紙飛行機で宇宙旅行。 --ものについて。時々酒と、下ネタと。--
Ray and LoveRock
「写真を撮る人」
Ray and LoveRock(れい あんど らぶろっく)写真を撮る人、ファッションエ ディターでもある人。フツウの人ではありますが、生きることはどちらかという と下手です。文章もロックンロールしていければ良いなぁ。「ものや写真、少し はカルチャーのことなんかを書いていきたいですが、お酒のこと、下ネタも好き なんで、お付き合いください」
http://blog.livedoor.jp/rayandloverock/
パリの街角、ル キャバレーとペティアン。
2012.07.06
パリには久しく行っていない。
朝、窓から下を見下ろすと道路に設置された水を流す栓を空けて、掃除するあの光景も、昼、天井からこぼれる光に包まれたパサージュ(アーケードのパリ版)で見たマジックショーの小屋やインド料理の空間も、夜、光と闇のコントラストがまるで絵の世界に浮かぶ町で無邪気に笑うパリジェンヌが集うカフェも、もうしばらく見ていない。
なにか、欲求が谺するように、最近パリに飢えている。「行きたい」とかいう生易しいものではなく、体の一部が満たされていないような錯覚に陥るほど、パリ、そしてフランスにこの足を踏み入れたい。あの、街路樹の道を、セーヌの畔を、乾いた空気のちょっとだけ埃っぽい道を、口笛でも吹きながら、スニーカーで歩きたい。
道をそぞろ歩きしていると、ふとカフェがある。細い道に鍵の形をした看板がある。わかっているけれど、その刹那に「ああ、鍵屋さんがあるのだなぁ」と心で呟いてしまう。小さなアーチをくぐると白い壁が連なっている。風景に混じり合いながらパーキングがある。あの角を曲がると、今度は何を見せてくれるのだろう。パリという町は歩くものに期待をさせる。
あの街角はパリにしかない。
パリの質感が好きだ。
東京は元代々木に物語を移す。ル キャバレーという名のカフェ。その佇まいはパリからやって来た、もしくはパリの街角から切り抜かれた店だった。
はじめから、まさに一目惚れ。
はじめて、パリに行ったとき、シャルルドゴール空港からパリの北駅前のホテルに着いた、あの感覚が蘇る。
その店に行くのに、ぼくは代々木公園駅と代々木八幡駅、このどちらかから行くのが好きなんだけれど。――地下鉄なら代々木公園駅、小田急線なら代々木八幡駅な訳なのだが。最寄り駅は代々木上原駅なのかもしれない。
好きな理由は道にあった。
小田急線の踏み切りを渡ると、線路沿いから外れるように道が大きくカーブする。直角ではない、カーブというこの道とあまり明るくない街路灯のバランスが日本を忘れさせてくれる。
薄暗さは七難隠すというか、町に彩りを想像させる。本当はないものまで想像させるのだ。
色を想像してみる。薄暗いから、壁はベージュにしておこう。窓枠もほとんどアルミサッシだと思うけれど、ミッドナイトブルーになっていたり、マットグレーになっていたり。ぼくの目には、この町並みがパリになる。
ちょっと上を走る小田急線も、パリの外れでトンネル以外を走るメトロ!
おお! ここはパリなのだ!
そして、Tの字のクロスロードを左に折れると、また風景が変わる。ありがたいことにインテリアショップのドア、数件あるバーもなぜだかパリの喧騒から抜け出してきたみたいだ。
そして、おぼろな裸電球が見えたとき、ぼくはほっとするのだ。
ル キャバレーが、今宵に色彩を与えてくれる。
La vie en rose.
シャンソンの調べが耳を通りすぎると、ぼくはいつものようにマダムにお願いする。
ペティヤンという人もいるが、ぼくはペティアンと発音するほうが好きだ。単純な音の響きの差なんだけれど、フランスの匂いがペティアンのほうが強い気がする。おそらくぼくの勝手な思い込みなんだろうけれど。
言葉のことでいうと、このペティアン、何となくなんだけれど、女の子が頭に浮かんでくる。リセエンヌとかパリジェンヌとか音の響きはまったく違うのだけれど、優しい音の耳障りが女の子なんだと思ってしまう。これもまた、ぼくの勝手な思い込みなんだけれど。
話を自ら腰を折る感じなのだけれど、日本語で「女」といって、イタリア語では「DONNA」。Dを抜いたらONNAになる。まあ、貴婦人とか女物の意味らしいけれど。こんな偶然も不思議だなぁ、と。こういう偶然は、まあ珍しいわけでもなさそうだが、フランス語ではFEMME。あまり関係がないようなんだけれど、言葉とは常々不思議な道具だなあ、と思うのはぼくだけなんですかね?
ときどき、ドキドキ。全然関係ないけれど。
話は戻って、リセエンヌみたいなかわいらしい名前のペティアンです。
「ル キャバレー」は行っていただけると、そして、パリに行ったことがある人ならば、本当にパリの街角に、どこにでもあるようなカフェが、日本の普通の町にこっそりとやって来て、「KONBANHA TOKIO!」と言っているようなお店です。――とはいえ、こんなささやかだけれど、素敵な店をパリで見つけるのは難しい。
はじめて、この店に連れていってもらったとき、最初に飲んだお酒がペティアンだったのだけれど。(ラベルだけを撮った写真がそれ)ある種トロリとした舌触りがあって。優しい気分になったことを思い出す。あとで知るのだけれど、このペティアンの名前は「女の子の罠」というらしく、日本酒でも「おんな泣かせ」「くどき上手」とかあるわけで、どこの国でもお酒は愛を語るのに大事な仲介役を果たしているんだなぁ、と思うことしきりです。
ペティアンは微発泡のワインのことで、どんなものでも手に入るといわれる、大都市東京。そんなメガシティ東京の酒屋でも滅多にお目にかかることができないペティアン。――要はまだまだ輸入が追い付いていない、ある意味新しいお酒だと思っていただけると幸いです。
一口にペティアンといっても、作り手によって、もちろん葡萄の品種によって、その味わいはかなり違う。きちんとスッキリした白ワインベースが多いのだけれど、なかには滓もあるロゼもあり、ペティアンはさまざまな顔がある。
ぼくは家でもときどきペティアンを飲む。家の近所にホントたまたまの偶然なんだけれど、ペティアンを取り扱う稀有な酒屋さんがあって、家族の誕生日とか、一年の始まり、特別な日なんかに買ってくる。
冬には冬の味わいがあって、クリスマスもシャンパンからペティアンに変えたくらいです。それはそれで楽しいし、美味しいんだけれど、夏、ル キャバレーのテラス――あれをテラスと言って良いのだろうか?――で空けるペティアン、ちょっと蒸し暑いんだけれど、ほどよい炭酸が涼を誘ってくれる。
そして、勘違いしてしまう。ここは、パリなんだと。パリの暗さと、パリの光、パリの街角と、パリのカフェ。
ペティアンの罠にハマる。
La Vie en rose.が聴こえてくる。それはぼくの中のおとぎ話。空想のエディット ピアフ。
パリがまた恋しくなる。
※ペティアンの写真をアップしようと思ったのだけれど、コード忘れてしまいました。更新して写真をアップしますので、よろしくお願い申し上げます。
ル キャバレー http://tabelog.com/tokyo/A1318/A131810/13014486/