FEATURE
着ぶくれ手帳。金子恵治とアヤメが生み出す、スポーティで上品なサングラス。
This is “L'AMÉRIQUE”

着ぶくれ手帳。
金子恵治とアヤメが生み出す、スポーティで上品なサングラス。

ファッションバイヤーの金子恵治さんが、またユニークなプロダクトを仕掛けました。つくったのは某スポーツブランドの名品をサンプリングしたアイウェア。「スポーティなアイウェアをファッショナブルに転換できたら」。そんな思惑が金子さんにはあったのです。それを実現させるため、白羽の矢が立ったのは〈アヤメ(ayame)〉の今泉悠さんでした。完成されたアイテムを見て、「欲しい!」と声を揃えるふたり。とはいえ、そこに至るまでの道のりには、さまざまな難関が待ち受けていたのは想像に難くありません。果たしてどんなアイウェアが生まれたのか。その道程を追いかけます。

PROFILE

金子恵治

ファッションバイヤー。セレクトショップ「エディフィス」にてバイヤーを務めた後に独立。自身の活動を経て、2015年に「レショップ」を立ち上げる。現在は同ショップのコンセプターを務めると共に、さまざまなブランドやレーベルの監修も行う。

PROFILE

今泉悠

1983年生まれ、茨城県出身。2010年にアイウェアブランド〈アヤメ〉を設立。同ブランド以外にも、アイウェアブランドのデザインやディレクションも行う。趣味はサーフィン。

モノとしての雰囲気が断然セルロイドのほうがいい。

ー今回は某スポーツブランドの名作アイウェアをサンプリングして、おふたりがサングラスをつくったということで。

金子: そうですね。そのモデルは定番中の定番で、誰でも似合うという確信がぼくの中にあって。

今泉: その気持ち、めちゃくちゃわかります。

金子: スポーツブランドのアイテムなんですけど、ぼくは自転車に乗っているから、周りに掛けているひとが多いんです。みなさんファッションの仕事をしているわけではないんだけど、みんな似合っていて。だけど、あくまでスポーツ用につくられたものだからテンプルにブランドロゴが入っていたりとか、素材もそれに適したものを使っている。それをもっと日常的にファッショナブルに掛けられるものにしたい、というのが今回のコンセプトですね。

ースポーツ用につくられたクオリティを、ファッション用に変換するということですね。

金子: おっしゃる通りです。元ネタになったのは80年代につくられた日本製のアイテムなんですが、現行で流通している同モデルとはちょっとだけつくりが違ったんですよ。一般的にそのモデルはテンプルの取り外しが簡単にできる仕様になっているんですが、ぼくが持っていたやつは蝶番がついていて普通のアイウェアと同じつくりだったんです。

今泉: “例のモデル”を知っているひとからすれば、すごく珍しいつくりでしたよね。

金子: それが今回のヒントになりました。テンプルのロゴをなくすだけじゃなくて、しっかりとしたアイウェアの仕様でつくることができるんじゃないかと。

ーそれで今泉さんに白羽の矢が立ったわけですね。

金子: サーフィンをやられているので、元ネタとなったモデルの魅力も熟知していると思ったし、一見やんちゃそうに見えるけど、しっかりと大人のメガネをつくっている。それでぼくのアイデアを具現化するのは今泉さんしかいないって勝手に思ったんですよ(笑)。

今泉: なるほど、そういう経緯があったわけですね(笑)。

金子: 今泉さんも“例のモデル”は持ってましたか?

今泉: 持ってます。スポーツ系サングラスの代表的なアイテムですから。だけど正直な話をすると、そこまで大事に扱っていなくて。それくらいのゆるさがいいというか。海へ行くときに適当に持っていくようなアイテムなんですけど、なぜか手放せない愛着もあって。

ー今泉さんはオファーを受けて、どんなことを感じられましたか?

