック(MAGIC STICK)〉のPRも併任する。次世代を切り拓くクリエイターとして脚光を浴びる。

ーつい先日も〈コウガ〉のポップアップを韓国で開催されていましたが、旅にまつわる記憶と香りが繋がることはありますか?

やはり海外の香りというのは、目的地に到着して思い出されるものがあると思います。韓国に行ったのは今回で2回目だったんですけど、1回目と同じホテルに泊まってホテルの香りのインパクトが強くて、ホテルに入った瞬間に『ああ、この匂いだったな』って、1回目の韓国旅行のことを思い出しましたね。

ー言葉では説明できなくとも、旅先の香りから記憶が呼び覚まされることがありますよね。

そうですね。特に滞在先やお店の香りは記憶に残ると思いますし、ふと同じ匂いが漂ってきたときに、そのときのことが脳裏にパッと浮かんできますね。あとは人の車の匂いとか。車の匂いは持ち主によって個性が出ると思うので記憶に残りますね。その車の持ち主との思い出とセットで思い出します。

ーちなみに〈ル ラボ〉のことは知っていましたか?

もちろんです。フレグランスは「SANTAL 33」を長く使っていますし、友人にプレゼントでもらったキャンドルの「PALO SANTO 14」も愛用しています。あとは「BODY CREAM HINOKI」も。気づけば、身の回りにたくさん置いていますね(笑)。プレゼントにしても喜ばれるブランドですし、実際にもらったら私も嬉しいので、そういうところも〈ル ラボ〉というブランドが持つ魅力だと思います。

普段は日本で手に入らない各都市限定の「シティ エクスクルーシブ」が、毎年一度きり、9月のみ購入可能に。今年からラインナップに、上海の香り「MYRRHE 55」が新たに加わった。

ー今回は9月のみ日本でも展開される、各都市限定のシリーズ「シティ エクスクルーシブ」を試してもらいました。セレクトしたのは「MUSC 25」ですね。LAの香りになります。

はい。まず行きたい国はどこだろうって観点でいくつかピックアップしたんですけど「MUSC 25」の香りから、LAの壮大なランドスケープが思い出されたんですよね。以前、一度行ったことがあるんですけど、そのときのことがふわっと思い出されました。次にLAに行って遊ぶときに、この香りを身に付けたいと思って選びましたね。あと、このカラッとした印象の香りが自分の好みにぴったりでした。ちょうどいまつけたい香りだと思います。

〈ル ラボ〉MUSC 25 ¥45,100[50ml](ル ラボお客様相談室)※2023年9月8日時点
普段はLAのみで限定販売している「MUSC 25」。ムスクの他に、ベチバー、アンバーグリス、シベットなどを使用し、石鹸のような清潔感とアニマリックなニュアンスを併せ持つ二面性のある香り。

ー今回つくっていただいたプレイリストも、そういうカラッとした夏っぽいものになっていますね。

そうですね。夏だけに拘れないですが、自分の中でLAで聞くならと思うものをセレクトして、「MUSC 25」をつけて遊んでいる光景をイメージしながら組みました。香りと音楽も通ずる部分がありますからね。自分の記憶にも残るプレイリストになるよう、この香りと紐づけて考えてみました。

Selector 08_オカモトレイジ(OKAMOTO’S) 人と直結する香りの印象。

8月と9月は、世界の中でもセレクトされた都市のためにつくられ、普段はそこでしか手に入らない香水・シティエクスクルーシブが日本でも手に入る特別な時期。この2ヵ月間は、頻度をあげて更新します。今回のセレクターは、オカモトレイジさんです。

PROFILE

オカモトレイジ(OKAMOTO’S)

バンド、OKAMOTO’Sのドラマー。YAGIの主宰として不定期でパーティやエキシビションを開催する。あらゆるファッション、サブカルチャーシーンと繋がりを持ち、常に斬新な発信を行なっている。

ー最近だといつ頃、海外へ旅に行きましたか?

昨年の11月頃ですかね。2週間ほどLAに行っていました。

ーアメリカへ。その旅と香りで何か記憶に残っていることはありますか?

アメリカならではのデオドラントのココナッツっぽい匂いというか。ちょっと鼻を刺激する香りがLAっぽいなと思いますね。実際に身につけてみると、すごくアメリカ人っぽいななんて思いますし(笑)。あとは渋谷を歩いているときもそうなんですけど、街の裏路地なんかに入ったときに漂ってくるアルコールと生ゴミの混じったような匂いがすると海外にいるなって気持ちになりますね。まったくいい香りじゃないですけど、自分の場合はクサい方が記憶に残るんですよ。人の匂いだとか。

ーレイジさんが香りから連想するのは情景というよりは人だったりするんですね。

そうです。〈ル ラボ〉を使っているのもまさに同じ理由なんですよ。3、4年前に何種類か試せるキットをもらって試していたら「SANTAL 33」をかいだときに友人のAisho Nakajimaの匂いじゃん!ってなって。あのAisho Nakajimaのセクシーな感じというか、彼の姿が脳裏に浮かんできて「SANTAL 33」と結びついちゃったんですよね。それで、オレも彼みたいになりたいと思って、お揃いの香りにしたんです。本人にも聞いたんですけど、やっぱり〈ル ラボ〉の「SANTAL 33」を使っていたんで「オレも同じやつにしたよ」って伝えて。以降、チーム・サンタルとしてやらさせてもらってます。

〈ル ラボ〉SANTAL 33 ¥26,950[50ml](ル ラボお客様相談室)※2023年8月25日時点
〈ル ラボ〉を代表する「SANTAL 33」。サンダルウッド、シダー、レザー、カルダモンといったスパイシーでウッディな香りに、バイオレット、アイリス、アンバーといった甘みが加わったユニセックスな調香。

ーそんな経緯があったとは(笑)。ずっと「SANTAL 33」だけを愛用されているんですか?

