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尾崎雄飛デザイナー/ディレクター/バイヤーなど多角的にニホンの良い物/事/文化を世界へ/未来へ繋げていくことを目指して活動中

我が輩はニホン人である。

尾崎雄飛
デザイナー/ディレクター/バイヤーなど
多角的にニホンの良い物/事/文化を世界へ/未来へ繋げていくことを目指して活動中

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なんてったってアイドル/時代の保管係

2012.04.10

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昭和という時代をご存知か。

いや、フイナム読者の皆様はほとんどが昭和生まれだと推察する。
しかしながら、昨今では身の回りに「平成生まれ」や「昭和末期生まれ」の人がちらほら。
そんな方々は「昭和ってどんなだったんすか」「え?いまだかつてないの間違いですか?」「盗んだバイクでど〜すんすかw」などとのたまう。
僕自身も昭和五十五年生まれで、分類するなら「昭和末期生まれ」に入るのだけど、僕と彼らの昭和観はずいぶん違うように思う。
僕よりも5つくらい年下の人たちは、昭和を失われた遥か昔の世界として、僕らの世代でいう1970年代のように感じているのだろう。当然だけれど、これがジェネレーションギャップか、と思う。

昭和という時代は、僕が小学二年生の時に突然終わった。
昭和六十三年の末はテレビが慌ただしかった記憶がある。
子供の記憶なんていうのはせいぜい4歳か5歳ぐらいから断片的に憶えている様なものだから、きちんと記憶に残っている昭和は五十九年から六十四年までの約4年間ぐらいで、大して長くない。
それでも僕にとっての昭和時代は、サクラカラーのベタッとした色合いの写真のように、あったかくてやさしい時代だったと記憶している。
だから僕は、昭和の時代と文化が大好きだ。

話は少し逸れるが、僕はこの春、新しく『SUN/kakke(▽三角形)』というファッションブランドを始めた。
前職の『FilMelange』とは打って変わって、カットソー以外のアイテムも扱う、わりとモードなブランドだ。
つい先週、初お披露目となる平成二十四年秋冬物の展示会を終えたのだが、来場頂いた方々は皆、その意外性を喜んでくれた。
けれど中には僕に対して「フィルメランジェ的なもの」を期待して来場くださった方も少なからずあった。
そんな方々には少し申し訳なく思ったが、僕の考えとしてはフィルメランジェがブランドとして続いている以上、同じ物や似た物を作ることに意味があるとは思えなかったのだ。
『FilMelange』で作った物たちは正真正銘僕の全力投球による、「着心地の良さ=着ることの喜び」について最高でエバーグリーン(永続的で恒久)な物であると思っているので、これまでと同じようにお付き合いを続けて頂きたく、『SUN/kakke』は、言わばそれと同じ哲学世界にパラレルに存在する、「お洒落すること=着ることの喜び」について、同じように最高でエバーグリーンな物を作り出すことを目指している。

さて、「昭和」、「エバーグリーン」といえば、僕はまず「人」を思い浮かべる。
僕は昭和という時代は「人」が築いた時代だと思っている。
戦前、戦時、戦後、高度経済成長期はもちろん、安定成長期と言われる時代を経て、高度資本主義/バブル景気とともにその終焉を迎えるまで、人力で、アナログで「人」が築き上げた、あったかくてやさしい時代、それが昭和時代なのだ。

昭和時代にはいつも必ず「スタアの人」がいた。

日活スタアのような映画俳優、スタアにしきの的青春スター、スポーツ選手、トレンディー俳優、アイドルグループなどなど。
昭和の人は皆、彼らスタアに憧れて、元気を貰って、明日への活力としながら、今のこのすばらしいニホンの社会を作ったのだ。
だから、スタアたちは各時代の人々の心の中に、エバーグリーンな存在として「その時のままの姿」で今も存在し続けている。
そんなスタアたちの瑞々しく美しい「その時のままの姿」の記憶を、心を写すように切り取って保管している媒体がある。

プロマイドだ。

浅草の新仲見世に、『プロマイドのマルベル堂』という店がある。
小さな店だが、ここが大正十年設立のプロマイドの元祖なのである。
これまでに撮ったスタアは約2300人、保有しているプロマイドの版数はなんと約8万5000版にもなるという。
昭和生まれの僕や読者諸兄にとってプロマイドと言えば、懐かしくも滑稽なポーズと笑顔のポートレートがすぐ頭に浮かぶだろう。
僕も小学生時分には、駄菓子屋で20円払って紙袋の束からこれぞという一枚を引き抜き、一喜一憂したもんだった。
そして僕の脳裏にも、その頃引いた光GENJIや酒井法子、小泉今日子などのプロマイド(当時は"生写真"という胡散臭い物が主流だったが)のイメージがしっかりと焼き付いていて、かぁくんもノリPもキョン2も、その時のままニッコリと笑っている。
マルベル堂 では、僕の知っている時代よりもずっと以前から現代までの歴代スタアが、キッチリとお洒落して、当人の一番魅力的な表情で3:2の長方形の中に写し取られてズラリと並び、絶え間なくやってくる様々な世代のお客さんは、それぞれの青春の欠片を買い戻すように贔屓のスタアのプロマイドを選んでいく。
人々の輝かしい記憶を、昭和時代の活力の源を、静かに保管しているのが『プロマイドのマルベル堂』なのだ。

僕はこのプロマイドという媒体が好きで、マルベル堂は憧れの聖地であった。
いつか、ここで撮影してもらって、スタアの仲間入りを果たすのが夢でもあった。
だから、今回新しいブランドを始めるにあたり、記念の意味も込めて『SUN/kakke』のルックブックは、マルベル堂のプロマイドにした。
瑞々しくて美しく完成した初めてのコレクションを、エバーグリーンなものとして保管したかったのだ。
実はマルベル堂では一般からもプロマイド撮影の依頼を受け付けている。
僕の様にスタアに憧れる人間の、一生の思い出を作ってくれるというのだ。
しかも、撮影をしてくださるカメラマンの中村孝さんは、昭和のスタアを永年撮り続けてきた「時代の保管係」である。
これはどう考えても昭和スタアの仲間入りだ。

3月某日、中村さんと店長の武田さんにスタアの心得とも言うべきポージングや表情をご指南いただきながら、僕の夢のプロマイド撮影が行われた。

IMG_1833.jpg
「ポケット少しだけ手ぇ入れよう!」「歯を出して笑って!」と指示が入ったりする。

IMG_1844.jpg
中村カメラマンの真剣な表情

簡素な機材のスタジオ、大変フランクで朗らかなお二人、ベッタベタな雰囲気の控え室。
ここでスタアが、、、(;´Д`)ハァハァ と思うと、テンションもMAX。ポージングも様になってくる。
で、完成したのがこちら!(こちらで白黒に加工しました)
プロマイドのマルベル堂01.jpg
プロマイドのマルベル堂02.jpg
プロマイドのマルベル堂03.jpg

いやあ、すばらしい。昭和のスタア感丸出し。
展示会ではバイヤー様はじめプレス関係者樣方からも大好評をいただけた。
ただ、写真の質やポージングのインパクトが強すぎて、ルックブックとしては洋服が見えてこないという難点が発覚。スミマセン

でも、思い出作りとしての満足度は120%なので、今のあなたの輝かしい魅力を閉じ込めて、プロマイドにすることを、おすゝめしたい。
そして、僕のプロマイドとトレードして欲しい。


IMG_1867.jpg


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