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COLUMN

monessay

文:蔡 俊行

フイナム発行人、フイナム・アンプラグド編集長である蔡 俊行による連載企画「モネッセイ(monessay)」。モノを通したエッセイだから「モネッセイ」、ひねりもなんにもないですが、ウンチクでもないのです。今回は〈テキスト(Text)〉のニットについて。

  • Text_Toshiyuki Sai
  • Photo_Kengo Shimizu
  • Edit_Ryo Komuta, Rei Kawahara

第三十八回もうこれ以上ぼくらをいじめないで

年季の入ったおんぼろグルマに乗っている。生産されたのは半世紀前。まだビートルズが活動しているころである。かなり老体であちこち不具合があって、あたりまえだがクーラーもないので、年に数回しか動かせない。春と秋のきわめて短い時期がちょうど乗り頃だ。

先日、近隣国への出張があり、成田へ行くことになった。ちょうど即位の礼に重なってリムジンバスは、最寄り停留所をスキップというダイヤになっていた。鉄道は成田エクスプレスはまったく時間が合わず、西日暮里から京成ライナーを使うのがもっとも効率がいいと路線アプリが教えてくれた。

飛行機の時間を照らしてみると、朝の猛烈なラッシュ時間に西日暮里まで荷物を持っていかなくてはならない。これは大変だ。通勤の人たちにも迷惑だし、クルマで向かうことにした。しかし他のクルマもタイミング悪く入院中で、そのおんぼろしか使えるものがない。果たして成田まで無事着けるのだろうか。

それはもうどきどきする経験だった。

朝高速に乗ろうとすると有明あたりで事故渋滞があり、入口閉鎖であった。仕方なく芝公園まで下道走り合流し、「yahoo! ナビ」に導かれるまま、銀座、箱崎経由で京葉道路というちょっと大回りをしたが、ほとんど混雑や渋滞がなくてスムーズだった。気づいたらゴール。

そして10月25日の金曜日、成田に戻ってきた。向こうに滞在中から台風がきていることを知っていたので、天気予報だけはネットで確認していた。頭に浮かんだのは台風15号。暴風雨とその後の水害のせいで成田から都内へのアクセスが寸断され、多くのひとたちが成田で一夜を明かしたニュースだ。後輩の家族はニューヨーク行きに乗り遅れ、2日間成田で待って次の便に乗ったという話も聞いている。それ以前に、成田に到着できず、どこか他の空港におろされるという可能性もある。

直前の予報では、大雨の予報ではあるが、台風は直撃しないということで飛行機は無事成田に着きそうだということで一安心なのだが、おんぼろ号が果たして雨のなか大丈夫なのかという不安は常に腹の底に水銀のように沈殿していた。

成田到着がちょうど昼前。そしてクルマをピックアップしたのが、昼過ぎ。すでに成田地方は大雨で、同行のスタッフに予報ではこの後雨脚が弱まるんじゃないか、ランチしよう、なんて話していた。しかし一抹の不安というか第六感がランチ無しを選択し、そのまま東京へ向けて運転することに。

高速道路のところどころに水溜りのようなものができていて、先行車や並行車、あるいは反対車線からの水しぶきがどんどん飛んでくる。なるべく他のクルマとは距離を空けてゆっくり運転するしかない。スピード出すと、水たまりでハンドルが取られる。免許取った時に習ったハイドロプレーニング現象なんて言葉も頭をよぎる。

しかしどういうわけかおんぼろ号はものすごくいい調子。エンジンは快調に回るし、安定している。  ちょっとつかえたものの無事帰ることができた。緊張ですこし肩は凝ったものの、14時前にはオフィスに戻ってこれた。

後で聞いた話では、我々が通りすぎた後すこしして東関道は通行止めになったという。ここが通行止めになるとリムジンバスも動かない。さらに鉄道も不通になって5000人ものひとたちがまた成田で立ち往生したという。

我々はちょっと幸運だった。

しかし台風15号といいこの度の21号といい、千葉県をはじめとする多くの地方都市に大きな災害をもたらした。少なくない人たちが亡くなり、多くの財産が奪われた。

専門家によるとこうした災害は今後少なくなるどころか、さらに多くなるのではないかという。ひとつは気候変動に関連するものだ。

こうして災害とかを目の当たりにすると、いよいよこうした環境問題に関心を持たないといけないと思う。もし今回の50年に一度のスーパータイフーンが毎年2個も3個も来るような未来になったら。

そういうわけで、今回はそうした問題に真摯に向き合っているブランド〈テキスト〉からアルパカのセーターを選んでみた。デザイナーの石川くんは個人的にも付き合いがあるので、彼がなにをやっているのかよく知ってる。このブランドは彼が本気で持続可能な社会のために服づくりにできることを研ぎ澄ませて追求しているもの。世界中の生産者に会いに南米などに行ったり、それをドローン撮影したり、アルパカやビキューナを追いかけたり、不通の服屋さんの動きではない。それがおもしろい。

きっとグレタ・トゥーンベリさんも褒めてくれると思うよ。

¥30,000+TAX

デザイナーの石川俊介がサステナビリティの観点に重きを置いてスタートさせたブランド〈テキスト〉。本来交わる機会の少ない世界各国の牧場や畑に足を運び、生産者と直接コンタクトを取るこだわりで服づくりを行なっている。

PROFILE

蔡 俊行
フイナム発行人/フイナム・アンプラグド編集長

マガジンハウス・ポパイのフリー編集者を経て、スタイリストらのマネージメントを行う傍ら、編集/制作を行うプロダクション会社を立ち上げる。2006年、株式会社ライノに社名変更。

INFORMATION

alpha PR

電話:03-5413-3546

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