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COLUMN

Curry Flight

文・写真:カレー細胞

ラーメンと並ぶ日本のソウルフード・カレー。こと近年は、めくるめくスパイスの芳醇な香りにトバされ、蠱惑の味わいに心を奪われる“中毒者”が後を絶たない。そして食べると同時に、語りたくもなるのもまたカレーの不思議な魅力だ。この深淵なるカレーの世界を探るために、圧倒的な知識と実食経験を誇るカレー細胞さんに、そのガイド役をお願いした。カレーは読み物です。
 
カレーを巡る、知的好奇心の旅。
今日もカレーで飛ぼう。知らないどこかへ。

第1便 麻婆豆腐はカレーか否か。

わたくし、カレー細胞という名前であちこちにカレー情報を発信しております。連載第一回目はまず、そもそも「カレーとは何か」についてTRIPしてみたいと思います

「カレーとは何か」。美味しんぼの海原雄山のセリフともなったこの問いに答えるのは容易ではありません。

 

みなが何気なく使っているカレーという言葉ですが、では「おうちのカレーライス」と「インド料理店のバターチキンカレー」と「タイのグリーンカレー」と「昔ながらの喫茶店によくあるグリーンピースたっぷりのドライカレー」に共通して言える“カレーの定義”とは何でしょう?

 

カレー粉? いやいやインドのカレーはスパイスから作りますよ。じゃあ、ターメリック? いやいや、タイのグリーンカレーには入ってませんし…、では一体?

 

強いていうなら「火で熱し」「唐辛子を用い」「クミンやフェンネルなどセリ科のスパイスを用い」…くらいでしょうか。

 

そこで浮上するのがタイトルにある「では、麻婆豆腐はカレーか否か」という新たな問いなのですね。確かに麻婆豆腐という料理、作り方はまさにカレー。用いられるミックススパイス五香粉にはしっかりフェンネルも入っていますし…。

 

けれども私たちは麻婆豆腐をカレーとは認識していません。

「麻婆豆腐はカレーじゃなくて中華料理だよ」、いやいや、中国にもカレーライスはあるし、その理屈で言えば「グリーンカレーはカレーじゃなくてタイ料理だよ」となります。ホント難しいですよね。

 

では、「カレーとは何か」?

 

ここからは私の超主観的なハナシになります。異論反論全然OKです。

「カレーとは何か」に対する私の答えは2つ。

まずひとつめ。

「カレーとは、記憶」。

 

われわれ日本文化で育った者は、ほとんど皆と言っていいくらい子供のころにカレーライスを食べています。実はこの、脳裏に焼き付いた「カレーライスの記憶」こそが、対象をカレーであるか、そうでないかを認識する際の基準になっているのではないでしょうか。 「めっちゃカレーやん」とか、「カレーっぽくないね」とか、その判断は理屈じゃなくて感覚。だからタイ本国で「ゲーン=汁」にカテゴライズされるゲーンキョワンをグリーンカレーと呼んだり、記憶の中でカレーと同じくらい強力な食ジャンルである「中華料理」に含まれる麻婆豆腐をカレーじゃないと言い張ったりするんじゃないでしょうか。

「カレーの記憶に基づいて、それをカレーと認識したらそれはカレー」というわけです。

「なんだ、テキトーな答えだな」と思うかもしれませんが、分類なんて案外そんなもの。

生き物の世界でも、蝶と蛾を区別する定義が実は存在しなかったりするんですから。

「カレーとは何か」という問いのもう一つの答えは、ちょっとロマンティック。

「カレーとは、香辛料を介した文化のごった煮である」。

日本におけるカレー文化は、英国からやってきました。その元をたどれば、英国によるインドの植民地支配、さらに遡れば香辛料貿易が熱を帯びていた大航海時代にルーツを見ることができます。

南米原産の唐辛子がインドに伝来したのは16世紀のこと。それまで黒胡椒が用いられていた料理に唐辛子が使われるようになりました。

カレーの母国といわれるインドですら、はじまりは異文化ミクスチャーであったと言えそうです。

それだけではありません。中東から攻めてきたイスラム系のムガール帝国によって多くの北インドカレーが生まれ、タイ南部のムスリムによってマッサマンカレーが生まれ、英国のカレーが日本のごはん文化と融合しカレーライスが生まれ、さらに洋食文化と結びつきカツカレー、うどんと結びつきカレーうどんが生まれ…。

異文化を大胆に取り入れるたび、新しいカレーが生まれてきた経緯を見るにつれ、「カレーと何か」の問いに対し、「カレーとはこうでなければならない」という定義が存在しないことが、逆に頼もしく思えてくるのです。

つまり「カレー」とは、スパイスを介してどんな異文化をも受け入れることができる、いわば食のダイバーシティー。

進化し、変化すること自体が、カレーの本質的な意義であるようにすら思えるのです。

脳が「カレー」と認識すればカレー。故に引き出しは無限大。

実際、今も次々と、異ジャンル融合のカレーが登場し、私たちを驚かせてくれています。

南インドカレーと台湾の魯肉飯を融合させた東京・大久保の「魯珈」、沖縄料理とカレーを融合させた福岡「ユクル」、フレンチとの融合が楽しい大阪「スパイス料理イデマツ」。

フレンチとスパイスカレーの融合
「スパイス料理イデマツ」

 

そして冒頭の「麻婆豆腐はカレーか否か」の問いに真っ向向き合い、カレーらしい答えを出したのが「麻婆カレー」という料理。

つまり麻婆豆腐を、脳がカレーと認識できるようアレンジした料理なのですが、大阪では「林家」というお店の人気メニューだったのが先日「My name is りんりん」という店名で復活。

復活した「My nane is りんりん」の「麻婆カレー」

その他、福岡「アフターグロウ」、大阪「八戒」、東京「カリガリ」や「源来酒家」などでも絶品麻婆カレーをいただくことができます。

「八戒」では麻婆カレーはじめ
中華×スパイスの融合が楽しめます

「源来酒家」の名物は「麻婆咖喱麺」

「魯珈」の限定「麻婆豆腐咖哩」
つまり南インド×台湾×麻婆豆腐!

こうなるともう、「麻婆豆腐はカレーか否か」なんてどうでもよくなってきますね。

いや、ホントはどうでもいいことではなくて、こうやって思索をめぐらすこと自体がとっても楽しかったりするんです。

 

無限の可能性を秘めた食のダイバーシティー「カレー」。

次回は どんな Flightをしてみましょうか。

PROFILE

松 宏彰(カレー細胞)
カレーキュレーター/映像クリエイター

あらゆるカレーと変な生き物の追求。生まれついてのスパイスレーダーで日本全国・海外あわせ3000軒以上のカレー屋を渡り歩く。雑誌・TVのカレー特集協力も多数。Japanese Curry Awards選考委員。

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