HOME  >  BLOG

Creator Blog

川田十夢公私ともに長男。「AR三兄弟の企画書(日経BP社)」、「ARで何が変わるか?(技術評論社)」、TVBros.連載「魚にチクビはあるのだろうか?」、WIRED連載「未来から来た男」、ワラパッパ連載「シンガーソング・タグクラウド」、エンジニアtype連載「微分積分、いい気分。」など。発明と執筆で、やまだかつてない世界を設計している。https://twitter.com/cmrr_xxxhttp://alternativedesign.jp/

青雲、それは君が見た光。

川田十夢
公私ともに長男。「AR三兄弟の企画書(日経BP社)」、「ARで何が変わるか?(技術評論社)」、TVBros.連載「魚にチクビはあるのだろうか?」、WIRED連載「未来から来た男」、ワラパッパ連載「シンガーソング・タグクラウド」、エンジニアtype連載「微分積分、いい気分。」など。発明と執筆で、やまだかつてない世界を設計している。
https://twitter.com/cmrr_xxx
http://alternativedesign.jp/

Blog Menu

空間と物語の関係性とミシンと発明家について。

2011.07.22

このエントリーをはてなブックマークに追加
フイナムが不意にリニューアルされていました。新しい執筆陣に小西康陽さんと安全ちゃん渡辺俊美さんが居たりして、そこに杉作J太郎先生やら僕が並んでいるカオスがなんだか楽しいので、とりとめのない日常をとりとめのないまま書き留めておこうと思います。

こないだ、京都でSCRAPフェスというイベントに出演してきました。僕の役割は、トークライブの登壇と乙女チックポエムの審査員だったのですが、役割を忘れて愉しみつつ、どっぷり物思いに耽けることができました。
トークライブでは、SCRAP代表の加藤隆生さん、ヨーロッパ企画主宰の上田誠さん、AR三兄弟長男の僕という並びで、『空間と物語の関係性』について語り合いました。個々の立場から興味深い意見が出たには出たのですが、僕の中の興味は一点に限られました。それは、作品の「物語りシロ」についてです。
少し話を戻します。京都へ向かう新幹線の中で、僕は真夜中vol.13の映画特集に目を通していました。そして、映画に於ける雨と声について一応の結論を導き、それがトークライブ中ずっと頭をもたげていました。それは以下の結論です。

物語の為に降る雨。鈴木清順は「細く、馴染み深い」と受け入れ、ポール・トーマス・アンダーソンはそれが疎ましくて蛙と石油を降らせた。この映画に於ける雨みたいなことを、僕は現実に移植しようとしている。そして映画に雨を降らせる為の装置を、現実から操作できるようにしたい。映画の中の雨は、晴れの日に撮影される。

物語りシロとは何か。物語を参照している人がその物語について語りたくなる入口から出口までの面積です。そこが広大であればあるほど、僕たちは没入できるし、没入した世界について語りたくなります。

そういえば映画監督の青山真治が、最近の映画のボイス・オーバー傾向について指摘していました。ボイス・オーバーというのは登場人物の心の声のことで、それが現代映画からごっそり抜け落ちているという興味深い指摘です。例えば、記憶に新しいデヴィッド・フィンチャー監督の最新作『ソーシャル・ネットワーク』では、ボイス・オーバーを一切使っていません。マーク・ザッカーバーグの五年間を、当事者の心の声なく描くという手法は、『北の国から』の純からすると考えられないことで、この状況を目の当たりにした純は「父さん、このボイス・オーバーという手法はもう流行らないと思われ、ただでさえか細い僕の心の声は大人にとってのモスキート音に過ぎず。それが時代に流されるということなのかとちょっと寂しく思われ。今日の東京は夏なのに寒いくらいです。」みたいなことを言うのだろうと思います。
うっかり、純の心の声に耳を傾けてしまいましたが、要するにこの寡黙なボイス・オーバーが誘因しようとしているのは、物語シロだということを言いたかったのです。

さて、とりとめがないことを宣言している文章ですから、とりとめのないまま進行します。トークライブが終わったあと、僕は乙女ロマンチックポエムの審査員をするはずでした。が、SCRAPフェスを観ているうちに、すっかり物語シロが刺激されて、僕はうっかり出場者として舞台に上がって自らを物語る衝動に駆られました。そして、以下のポエムを読み上げました。

発明家とミシン

君は研究所の中で、布を縫い続けていた。耐用実験室と呼ばれる箱の中で、ただ黙々と。針が折れるまで布を縫い続けていた。

君の孤独を、僕はちゃんと知っている。誰も着てくれない服を縫い続ける寂しさ、耐用年数でしか評価されない悔しさ、ミシン買ってくれるお客さんの顔を、最後まで見ることもなく壊されてゆくカラダ。君を作った人でさえ、ストップウォッチを片手に君の腕が曲がらなくなるのをただ待っている。

僕は考えた。君とつながる方法を、君の孤独を和らげる言葉を。そして発明した。

僕はもうミシンメーカーを辞めてしまったから。君の声を直接聞くことはできない。僕の発明を使えば、君は誰とでも会話を始めることができる。誰と会話を始めるか、何という言葉で会話を始めるか、まだプログラムしていない。君からの連絡、待っています。

なお、この記事にはまだ物語シロは用意してません。物語シロを拡張する物語は、つづきます。

※コメントは承認されるまで公開されません。