1990年代、誕生から100年経過している“アンティーク”に対し、その定義は満たしていないけど、価値のありそうな古着を打ち出す際に使われ出した言葉“ヴィンテージ”。今ではさらに“レギュラー”と呼ばれていた80年代以降の古着にも、“ニュー・ヴィンテージ”という新たな価値を見出す動きがあります。本企画ではこの古着の新たな楽しみ方を、スタイルの異なる4つの古着屋が提案。それぞれの感覚でその魅力を語ります。
新たにショップがすべて入れ替わり、遂に連載は13シーズン目に! 第99回目は、古着激戦区・高円寺で幅広い層から支持を集める「Mr.Chubby」のYUTAさん! 今回は、どんなニュー・ヴィンテージを紹介してくれるのでしょうか!?
Text_Tommy
Edit_Yosuke Ishii
YUTA / Mr.Chubby オーナー
Vol.99_オーバーランド イクイップメントのメッセンジャーバッグ&ショルダーバッグ&ポーチ
ーまずは「ミスターチャビー(Mr.Chubby)」について教えてください。
相方のKAZUMAと2人でやっています。ぼくはヴィンテージの革靴やアウトドア、相方は90’sが好きということで、お互いの好きなジャンルに加え、日本のドメスティックブランドやメゾンブランドなど、ぼくらが経験してきた中で“オシャレ”だと感じて、かついまの時代に合うならどんなモノであれば、分け隔てなく仕入れるようにしています。
ーかなりバラエティに富んでいるというか、“あの頃”見てきた古着屋らしさがあるといいますか。
そうですね。フロア面積15坪という制約の中で、ウチらしさを表現するにはジャンルも絞る必要があるため、ぼくら自身の“いまこういうのが着たい・推したい”を軸に、名もないレギュラーの良さも伝えられたらなと考えてモノを揃えるようにしていて。
ー仕入れにもこだわりを感じます。
仕入れは2人で話し合いながら、トレンドやシーンの流れ、いまの空気感に合わせて更新しながら、「こういうのが古着だよね!」っていうアイテムも押さえつつ、ジャンルレスに集めています。なので、お客さんには店頭で全体のラインアップを見てもらいながら、自分の審美眼に従って自分のための面白い古着を探して楽しんでもらいたいと思っています。
ーでは、そんな「ミスターチャビー」が考えるニュー・ヴィンテージとは?
これが答えとして適当かはちょっと分かりませんが、いまってSNSを介して相場が急高騰するようなアイテムも沢山ありますが、ウチではそうなる前に適価で売りたいと思っていて。で、お客さんの手に渡ったのちに価値が上がる。それって売った古着屋と選んでくれたお客さん、その両方の目利きが間違っていなかったということですからね。それも古着の醍醐味のひとつだと思いますし、それができるアイテムがニュー・ヴィンテージたり得るのかなと考えています。
ーその上で今回ピックしたのが〈オーバーランド・イクイップメント(Over Land Equipment)〉。90年代のアウトドアブームを経験した世代には懐かしいブランドです。
アウトドアものが元々好きで、バッグに関しても1970年代の〈ザ・ノース・フェイス(THE NORTH FACE)〉や〈ケルティ(KELTY)〉〈ジェリー(GERRY)〉にはじまって、1990年代でいったら〈グレゴリー(GREGORY)〉とか〈オスプレー(OSPREY)〉など、各年代のプロダクトに触れてきました。さらにぼく自身も年を重ねて、耐久性などの色々な経験を踏まえた上で、いま選ぶなら、〈オーバーランド イクイップメント〉かなと。
ー同社は1981年、アメリカのカリフォルニア州で創業したバッグ専門メーカーで、メイド・イン・USAにこだわり、創業から一貫して外注などせずすべて自社工場でバッグを生産していたことでも知られています。
ゆえに高品質で機能性にも優れているとファッション業界でも話題になりました。実際、ジップがまず強い。特に1990年代のモデルは各所の作りがタフで、長く付き合えます。またデザインの種類やカラーリングも豊富で最高。2000年代に入るとタグが変わって、街に溶け込むようなカラーリングも多くなっていきます。また当然ながらバッグ自体使いやすく、複合的に見てもすごく優秀。中でも好きなのがメッセンジャーバッグです。
ー当時を知る世代には、オーバーランド=スパイダーウェブという図式がお馴染みです。
1990年代初頭に登場した、ナイロンに“蜘蛛の巣柄”のリフレクタープリントが施されたオリジナル素材で、4〜5年前に日本のアウトドアブランドによって復刻されて、ぼくも当然買いました。また近年では某セレクトショップからも、この素材を使ったモデルが復刻されました。
―復刻はありがたいですね。
たしかに、それ自体は嬉しいし歓迎すべきところなんですが、当時ものに比べるとちょっとクオリティに納得がいかない部分もありまして……。そうなると自ずと、オリジナルがやっぱりいいなと。このメッセンジャーバッグは、ぼく自身これを含めて2度しか見たことがないのですが、サイズ感が良くないですか?
