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連載【で、NEW VINTAGEってなんなのさ?】Vol.104 “あの頃のぼくたちのスペシャル”。スタジャンとストリートのハナシ。

1990年代、誕生から100年経過している“アンティーク”に対し、その定義は満たしていないけど、価値のありそうな古着を打ち出す際に使われ出した言葉“ヴィンテージ”。今ではさらに“レギュラー”と呼ばれていた80年代以降の古着にも、“ニュー・ヴィンテージ”という新たな価値を見出す動きがあります。本企画ではこの古着の新たな楽しみ方を、スタイルの異なる4つの古着屋が提案。それぞれの感覚でその魅力を語ります。

新たにショップがすべて入れ替わり、遂に連載は13シーズン目に! ラストを飾る第104回目は「instant bootleg store」の坂本 一さん。今回は、どんなニュー・ヴィンテージを紹介してくれるのでしょうか!?

Text_Tommy
Edit_Yosuke Ishii


坂本 一 / instant bootleg store 主宰
Vol.104_スタジャン

―今回は、どんなニュー・ヴィンテージを紹介いただけますか?

ちょっと角度を変えまして…“ニュー・ヴィンテージ的文脈から読み解くスタジャン”にフォーカスを当てたいなと。なぜかといえば90年代、2000年代を洋服好きとして過ごしてきた、30代後半〜40代後半の世代たちにとって、スタジャンというアイテムがいかに特別だったかという話で。

―たしかに、正月の初売りの目玉アイテムは、どこのブランドもスタジャンでした。

でしょ? トレンド的にもその辺の空気感に戻りつつあって、スタジャンをリリースするブランドも増えていますし。この機会にどういうスタジャンが良いモノか、そのこだわるべきポイントを下の世代に伝えておかねばなと。それぞれの特色を踏まえて探してみると面白いんですよ。

ということで、まずはぼくたちが「スタジャンはスペシャルなアイテムなのだ!」と認識するキッカケを作ったブランドである〈ステューシー(STUSSY)〉と〈グッドイナフ(GOODENOUGH)〉から。

―いきなり大物がきましたね!

〈ステューシー〉でいえば、もっとレアで高価で取引されているモデルも存在しますが、ぼく的にはやっぱりこの「BIG4」。色々なアイテムで採用されているのでご存じの方も多いかと。当時から世界的に人気を博していた〈ステューシー〉のデザインの中に、自分が住む東京がラインナップされている! そんな部分に親近感を覚え、遠く思えた憧れの海の向こうが少しだけ近づいた感じがしました。

ステューシーのスタジャン ¥79,800(インスタントブートレグストア)

―当時のファッション誌の広告でよく見ていました!「コレって本物なのかな?」なんて思いつつ(笑)。

(笑)。そうそう、発売当時(97〜98年ごろ)から人気でブートも多く出回っていますよね。ブートが作られるということもその価値のあるブランドであるという証明といいますか。ちょっと前はまだまだ買えたんですが、ここ10年で若い世代の中でもオールド〈ステューシー〉の価値が高まり、さらにスタジャンが再び市民権を得たことも相まって価格も高騰し始めています。とはいえ、まだまだ買えるプライスなので、ここがひとまず最終ラインじゃないかなと。

いまは日本で流行ろうが世界のどこかで流行ろうが、タイムラグがないので、そのタイミングの見極めがとても重要。その点、このデザインは風化することがないので、ぜひいまのうちにゲットしてほしいところです。

―〈グッドイナフ〉はもう、言わずもがな。

グッドイナフのスタジャン¥132,000(インスタントブートレグストア)

これは“ラストスタジャン”なんて呼ばれているモデルで非常にレア。ある種の伝説的ブランドである〈グッドイナフ〉の、さらにその花形的なアイテムときたらウン十万円ってのも当たり前。いまやHIROSHI FUJIWARAの名前は世界的に認知されていますしね。これの仕入れ先がカナダ人というのが、何よりの証拠。

いまへと繋がる“ストリート的スタジャン文脈”における特異点がここではないかなと。雑誌に登場する憧れの有名人たちが、お揃いで着て誌面に登場する。あのCREW感に憧れて、「あ〜、いつか自分も仲間になりたいな〜!」なんて思った方も多いはず。このブランドの登場から、「モノの格好良さはもちろん、そのブランドを好きな自分もまた格好良いと思える」という概念が生まれたんじゃないかなと思っています。

