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【FOCUS IT.】アートブックを通して、新しい価値観との出会いを。POST中島佑介が振り返る15年と、これから。

定期的にひとつの出版社を紹介するという独自のスタイルで、海外のアートブックを紹介してきた「POST」。前身の「リムアート(limArt)」の立ち上げから数えると約24年に及ぶ活動で、近年は「ドーバー ストリート マーケット ギンザ(Dover Street Market Ginza)」7階の「ビブリオテカ(BIBLIOTECHA)」や、東京オペラシティ アートギャラリーのショップである「Gallery 5」、新建築社と共同運営する「新建築書店/POST architecture books」といった本が集まる場をつくり上げています。

オーナーの中島佑介さんは、2015年からTOKYO ART BOOK FAIRのディレクターとしても活躍し、国内のアートブックシーンを牽引してきた存在でもあります。

そんな「POST」が15年間の活動をまとめた『Print, Object, Spread, Trace: POST and Fifteen Years of Art Books, 2011–2026』を出版。「POST」のこれまでのあゆみをたどると同時にアートブックの変遷が浮き上がる構成で、辞書や図鑑のようにどこから読んでも楽しめる本です。

どんな経緯でこの本が生まれたのか、そもそもアートブックの魅力とは何か、中島さんに話を聞きました。

  • Interview & Text_Kaori Takayama
  • PROFILE

    中島佑介
    「POST」主宰

    2015年から「TOKYO ART BOOK FAIR」のディレクター。国内のアートブックシーンを牽引する存在。


    初心を取り戻させてくれるスタッフ。

    ーPOSTの15周年、本当におめでとうございます! まずは15年を迎えたいまの思いを聞かせてください。

    ありがとうございます。気づいたら15年経っていたという感じですね。やっていること自体は、スタートしたときから大きく変わっていないんですけど、ここ4年ほどでお店もスタッフも増えたことで、できることの幅が広がっていきました。今回の本も、やはりこのタイミングでなければ出版できませんでした。16名のスタッフと一緒につくった本だと思っています。

    ーだからスタッフのお名前を奥付に載せたんですね。しかも旧スタッフまで載っていることに中島さんの強い思いを感じました。

    みんなで「POST」を運営してきた結果で生まれた本なので、これまで携わってくれた人たちの名前を記載したいと思いました。2011年に代々木VILLAGEに「POST」をオープンしたとき、最初の出版社としてドイツのウォルター・ケーニッヒ(Verlag der Buchhandlung Walther Konig)でスタートしたいと考え、留学経験があり英語が堪能だったスタッフの村上加奈子さんにアポイントを取り付けてもらったことが始まりでした。こうやって名前を並べてみると、こんなにたくさんの人が関わってくれていたんだと感慨深いです。

    ースタッフが増えたことによりできることの幅が広がったということですが、具体的なエピソードを教えてもらえますか?

    スタッフは20代が中心で、各々が好きなことや得意なことがあり、僕が新しいことに出会うきっかけや知識を教えてくれています。今回の本について言えば、テキストの書き直しや構成も含めた実務的な部分をすべてスタッフで分担して進めていきました。だから、本当に一人では絶対にできなかったと思います。

    ー若いスタッフは中島さんにどんなことを教えてくれるんですか?

    初心を取り戻させてくれるということもあります。今年の5月に、コロナ禍以降初めてヨーロッパへスタッフを連れて買い付けに行ったんですよ。僕が「リムアート」を始めた当初は、背表紙を見ても何の本かわからない状態だったので、端からすべて1冊1冊を手に取って見て、気になった本を買ってきていました。でも慣れてくると、背表紙を見ただけでこれは好きなものなのか違うのかがわかるようになる。そうして自分が気になる本しか手に取らなくなっていたんです。でも、若いスタッフは僕が「リムアート」を始めた頃の本の見方とまったく同じで。その中で面白い本を見つけている様子を見て、この感覚を忘れちゃダメだとも思いましたし、知る気になってはいけないとも気づかされました。

    生成AIにも助けられて。

    ー今回の本は、いつ頃から計画されていたんですか?

