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川田十夢公私ともに長男。「AR三兄弟の企画書(日経BP社)」、「ARで何が変わるか?(技術評論社)」、TVBros.連載「魚にチクビはあるのだろうか?」、WIRED連載「未来から来た男」、ワラパッパ連載「シンガーソング・タグクラウド」、エンジニアtype連載「微分積分、いい気分。」など。発明と執筆で、やまだかつてない世界を設計している。https://twitter.com/cmrr_xxxhttp://alternativedesign.jp/

青雲、それは君が見た光。

川田十夢
公私ともに長男。「AR三兄弟の企画書(日経BP社)」、「ARで何が変わるか?(技術評論社)」、TVBros.連載「魚にチクビはあるのだろうか?」、WIRED連載「未来から来た男」、ワラパッパ連載「シンガーソング・タグクラウド」、エンジニアtype連載「微分積分、いい気分。」など。発明と執筆で、やまだかつてない世界を設計している。
https://twitter.com/cmrr_xxx
http://alternativedesign.jp/

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AR以前の拡張現実、ネット以前の双方向、過去につながる未来のこと。

2013.01.02

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2012年12月31日。僕は十五年ぶりに、両親とともに実家で過ごしました。紅白歌合戦を見ていたのですが、両親とはいえ、明らかに世代も価値観も違う人たちと同じ時間を過ごせたのは、とてもいい経験でした。

まず、親の世代の「努力している人は偉い。」「歌手は歌唱力で勝負するべきだ。」「人気だけで商売しては駄目だ。」「いくら売れても、性格がよくないと長続きしない。」という、もっともであり理不尽でもある理屈が貫かれていたのがよかったです。紅白出場歌手でいうと、以下のように人気ものたちがばっさばっさと切り捨てられていました。

関ジャニ∞:「∞って首を横にしないと読めないじゃない」「不親切」
ももいろクローバーZ:「聖子ちゃんとか、昔のアイドルは歌もうまかった」「この子たちはただ騒いでいるだけ」
TOKIO:「かっこつけてるけど、かっこよくない」「これ、ちゃんと弾いてるのかね」
Perfume:「ぜんぜん伝わってこない」
AKB48:「数で勝負しているうちは駄目だ」
YUI:「音が抜けてしまってる」「スースーする」「性格悪そう」
YUKI:「全然伝わってこない」「音程、くるってない?」
福山雅治:「歌舞伎のくだりで、だいぶ得をしている」

予想に反して、好評価を得ている人気者もいました。

コブクロ:「歌がうまい」「このひとたちはちゃんと努力している」
五木ひろし:「ギターもちゃんと練習してて、えらい」
由紀さおり:「海外で日本語で歌ってて、日本の心を伝えてて、えらい」
EXILE:「歌も踊りも一流」「このひとたちはちゃんと努力している」
プリンセス プリンセス:「子供も家庭もあるのに、えらい」「このひとたちはちゃんと努力している」

ばっさばっさと人気者を切り捨てたかと思えば、根拠が定かではない偏見で褒めてゆく。愉快痛快。そう、テレビって本来そういうものですよね。無責任に、無作為に、好き勝手に放談できる。つまらなければ、すぐにチャンネルを変えればいい。テレビを消せばいい。

もうひとつ、実家で過ごしてわかったことがありました。それは「そもそも拡張現実」である存在についてです。今回の目玉として、嵐のリアルタイムARというのが話題になっていました。紅白のプロデューサーが「世界初の試み」と誇示していたのが、気になっていました。だって、三年前に、AR三兄弟がNHKで生中継でARをやっていますから。よほど、大きな進歩があるのだろうと、固唾をのんで見つめていました。が、それは本当にショボいものでした。親の世代からすると、これまで何度もテレビで観てきたCG技術と何ら変わらない。案の定、ポカーンとしていた両親が「いまの何だったの?」と聞いてきたので、「指に再帰性反射テープっていうのつけてて、そこにリアルタイムでCGをかぶせていたんだよ」と説明。「はぁ。。」と納得できない様子。これに関しては、両親と全く同じ感想でした。ほんと、これじゃARをテレビでする意味が全くない。むしろ、ARという言葉を、簡単に消費しないで欲しい。世代を越えた憤りのなか、全身真っ黒の衣装に身を包んだ美輪明宏が登場。トレードマークである金髪を黒髪で隠し、さっきまで多用されていたサイネージの舞台装置も一切つかわず、スポットライトが一点だけ、美輪明宏を照らしていました。彼は、ヨイトマケの唄という自らが作詞作曲をした歌を熱唱しました。(あとで調べてわかった話ですが)この歌は、美輪明宏が炭坑町でリサイタルを開いたときに、「これだけの人が集まってくれているのに、私にはこの人たちにうたえる歌がない。」と感じたことがキッカケとなって生まれたものでした。この歌に出てくる、やがてエンジニアとして出世する息子を、美輪明宏は歌いながら演じきっていました。それは、小手先の技術によるAR(拡張現実)なんかよりも、はるかに拡張現実と呼べるものでした。何の説明もなく、何の最先端技術も使わず、圧倒的な情報が感情をつたってくる。正体不明の熱いものがこみ上げてくる。炭坑町で育ってないし、子供にもそんなに苦労をかけていない、両親も泣いていました。凄いものを観ました。

次の日、元旦に実家から自分の家に戻ってきました。見逃していたガキの使いの恒例シリーズ、絶対に笑ってはいけない熱血教師24時を、貯まっていた洗濯物とともに片付けるためです。ここにも、最先端技術云々関係なく、双方向と圧倒的な情報量が存在していました。笑ってはいけないというルールの介在で、テレビの前の者は誰しも笑うまいとする。いままでおもしろく見えなかったものが、おもしろく見えてくる。しかも、僕が見たのはリアルタイム視聴ではなく、パソコンに落としたアーカイヴでした。生放送でもない単なる映像ファイルを観て、画面の向こう側にいったかのような感覚で笑い転げることができた。テレビであっても、ネットであっても、DVDであっても、同じ。おもしろいものは、おもしろい。

技術はあくまで、未来を補完するものであるべきだ。技術を補完するための未来なんて、二度とごめんだ。

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