いえ、「THÉ NOIR 29」も好きな香りで使っていたんですけど、YAGIを一緒にやっている相方も使っていることを後から知ったんですよね。そいつと同じ香りを漂わせているのはけっこう気持ち悪いから、オレは違う香りを選ぼうと思ったんです。そんな感じで、気づかないうちに自分の周りには〈ル ラボ〉を使っている人が多くいたんですよ。

ー香水自体はもともとお好きだったんですか?

昔はつけていなかったんですけど、いまではクセになっちゃいましたね。香水をつけることが日常の一環になりました。それに、いい匂いがするに越したことはないじゃないですか。やっぱり「オカモトレイジとすれ違ったんだけど、なんかいい匂いがしたんだよね」って言われたいですから(笑)。実際に「SANTAL 33」をつけるようになってから「めっちゃいい匂いがしますね」って話しかけられますしね。いい匂いがするってことは自分が何も意識せずともいいプロモーションを周囲にしてくれることになると思うんですよ。

ー香りから人を思い出すレイジさんならではの意見ですね。

そうですね。普段から、『この匂いは誰々だ!』ってなることはよくありますよ。〈ル ラボ〉も、Aisho Nakajimaというめっちゃ素敵なアイコンが自分の中にあって、そこと結びついたからポジティブな印象に繋がっていったし、自分も使いたいと思えたんです。

ーラベルに入れたのは「Calorie hikaeme」。カロリーをひかえめにしていこうってことですか?

そうですね(笑)。この間、スポーツドリンクに「カロリーひかえめ」って書いてあったのがウケたんですよ(笑)。深い理由があるわけじゃないんですけど、オモロイなって。たしかにね、何事もひかえめがいいじゃないですか、ゼロじゃないわけだし。そんな奥ゆかしさを感じるいい言葉だと思ったんで、座右の銘にしたいと思って。

ーまさかの座右の銘だったとは。では、今回つくっていただくプレイリストについて教えてください。どんな感じになっていきそうですか?

やっぱり自分の中におけるAisho Nakajimaのイメージに寄っていくことになりますね。スロウでスウィートなR&B、セクシーでラグジュアリーな印象がありつつも、どこか安心できる親近感のある感じ。そんなプレイリストにしたいと思います。お楽しみに。

Selector 07_内田文郁 湿度と残り香と。

8月と9月は、世界の中でもセレクトされた都市のためにつくられ、普段はそこでしか手に入らない香水が日本でも手に入る特別な時期。この2ヵ月間は、頻度をあげて更新します。今回のセレクターは、〈フミカ_ウチダ(FUMIKA_UCHIDA)〉の内田文郁さんです。

PROFILE

内田文郁

ヴィンテージショップ「サンタモニカ(Santa Monica)」のバイヤーを経て、2005年に中目黒に夫婦で「ジャンティーク(JANTIQUES)」をオープン。2014年より自身のブランド〈フミカ_ウチダ〉を手掛けている。

ーいままで海外に行かれることも多かったと思いますが、旅などで何か香りと結びつく記憶はありますか?

アメリカに初めて行ったのが「サンタモニカ」で働いていた時なんですけど、LAの空港で嗅いだ匂いは多分一生忘れないですね。いままで嗅いだことのないスパイシーな香りで、異国に来たんだなって。「現地で人が待ってるから行って!」みたいな感じで急にひとりで行かされ、初めてで緊張したドキドキ感と相まって覚えている記憶です。視覚よりも嗅覚の方が、すごく強烈に覚えていますよね。

ーたしかに脳裏にこびりつきます。

あとは、毎年買い付けで海外に行っていて。全面芝生のところで開催されるフリーマーケットがあるんですけど、早朝に芝生が湿気を帯びて発する独特の匂いとか。湿度のある香りが好きなんですよね。日中の暑さが和らいできたこの時期の東京の夜の香りも好きで、湿度がないとグッとこないというか。

ー東京の夏は湿気がすごいですよね。

夏が終わりそうで終わらないこの時期、大好きなんです。ファッション業界ではシーズンを終わらせないといけない時期で、まだ夏が続いているのに切り上げて秋冬を始めなきゃいけないという切なさ。最後までこの夏を楽しみたいなって気持ちと、そのシーズンのことを振り返る。つけたての香水も好きなんですけど、忘れた頃に朝つけた香水がフワっと自分から香る時にすごくエモーショナルな気持ちになるんですけど、感傷的になるっていう面で似ていますよね。

ー始まりよりも、終わった後に感じる刹那に心が動くと。

そうですね。マッチの消えた時の匂いとか、寝袋へ入った時に体からふと焚き火の匂いを感じたとか、子供の頃のプール帰りに塩素の匂いが自分からしたなとか。オンタイムというよりも、タイムラグがあって香ってくるという、意識してない時に感じる香りが好きですね。香水をつけた瞬間は意識してると思うんですけど、それを忘れた時、香りが戻ってくる時の方が感情が動く瞬間なのかもしれないです。

