生きて死ぬということだけ。それ以外のことについては歌いたくない。

ー 利便性が殊更に問われがちな現代において、精神的な充足感をいかに生み出すかという試行錯誤を続けてきたNew Acoustic Campが今年で10年目。そして、結成15周年を迎えたOAUの新作『OAU』では、その精神的な豊かさを音と言葉に投影して鳴らした作品。こうしてお話をうかがってきたTOSHI-LOWさんの歩みと変遷が全て繋がり、注ぎ込まれているアルバムですよね。
TOSHI-LOW:このアルバムは、OAUを始めた15年前にやりたかったことだったんじゃないかなって思うんですよ。でも、15年前に同じ曲が出来ていたとしても、それは入れ物でしかなかったというか、今のように中身を満たすことは出来なかったでしょうし、そのために15年という年月が必要だったんでしょうね。その間に試した数々のトライ&エラーは、このアルバムが出来たことで全て報われたというか、今までの失敗はこの作品に辿り着くためのものだったんだなって。だから、15年は長いようでいて、回り道をしたとも思っていないし、むしろ、バンドを長く続けていると何度か訪れる数少ない幸福な瞬間だと感じているんです。

『OAU』OAU(トイズファクトリー)
ー 「こころの花」と「Midnight Sun」というNew Acoustic Campのテーマ曲があるかと思えば、ストリングスやホーン、子供たちのコーラスを交えて、父親の視点で子供たちに向けて歌われている「I Love You」。そして、アコースティックスウィング「Traveler」では明確さと深みを兼ね備えた童話のような物語が描かれていたり、真摯に人生や音楽と向き合って、活動を続けてきたことで持ちうる説得力が音楽の揺るぎないバックボーンになっているな、と。
TOSHI-LOW:「I Love You」はコーラスだけじゃなく、ストリングスやホーンも梅ヶ丘ジュニアオーケストラという子供たちが演奏してくれたんです。これが何年か前だったら、マーティンが自分で弾いていたと思うんですけど、“あの子たちのプレイがいいから、そのまま使おう”と提案したり、メンバーも成長が感じられて、感慨深い曲なんですよね。「Traveler」だったり、自分が作詞した曲に関しては、きらびやかに輝き続ける永遠性ではなく、常に変わり続けていく視点、人間が生きていくなかでの自然な流れに身を任せていて。その方が出てくる言葉もリアルだし、楽器を使い込んだら音が良くなるように、OAUは活動を続けていったら続けていったなりのリアリティを追求出来る可能性が大きいので、10年、20年後、自分たちがもっと白髪になりシワが増えて、死が近づいてきたら、その死について歌ってみる曲も説得力があるものになっていくでしょうし、自分たちの表現の器として、すごい可能性があるものになったなと我ながら思いますね。
ー 刹那の瞬間を凝縮したBRAHMANの表現に対して、OAUは熟成されていくと味わいが深まっていく表現ですよね。今のTOSHI-LOWさんはその両極を手にして、音楽と向き合っていらっしゃると思うんですけど、この10年、15年の間に重ねてきた変化がある一方で、ご自身の人生において変わらず揺るぎなく存在しているもの、核となっているのはどういうものなのか。また、そのためにどんな準備をされていますか?
TOSHI-LOW:一貫しているのは死生観。生きて死ぬということだけ。それ以外のことについては歌いたくないですね。それを両極のどちらから歌うか。OAUは可愛い平仮名の歌詞が多いですけど、突き詰めて言えば、BRAHMANで書いていることと同じなんじゃないかなって思いますね。長いのか短いのか、20年後なのかその瞬間なのか、生と死について考えながら、自分が何を自分自身に残すのかということを追求しているだけなんですよ。その答えに巡り会えるような曲が1曲でも書けたらいいなと思いますね。そのために必要なのは、自分がいつかは死ぬのを忘れないことなのかなって。人生というのは、その日が来るまでの準備、それは死にたいということではなく、むしろ、生きるということだと思っているので、必要なのは、いかに生を充実させるかということ。それが、死と向かい合うでもあるんだと今は思います。