ものづくりの未来。
ー8度目にして新しい局面を迎えた〈ダブレット〉と〈ブラン〉のコラボアイウェア。この方向転換の話を聞いたとき、渡辺さん的には物足りなさみたいなところもあったんじゃないですか?
Watanabe: どちらの気持ちもありました。これまでの、井野くんのぶっ飛んだ発想を叶えるために奔走する、みたいな時間が楽しくてまだまだやりたいと思う反面、でも井野くんの”365日使って欲しい”というたくさんのひとに刺さるものを目指すっていうことには賛成でしかなくて。
Ino: やっぱり新境地ではありましたね。でもそのおかげで気付かされたこともたくさんあしました。シンプルさを突き詰めるというか、研ぎ澄ますというか。足して、重ねていくデザインではなくて、引いていくデザインですよね。デザインってやっぱりおもしろいなってあらためて感じることができました。
Watanabe: これまでは大前提として、レンズに直接テンプルをつけるというお約束の元やってましたからね。このアイウェアだと度入りで使ってくれるひともいるかもしれないですね。
Ino: そう! そこなんですよ。
ーレンズにテンプルが直接ついていると、簡単には変えられないですもんね。
Watanabe: 変えられないこともないんですけど、凄まじい労力と時間がかかるんですよ。テンプルを直接付けても割れない、特注のレンズをつくっていたので。でも今作ならフレームを活かしてレンズをさらっと変えられる。
Ino: いままでにもそういう話ってあったんですよ。掛けたいんだけど、目が悪いから掛けられないんだと。そこでハッとなったのが、ぼくはそういうお客さまを知らないうちに見て見ぬふりをしてたんだなって。それで果たしてデザインをしているって胸を張って言い切れるのかなと自問自答して。
Watanabe: これをメガネとして掛けてくれてるひとと出会ったら感動しちゃうよね、きっと。
Ino: 握手したくなっちゃうよ、絶対。「わ、度〜! 度入りじゃん〜!」って寄ってっちゃうね(笑)
ー街ですれ違うことも増えそうですね。今回で8作目、出会ってからは20年になるわけですが、お互いのクリエイションについてどのように感じていますか?
Watanabe: 井野くんは、ぼくが想像し得るところの数百メートル先のことを言ってくるので、いったん話を聞こうってなるんですよね。これくらいのこと言いそうだなーって割と覚悟を持って打ち合わせに挑むんですけど、その想像なんか簡単に超えてくるんですよ。
Ino: 鼻がついたパーティーグッズみたいなのをやろうとしたり、『ドラゴンボール』のスカウターを買ってナベさんのとこに持って行って、「これつくれます?」って言ったりね。
Watanabe: いやだから、打ち合わせが打ち合わせじゃなくなっちゃうんですよね(笑)。笑うとこなのか、どうなのか分かんなくって。でも井野くん、そういうとき真顔なんですよ。
Ino: ちなみに全部本気で言ってますからね。それがタチ悪いですよね(笑)
Watanabe: やっぱり、そういうのがあの印象的なランウェイを生み出す、創り上げるパワーの源なんだろうなっていつも思わされます。
ー井野さんのものづくりの姿勢は、このコラボに限らずずっとそういう感じなのでしょうか?