ー今回選んでいただいたのは「PATCHOULI 24」ですね。

スーっと入ってくるいい香りよりも、すんなりいかないクセのある香りが好きで、20代の時からずっとパチュリの香水を使ってるんです。ファッションの仕事をしてきたのもあり、服を毎日変えたいし、違う自分になるのも好き。でも、同じ香りを身につけていることで、自分を覚えてもらえるんじゃないかと思って。「ROSE 31」の残り香もすごくよくて迷ったんですが、そこは初志貫徹と思い「PATCHOULI 24」にしました。

〈ル ラボ〉PATCHOULI 24 ¥26,950[50ml](ル ラボお客様相談室)※2023年8月11日時点
パチュリや、白樺、レザーのようなスモーキーさが香る「PATCHOULI 24」。どっしりとした深い香りの奥には、バニラやバイオレットの甘さもあり、柔らかな丸みも感じさせる。落ち着きと暖かみのある個性的な香り。

ーラベルに入れた「permeate」には“浸透する”という意味があります。

パチュリの香りをずっとつけているので、単純なんですけど、自分の体臭がパチュリになればいいのにと思って(笑)。体に染みつくようにというのと、パチュリ愛を貫くというのも含めて入れてもらいました。今回ので、改めて香水は繊細なものなんだなって思い、自分のパチュリ幅が広がりましたね。

ープレイリストもつくっていただきましたが、いかがでしたか?

実はいままで一度もプレイリストをつくったことがなくて、初めてつくったんですが、ファッションのシーズンを構築するのと似てるなって思いました。毎日聴いて好きというよりも、何か気になるという曲を集めています。なんでこのリストになったのかが時差的に分かってくるのかと思うと楽しみです。

ーアメリカのアーティストの曲が多めですね。

初めて聴いたというよりも、前から知っているけど忘れているものを引き出したりだとか、そういう自分の内面と向き合う作業でしたね。いまの季節なので、仕事帰りにクルマの窓もルーフも全開にして、音楽を聴きながら夏の終わりの湿度がありながらも空気が変わるあの感じ。それを今回の香水の香りと重ね合わせて考えました。

ーそれでロックやジャズが選ばれたんですね。

なんか恥ずかしいですよね! 音楽はそこまで詳しくないので、自分のクローゼットを見られるよりもプライベートなものをお見せしているような感じで、すごく恥ずかしい気持ちになりました(笑)。

Selector 06_BIGYUKI PATCHOULI 24のように強い印象の音楽をつくりたい。

8月と9月は、世界の中でもセレクトされた都市のためにつくられ、普段はそこでしか手に入らない香水が日本でも手に入る特別な時期。この2ヵ月間は、頻度をあげて更新します。まずは3月にツアーで来日していたBIGYUKIさんに、〈ル ラボ〉の思い出を伺ってきました。

PROFILE

BIGYUKI

キーボーディスト、作曲家、編曲家として活動するミュージシャン。拠点をNYに置きジャズシーンからR&B、HIPHOPシーンとジャンルレスに活動を展開している。

ーBIGYUKIさんがNYに拠点を移されたのはいつ頃でしたか?

渡米したのが2000年なんで、もうアメリカに23年住んでいることになりますね。大学がボストンにあって、2007年頃からNYとボストンを行き来するようになり、2000年代後半にはNYへと移った感じですかね。

ーそして、NYから全世界へツアーしに回っているわけですよね。年間どれくらい海外に行かれているんですか?

年の半分は出ていると思いますよ。でも、コロナ禍でツアーが止まっちゃったから、その期間は家に留まっていて、ちゃんと自宅での生活も楽しめるようにしないとなって逆に思いました(笑)。移動ばかりだったから、自宅には寝に帰っている感じだったので。

ーそれだけ長く海外にいると、もはや日本に戻ってくるのが帰郷ではなく、一種の旅となりそうですね。

最初の頃は、日本に演奏しに来るのが旅の一環になっていましたね。日本は美味しいご飯に連れていってくれるし、楽しい場所に遊びに行ける、羽を伸ばせる場所っていう認識だったんですよ。ただ最近では、今後もアメリカに住み続けるうえで、日本とどういう関係をつくっていくかについて考えることがありますね。ぼくがアメリカで得たものは他にない独特なものだと思っていて、その経験や考え方を日本の若い世代にシェアしたいと思うようになってきたんです。

ー常に旅をしているBIGYUKIさんならではの考え方や哲学がありそうですね。

ライブをちゃんとやりつつも、今後はワークショップ的なことをやって、日本の若い世代と対話する機会をつくっていきたいと思っています。やっぱり日本から海外に出るのって難しいと思うんですよね。ただ、ずっと日本にいると、当たり前だと思っていることが実は当たり前ではない、ということがわからないと思うんですよ。そういうことを考える機会も、異質なものに触れ合うこともないでしょうから。そういう世界観を広げるきっかけになれないかなと、思ってはいます。

ー街という意味では、東京に来た際は代々木上原を拠点にされることが多いそうですね。

そうなんですよ。ツアーで新しい街に行くときは、最初にコーヒーショップを探すんです。ミュージシャンにはお酒好きが多かったり、人によって趣味嗜好が異なりますけど、最終的に行きつくところがコーヒーだったりするんですよね。準備が必要で、つくる過程も儀式めいたものがありながら、最終的に味と香りまで楽しめる。単純に飲む、食べるだけではなくて、全プロセスを楽しむことができるものとして、コーヒーがあると思っています。だから、ミュージシャンはみんなコーヒー好きなんですよね。代々木上原には「リトルナップ」とか、美味しいコーヒーショップがたくさんあるし、そこでできた友達もたくさんいる。大好きな街の1つになりましたね。

ー世界各地をツアーしながらの日々だと思いますが、その土地ごとに記憶と結びつくものはありますか?

