中身は昔と変わってないけど、バッグ自体の容量が増えたのかも。
ー 経験と視点の変遷があったんですね。逆に、先ほど話されていた、金子さんの変わらない部分というのはどんなところだと思いますか?
金子:物の見方とか、背景の厚さに感じる魅力とか、そこはやっぱり変わってないのかなと思います。もう、20何年間、ずっと。服が好きっていうことなのかな、簡単に言うと。ただ、前は“自分が欲しい”っていう気持ちが先にあって、ついでに買い付けてるような感覚だったんですけど、今はその“欲しい”っていうのが落ち着いたんですよね。それよりも、自分が惹かれてきた、その物が持ってる価値を世の中に示したいっていう感覚が強くなりました。だから、冷静で客観的になってる気がしますし、どんなものでも、自分なりの評価がちゃんと出来るようになりました。好きなものは変わらず好きだけど、それともっとフラットに付き合えるようになってきたんです。カバンの中身は昔と変わってないけど、それを入れるバッグ自体の容量が増えたのかもしれないですね……っていうのはどうでしょう?(笑)

ー なんだかテーマにご配慮いただいたようですみません(笑)。
金子:アハハ(笑)。でも、言っても僕の情報量なんてすごく少ないんですよ。普段から洋服屋さんもあまり見に行かないし、散歩がてら古着屋を覗くくらいで、雑誌も全然見ないし、インスタも垂れ流しだから。展示会に行ったりして、物をつくってる人たちとの対話をするぐらい。それだけは糧になってる気がしますけどね。今も増えてる唯一の経験値だと思います。
ー きっとそれが金子さんの適正ペースだったんでしょうね。
金子:全然働きたくなかった量販店で働いていた頃には、将来、青山でこんなお店をやれるなんてまったく思ってませんでした。だけど、変わらずに好きと言える気持ちを持ち続けて、それが今こういう形になって、ようやく世の中の人たちに少しずつ伝わってきた。この感覚は、40年以上生きてきたけど最近初めて知りました。まだ咲いていないけど、僕はきっと遅咲きタイプなんでしょうね。最近、「レショップ」に来てくれる若いお客さんがすごく増えてるんですよ。ちょっと前にやったポップアップでも、大学生から24、25歳の人たちがたくさん来てくれました。こういうオジサンのやってることに若い人たちもちゃんと興味を持ってくれて、わざわざ話を聞きに会いに来てくれるんですよ。合理的な服とか、便利なものがたくさんある中で生まれてきた人たちには、きっと逆に新鮮なんでしょうね。ファッションの未来は明るいなって、僕はそう思ってます。