昨今の古着業界、それもトゥルー・ヴィンテージと呼ばれるジャンルでは、年代やタマ数などの希少価値と、それにより弾き出されるプライスにばかりフォーカスが当たっていて「本来のファッションとしての楽しみ方とはまた違った方向になってしまっている」と嘆く声も聞かれます。そんな中で、若い世代に向けて「ヴィンテージを、もっとフラットにファッションとして取り入れてみては?」と提案するのが、東京・幡ヶ谷にあるショップ「ランドリー(LAUNDRY)」です。
ここに、昨年12月から山と海に囲まれた鹿児島県出水市にあったヴィンテージショップ「モンドリアン(Mondrian)」との協業により、同店に眠っていた数百点にも及ぶ良質なヴィンテージ古着のコレクションを移植。鼻の利くヴィンテージ愛好家たちの間で話題となっています。
……と、ここまでなら一部の古着好きにしか届かないトピックで終わるのですが、今春新たにモデルを起用したルックも撮影したとの情報が。しかもそれがまた、実に良い雰囲気。そもそもどういう経緯でスタートした協業なのか、そこにはどんな思惑があるのか。「ランドリー」のオーナーである福田健太郎さんに、同店で楽しめる美味しいコーヒーを飲みながら、お話を聞いてきました。
Photo_Kojima Shuhei(Model)、Kentaro Fukuda(Item Image)
Model_Niki Shuhei
Text_TOMMY
Edit_Yosuke Ishii
”古着”という共通言語で繋がって、そこから“新しい何か”が生まれたら…。
ー福田さんはインスタで、この協業に対し「物プラス何か違うものをお持ちいただければと思います」と想いを綴られています。
福田:それともうひとつは、「モンドリアン」のオーナーの想いもあります。ぼくと同い年なんですが、「18歳の頃から週4ペースで大阪アメ村の古着屋を回って買い集めてきた古着を、ようやく手放してもええねんって気持ちになった」と。彼にとってセミ終活的なニュアンスもあるようで、これまでの人生の伏線を回収している感じなんでしょうね、なんとなくだけど。
しかもそこには、しばらくお休みしていたぼくのブランドの再始動にあたり、景気付けの意図もあると後から聞いて「自分もここらでもうひと踏ん張りして、終わりの始まりを歩み始めよう」と。
ーこうして、「ランドリー」で「モンドリアン」の第2章がスタートしたわけですね。先ほど店内でアイテムを拝見しましたが、かなりお手頃ですね。
プライスは、栗ちゃん(「ミスタークリーン(Mr.Clean)」の栗原道彦氏)に、いまだったらいくらで売るべきなのかを聞いて、改めて付け直しました。これもぼくが原宿で働いていたこと、そこで栗ちゃんと友達になったことの伏線回収になっているし、同じく原宿で知り合ったボブくん(フイナム編集長の石井陽介)がフイナムの編集長になって、今回連絡したことも伏線回収だなって。
ずっと好きで同じ道を歩き続けていると、昔馴染みなんかに急に連絡してみるかなって瞬間があって。これまでにない新しいことをやらなくとも、あの頃の引き出しを開けてみたら、また新たな何かが見えきたというか。
ーこれまでも「ランドリー」では古着を扱っていましたが、こういったトゥルー・ヴィンテージと呼ばれる古着とでは違いもありますか?