ぼくの場合、雑踏を歩く音だったりするんですよ。街ごとに人の歩き方やテンポが違っていて、たとえば、ヨーロッパのプラハだと足場が石畳だったりするから、歩き方が早かったり自転車がいろいろなところから飛んでくるようなイメージ。街によってそれぞれの秩序があるんですけど、部外者から見るとカオスに思えるというか。東京もそうですね、慣れている人にとっては当たり前なんでしょうけど、ぼくからしてみたらカオスなんです。これがNYであれば、自分には自然とわかるし。街と歩くテンポが一番結びついていますね。大勢の人が生活する環境では固有の香りというのはなかなかなくて、いろんな匂いが漂っていますから。

ーそれで言うと、街の香りというのは情景と共に記憶に刻まれるものですか?

そうですね。それこそ、以前〈ル ラボ〉で「BAIE 19」について説明してもらったんですけど、雨上がりのウェット感をイメージしているそうじゃないですか。ああいう感じですね。香りも記憶の1種なので、そこだけにフォーカスするというわけではなくて、耳からの情報や目に映る景色だとか、そういったものの1つに記憶としての香りがあると思います。

ー演奏中はいかがですか?

意識したことはないですけど、会場の大きさによって全然違うでしょうね。ぼく個人の好みで言ったら、お客さんの熱気が直で伝わってくるような場所で、ハコの中に生物の匂いが充満しているあの感じですかね。サウナみたいな空間っていうんですかね。

ーちなみに先ほど〈ル ラボ〉の名前が出ましたが、普段から愛用されてらっしゃるんですよね。

ずっと愛用していますね! はじめて知ったのは15年ほど前。ツアーで訪れたサンフランシスコのホテルのアメニティが〈ル ラボ〉だったんですよ。シャンプーを使ってみたらすごくいい香りで心地よかったので、まずは名前だけ覚えてNYに帰ったんです。それで「あの香り、よかったな」なんて考えながらソーホーを歩いていたらお店を見つけて、あった!って(笑)。そのときに、ようやくNY発祥のフレグランスブランドだってことを知ったんです。

〈ル ラボ〉PATCHOULI 24 ¥26,950[50ml](ル ラボお客様相談室)※2023年8月4日公開時点
パチュリや、白樺、レザーのようなスモーキーさが香る「PATCHOULI 24」。どっしりとした深い香りの奥には、バニラやバイオレットの甘さもあり、柔らかな丸みも感じさせる。落ち着きと暖かみのある個性的な香り。

ーそんな偶然があったんですか。今回セレクトいただいた香水は「PATCHOULI 24」ですが、どういう点が気に入りましたか?

今回のお話をいただいた時に〈ル ラボ〉のお店にいって最初にした質問が、1番クセのある香りでした。そこで出てきたものが「PATCHOULI 24」。店員さんにクセが強く好き嫌いが分かれると言われて謎の対抗心を感じ、この香りを纏いこなしてやろうと決めました(笑)。自分の音楽も、どこか毒っけがあって好きな人はクセになるような、記憶に残る演奏をしたいと思っていて、その指向性がリンクしたと思います。

ープレイリストもやはりそのような並びになっているのでしょうか。

気合いを入れたいライブのある日に「PATCHOULI 24」をつける。この独特の香りで脳がキュッとなる。ゾーンに入る。次第に香りとともに感覚が馴染んでくる。緊張感を保ちながら高まる多幸感。演奏の後、余韻に浸る。そんな香りと演奏の流れを想像しながら、プレイリストつくってみました。

Selector 05_Lee Izumida & 世良田奏大 家の安心感をつくる香り。

第5回目は、Izumida Leeさんと世良田奏大さんが担当。夫婦で〈ル ラボ〉を愛用する2人に、香りと記憶についてご自宅で伺いました。

PROFILE

右:Lee Izumida

絵描き。1986年生まれ、北海道出身。アメリカ留学時に絵を学び、2015年より東京を拠点とする。2019年より本格的に絵描きとしての活動をスタート。

PROFILE

左:世良田奏大

「ヘブンス表参道」のディレクター、美容師。メンズ・ファッションメディアのコンテンツも数多く手掛けるなど幅広く活動中。

ー香りにまつわる記憶と聞いて思い出されることは何ですか?

Lee:街が持っている匂いのことを思い出します。普段から、いろんなところに行っているんですけど、東京やパリ、ニューヨークと、それぞれの街に住む人が醸す雰囲気があって、そのことを思い出しますね。

奏大:街を歩いているときの、金木犀だとか、植物の香りで季節を感じますよね。夏はどこかワクワクするような匂いがしたり。あとは、美容師なのでどうしてもパーマ液などの匂いも思い出してしまいます。お店で流れていたプレイリストを一緒に思い出したりとか。あの独特の匂いで、仕事モードになるような感じはあると思います。香りは気分を切り替えるてくれたり、季節やシーンを思い出させてくれたりするものだと思います。

ーLeeさんも、奏大さんのように音楽と香りのセットの思い出はありますか?

