CLOSE
COLUMN

Curry Flight

文・写真:カレー細胞

ラーメンと並ぶ日本のソウルフード・カレー。こと近年は、めくるめくスパイスの芳醇な香りにトバされ、蠱惑の味わいに心を奪われる“中毒者”が後を絶たない。そして食べると同時に、語りたくもなるのもまたカレーの不思議な魅力だ。この深淵なるカレーの世界を探るために、圧倒的な知識と実食経験を誇るカレー細胞さんに、そのガイド役をお願いした。カレーは読み物です。

カレーを巡る、知的好奇心の旅。
今日もカレーで飛ぼう。知らないどこかへ。

第19便 カレーとスパゲティ。

ふと、カレーとスパゲティは似ている、と思った。
パスタじゃなくスパゲティ。

「子供から大人までみんな大好き」
「一皿で満足満腹」
「給食でも人気メニューだったなぁ」

というところも似ているし、

「銀のお皿が似合うんだよなぁ」
「白い服着て食べたらヤバいよ」

ということや、

「インドには日本みたいなカレーライスはないんだよ」
「ナポリには日本みたいなナポリタンはないんだよ」

というところまで。

日本人にとってカレーとスパゲティは、どうやら立ち位置が似た食べ物のようですね。

明治時代にやってきた2つの「西洋料理」。

CurryもPastaも、日本にやってきたのは100年以上前。明治時代だといわれています。
仮名垣魯文による西洋料理本『西洋料理通』(1872年/明治5年)にいずれも記述が見られるのです。
その後、カレーとスパゲティはハイカラな西洋料理として親しまれただけでなく、街の洋食屋さんや喫茶店の定番メニュー化、缶詰やレトルト使用による家庭への普及、給食をはじめとする「お子様メニュー」の定番となるなど、日本を代表する「庶民派洋食」への道を歩んできました。

もはや日本料理??

「カレーの本場はインド」「スパゲティはイタリア料理」とはよく聞きます。ですがインドではほとんどの料理にスパイスを用いはするものの「カレー」というジャンルの料理が存在するわけではありません(海外へ紹介する際、特定の料理をCurryと訳すことはあります)し、「ナポリタン」や「明太子スパ」などスパゲティの定番は日本で生まれたものです。
様々な異文化を取り入れながら、日本独自のカタチへとアレンジしていく。島国日本が最も得意とした技で。
いまやカレーもスパゲティも、日本独自で進化した「日本料理」の域に達していると私は思います。

カレーとナポリタンの合いがけ「カレナポ」。東京馬込「カレのナポリ」でいただけます

カレースタンドとロメスパ。

日本を代表する大衆洋食となり、国民の大多数に愛されてきたカレーとスパゲティ、手軽にサッと食べられて、美味しくしっかりカロリーの摂れるビジネスランチとしても好まれてきました。
昭和の経済成長期にはビジネス街や駅前にはカレースタンドが次々登場し人気に。

新宿「11イマサ」は創業1964年。今でも一日1000食売り上げるビジネスマンの味方

「待ち時間0分」がウリの御徒町「サカエヤ」は1974年創業

一方のスパゲティも1952年の「Hole in the Wall」(後の「壁の穴」)開店を皮切りに専門店が登場。1980年創業の「ジャポネ」はカレースタンドのスパゲティ版ともいえる手軽さで後に「ロメスパ」(路麺スパゲティ)のパイオニアと称され、ひとつのムーブメントを生みました。

「ジャポネ」は銀座インズ3で今も元気に営業中

白いシャツにシミを作るリスクにも拘わらずビジネスマンに愛されてきたカレーとスパゲティですが、実はその弊害もあります。大衆化され、レトルトなどの技術で自宅でも簡単に美味しく作れるようになったことから、外食におけるステイタスを高めることが難しくなってしまったのです。

例えば、取引先との会食・接待にカレー屋さんやスパゲティ屋さんを選ぶ人は少ないでしょう。イタリアンを選ぶ人は多いのに。ここが日本における「パスタ」と「スパゲティ」の決定的な違いだと言えます。
カレーやパスタ単品に1000円や1500円以上払えない、という人が多いのも同じ理由だと思います。

カレーとスパゲティの強力タッグ!“カレースパ”。

そんなカレーとスパゲティの共通インサイトは、ひとつの無敵メニューを生み出しました。
それが“カレースパゲティ”です。

インドから英国を経由し日本で進化したカレーと、イタリア料理をベースに日本で進化したスパゲティ、その組み合わせはまさに日本食文化の粋。そう考えるとちょっとヤバい料理だと思いませんか?

せっかくなので、私がおすすめするカレースパゲティBEST3をご紹介してみましょう。

おすすめカレースパ その1 「ジャポネ」のインディアン。

やはり外せないのはロメスパの祖「ジャポネ」。
鉄板で焦げ目がつくほど炒めたアッツアツのスパゲティは、アルデンテの真逆を行くモチッと柔らか。ドロッと濃厚なカレーがたっぷりかかっています。イタリア要素もインド要素も限りなくゼロに近い、ニッポンB級グルメの王様です。

おすすめカレースパ その2 「インディアンカレー」のインディアン。

はじめ甘くて後から辛い、大阪甘辛カレーの大本命「インディアンカレー」にもスパゲティメニューがあります。少し焦げ目がつきザラっとした食感の麺に絡む甘辛カレー。ゴロっとした牛肉の塊も贅沢で、もはや芸術品と言える完成度。関西だけでなく東京でも丸の内、大手町の2店舗があるので、是非お試しを!

おすすめカレースパ その3 「談妃留」のインデアン。

3つめのオススメは福島県・飯坂温泉にある老舗喫茶店「談妃留」(だんひる)。
ここの名物である「インデアン」は鉄鍋で炒めた麺のアッツアツ感、しっかりとした旨味のカレーソースとバランスが完璧。温泉街のご当地キャラプロジェクト「温泉むすめ」における飯塚温泉のキャラクター飯坂真尋に「好きなもの:インデアン」と設定されるほどコアな支持を集めているんです。
他に飯坂温泉のご当地グルメといえば「円盤餃子」が有名ですが、実はこの「談妃留」でも裏メニューで提供されており、地元人気ナンバーワンなのだそう。面白いお店です。

嫌いな人を見つける方が難しい、カレーとスパゲティ。
当たり前のようにそこにあるから気付かないけれど、世界的に見ると貴重な、日本の誇る食文化なのです。
いまこそ、その価値を見直してみたいもの。

さて、次回はどんなFlightをしてみましょうか。

PROFILE

松 宏彰(カレー細胞)
カレーキュレーター/映像クリエイター

あらゆるカレーと変な生き物の追求。生まれついてのスパイスレーダーで日本全国・海外あわせ3000軒以上のカレー屋を渡り歩く。雑誌・TVのカレー特集協力も多数。Japanese Curry Awards選考委員。毎月一店舗、地方からネクストブレイクのカレー店を渋谷に呼んで、出店もらうという取り組み「SHIBUYA CURRY TUNE」を開催している。

このエントリーをはてなブックマークに追加

連載記事#Curry Flight

もっと見る