―「良いモノを選んでいる自分の審美眼、格好良くね?」っていう。

この辺のストリート的文脈から、さらに女性に男のファッションは理解されなくなっていきます(笑)。“ストリートっぽい”なんて概念もなかったから、ぼくたちがこだわった“どこのスタジャンを着ているかが重要か”なんて完全にスルー。時代とは逆行しちゃうかもですが、男のファッションとして忘れてはいけない格好良さだとぼくは思っています。面倒くせーって話ですが(笑)。

そしてその〈グッドイナフ〉により植え付けられた感覚を残した、第二世代的スタジャンがこの辺。

―また強いブランドが並びましたね。

ということで、いまも世界的に超人気の〈シュプリーム(Supreme)〉と「ダブルタップス(WTAPS)」です。ともに現行でもスタジャンのイメージが強いですよね。前者は流行りなんて関係なくずっと作り続けていて名作もたくさんありますし、一方の後者も、最近は過去のデザインをセルフリバイバルしたモデルをリリースしたり、ラッパーのZORN氏が着たりと若い世代にもスタジャンのイメージが強くあるのではないかなと。

シュプリームのスタジャン¥99,000(インスタントブートレグストア)

背面は無地ですが前面はフルデコっぽい2006年のモデル。渋谷の伝説的セレクトショップ「バックドロップ」に影響を受けつつ、ストリートに傾倒していったヤツらにはすごく響いちゃうところ。この辺が、いまよりもちょいレトロで良いんですよ。ぼくなんかはまさにドンズバ!

―タップスもまた、ヤバイモデルを用意しましたね。

ダブルタップスのスタジャン¥132,000(インスタントブートレグストア)

当時を知る世代にとってのスペシャル中のスペシャルがコレ。徹夜の並びが出て、当然即完売だった伝説の1着。リブまで柄が入った素晴らしく凝った作りで、ボディもすごく良い。その上、チェーンは付いてるわ、ラインストーンは付いてるわで「なんかすげぇな!」って(笑)。いかにスタジャンというアイテムが特別だったかが、よく分かります。

ぼくより少し下の世代は、ダブルタップス=大人ストリート的な無地モノが多いブランドと思っている方が多いようですが、これぞ〈ダブルタップス〉。TOMMYさんとネタ選びの話をしていて、このスタジャンの話が出て盛り上がったので、頑張って探しました(笑)。

―いやぁ、たまんないですね! で、お次は…?

そしてこの辺からいわゆる“恵比寿系”と呼ばれる裏原宿のDNAを継承しつつ、また別文脈で生み出されたミクスチャーなスタイルがありまして…そういった感覚をカルチャーとして日本に広く浸透させたのが、恵比寿にあった「ハイト(HEIGHT)」。HIPHOPっぽいヤツもハードコアっぽいヤツも普通のヤツもみんな通ったショップで〈マックダディー(MACKDADDY)〉というブランドの旗艦店でした。

当時、「正月の初売りでスタジャンが出る」と聞きつけ、お年玉を握りしめて並んだのを覚えています(笑)。こちらはスタジャンとライダースのマッシュアップ。フロントだけダブル仕様にしたのではなく、ウール素材で作られたダブルのライダースジャケットというノリ。

マックダディーのスタジャン¥16,500(インスタントブートレグストア)

―まさにミクスチャー!

それまでの裏原系ブランドの多くが、既成のボディにデザインで勝負している中、いま着てみると、洋服としてのクオリティも高いんですよね。生地から作っていたりするイメージも強いし。もちろん前者が“あえて” 既成ボディを使うアメリカっぽさを意識していたのもあるとは思いますが、〈マックダディー〉はバンドマンからラッパーまで音ノリを感じる恵比寿系のパイオニアとして、ブランドが終幕を迎えるまでその座を守り続けていました。

スワッガーのスタジャン¥29,800(インスタントブートレグストア)

そしてその「ハイト」のもうひとつのウリが〈スワッガー(swagger)〉。ぼくは当時中3かな。高1からHIPHOPにドハマりして、「AIR JAM」も通っているけど「さんぴんCAMP」にクラッたタイプなので、SHAKKAZOMBIEがはじめたブランドってことでも憧れての存在。

―当時はアーティストがはじめたブランドって結構ありましたよね。

シャカは当時のHIPHOPシーンの中でも、本当に洒落てるグループだったので、彼らの作るアイテムも本当に他と違って見えていました。サガラに異素材パーツが組み込まれたワッペンで立体感を演出しつつ、しかもフロントを横断して取り付けるという凝りよう。襟付きのクラシックなボディなのに全然アメカジ感がない。これがいま見ると本当に新鮮。こういうデザインもまた増えるんじゃないかなぁ。