Lee:私の場合、絵を描くときに音楽をかけていて、その絵の具の匂いと音楽がリンクすることがあるんですよね。だから、とある音楽を聴いて、それをBGMに描いていた絵のことを思い出したり、その時期に自分がどういうことをしていたのかを思い出したりします。それがよい思い出のこともあれば、そうでないこともあって(笑)。そんな風に不思議と記憶を呼び覚ましてくれる装置になっているのが音楽×香りの組み合わせです。

ー今回は「ANOTHER 13」をセレクトいただきましたが、普段からご夫婦で〈ル ラボ〉のフレグランスを愛用されているんですよね?

Lee:そうですね! ただ、私が勝手にクローゼットに香水を吹きかけたりしているだけなので、2人で愛用しているとは言えないのかも…。

奏大:ぼくは日常的に香水を使わないんですよ。だから、言われないと服に吹きかけられていることに気づかないんです。

一同:笑。

奏大:とは言いつつ、この「ANOTHER 13」はいい香りだなと思います。やっぱり好みはありますからね。

Lee:そう、その好みを知っているので、嫌いそうな香りは使わないようにしているんですよ。香水では「GAIAC 10」も使っていて、気分によって使い分ける感じですね。あと、シャンプー、コンディショナーは「SANTAL 33」、フェイス スクラブも含めて〈ル ラボ〉のアイテムはすごく愛用しています。

自宅で愛用している〈ル ラボ〉のアイテム。

〈ル ラボ〉ANOTHER 13 ¥26,950[50ml](ル ラボお客様相談室)※2023年7月時点
イギリスのファッション・カルチャーマガジン『アナザーマガジン』とのコラボレーションでつくられたフレグランス。アニマルムスク・ジャスミン・アンブレットシードアブソリュートなどが柔らかに香る、都会的な爽やさのあるユニセックスな調香に。

ー〈ル ラボ〉のどういったところが気に入っていますか?

Lee:香りが好きというのは大前提にあるんですけど、香水はリフィルができて、オリジナルメッセージ入りのラベルを張り替えながら使い続けられるところが好きですね。ものを長く愛用するというスタンスに魅力を感じます。

ー「ANOTHER 13」のラベルには「itterassyai to okaeri」というメッセージを選んでいただきましたが、この意味は?

Lee:私は旅行先など外出時には香水を持ち歩かないんですよ。だから、この香りは自分の中で“家の匂い”という位置付けなんです。出かけるときに身につけて、帰ってきたときに同じ香りを感じてほっとする。そんな意味合いが個人的にあるので、こういうメッセージにしたんです。

奏大:なるほどね。それでクローゼットだとか家の中で意図的に香水を使っていたわけだね。

Lee:そうそう!

ーでは、今回のプレイリストはどんな内容になりましたか?

Lee:この「ANOTHER 13」の香り=家の匂いをイメージしていると、私たち夫婦に繋がるプレイリストがいいと思ったんですよね。そこで、結婚パーティーでかけた曲と、当時を思い出しつついまの選んだ、私が好きな15曲のラブソングを集めました。結婚式を考えるのはけっこう大変だと思うので、もし気に入ってくれた人がいたら、自分の結婚式で使ってもらったりして、誰かの役に立てたら嬉しいですね!

Selector 04_miu 冬の匂いで思い出す、心を癒してくれる雪景色。

第4回目のプレイリストをつくってくれたのはmiuさん。店舗で香りを選んでもらいながら、香りからどんなことを考えるのかを聞いてきました。

PROFILE

miu

1996年生まれ。滋賀県出身。女優、モデルとして活躍しており、さまざまな媒体でその姿を見ることができる。好きなものは音楽とラーメン。

ーこの企画は“香りと記憶”をテーマに連載しています。miuちゃんの“香りと記憶”の話をお伺いできればと思いまして。

ちょっとエモーショナルな話が2つあるんですけど。小さい頃、年に2回くらいスキー合宿に行っていたんですよ。そのとき、冬の山で感じた匂いがいまも脳裏にずっと残っていて、その記憶が冬になると思い出されるんですよね。ちょっと鼻がツンとする感じというか。それが1つ目です。

ー冬独特の冷たい香りが雪山を思い起こさせるんですね?

そうです。登山もするんですけど、冬が好き過ぎて少し早めに冬を感じに山へ行ったり。去年もそうしましたね。

ー登山はよくするんですか?

します! 昔は難易度の高い山にも行っていましたけど、最近はわりと登りやすい山が多いですね。冬の雪を楽しみに行く回とか、ちょっと春を先取りにしに行く会とか。山の光景って街とは全然違うじゃないですか。そんな風に季節を先取りする感覚で行っています。

ーでは、もう一つの記憶というのは?