Ino: 思いついたものをどこまで形にできるか、それは常にポジティブに考えたいんです。たかだか想像の段階で諦めたくないというか。そして可能性を探っていくなかで、できることとできないことが見えてきて、もしかしたらこっちの方がいいかも、みたいな新しいアイディアも生まれてくる。そうして段々と着地点に近づいていくという感じですね。
ー渡辺さんとのタッグもそういう感じですね。
Ino: ナベさんといっしょにやると、ぼくがどれだけとっ散らかしたとしても、“目的地はココ”っていうのを言葉で提示してくれるんですよね。ぼくのとりとめのないアイディアを集約するように、ナベさんがナビゲートしてくれて。
ー本当にいい関係性ですね。
Ino: ひとりじゃ辿り着けないところにナベさんが導いてくれました。そういうストーリーも含めていろんな思いがぎゅっと詰まっている一本。本当に毎日掛けたくなる、大好きなアイウェアができました。
Watanabe: ぼくはもう、井野くんが言うことを形にするためにはどうしたらいいんだろう、ばっかりでしたね。1回目の打ち合わせの後は、必ずと言っていいほど頭を抱えて帰ってましたから(笑)
ーそれでも向き合い続けてきたわけですね。
Watanabe: できないと言うことは簡単だけど、ぼくもチャレンジしてみないと何も生まれないなって思うタイプでもあるので。
Ino: デザインってめちゃくちゃ制限や制約があることだと思ってて。でもこのコラボアイウェアについては、ナベさんがいてくれたから好き勝手自由に発言していました。それをうまくハンドリングしてくれてたんだろうなって話してて感じました。
Watanabe: 井野くんの気持ちに応えたいので。そうじゃないとコラボじゃないじゃないですか。井野くんの意見を尊重しつつ形にするならこんなゴールです、みたいな指標は提示すべき。だからディスカッションを重ねて進めました。おそらくたくさんのアイウェアブランドからオファーをもらってるなかで、ぼくと続けてくれているのはうれしいことですからね。
ー渡辺さんだからこそ、なんじゃないでしょうか。
Ino: はい、ナベさん好きなんで。ものへのこだわりが異常ってとこも尊敬しているし、さっきの話でもありましたけど、「できない」って言われたことがない気がしますね。なんとか形にしようとしてくれるというか。
Watanabe: 「できない」ってワードを使っていないだけで、遠回しに100回くらい言ってると思うよ(笑)
Ino: え、そんなの感じたことないなー。本当に、小さな可能性を模索し続けてくれてると思うんです、ナベさんって。
Watanabe: そうですねー、と言っておきます(笑)
ーお二人の創作活動の源ってなんなんですか?
Ino: ぼくらは、ありがたいことにLVMHっていう賞をいただけて、いろんなことが複合的にいい方向に転がって、少しずつひとに知ってもらっていっているという状況です。やっぱりそれを何かに役立てたいって思うところもあって。そういうことを模索しながらパリの舞台に立っています。
Ino: コレクションでは、おもしろいのに世に出ていなかったり、出始めてるけどフォーカスされていない、そんな未知の素材みたいなのを積極的に採用しているんですけど、それって大きい会社だとなかなかハードルが高くてできないことだと思うんですよね。でもぼくらは一瞬でできちゃうフットワークの軽さがあって、そこがぼくたちのよさだと思っているんです。
そういう素材がある未来がぼくのなかでは“当たり前”なことで、その“当たり前”が少しでも早く訪れるようにしたい、というのがいまぼくがものづくりをする理由のひとつです。そのためにはチャレンジに次ぐチャレンジですけどね。
ーフイナムのブログに井野さんが書かれていた、「パリコレは誰かの夢を連れて来れる場所かもしれません」というフレーズがすごく印象に残っています。
Ino: そういうひと・会社って、自分のことを考えているんじゃなくて、未来を見据えて新しい素材を使ってチャレンジしてるんですよ。ある意味、背水の陣というか、かなりの覚悟をもってやっている。そういうのってすごくかっこいいなって思ってて。それに対してぼくらが少しでも応援できることがあればいいな、という想いでものづくりをしています。
Watanabe: いつも〈ダブレット〉のランウェイや展示会を見させてもらうんですけど、必ず伝えたいメッセージがあって、それがひしひしと伝わってくる。それって簡単にはできないことだと思うんです。アイテムひとつならまだしも、井野くんは全体を通してストーリーで見せてきますから。
Ino: ナベさんはショーの日もパリまで来てくれて、使うアイウェアをひとつずつ丁寧に磨いてくれるんです。それってぼくからするとめちゃくちゃうれしいことなんですよね。
Watanabe: ぼくにはそれしかできませんから。
ー渡辺さんは、コラボのときとそうではないときで、ものづくりの姿勢は変わってきますか?
Watanabe: ぼくは販売からスタートしてバイヤーを経てのいま。基本的に買う側の気持ちを考えて、まずはゴールを設定してそこから逆算してものづくりをスタートさせる。ある意味守りに入ることもあるんですよ。掛けてくれるひとのことを考えると、細かいところに気を遣うのは当たり前のことですよね。
ー超えてはいけない一線みたいなところもありますよね。
Watanabe: そうですね、あくまでアイウェアとしての制約のなかでつくるわけなので。でもコラボとなると、そこにデザイン的なスパイスをデザイナーさんが、今回で言うと井野くんが持ち込んでくれる。それを忠実に再現しながら、でも超えちゃいけない一線は守り、クオリティを担保しながらものづくりをするのが、ぼくの役割だと思っています。
Ino: 本当にいいものができました。ありがとうございました。たくさんのひとに掛けてもらいたいですね。
Watanabe: 街ですれ違って、握手したいです。
Ino: それがゴールですね!
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