CLOSE
FEATURE
THINK ABOUT FASHION vol.1ウィズコロナ時代のファッション考。ファッションは果たして不要不急なのか?
MONTHLY JOURNAL SEPT.2020

THINK ABOUT FASHION vol.1
ウィズコロナ時代のファッション考。ファッションは果たして不要不急なのか?

世界を大きく変えた新型コロナウイルス。ファッション業界が抱える諸問題を先鋭化した一方で、人々が一度立ち止まりファッションについて本質的に考えるきっかけにもなりました。ウィズコロナの時代、そしてこれから先、ファッションはどうあるべきか。そのヒントは、やはり “個” にしかないのかもしれない、そんなことを考えながら、愛知県にある地方都市のセレクトショップを尋ねました。

  • Photo_Norihito Hiraide
  • Text_Shinri Kobayashi
  • Edit_Ryo Muramatsu

細かなケアの接客と、客のライフワークに沿う接客。

ー コロナ以前のお店でのコミュニケーションがあったが故に、オンラインが活用できたということですね。それがこのお店「analog / tool」の強みであり、特長でもあると思うんですが、こういう店をつくった纐纈さんのこれまでの経歴について教えてください。

纐纈:ぼくはずっとアパレルの一筋の人間。最初は地方のジーパン屋からスタートして、その次に古着やインポートを扱うセレクトショップを経験して、そこから、ここの「analog / tool」を立ち上げました。立ち上げたときは31歳で、とにかく地方だけど都会的でかっこいい店を豊橋(豊川市への移転する前の所在地)でつくりたいみたいな、いま思えば恥ずかしい話ですが、妙にがむしゃらな時期でした。あと、マルジェラ(マルタン・マルジェラ)とギャルソン(コム デ ギャルソン)の存在を知ることは大きかったですね。

ー と言いますと?

纐纈:当時20代半ばごろのぼくは、基本アメカジ、インポート中心だった。メゾンは名前こそ知ってはいるもののちゃんと見ることもなくて。でもよく名は耳にすることが多かった〈コム デ ギャルソン〉は岐阜で見れることを知ってて、行ってみようと。そうしたら接客力のすごさに圧倒されて。初訪問時に対応してくれた方の対応がとてもよくて、フロアごとのコレクションについて丁寧に一つひとつ説明してくれたり、来店後にはサンキューレター的なハガキを書いて送って下さったり、細かなケアが行き届いていて。あとぼくらの世代でブランドをやっているデザイナーさんにルーツを聞いたりすると、ギャルソンとマルジェラに影響を受けたという方々も多かったように思います。

2階の食器棚には招き猫やおもちゃと一緒に〈スタイリスト私物〉の桐箱が並ぶ。
「analog / tool」では纐纈さんが集めた各地の民芸品も発売。

ー 接客によって、いままで知らなかった魅力に触れることができたんですね。

纐纈:いまは移転して完全に独立しているのですが、豊橋のお店の立ち上げ時に後押しして出資してくれた会社の店舗が、一宮と稲沢にありまして、その接客スタイルが衝撃だったのを覚えています。スタッフの中にはもともとアパレル小売の畑じゃなかったりする人もいたんですが、そのお店の盛り上がり方がすごくて。「お客さんとスタッフのこの関係性って何?」って思わされて。一人ひとりのお客さんの滞在時間がめちゃくちゃ長いし、いる人みんなが話し込んで楽しそうにしていて、店との一体感もすごかった。スタッフの対応力とか提案力の高さはもちろん、お客さんとの関係性の在り方をみんなで考えていた。お客さんとの距離感もすごく理想的というか。ぼくもそれまでアパレルできっちりやってきた自信もそれなりにあったから、当時、結構ショックを受けた記憶があります。

ー 当時っていうのはいまから16、17年前くらいですよね?

纐纈:そうそう。彼らはお客さんの細かな情報までちゃんと見逃さずに把握していて。相手の職業を聞くにしても、普通ならただの世間話的な感じで終わることも多いけど、もっとその先に踏み込んでいくというか。たとえば、イタリアンレストランで働いてる人がきたら、「イタリアンで働いてる人がこんなイメージで服着てたらかっこいい…」って振り方をする。つまり、その人のライフワークに寄り沿って話を掘り下げる。ひとつの服の提案がよりその人自身に向き合う形に自然となっていく。彼らが以前は全然違う業界にいた分、目線や視点が全く違っていて。お客さんが満足するために何が必要かは、ホント細かいところまで毎日のように議論されていた。そんな黎明期に自分も価値観をたくさんひっくり返されたし、いまの自分があるのもこの時期の経験が大きかったと思う。

写真は共に2階。階段を上がってすぐのドアにあしらわれたキース・ヘリングの作品。
奥には畳敷きの小上がりがあり、昔懐かしい居間を思わせる。

ー マニュアル対応とはまったく違う接客ですね。

纐纈:その後何年も経って、彼らは自分たちで〈コモノリプロダクツ〉というオリジナルブランドを立ち上げ、徐々にお店は後輩に任せるようになっていきました。セレクトショップがつくるオリジナル商品って、何となく売り買いしやすい最大公約数的なモノが目立つイメージだからか、服好きにはあまりいい印象を持たれていないなと感じる部分があって。だから、オリジナルをつくると聞いたときに、すでにショップとしていいブランディングを構成しつつある中で、お客さんに響くとは思えないと言ったんです。

すると彼は「いや、そういうことじゃないんだ」と。「当たり前だけど、自分は川久保さんやマルジェラみたいな存在に大きなリスペクトがあるし。そもそもなれるわけでもない。でも、お客さんとじっくり対面してきた経験があるからこそ、現場の目線から生まれるものづくりがあってもいいんじゃないか」と。まさにお店と顧客さんの関係性、いい距離感があるからこそできるものづくり。そういう視点って当時はあまりなかったから、やられたと思いましたね。

1階に置かれた正方形のキャンバスには、ファッションについて考えさせられる意味深なメッセージが。

このエントリーをはてなブックマークに追加

関連記事#MONTHLY JOURNAL

もっと見る