今度は街の話になるんですけど、雨が止んで晴れて、これから渇いていくぞっていう状態のアスファルトの匂いが好きですね。空気中を舞っているホコリとかが流された後のスッキリする感じが好きで。これも小さい頃だとか、何気ない日常をふと思い出したりしますね。

ーたしかに、雨の日のアスファルトって独特の香りがしますよね。

香りはなにかを連想したり、考えたりすることも多いですよね。しげる(miuちゃんの愛犬)と朝夕2回散歩をするんですけど、夕飯時に住宅街を歩いていると楽しいんですよ。あ、ジャガイモを茹でている匂いがするからカレーにするのかな? 肉じゃがの可能性もあるな、とか。そういう夕飯当てゲームに、以前はすごくハマっていました。

ー街を歩いていて漂ってくるご飯の匂いは本当に心地よいですよね。さて、〈ル ラボ〉で選んでいただいたのは「FLEUR D’ORANGER 27」です。選んだポイントはありますか?

〈ル ラボ〉FLEUR D’ORANGER 27 ¥26,950[50ml](ル ラボお客様相談室)※2023年6月時点
オレンジの花を意味する「FLEUR D’ORANGER 27」。オレンジブロッサムらしい高潔さにフレッシュなレモンなどをプラス。ベルガモット、プチグレンが香りに丸みを持たせ、ムスクでビターに引き締めた、春夏にぴったりな香り。

オレンジブロッサムの香りで優しい感じがしたんですよ。いま、私が使っている香水はけっこう渋みがあって堅い印象のある香りだったので、今日は対照的に抜け感のある明るいものがいいと思って。もともと植物や果物の匂いも好きだから、すごく気に入りました。外遊びをするときに使うと、爽やかな印象を周囲に与えられるかもしれないですね。

ーそんな「FLEUR D’ORANGER 27」から考えるプレイリストはどんな内容になりますか?

わたし、プレイリストをつくるのが好きなんですよ。それこそ登山しているときに聴くと気分が上がるような、癒しのプレイリストがいいですね。

ーラベルに刻印したメッセージは「♨︎☮♨︎」と、めっちゃユニークですね。

癒し系って感じで。香りから感じた雰囲気を記号で入れてみました。DMとかLINEをするときに、♡の代わりに♨︎を使うことが多いんですよ。なんか可愛いですよね。平和な感じがして気に入っています。

Selector 03_Ryo Takaiwa ジャズのスタンダードとオーバーラップさせるバラの香り。

今月のセレクターは高岩 遼さん。自身が営むウイスキーバー「Brother」にて、〈ル ラボ〉を介して香りとの記憶を辿ります。

PROFILE

高岩 遼

平成が生んだ生粋のエンターテイナー。SANABAGUN.のフロントマンであり、ソロではジャズシンガーとして活動。三軒茶屋で大人の不良がたむろする隠れ家的ウイスキーバー「Brother」のオーナーでもある。

ここ、「Brother」はウイスキーバーでバーボンを扱っているんだけど、ウイスキーの香りをかぐと、それこそ過去のことを思い出すし、音楽のことも考える。いまじゃ半分商売になってるけど、ウイスキーの香りは常に自分の傍にあったように思います。記憶に結びつく香りという意味で言えば、海辺の潮風っていうのかな。海の匂いが漂ってくると、故郷でもある岩手、宮古の港を一撃で思い出す。あの生々しい生き物めいた感じ。自分にとって香りを象徴するのはそれじゃないですか。あの海からいまに繋がっている。そういう根源的なものでもあります。

オレは血筋的に鼻がいいんですよ。だから、自分の匂いが相手に不快な思いをさせないかどうかっていうのは常に気にしています。香水は、人と会うときの男の身嗜みという意味合いに近いかもしれないですね。毎日必ずって使うほどじゃないんですけど。

そして、バシッと気を引き締めたいときも香水を使うかな。ライブがあるときなんかは特にね。ステージに上がるときに自分を戦闘モードにしてくれるもの。そういう作用も香水にはあるかもしれない。ま、ジャズのステージでは戦闘って感じでもないけど(笑)。それでもスイッチが自然と切り替わる感覚があるからね。目には見えない香りが気分を変えてくれる。普段と気分を変えるっていうのはステージに立つうえで重要なことですから。

〈ル ラボ〉ROSE 31 ¥26,950[50ml](ル ラボお客様相談室)※2023年6月時点
南仏・グラースのバラが持つ濃厚な香りを、クミン、シダー、アンバー、ガイアックウッド、シスタスなどでウッディかつスパイシーに仕上げた「ROSE 31」。甘さを抑えた上品な香りは、男女問わず使うことができる。

〈ル ラボ〉のことは最近知ったんだけど、ブランド全体の世界観がすごく気に入りましたね。お店で香りを選んだあと、その場で調合してくれるっていうのは、やっぱり嬉しいことだし、使う人のライフスタイルに寄り添うフレグランスなんだと感じました。これまでいろんな香水を使ってきて、実際にリリックに入れたりしてきたけど、〈ル ラボ〉も今後オレにとって欠かせないスタンダードになっていくかもしれない。

セレクトしたのは「ROSE 31」。ローズと聞くと、甘くメロウな香りだから高岩には似合いすぎる? いや、それも含めて“あえて”のストレートなセレクトにしました。そもそも個人的に好みの香りだったし。ジャズマンなら誰でも演奏する古いスタンダードで『酒とバラの日々(Days of Wine and Roses)』という同名映画のテーマ曲があって、紳士と淑女が酒に溺れて家庭が壊れていくストーリーなんだけど、やっぱり良い曲だと思ってさ。一時期はみんなが演ってるからやらねぇって思っていたんですけど、最近じゃ絶対歌っているんだよね。そんな意味もあって「ROSE 31」を選ばせていただきました。バラのタトゥーも入ってるからね、バッチリでしょ。

