COLUMN

monessay

文:蔡 俊行

フイナム発行人、フイナム・アンプラグド編集長である蔡 俊行による連載企画「モネッセイ(monessay)」。モノを通したエッセイだから「モネッセイ」、ひねりもなんにもないですが、ウンチクでもないのです。今回は〈エイチ ビューティ&ユース〉のシャツです。

第五十六回コンサバなんです。

いろんな媒体でこうしたコラムを書きはじめてからもう30年以上になる。いちばん長く続いたのは「世界文化社」から発行されている『ビギン』という雑誌。連載タイトルは何度か変え、少しの休止期間もありながら、それこそ30年近く続けた。連載をはじめたのが20代の後半だったから、思えばずいぶん遠くまで来たもんだ。

それ以来のお客さんというか読者もたぶん少なくない。こんな駄文に長いこと付き合ってもらって感謝しかない。ありがとうございます。

長く付き合ってくれている読者の方々は、ぼくの個人的な嗜好をきっとご存知だと思う。毛糸のパンツが好きとか、そういう偏向した性的嗜好とかではなく、ファッションについてのポジションという意味だ。思想はリベラル、スタイルはコンサバティブ。なので20代から30年間、基本的に着ているものはほとんど変わってない。

アイテム名を挙げると、ジーンズ、BDシャツ、軍パン、ニューバランス。

久しぶりに会う知人などは、いつもまったく変わらないですね、と口にする。

いいのか悪いのかはさておき、若い頃の写真を見ても確かに同じかっこ、同じヘアスタイルである。

しかし、1980年代に履いていた〈リーバイス〉の「501」とここ最近履いている「501」では、サイズ感がちょっと違う。それは体型の変化だと勘ぐられるかもしれないが、どういうわけか体重は20代の頃と変わってない。だから時代の気分としてちょうどのサイズを選ぶか大きめにするか、その時々のトレンドみたいなものになんとなく影響されているのである。

ここ数シーズン、大きめなサイズがファッション人口に膾炙(かいしゃ)してきた。つまり流行ってきた。

たぶん2年ほど前から流行のアーリーアダプター層に浸透し始めたが、コンサバな自分としては動きは鈍い。雨が上がったあとのカタツムリが這うように、やっと去年の夏くらいからパンツもシャツも少し大きめなものを選ぶようになってきた。特にTシャツはそれまで着ていた〈J.クルー〉のピタピタを一切やめ、「ビオトープ」で売ってるデザイナー坂田真彦くんの作る丸胴のTシャツをヘビーローテーションしている。

なにが言いたいのかというと、30年間同じようなものを身につけていると言われるけど、時代によってフィットに変化をつけているのである。

たまに打ち合わせなどで六本木方面に出かけることがある。インテリジェントビル内や、商業施設で見かけるエセIT系というのか、携帯電話屋さんの店員さんというのか、そういう人たちはいまだにピッタピタのスーツをつんつるてんのパンツ丈で履いて、素足に尖ったシューズとか履いてる。ぼくにこんなこと言われたくないだろうけど、彼らはもう完全にアウトである。最近筋トレが流行っているが、特にむっきむきのお兄さんにこの手のスーツ姿の人が多い。ちなみにぼくの前パーソナルトレーナーがこれだった。なんだか性欲がむき出しに見えるんだな。心当たりのある人は注意したほうがいい。

で、この春から気に入っているシャツがある。

「ユナイテッドアローズ」の〈エイチ ビューティ&ユース〉の定番オリジナルのバルーンシャツというモデル。90年代の〈コム デ ギャルソン〉や〈ヨージ ヤマモト〉のイメージの大きめサイズで展開されているもの。まずストライプを手に入れ、調子がいいもんだから白とブルーも買った。

通常Mサイズだが、オーバーサイズ気味なモデルなもんで、そのまま着ると無理に若作りに見られそうなのでおとなし目なビッグサイズに見えるSサイズをチョイスしている。

秋もこのモデルの柄違いが欲しいなと問い合わせたところ、今回お借りできたモデルに変更になったという。見ると着丈がうんと長い。

だからさ、着るもんはコンサバゆーてるやん。こんなん着れませんよ、今年は。

と、ここまで書いたら編集長から「実は蔡さんの着ているものは定番として残るんです。WEB上で開催されていたプレスプレビューで紹介されていたのがこの新型、という立ち位置です」と連絡あった。

すこし安心しました。

¥22,000+TAX

〈エイチ ビューティ&ユース〉定番のバルーンシャツとは異なったデザインの、新型シャツ。生地はバルーンシャツと同じく〈トーマス メイソン〉の120/2ブロードを使用。英国調のワイドスプレッドカラーのシャツの着丈を伸ばしたデザイン。

PROFILE

蔡 俊行
フイナム発行人/フイナム・アンプラグド編集長

フリー編集者を経て、スタイリストらのマネージメントを行う傍ら、編集/制作を行うプロダクション会社を立ち上げる。2006年、株式会社ライノに社名変更。

INFORMATION

エイチ ビューティ&ユース

03-6438-5230

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