    「POST」のアートディレクションをお願いしている田中義久さんが、ギンザ・グラフィック・ギャラリーで個展を開催することが決まり、田中さんから「企画展に合わせて本をつくりませんか?」と打診してくれました。それが昨年5月くらいのことです。実は「POST」を始めるときから田中さんとは「将来的に店の歩みをまとめた本ができたらいいですね」という話はしていたんですよ。

    ー当時具体的に描いていた構想はあったんですか?

    この本のベースになっているのが、ドイツの60年代から90年代のアーティストブックをまとめた『Die Bucher der Kunstler』です。僕が本屋を始める前にすごくよく見ていた本で、アーティストのことも本についても知識がなかったなかで、知るきっかけをつくってくれた本でした。

    「POST」という本屋のグラフィックをどうつくるか、田中さんと話をしていたときに「このスタイルを踏襲する形でヴィジュアルをつくっていきましょう」となり、真俯瞰で本を撮影していくというスタイルが始まりました。

    ー制作過程ではどんなことに苦労しましたか?

    毎回出版社ごとにつくる印刷物に、基本的なスペックと最低限の説明文はあったんですけど、都度の制作だったので統一表記のルールがなかったんですね。それを整える作業もスタッフが分担してやってくれていたのですが、入稿段階の7月頃に僕が確認すると気になる部分が出てきてしまって。例えば本のタイトル表記を、最初は単語の頭文字は大文字で、続きは小文字という形で整えていました。ただ、作家が意図的に全部大文字にしたり小文字にしたりということがありそうな印象があり、こちら側で自分たちのルールに置き換えてしまっていいのか迷ったんですよ。そうして、タイトルを表紙の表記に統一しよう、と変更したのが入稿予定日の3日前で。

    ーそれは大変でしたね。

    1800冊分の表紙をチェックし直す必要があり、どうしても入稿日に間に合わないので田中さんに相談しました。元々、お盆休みもあったので予定日を超えると企画展に間に合わない可能性もあったようです。でも本として残るものなので優先しましょうとなり、田中さんが印刷所など関係各所に掛け合ってくださいました。そこで1週間ほど猶予をいただけたのですが、印刷をお願いした八紘美術さんと協力会社さんのお盆休みをなくしてしまい、「この期限を超えたら、もう二度と仕事しません」と言われてしまうほどでした。

    ー本当にたくさんの方の協力あってこその本ということがひしひしと伝わります。

    だから「絶対にそこは超えないでください」と田中さんから強く言われて、僕たちも必死に確認作業を進めました。いまだからこそできたと思うことが、生成AIを利用したことです。統一表記ルールが正しく反映されているかはClaudeを使ったことでできたという部分がありますね。もし生成AIがなかったら、そもそもまとめるのに2年くらいかかったんじゃないかと思います。巻末のインデックスもそうです。Claudeに「このルールでインデックスをつくって」と指示したら、1時間くらいで完成しました。

    ー制作過程で新たな気づきはありましたか?

    アートブックを扱い始めた当初は、わからないことが多いので知るために序文やテキストを読み込み、文章で理解していくところがあったんですね。でも、いろいろと扱うなかで知識が増えていくと手に取って見ただけでわかった気になってしまっていました。今回改めてリライトするために文章を読むことで新たに知ることがすごく多く、ある種原点に戻るような感覚はありましたね。

    ー例えば、どんな発見がありましたか?

    50回の出版社特集をまとめていく中で、エド・ルシェへの言及が多いことにも気づきました。インデックスを見ると14もあり、圧倒的です。やはりエド・ルシェは、アートブックにとって重要なアーティストであることも見えてきました。

    アートブックを通じて、新しい価値観を生み出す。

    ーそもそもの話なんですけど、アートブックの定義をどのように考えていますか?

    やはり体験が伴うことが大きいと思います。この本もページをめくったときの薄い紙ならではの質感がありますよね。掲載されている図版やテキストそのものは、紙が違ったとしても情報としては同じです。でも、体感が伴うことでその情報の伝わり方が変わり、それを含めて提案しているものがアートブックだと考えています。特に2010年前後以降、体験に影響する要素、例えば本のサイズや重さまでを含めて設計しているものが増えていて、本でなければ伝えられないことを意識してつくられていると感じています。

    ーアートブックにまだ触れたことがない人は、どんなところから入ればいいでしょうか?

