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第四十二回カルピスバター

死ぬ前に食べたいものは？

こんな話題で盛り上がったことは、きっと誰にでもある。

アメリカでは死刑囚は執行前夜に好きなものが食べられるという。ジェリービーンズを挟んだピーナツバターサンドとかハンバーガーとかを頼んで、家族と最後の夜を過ごすなんてシーンをCBSドキュメントのようなテレビ番組で観たことがある。

しかしあまり複雑なものは頼めそうにない。というか用意できないだろう。

仮に日本でもこうした制度があったとしたらさらに複雑になりそうだ。類なき多様な食文化が広がるこの国だ。地方独自の郷土料理なんてリクエストされた日には刑務官たちも大変だ。あるいはボルシチだのタジン鍋だの、海外ものだってありうる。

以前仲間内でこの話題になった時に、元オリーブのスタイリストのO尾が、「トースト」と言った。死ぬ前にトースト。そこはオリーブ少女で喫茶店好きを公言していた彼女である。確かにとんこつラーメンだの焼肉だのというイメージではない。

なのでこの話題になるたびにトーストが頭に浮かぶ。逆にトーストの話題になるとこの話を思い出すと言ってもいい。

このところずっとトーストがブームだ。ブームと言っていいのかどうか、定着しているものだしなかなかうまい表現が見当たらないが、トーストに深くコミットする人たちが以前よりも多くいて、それがものすごく熱心だというのは間違いない。特別で高級な食パンを売っているパン屋さんは増えているし、それを並んでまで買う消費者も多い。

さらには家電メーカーもトーストに特化した製品を出し始めている。きっと〈バルミューダ〉のトースターの影響によるものだろう。確かにこのトースターで焼いた食パンは美味しい。なんせ毎日これを使っているからわかっているのだ。

巷にはこれにインスパイヤされた家電が溢れ始めている。大手メーカーも地家電メーカーもこれに追随している。

そして大ラスで満を侍して登場してきたのが〈三菱〉のこの「ブレッドオーブン」である。〈バルミューダ〉のそれがトースト用に進化したとはいえ、いわゆるオーブントースターとしての機能もあるので他の調理にも対応できるのに対し、こちらはトースト一本勝負。いさぎいいというか何というか。これを製品化するということはそれだけ開発者たちは自信があるのだろう。

ぼくもトースト好きである。

高校時代のおやつはトーストにマーガリンであった。というのもぼくの育った西日本は神戸に本社のある上島コーヒーのお膝元。喫茶店ではいろんなコーヒー屋さんが特約しているが、やはり上島コーヒーが最もポピュラーであった。そしてこの上島が喫茶店に卸す業務用の大きな缶入りのマーガリンがあって、これが自分のフェイバリットだったのだ。お店によってはコーヒーは上島なのにこのマーガリンを使わない店もあって、そんな店のトーストはトーストと認めてなかった。

実家で姉が喫茶店を開いたときには、入り浸ってこのマーガリンに耽溺していたもんだ。トランス脂肪酸とかそんなのがない時代である。

人は食べるものによってできているという。それでいけば当時のぼくの体の半分はマーガリンであった。

いまではあのマーガリン、見かけなくなった。もしかするとあるのかもしれないが、自分の生活圏では見かけない。しかし新しいスプレッドに出会ったのでいまはもっぱらそれである。

カルピスバター。

フランスのエシレも好きだが、関税が高すぎて日本では買う気になれん。個人的にはむしろカルピスバターの方が美味しい。

この〈三菱〉のトースターの実力をカルピスバターで試してみたいぜ。