1990年代、誕生から100年経過している“アンティーク”に対し、その定義は満たしていないけど、価値のありそうな古着を打ち出す際に使われ出した言葉“ヴィンテージ”。今ではさらに“レギュラー”と呼ばれていた80年代以降の古着にも、“ニュー・ヴィンテージ”という新たな価値を見出す動きがあります。本企画ではこの古着の新たな楽しみ方を、スタイルの異なる4つの古着屋が提案。それぞれの感覚でその魅力を語ります。
新たにショップがすべて入れ替わり、この連載も12シーズン目に! 第95回目は、高円寺の人気ショップ「スポットマン(SPOTMAN)」の大塚シンタローさんの2巡目。どんなニュー・ヴィンテージを紹介してくれるのでしょうか!?
Text_Tommy
Edit_Yosuke Ishii
大塚シンタロー / STOPMAN オーナー
Vol.91_KÜHLのカーゴショーツ&ワークパンツ
ーさて、今回紹介いただくニュー・ヴィンテージなアイテムとは?
前回は〈コロンビア(Colunmbia)〉の中でも通好みなGRT(Gear for Rugged Trekking and Travel)ラインのトップスを取り挙げたので、今回はボトムスです。〈キュール(KÜHL)〉というブランドをご存じですか?
ー恥ずかしながら初耳です。どんなブランドですか?
1983年に創業したアメリカのアウトドアブランドなんですが、その前身ブランドというのが〈アルフ(alf)〉。1990年代に渋カジやアウトドアファッションが流行った際に、チロリアンテープをパイピングにあしらったフリース素材のトップスで知られていたアレです。
―おぉ〜懐かしい名前が出ました!
そこの創業者のアルフさんが1989年に亡くなって経営者も変わったことで、名前を変えて新たにスタートしたのが〈キュール〉です。ブランド名はドイツ語で“冷たく”という意味の形容詞から取られており、これは〈アルフ〉がスキーと登山ウエアを中心にラインアップしていたことに由来するようですね。あと多分、“クール=イケてる”ってノリもあるのかなと。これがかなり作りもこだわっているブランドでして……。まずはこちらのショーツからご覧ください。
ーこれまた前回紹介したシャツよろしく、パッと見でもディテールの過積載っぷりが伝わってきますね。
背面のベルトループに入った雪山のロゴマーク刺繍はシグネチャーみたいですね。ポケット裏はメッシュ素材で細部には堅牢な3本針ステッチを採用。バックポケットのネーム刺繍もポイントですし、なによりスゴいのがこのサイド部分のカーゴポケット。カーブさせてジップを付けるという相当面倒なことをしつつこの立体感はヤバイですよね! 工賃もハンパなさそうですし、当時の定価はかなり高かったんじゃないでしょうか。
―ブランド自体は今も継続しているんですか?
はい! ただ〈アルフ〉時代はメインド・イン・アメリカにこだわった高品質なギアを提供していましたが、現在は生産国にこだわらず、クオリティの高さはキープしつつ良いものをグッドプライスで提供するという方向にシフトしたようです。まぁ、たしかにこんなアイテムを作っていたら、自ずとそうなるといいますか(苦笑)。
―ちょうど今の気分ってところもありますよね。
過剰なまでのディテールは、近年人気のテック系ギアのノリにも近いですしね。ぼく自身はリアルタイムで通ってないんですが、40代以上の方なら〈アルフ〉からの流れで知っている方もいそう。そんな感じで一般的な認知度も低いため、まだまだ掘れば掘るほど新たな魅力に出会えるのではないかという期待感もあります。
―こちらのブランドって、本国ではどんな立ち位置になるんですかね?
ジャンル的にスキーやトレイルが中心のアウトドアブランドという点は、〈アルフ〉時代から変わっていませんが、公式サイトを見る限り、最近はワークウェアっぽいモノも展開していたりと、マウンテンライフスタイル・ブランド的な雰囲気。その辺の空気感を味わえるのがこちらのパンツです。
ブランドの十八番である立体裁断のパターニングが特徴で、こちらも負けずと無駄に凝りまくっています(笑)。品質タグにホームページのURLも記載されているので、時代的には00年代に入ってからのアイテムだと思われます。このタグ、ちょっとバンドものっぽい雰囲気もあって格好良くないですか? ノリ的にはヒップホップよりもミクスチャーとかのバンド系っぽいですよね。当時って、エクストリームスポーツがメッチャ流行っていた時期でもありますし、そちらのカルチャーやファッションとの親和性も高そう。
―これまたディテールが山盛りすぎて、語りどころも多そうですね。
〈キュール〉に注目するキッカケになったのが、まさにこのパンツなんです。ガーメントダイの生地は、〈バブアー〉のオイルドコートのオイルを抜いた際の表情によく似ていて、なんとも絶妙な色合いに仕上がっています。こういうのをヨーロッパのテック系ギアコレクターが穿いていたりしますよね。このちょっとフェードしたような深みのある洒落た色合いが〈シー ピー カンパニー(C.P. Company)〉とか〈ストーンアイランド(STONE ISLAND)〉のノリもあったりして、好きな人にはたまらないと思います。
―両サイドにツールポケットがあるということはワークパンツに分類されるんですかね。
ですかね。その他にもブランドネームが刻まれたピスネームにオリジナルのリベット、メタルプレートと右ポケットだけでもディテールが渋滞しており、さらに膝部分はダーツが入った立体的フォルム。で、さらに面白いのがポケット裏に施されたプリント。各ディテールがどういうモノなのか、そしてその使い方が記されています。
―小ネタが尽きませんね(笑)。
正直、まだまだ愛を深めきれてないところではあるので、今後もガンガン掘りまくって世の中に布教していけたらなと思っている次第です。読者の皆さんもぜひ、次なるネタとしてディグってみてください。
大塚シンタロー / SPOTMAN オーナー
“皆が集まるスポットにしたい”というオーナーの想いから名付けられた「スポットマン(SPOTMAN)」のオープンは2018年。古着を介してストリートカルチャーを愛する人々が集まり、人と人、物と人が繋がる情報交換の場としても機能している。また、親交のあるアーティストによる展示やコラボアイテム、オリジナルグッズといった、ここならではのトピックも必見!
公式サイト:spotman.stores.jp
インスタグラム:@spotman_koenji