HOME  >  BLOG

Shop / Brand Blog

尾崎雄飛デザイナー/ディレクター/バイヤーなど多角的にニホンの良い物/事/文化を世界へ/未来へ繋げていくことを目指して活動中

我が輩はニホン人である。

尾崎雄飛
デザイナー/ディレクター/バイヤーなど
多角的にニホンの良い物/事/文化を世界へ/未来へ繋げていくことを目指して活動中

Blog Menu

トッド・スナイダーという人

2012.02.16

このエントリーをはてなブックマークに追加
東京の街に雪が降る日。
僕はヤシの木と24時間休まないネオンボードに囲まれたホテルで、窓からはマンハッタンの摩天楼とエッフェル塔を同時に観ている。

ラスベガスにいる。

昨年の夏から、『ペーパーチェスト』というセレクトショップのバイイングをさせて頂いているのだが、これは、「ヨーロピアン・モードのお店をアメリカン・カジュアルのお店にリニューアルしてくれたまえ」という依頼内容に基づいて、国内外で仕入れをしたり、店装に手を入れさせてもらったりして、コンセプチュアルでアメリカっぽい店舗をつくるという仕事だ。
前にもお話ししたが、僕には過去に何年かバイイングの経験があるため、不肖ながら僕がその大役を仰せつかったというわけである。
そんなわけで、このお店の買い付けのために、この狂ったラスベガスにいるのだ。

僕は元来様々な種類の洋服を着るのが好きで、所謂ジャンルというものをそれほど意識しない。
良い物は300円の古着のTシャツだって良いし、カッコ悪い物はパリモードだってカッコ悪い。
そんな僕にもファッションの「ベース」の様な物はあって、それはアイビー・トラッドだったり、広義のワークスタイルだったりして、それは大方アメリカの物だ。
そのことを見込まれて「アメリカン・カジュアルのお店」を依頼されたのだけど、昔ながらのアメカジ屋風の店を作ったところで昔ながらのアメカジ屋さんには到底かなわないし、わざわざ名指しで依頼されたからには、なにか僕らしい感覚を取り入れた店をやるべきなのだろう。
ではどんなお店、、、?と考えていたところに、大きなヒントが現れた。


僕がフィルメランジェの製品を売り込みに何年ぶりかのアメリカ・ニューヨークに渡った2008年、トライベッカ地区に話題の店ができていた。
J.CREW Liquor Store』だ。 
日本撤退した記憶の残るあの『J.CREW』のアイテム達が若々しく変身、古い酒場を改装したアンティーク基調の店内に、リーバイスやオールデン、フィルソン、クオディトレイルなんかのオーセンティックなアメリカの良品が一緒に陳列されたその店は、僕の好きなアメリカそのものであった。
清潔でありながら大胆、粗野でありながら繊細な気の利いた店内は、わりと偏向なブランドの多いアメリカには無い、微妙なバランス感覚を感じた。
店内にはいくつか日本の雑誌も置いてあったので、すぐに、なるほど日本のセレクトショップを参考にしたのだと思った。
このバランス感覚は日本のショップの雰囲気だ、きっと日本人が編集しているのだな、と。

その僕の予想はひとつは当たり、ひとつは外れた。

この店は日本のセレクトショップを綿密にリサーチした上でマーチャンダイズされ、出来上がったものであった。
しかし、この店の立役者は日本人ではなかった。

トッド・スナイダー。

アメリカ・アイオワ州に生まれ、テイラリングを学び、ラルフ・ローレンなどのデザイナーを経てJ.CREWの上級副社長にまでなった人だ。
たしかに、納得の経歴である。
しかし、この人のセンスは数多いる「ラルフ出身者」とは一線を画すものを感じた。
カントリー臭が皆無で、清潔で、男臭いのだ。
僕はそういうアメリカン・カジュアルが好きだ。

そして翌年、僕は更に驚く情報を得ることになる。
そのトッド・スナイダーが早くもJ.CREWを退職して、自身のブランドを始めるというのだ。

その名も『TODD SNYDER

IMG_0876.jpg

彼の実名と同名のこのブランドは、正に彼のセンスや嗜好をそのまま映し出した物である。
質実剛健な素材使いと製法、テイラリングとヴィンテージを重視したつくり込み、ラフでタフなスタイリング、そして彼のお気に入りのアメリカン・アイテムを常に回りに配置する。
このブランドは必ずそれらのアメリカン・アイテムを含めることでコーディネートが完成され、このブランドの表現の完成となるのだ。
これはトッド氏の生まれながらの審美眼が育て続けて、『J.CREW Liquor Store』で円熟を迎えたスタイルであろう。

IMG_0888.jpg

例えば、この写真左のスタイルなどは彼のスタイルの代表的な物である。
ツイードのスポーツ・ジャケット、ボタンダウン・シャツにタイを緩く結んで、ヴィンテージ風のスエットをレイヤー、ボトムは気取らずブルージーンズを軽くロールアップして、トリッカーズのカントリー・ブーツで締める。チラっと見えるベルトのバックルは、彼所有のヴィンテージ・バックルを再生産させた物だ。

こういった趣味のブランドは、近年出会うことが無かった。
抜群のセンスと審美眼、そして類希なるバランス感覚を持ち合わせたブランド。

TODD SNYDER』との出会いは、僕の仕事に大きな大きなヒントを与えてくれた。
もちろん、彼のブランドを『ペーパーチェスト』に仕入れもしているし、この店の中核となる大きな軸として考えているが、それだけでなく、彼のブランドのような審美眼とバランス感覚を店舗全体で表現できたら、、、きっとアメリカの?いや、世界の「今」を表現できることだろう。
そんなことを考えてお店の編集をしたので、時間のある方はぜひ彼の感性に出会いに、僕の感性の入ったお店に行ってみていただきたい。
アメリカ、いや、世界の「今」を感じていただけたらとても嬉しいので。

IMG_1444.jpg

トッド・スナイダー氏(写真左)
余談だけど、彼はその人間性もとてもすばらしい。(一緒に写っているセールスのデイヴィッド氏も本当にすばらしい!)
縁あって一緒に食事に行ったり、なぜか展示会の手伝いをさせてもらったりしているが、常に回りの人間に目を配り、多弁ではないが的確な言葉を掛ける。
温かくて、とても深い男性なのである。
そんなカコイイ彼が自分のすべてを無防備なまでにさらけ出しているこのブランドが、僕は大好きなのだ。


ペーパーチェストに関して・・・2月16日発売の雑誌『2nd』に店舗紹介が掲載されています。

※コメントは承認されるまで公開されません。