紙飛行機で宇宙旅行。 --ものについて。時々酒と、下ネタと。--
Ray and LoveRock
「写真を撮る人」
Ray and LoveRock(れい あんど らぶろっく)写真を撮る人、ファッションエ ディターでもある人。フツウの人ではありますが、生きることはどちらかという と下手です。文章もロックンロールしていければ良いなぁ。「ものや写真、少し はカルチャーのことなんかを書いていきたいですが、お酒のこと、下ネタも好き なんで、お付き合いください」
http://blog.livedoor.jp/rayandloverock/
園芸をする、人生を重ねる。
2012.07.13
私はただの園芸好きなオヤジだ。
それ以上でもなければ、それ以下でもない。友だちと呼べるような存在もいなければ、趣味さえない。園芸は趣味か? と問われるといまは難しい。いや、もともと難しいものだった。
別段、難しく考えなければ、難しいわけではないのだろうけれど、話を聞いて欲しい。長い話ではない。
そもそも、私は園芸など好きではないのだ。ある意味、仕方なくやっていた。樹の臭いも好きではないし、花の匂いに心を動かすこともない。以前の私といえば、毎日ただただ、会社に行き、帰ると風呂に入り、妻の作った食事を摂り、寝る。たまに就寝前、新聞を読んだりはするが、それもたまにだ。
ただそれだけの毎日を過ごし、土曜日と日曜日はただただボーっとして暮らす。特に旅行などに余暇を使うということもなく、テレビもほとんど見ない。たしなむ程度の日本酒を飲んで、日々が過ぎていく。
ときどき、生きるということにさえ疑問を持つほどだ。本ぐらい読めば良いのだろうけれど、それもまた面倒くさい。とはいえ、土曜日と日曜日、ただ死んだようになにもしていないか、といえばそうでもない。生き甲斐という名のものが見当たらないのだ。
妻の買い物やら、妻が行きたいという花の名所とか、まあ、お供する程度のことで土曜日と日曜日は過ぎ去ってくれた。それも過去の話だ。
そんな私がなぜ、園芸か?
妻に先立たれたのだ。
ちょうど私が定年を迎えた年。その夏は、あまりに暑く、毎日が蒸し風呂のようだった。夏の花の代名詞であるほどの朝顔でさえ暑さに負けて枯れそうになっていた。そんな暑い中、病院から帰った妻は青ざめていた。今にも泣き出しそうな、その顔は私の記憶に釘が刺さったように残っている。
青ざめた顔で妻は、唾を飲み込むようにしながら、乾いた喉で声を振り絞るようにして、言った。
「あなた。私、癌なんだって。それもステージ4。スキルス性の癌で、もって半年なんだそうよ」
今度は私が青ざめる番だった。愕然としていた。なんの言葉もかけてやれなかった。そもそも、言葉という概念が頭から抜け落ちてしまったみたいに、言葉はわたしの頭の中に存在しなかった。それほどの衝撃だった。
そのまま妻は、私の胸に飛び込んで、泣いた。それは、今まで泣いてはいけないと我慢してきた気持ちの解放が、溜めてきたものまで一気に吐き出すように涙は止まらないようだった。私は妻を抱き締めた。
「生きているんだ。今を楽しもう。少しでも後悔を減らさないか? まず、私がおまえを失ったとき、後悔しきれないかもしれないが、それでも少しでもその後悔を減らせる努力をさせてくれないか?」
そんな風にして、妻の余生を支える生活が始まった。