ーかなりデカイですね。しかも見るからにタフスペックって感じで、ポケットなどの収納も多いし、最新のガジェット系バッグにも劣らない優れた機能性がディテールから感じられます。
仕分けポケットやオーガナイザーも完備していて、さらにノートPCも収納できるため、仕事使いでもイケます。細部まで考え抜かれたディテールが非常に機能的で、しかもタフ。なんせ5、6年以上使い続けていますがまったくヘコたれませんからね。あとは同じくメッセンジャーバッグで、普段使いしやすい大きさだとこちらも。
旧タグが付いているこちらの方が1990年代のモノで、さきほどの黒タグは2000年くらいのモノ。年代が新しいモノの方が機能性を向上させて使いやすくバージョンアップされていたりするため、機能性という観点では軍配が上がりますが、古いモノにも“ならではの良さ”があって、それはそれで良い。内側のコーティングの経年劣化によるニオイなんかも、ぼくは嫌いじゃないですし(笑)。
―同じタグですが、こちらはカラフルですね。
発色の良いマルチカラーが見るからに90年代って感じですよね。とはいえいまの時代にはフィットしづらい……でもおもろい。そんな塩梅もオーバーランドらしいといいますか。あとはポーチも2タイプ用意しました。
こちらも旧タグ。スパイダーウェブは最高ですが、レア度でいうとグリッド柄がデザインされたアルパインですね。以前、これと同じ柄のメッセンジャーバッグも所有していましたが、このポーチの方が今はタマ数も少なくなってきていて、めっきり見かけなくなりました。
―ほぼ一緒のデザインですが、フラップの形状とタグが違いますね。
多分、90年代の終わりくらいでタグが切り替わったようです。で、これのレザー仕様もあったんですよ。ぼくもいくつか持っていたので、知り合いの古着屋にもひとつ譲っちゃいましたが、いまとなっては手元に残しておけばよかったなって。いまとなってマジで出ない。
―こういったポーチって、1990年代はアクセ感覚で使っている人も多かったなと。
カード入れもあってジップポケットには小銭も入りますし、パスポートを入れたりもできる。ガチのクライミングとかではなく、国立公園なんかを散歩する時やフェスなど、手を塞ぎたくないし荷物もあまり持ちたくないって時に活躍するので、いまでも全然現役でイケると思います。
ーたしかに〈オーバーランド イクイップメント〉、いままたおもしろいですね!
まだまだ沢山ありますが、ちょっとマニアックになりすぎるので、いまっぽくて推しやすいモノを今回はピックしました。人気じゃないってところがまた良くて……だからこそ、おもろい。未だに初見のモデルが出てきたりもしますしね。たとえば2000年前後にはナイロンだけでなくヘンプを使ったバッグとか。古着だからこそ見つかる面白さ。それが〈オーバーランド イクイップメント〉を推す理由です!
YUTA / Mr.Chubby オーナー
相方のKAZUMAとともに2021年、古着激戦区として知られる高円寺に「Mr.Chubby」をオープン。アメリカ、ヨーロッパを中心に買い付けられるアイテムは、ヴィンテージやレギュラーといった“いわゆる古着”のほか、ドメスティックブランドやメゾンブランドなど新旧問わず、自分らのアンテナが捉えた良品揃い。オリジナルのウェアラインも展開し、第5弾アイテムのバッグも発売されたばかり。
インスタグラム:@mr.chubby.clothing