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連載【で、NEW VINTAGEってなんなのさ?】Vol.100 いま、アークテリクスを選ぶなら “イズム”を感じるアイテムを。

1990年代、誕生から100年経過している“アンティーク”に対し、その定義は満たしていないけど、価値のありそうな古着を打ち出す際に使われ出した言葉“ヴィンテージ”。今ではさらに“レギュラー”と呼ばれていた80年代以降の古着にも、“ニュー・ヴィンテージ”という新たな価値を見出す動きがあります。本企画ではこの古着の新たな楽しみ方を、スタイルの異なる4つの古着屋が提案。それぞれの感覚でその魅力を語ります。

新たにショップがすべて入れ替わり、遂に連載は13シーズン目に! 第100回目は「instant bootleg store」の坂本 一さん! 今回は、どんなニュー・ヴィンテージを紹介してくれるのでしょうか!?

Text_Tommy
Edit_Yosuke Ishii


坂本 一 / instant bootleg store 主宰
Vol.100_アークテリクス

―シーズン7以来なのでおよそ2年ぶりの登場。そもそも坂本さんと一緒に立ち上げた本連載も記念すべき100回目を迎えました。

何度もこの記事には携わらせてもらいましたが、今回は初心に帰り、いままででいちばん分かりやすいものをやりたいなと。そこで数あるアウトドアブランドの中から、一般的知名度もあるのに“実はよく分からないことも多い”〈アークテリクス(ARC’TERYX)〉を取り上げたいと思います。

―近年、テック系人気もあって一気に一般層にも広がった印象があります。

〈アークテリクス〉といえばアパレル業界の人間からすると、やはりハードシェルを先ず思い浮かべると思うのですが、一般的に街を歩いていて一番目にするのはバッグ系。そもそも日本上陸時にバックパックが流行ったこともあって、ここ日本ではバッグのイメージが強いという人も多いかと。それに比べてジャケット系は、他ブランドよりも高価ということもあって、最近になってちょこちょこ着ている人が増えた印象。これを言い換えるならば、〈アークテリクス〉がやっと日本でも本格的に浸透してきたということ。

―そこで、今回紹介していただくニュー・ヴィンテージなアイテムとは?

ならばこそ〈アークテリクス〉の存在意義や哲学を強く感じられ、かつ手頃な価格帯で楽しめるアイテムがもっと浸透したらまた楽しいんじゃないかなと。まずは現行でも展開中の「コバート(COVERT)」シリーズを見ていただきます。

名作と称されるシェルジャケットのように、幾度もアップデートされながら継続されている同社ミッドレイヤーの定番アイテム。いわゆるフリーストップスに属しますが、毛足の長い面を裏側にしていて、表はニットのような風合いのアウトシェルが特徴です。

―フリース特有のホッコリ感がなく“テッキーなギア”的な面構えが良いですね。

そう、〈パタゴニア(patagonia)〉なんかのあの暖かみのあるルックスとはひと味違うシックなイメージですよね。〈ポロ・ラルフ ローレン(POLO RALPH LAUREN)〉が〈RLX〉で用いるニットに雰囲気が近い。なので、ぼく自身もこれを着る際は、ニットセーターを着る感覚で〈コム・デ・ギャルソン(COMME des GARÇONS)〉のスラックスに合わせたりしています。そんな着こなしにもシックリきちゃうような品の良さが魅力でしょうか。

―2種類お持ちいただきました。

アークテリクスのクルーネック ¥19,800 (インスタントブートレグストア)

プルオーバーのフード一体型フーディは、結構前に製造中止されて廃番に。ニュー・ヴィンテージ的花形アイテムを選ぶならコレ。対するクルーネックタイプもイイ感じ。近年はクォータージップやフルジップしか製造されていないため、同じくニュー・ヴィンテージと呼んで差し支えないかなと。

アークテリクスのクルーネック ¥19,800 (インスタントブートレグストア)

このクルーネックは、メンズとウィメンズで色展開が異なることもあって特にカラバリ豊富。ディテール自体に違いはないので、シンプルに気に入った色を集めています。最近はこの辺をヴィンテージとして扱うお店も増えてきましたが、まだ明確に体系化されていなかったりするので、自分なりの経験値を反映させながらディテールの変遷を楽しめるという点でも、古着好きにはたまらないところ。

―たとえばどういう部分に変化が見られるんですか?

