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Ray and LoveRock「写真を撮る人」Ray and LoveRock(れい あんど らぶろっく)写真を撮る人、ファッションエ ディターでもある人。フツウの人ではありますが、生きることはどちらかという と下手です。文章もロックンロールしていければ良いなぁ。「ものや写真、少し はカルチャーのことなんかを書いていきたいですが、お酒のこと、下ネタも好き なんで、お付き合いください」http://blog.livedoor.jp/rayandloverock/

紙飛行機で宇宙旅行。 --ものについて。時々酒と、下ネタと。--

Ray and LoveRock
「写真を撮る人」
Ray and LoveRock(れい あんど らぶろっく)写真を撮る人、ファッションエ ディターでもある人。フツウの人ではありますが、生きることはどちらかという と下手です。文章もロックンロールしていければ良いなぁ。「ものや写真、少し はカルチャーのことなんかを書いていきたいですが、お酒のこと、下ネタも好き なんで、お付き合いください」

http://blog.livedoor.jp/rayandloverock/

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「きらいは好きになる。好きはきらいになる。」

2012.07.27

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 昨日まであまり好きではなかったものが、ある日、まるで宇宙から降ってきた赤ん坊を自分の子だと信じ込んで、宇宙人を愛する子のごとく育てたくなるみたいな、そんな気持ち。それ以上に、今まで嫌いだった――もしくは決して好きではなかったものが――手の平を返すが如く(普通はマイナスの意味に使うことが多い慣用句ですが)好きになってしまう。そんな心のささやかなレボリューションを持ったことがありますか? ぼくはあります。それもごくごく最近のことなので、ちょっと書いてみます。

 まあ、そういう愛着の心模様には偶然みたいなものが加味され、ますますその気持ちを高めてくれるわけである。そんな偶然を演出したのは、ぼくの友だちで、主演は車であった。

 なんとなくだけれど、いろいろな理由があって、車があっても良いかもなぁ、なんてそぞろに思っていた。もちろん、便利だとか、行動範囲が広がるとか、最近マイブームの家具作りのときも、さっと材木とか買いに行けるから良いなぁ、とか思っていたのである。

 言い換えれば、それくらいの車に対する欲求は、あまりにも普通で、あまりにも単純な使い勝手を求めていたくらいで、車の種類も「なんかエコなのがあると」とか、「広いのが良いなぁ」とか、「日本車かなぁ」とか、まあそんな程度であった。つまり、あわよくば手に入れられればそれで良い、くらいのささやかな願望であった。

 そんなときに限って、「あわよくば」は訪れるのである。

 友だちでスタイリストなどをやっているJ(あくまでもあだ名の頭文字)という男がいる。自分もファッションをしているものの、Jとは住んでいるところが東京都目黒区と長野県の伊那地方くらい違うというか、動物の種別の違いというか、水中に棲む動物と空を飛ぶ動物の違いというか、ぼくとは畑違いのファッションをしている感じで、少しは仕事をしたことがあるのだけれど、それでもなかなか仕事で一緒になることは少なかった。

 仕事では一緒になることが少なかったけれど、機会あるごとに顔を会わせ、お互いを確認し合うようなぼくにとってありがたい存在の友だちでもあった。

 そんなJが、インターネット上で繰り広げられている友だちネットワークで「車はいらんかね? 差し上げます。10年落ちです。とはいえ美味しい話には裏があるもので、快適に乗るためには40万円くらいかかりますよ」ということを呟くように公開していた。そこに真っ先にヒットしたのは、"あわよくば俺"――どなたかペンネーム、もしくは芸名でお使いになりませんか?――だった。

 いろんなことは考えるものの――実は何も考えていないのだけれど――まあ、タダというならば、車のひとつでも持ってみるのも悪くないな、と閃いた。こういうときは何事も閃きや思い付きが大事であることは間違いない。――それで失敗もたくさんしているのだけれど、それでも大事です――

 そんなわけで、Jに公開されないメールを投げ、電話で確認をして、もらう方向でいろいろとリサーチをし始めた。

 ミニバンみたいなのがほしいなぁ、と思っていたので、ツーリングワゴンであることは少し気になったが、それも乗ってみてかな、と思った。

 ぼくにとって一番の気になる部分は車のメーカーだった。

 なんか、こう、自分が乗るにはあまりに派手な気がしたのだ。だってさ、BMWだよ。ミニクーパーとか、ジープとか、古いシボレーとかは気になるけれど、まさか、自分がBMWなんてブランドものに乗るなんて、考えたこともなかったです。

