CASE 2:語るひと これさえ持っていればなにもいらない。

PROFILE
大手セレクトショップでバイヤーを務めた後、数々のブランドの立ち上げに携わる。2012年に「きれいな服を丁寧につくる」をコンセプトに自身のブランド〈サンカッケー〉を立ち上げ、14年からは〈ヤングアンドオルセン ザ ドライグッズストア〉も手掛ける。

ー尾崎さんにとって時計は、コーディネートの必需品なんですよね。
尾崎: たまにつけ忘れてしまうことがあるんですけど、そのときにすごく違和感を感じます。コーディネートが未完の状態というか、どこか気持ちがソワソワする感じ。スタイルに合わせて靴を選ぶように、今日はこういう服を着るから時計はこれをつけようとか、逆にこの時計をつけたいから、この服を着ようとか、そういうことをいつも考えています。
ーミリタリーウォッチをつけるのは、どんなときですか?
尾崎: ベタですけど、軍モノのパンツを穿いているときとかですね。あとドレススタイルにあえてミリタリーウォッチをつけたりもします。すごくシンプルなデザインなので、ジャケットにもすごく合うんですよ。

ードレスウォッチやスポーツウォッチなど、さまざまな時計がある中で、ミリタリーウォッチの魅力をどんなところに感じますか?
尾崎: やっぱりシンプルなところですね。ミリタリーなので、余計な装飾をすることが御法度なんですよ。正確に時を刻む機能と耐久性、それに視認性という前提条件のためだけにつくられた必要最低限のデザインに惹かれます。特にアメリカ軍のものはあっけないくらいシンプルです。制服にしてもいろんなデザインの礎になっている部分があって、そこにかっこよさを感じます。必要なディテールや機能と、そうじゃないものをはっきりと区別して、必要な精度を思い切り上げるみたいな。
ーその中でも〈ハミルトン〉のミリタリーウォッチにはどんな印象を受けますか?
尾崎: ぼくはヴィンテージも好きなんですが、現行ものの時計もよく見るんです。昔の名作が現代のスペックになると、意匠が変わってしまうことって結構ありがちだと思うんですが、〈ハミルトン〉って当時のムードをしっかりと残したままつくっている。そこがいいなって思います。この「カーキ フィールド メカ」を見たときも「アツいなぁ」って思ったのを覚えてます。そのくらい〈ハミルトン〉は気にしてチェックしています。

ーそれはどうしてなんですか?
尾崎: ぼくがはじめて買った “いい時計” が〈ハミルトン〉の「ベンチュラ」で、確かエルヴィス・プレスリー生誕70周年の記念モデルだったんです。高校一年生だったんですけど、枕元でずっとそれを眺めていました。だからすごく思い入れがあるブランドなんです。

「カーキ フィールド メカ」のアーカイブウォッチ(1972年製)。
ーこちらは1972年製の「カーキ フィールド メカ」のアーカイブウォッチです。現行と比べると、〈ハミルトン〉がいかに過去のデザインを大事にしているかが伝わってきます。
尾崎: アーカイブは風防がややドーム型なのに対して、現行は平たいですね。サイズも現行の方がやや大きいのかな。

ーアーカイブはケースサイズが35ミリなのに対して、現行は38ミリです。
尾崎: 普通の大きさですよね。これが42ミリになっちゃうと、少し大きすぎるように感じてしまうけど、38ミリはいいですね。あと、この塗装がいいですよね。PVDっていうんですか?
ーそうです。蒸気でラッカーを蒸発させて吹き付ける方法で、膜がすごく薄いのに耐久性が高く、光沢感が無く落ち着いた表情に仕上がります。
尾崎: ぼくはこの塗装にも惹かれるんです。ミリタリーウォッチでも黒とか、シルバーが好みで、そういう色を見ると買っちゃいます。特に黒が好きですね。
ーブロンズケースもあるんですよ。
尾崎: 本当だ。でも〈ハミルトン〉はラグジュアリー思考じゃなくていいですね。アクティブウォッチなのにどんどん高級志向になって、金ピカになっている時計とかあるじゃないですか。だけど、「カーキ フィールド メカ」は地に足が着いた感じがする。さすがですね。本当にいいですよ、これ。

ー今日のコーディネートはどんなことを意識しましたか?
尾崎: ミリタリーで合わせるのはベタかなと思ったんです。ぼくの中で「カーキ フィールド メカ」はアウトドアのイメージなので、ヴィンテージのマウンテンパーカを合わせました。意識して合わせすぎちゃうと、ちょっと力んだ感じになるので、そこのバランスを考えました。
ーコスプレにならないように。
尾崎: それはそれでアリなんですけどね。ぼくとしてはジャングルファティーグのジャケットを着て、当時の装備を感じるのも好きなんです。だけどファッションとして考えるなら、抜き差しはしたいです。そうやってバランスを整えながらコーディネートを考えるのも楽しいと思います。
ー時計がシンプルだからこその余白があるというか。
尾崎: 若いひとも、これさえ持っていれば他はいらないと思います。どこにつけて行っても恥ずかしくないし、何にでも合う。本当にいい時計だと思います。