年代によってジップの向きが違ったり、ロゴが刺繍になっていたり。基本は他アウトドアブランドと同じようにネームや品質タグで年代を判別しますが、ニューモデルをバンバン出すのではなく、ひとつのモデルをアップデートしたり、ふたつのモデルを統合するケースが多いため、信用できる判断基準はディテールの変遷です。

また使われているテクノロジーにも注目。ポーラテックにしろゴアテックスにしろ、どの種類を使っているかが重要。ゴアテックス〜〜で年代判別が可能です。その辺はボディにピスネームや刺繍で入っているので、分かりやすいはず。

―“あの頃”の正しい古着お作法ってやつですね、

ぼく的には「50’sのネルシャツだからマチ付きで、襟がダブルステッチで…」とかいって、夢中でディテールを調べて覚えたあの頃のように、ヴィンテージ観察眼をまた使っている感覚が懐かしくも楽しいところ。ただしクオリティ的には、現在稼働している製造工場のどこで生産されたものだろうと、厳しいレギュレーションをクリアしているので、ほぼ差は感じません。

―○○工場がレアみたいのはないんですね。

それでいうと、古いものはすべてカナダ生産なのでタグにメープルリーフがプリントされていたりします。我々世代が逃がれることのできないMADE IN USA萌えと同じように、アークはカナダ萌え。USA、UK、に次ぐ萌えどころを提供してくれているので、そこはちょっと別格。

またコバートはパターンも特徴的。アウトドアブランドのフリースの中では、すごく立体的に生地が細断・縫製されているからジャストサイズで着てもノンストレス。さんざん着倒して最後はパジャマにするっていう付き合い方が、めちゃくちゃ良いスよ。

―お次のこれはマフラーですか?

アークテリクスのマフラー すべて¥16,500 (インスタントブートレグストア)

これも同じくコバートで「スカーフ」。要はフリース素材のマフラーですね。他にもキャップとかあるんですが、この先端に付いたポケットが最高じゃないですか。冬場は寒暖差もあって、まぁ鼻が垂れる。なので坂本家では、これをティッシュポケットに認定し、冬の外出時はとりあえず巻くようにしています。無地だけどちょっとしたアクセントになり、暖かみのあるルックスはどんな服装にもイケちゃう。

―フリースのマフラーは今年良さそうです。

これもシーズンによっては8色とか出ていたので、カラバリ多め。残念ながら廃番になっているので気になる人はユーズドをディグするしかありません。よって、ニュー・ヴィンテージ的〈アークテリクス〉に認定。あと地味に良いのがシャツ類。年中着られる薄手のトレッキング用シャツで、ぼくが大好きなのがこの「リッジラインシャツ(RIDGELINE SHIRT)」です。

アークテリクスのシャツ (ホワイト)¥16,500、(ストライプ)¥19,800 (インスタントブートレグストア)

“ならでは”ってモノにやっぱり惹かれるじゃないですか。これは胸ポケットをサイドからのみアクセスできるようにしているのがポイントという、なんとも“日常に寄り添わない”シャツ(笑)。多分「ベストを羽織っていてもシャツのポケットが使えるよ」っていう気遣いなんでしょうが、そんなことほぼしないっていうね(笑)。

―見た目には格好いいんですけどね。

そう! ソリッドさが強調されているし、ジップの引き手がサイドに配置されているのがデザイン的にもグッド。本当にカッコいいと思います。半袖と長袖がありますが、こちらも2010年代終わり頃に廃番に。なぜかほぼチェック柄しか見つからず、無地はかなりのレアなので覚えておいてください。

これも生地のカットがとても立体的で非常に動きやすい。背面にさりげなく入った始祖鳥の刺繍も地味で良いんですよ。必要以上のアピールなんていらない。それがアークの美学。