そこからプレイリストをつくるとなると、やっぱり『酒とバラの日々(Days of Wine and Roses)』を軸にしたジャズのスタンダードやR&B、オレが好きで歌ってきた音楽たちをセレクトすることになるかな。大好きなディズニーからも1曲選んでいるけど、今回は『眠れる森の美女』からってところが「ROSE 31」っぽいんじゃないかな。バラがキーワードだからね。

ラベルには王冠に囲まれた「JAZZ LIFE」の文字。これは、長きに渡ってオレの座右の銘ですから。スタンス・オブ・ジャズだね。音楽的にジャズを示すということだけではなく姿勢として。ジャズっていうのが、自分の生き方ですから。今回つくったプレイリストも、そういうアティチュードを示すものになっているかもしれないね。

Selector 02_Cota Mori 〈ル ラボ〉抜きで考えたら大半の記憶がなくなってしまう。

今回プレイリストを担当するのは、10年以上〈ル ラボ〉を愛用し続けているという森 洸大さん。森さんと〈ル ラボ〉の記憶を探ります。

PROFILE

森 洸大

クリエイティブレーベル「PERIMETRON」に属しつつ、極彩色流シ表現集団ことペインターユニットの「DWS JAPAN」としても活動中。常田大希率いる「millenium parade」ではアートディレクター/デザイナー/アジテーターを務めている。

もうかれこれ10年以上〈ル ラボ〉を使っています。というか〈ル ラボ〉以外の香水はまともに買ったこともないくらいです。最初に買ったのが「OUD 27」で、ずっと愛用していたのですが、数年前に廃番になって絶望しました(笑)。そんな折にリフィルだけはしているということを知って、こうして継ぎ足ししながらいまも使っています。

ラベルに刻んだ「my fav」は、もうそのままの意味ですね。“お気に入り”です。だいぶ長く使っているんですけど、プッシュする度に思い出すものがあるんですよ。脳裏にいろんなシーンが浮かんできて。毎日つけているのに、そんな風に記憶を呼び覚まされるからすごく不思議です。大袈裟に言うと、〈ル ラボ〉のフレグランスがなかったら、ここ10年くらいの…いや、オレの記憶ほぼなくなっちまうんじゃねぇかな(笑)。

〈ル ラボ〉OUD 27 ¥33,000[100ml](ル ラボお客様相談室)※2023年4月時点のリフィル金額
現在は廃盤となっているものの、熱狂的なファンのいる「OUD 27」は、ウード、シダー、パチュリ、ガイアック、ベチバーなどが香る、アニマリックな香り。「OUD 27」のボトルを持っている人限定で、〈ル ラボ〉のラボ併設店舗でリフィルサービスを受けることができる。

もう1つ長年使っているのが「PATCHOULI 24」です。これもリフィルをして使っています。「OUD 27」もそうなんですが、両方とも煙たさと怪しさを持ってて、物語を感じるぐらい香りに展開があって大好きです。家でよくお香を焚いていたり、幼い頃から焚き火とか、ワインのコルクの匂いとか癖のあるものが好きだったみたいで。香りそのものがそもそも好きなので昔から香水は欲しくて探してたんですけど、そういった渋さを感じられるものがなかなかなくて、ようやく出会えたのがこの二つでした。

強いて違いを挙げるとすれば、「OUD 27」には煙たさの中に華やかさと危うさがあり、「PATCHOULI 24」には渋みとより複雑な移り変わりがある。意図的に使い分けることはしてないですけど、夏は「OUD 27」、冬は「PATCHOULI 24」をつけることが多い気がしますね。

〈ル ラボ〉PATCHOULI 24 ¥33,000[100ml](ル ラボお客様相談室)※2023年4月時点のリフィル金額
パチュリや、白樺、レザーのようなスモーキーさが香る「PATCHOULI 24」。どっしりとした深い香りの奥には、バニラやバイオレットの甘さもあり、柔らかな丸みも感じさせる。落ち着きと暖かみのある個性的な香り。

そういった雰囲気と時間の経過で移り変わるそれぞれの香りの流れを物語と捉えて、自分なりに表現したプレイリストを考えてみました。共通しているのは煙たさと怪しさがあるのと、めっちゃハッピーでもなければ嘆いているわけでもない、だけど二面性があるという点ですかね。で、基本ちょっと暗めだしくどいとこもあるかも(笑)。

あと『この音を聴くと、昔を思い出すんだよな』というオレ的懐メロも入れつつ、いまの自分のムードにハマる曲もセレクトしてみました。ネガティブでもポジティブでもないけど熱苦しいっていう、すごい自分らしいものになった気がします。

プレイリストをつくりながら思いましたけど、音楽にも記憶を想起させる機能が香りと同じくらいありますね。聴く音楽によって体感的な温度が上下したりする感覚があって。暑さとか寒さみたいな耐える必要がある環境を好きになれることで、その環境に心地よささえ感じられる。それで体感温度が変わって感じるような。目に見えないけど、その分より深く体に入り込んでくる音と香りには、共通して記憶を呼び覚ます力と環境や状況を愛せる力があると思いました。