―裏原宿系のブランドに比べて、比較的容易に見つかりそうですし。

ですね。HIPHOP好きは〈スワッガー〉、ミクスチャーロック好きは〈マックダディー〉みたく、若い世代にもぜひもっと知ってほしい。そういったブランドの文脈まで理解してくるとさらに楽しめる、そんなニュー・ヴィンテージです。

フーエバーのスタジャン¥27,500(インスタントブートレグストア)

そして、恵比寿系的には〈フーエバー(WHOEVER)〉もハズせない。ただのアメリカの物真似ではないルーズサイジングの格好良さを教えてくれたのがココ。ネームなど細部にもこだわっていて、そこも格好良かった。

―これまた“あの頃”を知る世代には懐かしい!

話は戻って、恵比寿系が全盛の2000年代。また違う文脈で人気となったブランドもありました。そのひとつが〈コアファイター(CORE FIGHTER)〉。時代はミクスチャー全盛期ということで、DRAGON ASHの降谷建志さんが某ファッション誌で“スマート”に着こなすが話題に! これがブレイクの一因であったことは間違いないかと。こちらは、そんな〈コアファイター〉の10周年スタジャン。先述した恵比寿系ブランドと同時期に流行っていたブランドとは思えないくらい、非常にクラシックなデザインじゃないですか?

コアファイターのスタジャン¥29,800(インスタントブートレグストア)

―シブイですね〜この絶妙なバランス感!

クオリティも高いしサイジングも絶妙。何より、そこはかとなく漂う“ワルさ”。アウトローって上に昇っていくにつれオシャレになっていく。まさにそんな感じで男の色気がある。非常にいまっぽいと思います。特に30代や40代にニュー・ヴィンテージとして着て欲しいなぁと。いまならまだちょこちょこ見つかるのでオススメですね。

―今回はこれで以上ですか?

最後はデザイナーズではなく、今回のテーマにおいて忘れてはいけないボディメーカー〈ゴールデンベア(GOLDEN BEAR)〉で締めたいなと。当時、ストリートブランドの多くがブランクボディを使用していたのがココ。アメリカ製スタジャンの定番ですが、シルエットや質感がものすごく良い。近年もさまざまなブランドやショップが使用していて、最近だとKITHとかがそう。

―〈ダブルタップス〉や〈ア・ベイシング・エイプ(A BATHING APE)〉なんかもそうでした。

まずは90年代。現行とは違いレザーパッチで、ボディもレザー袖もブラックでコンディション良好。無地を探すのがポイント。この辺もタマ数が減ってきたので探すならいま。

ゴールデンベアのスタジャン¥27,500(インスタントブートレグストア)

もう一発レアなモデルとしては、無地のマルチカラーも見逃せません。どういう経緯で生み出されたのかは分かりませんが、特に別注というワケではなく普通にチョイチョイ見つかります。

ゴールデンベアのスタジャン¥29,800(インスタントブートレグストア)

〈チャンピオン(CHAMPION)〉や〈バトウィン(BUTWIN)〉など、ヴィンテージ市場では色々なスタジャンが見つかりますが、それらよりも歴史的には新しく、かつ同年代でもタマ数の多い〈DeLong(デロング)〉などよりクオリティが高くシルエットも丁度イイ感じ。漠然と「スタジャンが欲しい」という人は、ストリートブランドが愛した〈ゴールデンベア〉にこだわって探してみると良いと思います。

―ストリートとスタジャンの話として、非常に良い締めなのではないでしょうか。

と、いうわけで色々とスタジャンを見てもらいましたが、良し悪しがデザインのみでは50%しか伝わらないし、既存のディテールで読み解くトゥルー・ヴィンテージとは違い、各ブランドの文脈を知らなければ価値付けが出来ない。まさにバックグラウンドが重要なカギを握るニュー・ヴィンテージ的存在でもあり、流行の波はあれど絶対に廃れることなく“在り続ける”アイテム…それが、ストリート育ちのぼくたちにとってのスタジャンというワケです。

坂本一 / instant bootleg store 主宰
原宿「BerBerJin」にて8年余り古着業界に携わりバイイングも経験。その後、セレクトショップ「FAN」に参加。以降は様々な企画を手掛ける。その坂本一が思う良い物を“素敵な小遣いの使い方”をテーマに販売する古着屋、それが「instantbootlegstore」である。
インスタグラム:@hajime0722

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