―次がラスト。グローブとはまたヒネってきましたね。

アークテリクスのグローブ (上:ヴェンタSV)¥13,200、(右:ヴァーチカル SV)¥19,800、(左:カム AR)¥16,500 (インスタントブートレグストア)

実は、これこそアークのイズムを強く感じるアイテムなんです。同社のジャケットのようにSL、AR、SV的な同じモデルでも想定する使用場所によってランク付けがなされていて、アホみたいにバリエーションが存在します。ちなみに上の「ヴェンタSV(VENTA SV)」から時計回りに「ヴァーチカル SV(VERTICAL SV)」「カム AR(CAM AR)」。

この中でいちばん過酷な環境に対応するのが「ヴァーチカル SV」。ポーラーテックのボアグローブとゴアテックスのグロープをひとつ重ねることで、痒い所にも手が届くアイテム。それぞれ独立して使えますが、日常ではあまり必要とされない仕様で、現行よりもレザーパーツを多く使用しているのもレトロで良きかな。アイスクライミングのハーネスから始まり、バッグパック、シェルジャケットとクオリティを追求した開発を続けてきたブランドのルーツが感じられます。

―またこの無駄さが男心をくすぐりますね。こちらのグローブは?

「ヴェンタSV」は最近まで生産されていたので割と流通数も多く、比較的見つけやすいモデルです。なのでまずはこれを探すところから。ウインドストッパーを使用していて装着しやすく使い勝手抜群。レトロなレザーパーツを多用したルックスは、冬場のチャリやバイク移動にも暖かくて活躍必至!

グローブはどんどん統合されていまは種類が減っていますし。それにヴィンテージのレザーグローブって、なんかロマンを感じません? 世界で一つ的なアレが感じられるんですよね。ちなみに古いモデルは基本的にゴートスキンを使用しているので、使い込まれたようなシワ感がまた格好いい。

―年代鑑定は誰でもできたりするんですか?

品質表示タグに記載された代理店名がサンウエストの場合、2014年の春夏までにリリースされたもの。その辺であればどのアイテムかなんとなく判別できます。実際にディグする際も、この判別方法を活用してもらえると良いと思います。逆にサンウエスト期以前のアイテムに関しては、ディテールやネーム&品質タグにも変遷があるため知識が必要。今後「インスタントブートレグストア」でもアークを取り挙げる際にはそういった部分にも触れると思うので、読んで盗んでくださいね。

―まさにディグって感じで面白そうですね。

といってもここはまだスタートライン。ここからが最高に面白いのがアーク(笑)。今年〈アークテリクス〉と少しお仕事をさせてもらった際に、本国のアーカイブディレクターという殿上人のような方と話せる機会がちょっとだけあったんですが、その方もやはりディテールで年代を判別していました。他ブランドに比べるとディテールの変遷やモデルや年代の判別が難しそうに思えますが、ネルシャツで言うところのマチの有無と同じくらい、分かりやすい場合も多いんですよ。アイテム自体の流通数や情報が多く残っているので、そういった楽しみ方ができるという点においても、まごうことなくニュー・ヴィンテージ。

―坂本さん的に〈アークテリクス〉は、数あるアウトドアブランドの中でもどんな存在ですか?

ストリート的な角度とアウトドア本来の文脈を両方備えているという意味では、〈ザ・ノース・フェイス(THE NORTH FACE)〉や〈マーモット(MARMOT)〉が近い感じなのかなって思っています。今回取り挙げたような古めのアイテムには、アイスクライミングのハーネス制作から始まったブランドならではの“イズム”が詰まっていて、ひと口にアウトドアといっても、そこは多種多様。ただ永く愛用できるのは確かなので、今のうちにこの辺のアイテムも探しておいた方が賢明ですよ。

坂本一 / instant bootleg store 主宰
原宿「BerBerJin」にて8年余り古着業界に携わりバイイングも経験。その後、セレクトショップ「FAN」に参加。以降は様々な企画を手掛ける。その坂本一が思う良い物を“素敵な小遣いの使い方”をテーマに販売する古着屋、それが「instantbootlegstore」である。
インスタグラム:@hajime0722

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