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COLUMN

monessay

フイナム発行人、フイナム・アンプラグド編集長である蔡 俊行による連載企画「モネッセイ(monessay)」。モノを通したエッセイだから「モネッセイ」、ひねりもなんにもないですが、ウンチクでもないのです。今回は〈エルメス〉の財布について。

  • Text_Toshiyuki Sai
  • Photo_Kengo Shimizu
  • Edit_Ryo Komuta, Rei Kawahara

第四十五回風水

占いが好きで一時ハマっていたことがある。占いといっても、恋だの愛だのではなく、おもに仕事に関すること。小さいながらも会社を運営していくと、大小の決断に迫られる。いろんな人にアドバイスを聞くのだが、意見もそれぞれで最終的には自分で決断するしかない。そんなときつい頼ってしまうのが占い師なのであった。

いろんな人から紹介してもらい、都内のあちこち、そして西は九州、四国まで足を伸ばしたこともある。根が凝り性というのもあるが、好奇心も強いのもどうかと思う。

いまはもうまったくそういういものに頼ることはなくなった。あちこち渡り歩いた結論がこれだ。

当たる当たらないよりも話を聞いてもらうカウンセラーと思えばいいじゃない、きっと自分のなかで答えは出ているのだから、ただ背中を押してもらいたいだけなのよ、と言われたこともある。確かにそうかもしれない、というかそうだった。答えは自分のなかにあるということに気づかされたことだけでも、ハワイにまで行脚した価値はあったかもしれない。

仕事の取材でも、いろんな人に会った。そのなかでいまでも少なからず影響を受けているのが風水に関するものだ。これは占いではなく、運気を上げるためにすればいいことが体系化されている教えである。

日本の第一人者はドクター・コパ。取材前はネーミングとかキャラクターから少しイロモノ扱いというか胡散臭いイメージを持っていたのであるが、言うことがデータに裏付けられていて先入観を覆された。もうずいぶん昔のことであるが。

風水と聞くと、部屋のあちこちに色のついた紙をペタペタ貼るみたいなイメージもあるかもしれない。しかしコパさんから聞いたのは水回りを中心に住居をキレイに清潔にすれば運気は訪れるという、すごくシンプルなもの。もちろん運気をあげる色や方角もあるけど、そこまでシビアにならなくてもいい。黄色は金運にいいので黄色いサイフを持つとか、その程度でいいというものであった。

さらに金運を上げるには、サイフを年に一度新しいものに変えるといいという。風水的にはどうやら古いものを長く使うというよりは、新しいいわゆる“さら”なものの方がいいようだ。

それをお正月か立春から使い始めるといいということであった。

その教えを守るべく毎年買い換えたいのだが、簡単ではない。

気にいっているもの、特に機能的で使いやすいものでさほど痛んでないものを買い換えるのはなかなか難しい。

数年、自社製品のサンプルなどを使い、毎年換えてきたけれど、ブランドものをプレゼントされてからはこのサイクルが狂った。

最近まで使っていたのは某ブランドの横型サイフだった。色は黒なのだけど、内側は黄色。風水の影響はまだ残っている。

たぶん5年近く使ったと思う。ブランド名の箔押しもずいぶん前に擦れて見えなくなり、領収書などを突っ込みっぱなしだから、ものすごいデブになってしまった。先日ダイエットしようと中身をすべて取り出して整理してみたけど、たるんだ皮膚、ではなく革は元どおりにならない。

そろそろ新しいものにしたほうがよさそうだ。

毎年、惜しくもなく新調できる価格帯のものを探すのだがなかなか適当なものがない。

そんなとき、後輩であるデザイナーが自身でこれまで使ったサイフのなかでベストなものがあるといって、見せてもらった。いまのものは三代目。過去に2個紛失したという。一度は酔っぱらってNYのタクシーを降りるとき、もうひとつは人をクルマで迎えにいってドアを開けたときに落ちたかもしれないと言っていた。

紛失したら新しいものを手に入れなくてはならない。そういうやり方もあるか。

どんなものかと見せてもらったところ、サイズ感といい、質感といい、確かによい。機能性もカードの収納力は劣るものの、普段使いはこれくらいでいいのかもしれない。

しかしジッパーを開けて内部に光る銀箔のブランド名をみてちょっとたじろいだ。〈エルメス〉とある。

毎年買い換えるというより、一生ものではないか。

果たしてこういうのはどうなんだろう。もう一度コパさんに聞いてみたい。

AZAP VERTICAL VEAU TOGO

コンパクトな構造ながら、小銭とカードをしっかりと収められる使い勝手が魅力的な財布。シンプルネスを追求したデザインに〈エルメス〉らしい品が漂う定番品である。

PROFILE

蔡 俊行
フイナム発行人/フイナム・アンプラグド編集長

マガジンハウス・ポパイのフリー編集者を経て、スタイリストらのマネージメントを行う傍ら、編集/制作を行うプロダクション会社を立ち上げる。2006年、株式会社ライノに社名変更。

INFORMATION

エルメスジャポン

電話:03-3569-3300
www.hermes.com

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