 それと、豚の鼻みたいなグリルも好きではなかった。この豚の鼻、調べるうちにわかったのだけれど、「キドニーグリル」といわれていて、腎臓の意味らしい。

 とはいえ、どう見ても豚の鼻なんだけれどね。

 実際、車を悩んで、BMWに乗っている人の話を聞き、先輩の意見を伺って、次の日にはもらうことを決めました。

 まさにトントン拍子とはこの事、くらいに迷いなく進む。世の中のいろんなことがこれくらいスムーズに進めばなんの苦労もしないんじゃないか? 世の中はもっと良くなるんじゃないか? というくらいスムーズにことは運びました。

 修理には結構な時間がかかると言われ、待つわけなんだけれど、これが待ち遠しい。車って、新車でも買うことを決めて、すぐ乗って帰れるわけではないじゃないですか? あれが、いかんですね。気持ちが入ってしまう。

 郷ひろみさんの曲に「会えない時間が、愛育てる」なんてありましたが、そんな感じで車も、もう買っちゃった車のパンフレットを納品まで何度も開いて見ちゃうんですよね。ぼくの場合は中古自動車のサイト。何度も何度も見ちゃって、「早く来ないかなぁ」と思っていました。

 恋する時間なんですね。

 この頃にはすでに豚の鼻と思っていないのですよ! 痘痕も靨(あばたもえくぼ)とはまさにこのことですね。

 写真にポーッとしている。

 それからも手間がかかるわけですよ。駐車場を見つけたり(実家の間口が狭く家に車庫を作れない)、印鑑証明を取りに行ったり、なんだかんだといろんなところに足を運んでは、契約したり、お願い事をしたり、知らない人と話さなければならないこともあったり、と。

 この手間がいけないね。恋が深くなってしまうわけです。

 「自慢の愛車」なんていう言葉があるけれど、ぼくにしてみると、いままでも自分の手に負える好きな車を持ってはいたものの、なんというんでしょうかね、愛車といえたかどうか。今まで乗ってきた車は2台だったけれど、その車たちにはもちろん、一緒に楽しみ、一緒に生活の一部を共有してきた。だけれど、そこに愛車という言葉が適切か、と問われれば、ぼくはそこまでの愛着を持っていたのか、自信がない。

 今回だって、愛車という言葉が合うのかどうか、まだぼくにはわからない。

 だけれど、この車は今までにないことがいろいろと訪れる。

 まず、ちょっと変わった方(頭文字はK)に修理をお願いしていたので、納車が夜。

 夜の10時にKさんから電話がかかってきて、自分の駐車場付近に向かう。一方通行をじわじわと逆走するBMW――ぼくの家のあたりはとても道が狭い――。それがKさんとの初対面。

 夜の道でいろんなご注意を受ける。こういう機能があって、こうするとこうなる、みたいな話を、蚊がブーンと飛んでくる中で聞くわけです。そして、一通り話が終わると、駐車場に戻っておしまい。

 「エンジンは今が一番良いですね」

 と太鼓判を押していただいたわけである。

 が、しかし、である。

 早速、問題が起こる――さすがは10年落ちである――。

 初めて走った日は、なんていうか、エンジン音が「シュー」みたいな音で、どこかのサイトで読んだのだけれど、BMWのこのタイプは「シルキー66気筒)」というらしく、音が静かなのが特徴らしい。

 だが、その日のぼくのやつは違った。

 なんだか、ぼぼぼぼぼと音もうるさく、車の振動も大きい。メーターにはエンジン警告灯が! 

 壊れたかな??? と思ってKさんに早速電話。

 即効で動かなくなるわけではないらしいが、なんか不具合があるみたい。そりゃそうだろう。昨日までのシューーーーエンジンと打って変わって、ぼぼぼぼぼだもの。

 しかし、ちょっと走っているとシューーーーーに戻る。

 そんなわけで、また夜にKさんとあって、工場に行くわけである。一通りエンジンをクリーニングしてもらって、戻ってくるがやや原因不明。

 そんなこんな1週間くらいで、また、シューーーーーが戻ってきた。

 が、またしてもぼぼぼぼが始まる。が、今度はすぐに収まり、エンジン警告灯も問題なし、と勝手に判断したのか、消えてしまった。

 しかし、10年落ちである。立て続けに事は起こる。

 今度は助手席のパワーウインドウが途中で止まって、動かない。さっそくKさんに電話。

 この時点くらいから、Kさんこそが愛車ではないか? というくらい、信頼のある人と化している。

 そんなわけで、56万円かかるといわれ、修理をお願いする。

 またしても夜の10時に駐車場でKさんと状況話しつつ、キーを渡す。

 エンジンをかけて、駐車場から出て行くKさん。車の後ろを見送るぼく。テールランプがやけに眩しくて、なんだか、夜のBMWがきれいに見えた。

 「良い車だなぁ」

 そんな風に別れ際に思うぼく。

 いつの間にか、彼女と駅のホームで別れる瞬間みたいに、センチメンタルになっているぼくがいた。