    僕も最初は視覚的な要素に惹かれてアートブックに興味を持ちました。なので、音楽が好きな人だったら、例えばここにアーティストのレイモンド・ペティボンの本がありますけど、この表紙はソニック・ユースのジャケットに使われていましたよね。ファッションだとアートとの親和性もあります。高校生の頃、青山の〈コム デ ギャルソン(COMME des GARÇONS)〉のウインドウに銀紙に包まれた飴が置かれていたんですよ。なんだこれ? と思ってすごく印象に残っていたんですけど、後々それがフェリックス・ゴンザレス=トレスによるインスタレーションだったことがわかりました。そんなふうに、自分がいま一番興味があることとの接点から入っていけるといいと思います。

    ーちなみに中島さんはもともとファッションがお好きで、大学在学中に文化服装学院にも通われていたんですよね。これまで影響を受けたファッションデザイナーを教えてください。

    中学生の頃に観た「ファッション通信」で衝撃を受けた〈コム デ ギャルソン〉は圧倒的な存在で、高校生の頃は〈マルタン・マルジェラ(Martin Margiela)〉が好きでした。90年代のファッションはとくに音楽やアートとの交差点になっているような印象があったんですよね。それでファッションにも興味を持ちました。洋服そのものというよりは、ファッションに付随する文化的な表現全般に興味があったという感じでしたね。

    ーそれが、アートブックにもつながっているんですね。

    そうですね。特定のジャンルが好きというよりは、そういう文化的な物事につねに興味があります。だから僕は専門性はまったくないと思っていて、ジェネラリストのスペシャリストかもしれないですね。専門的な物事では、絶対にその専門家には敵わないと思っています。今回インタビューしたフランツ・ケーニッヒさんも、別のインタビューで「自分は本当に専門家ではない」と言っていて、僕もその感覚はずっとあります。

    ー中島さんにとってアートブックを届ける喜びはどこにありますか?

    小学生の頃、姉に誘われて初めてフリーマーケットに出店したことで接客の楽しさを知り、ずっと何かを売る人になりたいと思っていました。お客さんと話をするなかで、その人にとって価値観が変わる瞬間がすごく面白くて。アートブックを通じて、新しい価値観をその人の中に少しでも生み出せることに喜びを感じています。

    ーでは最後に、これからの「POST」の展望を聞かせてください。

    ひとまず今回本としてまとまりましたが、これを継続したいというのがひとつ。あとは、アートブックはいまだにニッチな部分があるので、もう少し公共性を強めたいというか、より多くの人に伝えられるようなことをしていきたいですね。東京オペラシティの「Gallery 5」では、これまでの「POST」とお客さんの層がまったく違うんですよ。本ではなくポストカード1枚だとしても、何か持ち帰ってもらえるものがあり、そういった小さな物事でも何らかのきっかけをつくることができる場所を増やせたらと思っています。若い世代の人たちが、本屋という場所が文化的な物事の起こりうる場所だと興味を持ってくれているのはすごくうれしいことだとも感じますね。

    INFORMATION

    『Print, Object, Spread, Trace: POST and Fifteen Years of Art Books, 2011–2026』

    編集・執筆:POST
    発売日:2026年9月4日(金)
    仕様:912ページ/日英バイリンガル
    サイズ:240 × 180 × 42 (mm)
    定価:¥8,250
    アートディレクション:田中義久
    デザイン:centre Inc.
    インタビュー編集・執筆:深井佐和子、古賀稔章
    注釈執筆:古賀稔章
    印刷・製本:株式会社八紘美術
    発行:POST(limArt)
    本書特設サイト:https://post-books-book.com
    POSTオフィシャルサイト
    POSTオフィシャルインスタグラム

    ※本書の制作過程の展示が下記にて行われています。

    田中義久 ARCHIVE / ACHIEVE
    期間:9月4日(金)~10月21日(水)
    会場:ギンザ・グラフィック・ギャラリー (ggg)
    住所:東京都中央区銀座7-7-2 DNP銀座ビル 1F/ B1F
    電話:03-3571-5206
    開館:11:00〜19:00 日曜・祝日休館 
    入場無料

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