写真を見る。その視線の先にあるものが、紙に焼かれたプリントではなく、スマホの画面になってから、ずいぶんと時間が経ちました。だからこそいま、写真家・奥山由之さんが新作『photographs』のテーマとして、“家族アルバム”という存在を選んだことが新鮮に映ります。
展示会場は、六本木の「タカ・イシイギャラリー フォトグラフィー / フィルム」。同名の写真集とともに発表された本作は、2021年の『flowers』、2023年の『windows』に続く三部作の完結編でもあります。
きっかけになったのは、かつて祖父母や父が暮らし、現在は奥山さん自身のアトリエとなっている邸宅で見つけた100冊を超える家族アルバム。2023〜2025年の3年間、映画制作に心血を注いだ日々の裏で、『photographs』の制作も静かに進められていました。
「三部作にしようと思ったのは、『windows』をつくっているときでした。“視線の行き交い”を主題にできるんじゃないかと思ったんです。『flowers』ではアトリエの窓際に置いた花を撮影していて、その視線は内から外に向かっている。逆に、東京中の民家のすりガラスを撮った『windows』は、外から内の視線です。東京という同じ街の中で生まれた作品なのに、視線が真逆であることに関心を抱きました。
そんな折に、アトリエで見つけた家族アルバムを眺めていたら、今度は“上から下”に向かって写真を見ているなと。この3つの視線の行き交いと、どれもアトリエを起点に制作された作品であるということが、三部作を成立させていると思います」
共有することが前提となりがちな現代の写真に対して、第一に保存することを目的としたかつての家族アルバムの写真。そんな写真のあり方に気づきを得た奥山さんは、自身の先祖の姿が記録されたアルバムの一枚一枚を複写していきました。
しかし完成した作品では、そこに写っていた人物は光に覆われ、ひととしての輪郭を失っています。奥山家の記念写真が、なにものでもない存在へと変わっていく。そのイメージの抽象化の先に、『photographs』を通して奥山さんが表現したいものがあります。
「アルバムを見返しているうちに、いま自分が生かされているという事実は、先代のあらゆる選択の蓄積の上にあるものだと感じたんです。誰かの選択がひとつ違ったら、全部違っていたかもしれない。その尊さを感じたのと同時に、ある種の重圧でもあると思いました。だから家族の一員であることに敬意や感謝を抱きつつ、同時に個人として解放されていく感覚も表現したかったんです。
もともと具体的なものとして写っていた人物が、光によって抽象化されて、“誰でもない誰か”になる。それを自分で見返したときに、どこか解放されるような感覚になれるといいし、見るひとにとっても、そこに自分自身を重ねられるものになればと思っています」
写真集『photographs』
左:通常版 ¥7,700、右:特別限定版 ¥16,500
具体と抽象。現実と非現実。ベーコンとアイスクリーム。相反するものを同時に存在させる感覚は、奥山さんの作品に昔から通底しているものでもあります。
「現実で見えているものを、そのまま描くことにあまり興味を抱けなくて。今回の作品も、元の写真は現実にあったことが捉えられていますけど、そこに複写によって生まれた発光体は物理的にはなかったわけじゃないですか。本来なかったものを混在させることで、元の状態では見えていなかったものを浮かび上がらせることができる。そういう矛盾だったり、多面体としての世界と向き合うっていう感覚は、自分の表現の根底にある気がします」
「無意識的につくられたものを、意識的に再構築することにも興味関心があります。昔の家族アルバムって、写真が台紙にラフに貼られていて、別にかっちり整頓されていないものが多いんですよね。それを落とし込むために今回は、連続写真を少しずらして配置したり、微妙に辺を揃えなかったり、普通は絶対にやらないことにあえて取り組んでいるんです。写真集の装丁をお願いした葛西薫さんにも、『これ、間違ってますか?』って確認されるくらい、本当に微差なんですけど(笑)。でも、その“整えすぎない”ことを、ものすごく時間をかけて取り組むというのは、自分らしい感覚かもしれないですね」
具体的な現実を記録する写真という媒体でありながら、“写っていないもの”に思いを馳せる。そんな逆説的な美しさが、『photographs』にはあります。展示の会期は、6月13日(土)まで。
奥山由之「photographs」
会期:〜6月13日(土)
場所:タカ・イシイギャラリー フォトグラフィー / フィルム
住所:東京都港区六本木5-17-1 AXISビル 2F
時間:12:00~19:00
定休:日・月・祝祭日
入場:無料