今泉: 金子さんも先ほど仰っていたんですけど、お持ちいただいたアイウェアは、一般流通している“例のモデル”とはつくりがちょっと違ったんです。蝶番がついているのはぼくもはじめて見ました。あと、気になったのは芯がないんですよね。

ーそれはどういうことですか?

今泉: アイウェアには基本的にテンプルに芯が入っているんです。それは耐久性を高めるためなんですけど、“例のモデル”には芯が入っていなんです。

金子: それによって素材も変わるんですか?

今泉: 変わりますね。一般的にいまのアイウェアはアセテートを使うのが主流になっています。だけど、“例のモデル”は「インジェクション」という製法でつくられていて、型に樹脂を流し込んでつくられているんです。

ーということは、今回の〈アヤメ〉のアイテムもインジェクション製法でつくられたということですか?

今泉: いえ、いまインジェクションでやろうとすると型代がめちゃくちゃ高くなってしまって現実的ではないんです。なので、今回はセルロイドを使用しています。むかしからの技法が必要で、国内の市場の0.1%くらいの割合しかいまはつくられていないんですけど。鯖江の職人さんで、そうした技術を持っている方がいらっしゃるんですよ。

金子: どうして生産数が少ないんですか?

今泉: セルロイドという素材の扱いが難しくて、扱える職人さんが減っているんです。燃焼性の高い素材なので、削ったり磨いたりしている最中に摩擦で火がついてしまうリスクがあって。基本的に危険物として扱われているので、空輸もできないんですよ。

ー海外でもほとんど使われていないですか?

今泉: ほとんどないですね。持っていけないし、生産もしていないはずです。いまはほとんどがアジアの流通だけだと思いますね。

ー今回の場合、どうしてセルロイドなんですか?

今泉: 先ほど話した通り、芯を使わずにテンプルを仕上げるとなると、強度が必要になります。アセテートの場合はそれが不十分なんですが、セルロイドには粘性があるので折れにくいんです。それに素材としての味わいもある。とくに色味なんかはセルロイド特有のものがありますね。アセテートに比べてちょっと濁っていて、色の名称もグレーじゃなくて“スモーク”、ブラウンじゃなくて“ビール”って呼んだりするんですよ。

金子: たしかに、今回つくったやつもビール瓶みたいな色してますよね。

今泉: アセテートよりも前に使われていた素材なので、ぼくの中では本来のメガネの色という認識もあります。

金子: 素材の良さってやっぱりありますよね。モノとしての雰囲気が断然セルロイドのほうがいい。

今泉: あとは艶感も違いますね。インジェクションでつくった場合は、最後にニスを塗って仕上げるだけなのでそれが出せないんです。だけど、セルロイドの場合は最後に磨きをかけるんですが、日本の職人の技が本当に素晴らしい。海外製品に比べても圧倒的な違いがあって、とにかく美しいんですよ。アイウェアって日本人が得意とする細やかな作業に適したプロダクトだなって本当に思います。

金子: 仮に傷ついてしまっても、それが魅力に変わりそうな気がします。

今泉: セルロイドって乾燥するとしらっちゃけてくるんですが、それは再度磨きをかけることで艶は復活しますね。アセテートもそうなんですが、メガネはちゃんと洗ってあげるだけでフレームが長持ちするんです。

金子: そういう意味では革靴に似ているかもしれないですね。

今泉: 元ネタがすごくカジュアルだっただけに、これだけ高級感のあるアイテムに仕上がったのがおもしろいです。

金子: それが狙いだったので。さすが〈アヤメ〉ですね。

INFORMATION

KEIJI KANEKO × ayame
L'AMÉRIQUE

発売:9月28日(土)
価格:4万4,000円(カラーレンズ)、4万8,400円(ミラーレンズ)
色:スモーク × ディープシー、スモーク × シルバーミラー、ビール × チャコール、ビール × ゴールドミラー
販売店:ayamerow
住所:東京都港区南青山3−5−2 From-1st 2F
電話:070-2299-4670

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