第五十七回メガネの民主化。
視力はいい方だ。いやだった、と書くべきか。
学生時代は両目とも2.0。その先さらに検査ができたならもっといい成績をあげられたかもしれない。
『ブッシュマン』という映画があった。ボツワナ共和国の砂漠に住む人(ブッシュマン)たちの生活を面白く取り上げた映画で大ヒットした。この流行の中でブッシュマンの視力は4.0なんてささやかれていて、ガキだった頃、それなら自分は2.5はあると信じていた。
とにかく見えるのだ。
野球や劇場などで双眼鏡やオペラグラスを使う人がいるが、まったく意味がわからなかった。なんせ見えるからね。ちょっと借りてみてもただ拡大されるだけで手元のグローブのメーカー名や、劇中の本のタイトルなんかも裸眼で軽く読めた。わざわざ拡大する理由がない。
35歳くらいを境に視力は低下しはじめた。乱視が入ってきて、左右で見え方が違うようになった。そこでファッションも兼ね、メガネを作ることにした。その時やっていた連載の担当編集がその雑誌のメガネ担当だったので話を聞き、某メーカーで黒セルフレームの矯正メガネを作った。それからしばらくの間はこの黒セルがぼくのトレードマークのようになった。スタッフに似顔絵を描かせても、だいたいメガネをかけている姿になる。視力はそこまで悪くないんだが、イメージというのは思いのほか強烈で、いつの間にかぼくは視力の低い人と見なされるようになった。
その後視力は徐々に、静かに低下していき、いまでは運転免許の条件欄にぎりぎり記載されない程度である。数年前、アメリカで免許を取った時は時差と疲れで目が霞み、あやうく落とされそうになった。最後は勘で当てたのだが。
上でも書いてるように30も後半になってからのメガネ利用者だから、メガネを作るコストの高さというものにまったく実感がなかった。視力が悪くなればなるほどレンズ価格は高くなり、それを薄く平らにするにはさらに何倍ものお金がかかるなんてまったく知らなかった。知られたメーカーのフレームにそれなりのレンズを入れると10万円近くかかると聞いたときには、視力の悪い人に同情した。
日本人には視力に問題を抱えている人は多い。自分が客じゃないとそういうことにまったく気にならないが、いまでは熱心なカスタマーであるから他人事ではない。
遠近両用のメガネをここ数年に一度、作り変えている。遠くを見たりちょっとした書類を処理するにはいいのだが、長時間の読書には向かない。レンズの下の部分でしかピントが合わないから、顔と本の角度が固定されてむしろ疲れる。なので家と会社には読書専用のメガネを用意している。読書専用なのに、黒セルフレーム。もっと軽いフレームのものにすればよかった。作り変えようにも、出費を考えるとあまり積極的にはなれない。
しかし今日では、そんな高価なメガネを入手しやすいようにリーズナブルな金額で提供しているメーカーがいくつか現れている。メガネを民主化したというか、メガネの〈ユニクロ〉というか。
そのひとつが〈ジンズ〉。
実は過去に一度、ここで作ったことがある。しかしレンズが強すぎて、返品し返金されたままだ。よくよく考えるとこれはすごい。合わないからといって作ったレンズでも返品できる。服じゃないんだから再販売できないのにね。ある種究極のカスタマーサービスだ。
運転用に新しいメガネが必要だな、なんて思っていたところに、ちょうど見かけたのがこの跳ね上げ式グラス。これはクルマを運転する時にちょうどいい。トンネルに入ってもカチッと跳ね上げれば安心である。
PROFILE
フリー編集者を経て、スタイリストらのマネージメントを行う傍ら、編集/制作を行うプロダクション会社を立ち上げる。2006年、株式会社ライノに社名変更。
JINS カスタマーサポートセンター
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