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青野賢一ビームス クリエイティブディレクター / ビームス レコーズ ディレクター「ビームス創造研究所」所属。選曲・DJ業、執筆業。音楽、ファッション、文学、映画、アートを繋ぐ。www.beams.co.jpshop.beams.co.jp/shop/records/blog.beams.co.jp/beams_records/

小径逍遥、再び。

青野賢一
ビームス クリエイティブディレクター / ビームス レコーズ ディレクター

「ビームス創造研究所」所属。選曲・DJ業、執筆業。音楽、ファッション、文学、映画、アートを繋ぐ。
www.beams.co.jp
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No.29 見えないものが見える時

2011.09.06

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どこであれ、都市部の夜は明るい。
街灯、ネオン、ビルの航空障害灯、高層マンションの窓から洩れる灯り。
明るいことと反比例して、夜空の星は見えにくい。

「星の井戸」という伝承は、調べてみると、
首都圏にも少なくないのが分かる。
九品仏・浄真寺、鎌倉・御霊神社、千葉鴨川・清澄寺などの井戸がそれで、
これを全国区まで拡げてみると、各地にこうしたものがある。

細く、深く掘られた井戸は、
太陽の光を遮り、
昼間であってもその水面に星を映し出す。
この話を最初に目にしたのは高校生の時だった。
荒俣宏が書いていたエッセイだったと思う。
随分とロマンティックな話に思え、
興味を持ったまま、ずっと記憶に残っている。

そう、強力な太陽の光は万物を照らし、
文字通り白日の下に曝すのだが、
一方で他の天体の姿を見えないものにする。
そんな当たり前のことを、どうして考えたかというと、
先日、富山を訪れた時に、天の川を見ることができたからだった。
立山山麓の夜は、街灯やネオンに遮られることがなく、
星がとてもはっきりと見える。
天の川を形成する大小の星が、肉眼でも確認でき、
その合間を幾つかの流れ星が横切った。

その時、ふと思ったのは、
東京の空にも、同じ夜空はあるのだ、
ということだった。
見えていないだけで、確かに存在はする。

見えていない、つまり認識できていない物事が
何らかのきっかけで現出する時、
人は動揺する(これは場合によっては「感動」と同義である)。
しかし、その対象は降って湧いたわけではなく、
ただ、見えていなかった。存在していた。


私たちのまわりは、そんな事象で溢れている。
見えなかったものが可視化された時に、何を思うか。
どんなことに気付くか。
まだまだ知らないことはたくさんあって、
世界は底なし井戸のように深い。
覗き込む時に注意しないと、
転落してしまうから、心しておきたいところである。

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