福田:正直、若い世代からのリアクションは芳しくないかな(苦笑)。以前扱っていたのは1990年代〜2000年代のレギュラーやちょっとストリートの匂いがするようなモノで、若い世代の反応はそっちの方がイイんだけれども、それってどこの店もやっているし意外性がないんですよね。だったら若い世代にこういったヴィンテージの良さを改めて知ってもらいたいっていう、ね。
ー最近は、YouTubeやSNSを介して古着の知識を学んでいるという若い世代も多く、そんな彼らが当たり前として受け入れているプライスが、「実際のモノ自体の価値に見合った適正価格ではないのではないか?」という問題提起をしている声もチョイチョイ耳にします。
福田:そこは難しい問題ですね。じゃあ、ちゃんとした値付けをしないで安く売りさえすれば良いのかといったら、それも違う。なので適正価格で売るってのが、やっぱり大事なんでしょうね。その点、ウチはお客さんからも「絶妙なプライスですね」と言われています。とはいえ、栗ちゃんの値付けはかなり安めなので、個人的には「コレはもう少し付けてもいいんじゃない?」なんて思っちゃうけど(笑)。
ー栗原さんの値付けは、相場を踏まえたうえで、あくまでも“栗原さんがこれまで数多の古着を見てきて触れてきた中で感じた、そのアイテムの価値”で決められているそうです。実際、古着の値付けって、その商品の価値基準となる知識の量と質で決まると思うんです。どんなに希少なアイテムでも、知らない・興味ない人から見たら、ただの中古服っていうのと一緒で。
福田:そこの部分も時代に合わせて変わっていたりすると思うので、改めてぼくも栗ちゃんに教わって勉強中。「福田さん、このアイテムって実はいま高騰しているんですよ」って言われながら(笑)。
ーそういった部分も含め、若い世代にとってはトゥルー・ヴィンテージに触れるということが新しいファッション体験に繋がるのかなと。
福田:それに、若い世代がシュッとした体型でヴィンテージを着るって、なんかイイんですよ。ぼくら世代が〈スプルース(SPRUCE)〉の「ピーナッツ」のスウェットシャツに〈リーバイス(Levi’s)〉のヴィンテージの「501」だと、よっぽどスタイルが良くないと誰が着ても浜ちゃんやさま〜ずみたいになっちゃう。オーバーオールなんてもう完全にアメカジおじさん(笑)。それもまたイイんだけれど、やっぱりファッションなので格好良く着こなしてほしいっていう想いはあって。
ーそこでモデルを起用したルックも素敵でした。どういう経緯でこれを撮り下ろそうとなったんですか?
福田:“同じアイテムでも、それを着る世代が変われば新たな発見がある”っていうコンセプトが、ビジュアルにすることで、より明確に伝わるかなって。このスタイリングも、市場価格で30万円くらいする〈パタゴニア(patagonia)〉のサンダー柄の「グリセード」に、USB電源で暖かくなるベストをレイヤードしています。
ー高価なヴィンテージをただ着るのではなく、値段に関係なくフラットに服として捉えて、組み合わせて遊び心を加えることでファッションとして成立する、と。ところで、このモデルさんは?
福田:オフィス人力舎所属の芸人さんです。今年30歳なんだけどまだ全然売れていなくて、この撮影の日もライブ終わりだったんだけど、観客は4人…。しかもその内1人は、わざわざ京都から来てくれているっていう。その感じもなんかエモいじゃないですか。あとロケーションにもこだわって、映画『PERFECT DAYS』のロケ地周辺で撮っていたりして。写真は水谷太郎さんのアシスタントの子に撮ってもらっています。
ーたしかに、令和のいま、こういったスタイリングを若い世代がフラットに楽しんでいる姿って新鮮ですね。
福田:言語化して伝えるのは難しいのですが、世代間や通ってきたカルチャー、所属するコミュニティによってその人のスタイルも違ってきますよね。そこが重要だと思ってて。それでも“古着”という共通言語で繋がって、そこから“新しい何か”が生まれたらすごく楽しいことだなって。
ーですね。ところでこちらに並ぶアイテムは、どこかのタイミングで入れ替わっていくんですか?
福田:売れたらどんどん補充していく感じです。アイテムはまだまだ沢山あるので。ただ、ぼく自身の持ち物じゃないのに、ちょっと手放すのが惜しい気持ちとかも生まれてきちゃって…「全部なくなっちゃったらどうすんの?」みたいな。とはいえ、オーナーの意向を踏まえると大事に取っておくっていうのも違うし、良い形で誰かの手に渡るのがイイのかなと。
ーこちらで買い物した人は、絶対にそれを着て、また「ランドリー」を訪れることでしょうね。
福田:だと嬉しいですね。コーヒーを飲みつつその古着の話をしたりして。どのアイテムも「モンドリアン」のオーナーがずっと集めてきた大事なモノだから、じっくり2、3年かけてゆっくり売っていければなって考えています。あとサイズ感にも注目してもらいたいですね。彼が当時はカップルコーデをしていたそうで、同じアイテムでもメンズサイズとウィメンズサイズがあるっていう(笑)。なので、スニーカーも11インチ(メンズ)か6インチ(ウィメンズ)。
ね、なんかエモいでしょ? 若い世代のカップルが手に取ってくれたら、それも伏線回収になるし。どれもアメリカ仕入れならぬ、“アメ村仕入れ”だからモノは間違いないので、ぜひ遊びに来てみてください。
Laundry
住所:渋谷区本町6-37-10
時間:(木・金)13時〜20時、(土)9時〜20時、(日・祝)9時〜18時
定休:月〜水曜日
Instagram:@laundry_koffiehuis
Mondrian
Instagram:@mondrian_vintage