「PATCHOULI 24」のラベルに刻んだのは「Here we go again.」。これはいまの自分の気分を示している言葉です。これまで生きてきて、学生時代、フリーター時代とかみたいな大きなフェーズを乗り越え重ねてきましたが、また一つ終わり、新たな章が始まるというような感覚です。

詳しくはあまり言えないですが、ここからはmillennium paradeの本領を発揮していきたいと思ってます。これから、しっかりとそのクリエイティブに向かっていく時期がやってくるので、ああ、また大地獄に向かって自分の背中を押さないといけないのか。だいぶ踏ん張って登ってきたと思ったけど、まだまだ麓じゃないか…という。ま、めちゃめちゃ楽しみなんですけどね。なんならいままでで一番ワクワクしてます。貯めてきた気合い全部ぶっこんで、さあもっかい初心から始めるぞという気持ちです。

Selector 01_Daito Manabe. 香りには作品自体の価値を高める作用もある。

1人目は、日本を代表するトップクリエイターの真鍋大度さんのインタビューをお届けします。

PROFILE

真鍋大度

1976年東京都生まれ。ライゾマティクス主宰、アブストラクトエンジン取締役。音楽やアート方面における世界のトップクリエイターたちと協業し続けている日本を代表するアーティストであり、プログラマー、DJ。4月1日(土)〜5月10日(水)の間、「光の美術館」で展覧会「真鍋大度個展 – EXPERIMENT -」を開催中。

ー香りと記憶は密接なものというテーマの連載になるのですが、何か香りから思い出されるエピソードはありますか?

洋服屋に漂っていたお香の香りは非常に印象深いですね。昔、レコードショップでバイトしていたこともあって、そのときの思い出が香りと共に蘇ってくる感覚があります。

ー特に記憶に残っているお香は何ですか?

ナグチャンパですね。90年代終わりから2000年代初頭の頃、すごく流行っていましたし、ストリートを代表する某ブランドのショップでも使われていましたね。いまでもたまに焚きますよ。

ー香りが自分のクリエイションに影響を与えることはありますか?

香水とは少し意味合いが異なりますけど、視覚や聴覚に嗅覚が加わることで作品自体の価値が高まっていくことがあると思うんですよね。だから、展示会の会場の香りも重要だと考えています。視覚や聴覚以前に、導入部分として入ってくる嗅覚をどう整えていくのか。香りのコーディネーターに入ってもらったりもするんですけど、それだけ重要な要素だと捉えています。

ー音楽と香りという点ではいかがでしょうか?

若い頃、ぼくの家に友達と集まり、部屋を真っ暗にしてお香を焚いて整えて、みんなでメディテーションするような気持ちで音楽を聴くことをやっていました。やっぱり音楽とは関係が強いように思いますね。

〈ル ラボ〉THÉ NOIR 29 ¥26,950[50ml](ル ラボお客様相談室)※2023年3月時点
真鍋さんが〈ル ラボ〉で選んだ香水は、ドライな中に爽やかな甘さを併せ持つ、奥深き香りの「THÉ NOIR 29」。ブラックティーをベースに、ベルガモット・フィグ・ベイリーフの爽やかさと、シダーウッド・ベチバー・ムスクのスパイシーな甘さが包み込みます。

ーこの企画では、〈ル ラボ〉の17種あるクラシック・コレクションから、お気に入りの香水を一つ選んでプレイリストをつくっていただきます。「THÉ NOIR 29」と「ANOTHER 13」で迷われていましたね。

「ANOTHER 13」は爽やかな香りで、軽快な気分を引き出し、おしゃれなアクセントを加えたいシーンに適していると思います。一方、「THÉ NOIR 29」は、表現が難しいのですが、柑橘系というよりも甘さのあるメロウな印象があって気に入りました。魅惑的な香りで、時間がゆっくりと流れるような雰囲気を醸し出しています。音楽でたとえるなら、90年代初頭のTrip Hop(トリップ・ホップ)みたいな感じですかね。BPM 80くらいのゆったりした感じです。夜の香りといったイメージがあるので、めかしこんでパーティに行くときなんかに使いたいですね。

ー最終的に選ばれたのは「THÉ NOIR 29」です。真鍋さんなりのプレイリストに落とし込んでいただきましたが、どのような内容でしょう?

魅惑的な音響と緻密な調和が織りなす、時間の流れが緩やかに感じられる空気をつくり出すプレイリストにしました。妖艶な響きとリズムが聴く人の心を捉え、現実から解き放たれたかのような感覚をもたらすのではないでしょうか。「THÉ NOIR 29」と合わせて体験すると、音の波紋が広がる中、安らぎと深い静寂が交差し、まるで幻想的な世界へと誘われるような体験ができると思います。

ー改めて、香りと音楽の関係性について思うことを教えてください。

世の中には踊るための音楽もありますし、映像の臨場感をより高めるための音楽もありますけど、中には視覚情報を刺激するような音楽もあって、そういう音楽を好きで聴いてきた部分があります。そこに香りが合わさることで、より深くイマジネーションが湧き上がってくる感覚がありますね。それに、そんな視覚に訴えかける音楽を聴くにあたって、空間を清めるという意味でも香りの存在は大きいと思います。

INFORMATION

ル ラボお客様相談室

ホームページ
電話:0570-003-770

このエントリーをはてなブックマークに追加

関連記事#LE LABO

もっと見る