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THINK ABOUT FASHION vol.1ウィズコロナ時代のファッション考。ファッションは果たして不要不急なのか?
MONTHLY JOURNAL SEPT.2020

THINK ABOUT FASHION vol.1
ウィズコロナ時代のファッション考。ファッションは果たして不要不急なのか?

世界を大きく変えた新型コロナウイルス。ファッション業界が抱える諸問題を先鋭化した一方で、人々が一度立ち止まりファッションについて本質的に考えるきっかけにもなりました。ウィズコロナの時代、そしてこれから先、ファッションはどうあるべきか。そのヒントは、やはり “個” にしかないのかもしれない、そんなことを考えながら、愛知県にある地方都市のセレクトショップを尋ねました。

  • Photo_Norihito Hiraide
  • Text_Shinri Kobayashi
  • Edit_Ryo Muramatsu

すべてに共通する、人という軸。

ー その後、独立して「analog / tool」へと続くわけですが、取り扱いブランドは、〈エンジニアド ガーメンツ〉〈アーツ&サイエンス〉〈ディガウェル〉〈サスクワァッチファブリックス〉など個性豊かなブランドばかりです。どういうブランドだと取り扱いたくなるものですか?

纐纈:ブランドの考えや姿勢が自分にとってよりリスペクトできることが重要です。あとは、インディペンデントなものが多い。たとえば、〈サンリミット〉〈ツキ〉〈ディガウェル〉といったブランドのデザイナーは比較的年齢が近いこともあって展示会でゆっくり話す機会も増えました。アイデアや思考に強い独自性があって面白かったり、つくることや提案の仕方だったり、視点や価値観に共感できる方々のラインナップにはやはり惹かれるものがあります。売れる売れないも大事だけど、それ以上に「なんでこれつくるの?」って聞いた時に、グッとくる説得力のある言葉を持っている人がやっぱりいいですよね。

ー 大手のセレクトショップとの大きな違いってなんだと思いますか?

纐纈:いまどこで売られているものでも、質の悪い商品ってほんとないし、どこの服買ったとしても、それはある程度理に適ったモノだし、コスパ重視のモノでも、作品性の高いモノでも、それは選ぶ側の自由で考えたらいいと思う。だけど最終的にはヒトだと。「どんなヒトからモノを買いたいか考えたことある?」って聞くと、みんな何だかんだ考え出すようなところがあって。

たとえば、最初、服買うときに友達とか兄弟とか彼女とかが、これいいよって言ってくれたら、買おうかなって気になりやすいじゃないですか。それってその間にある関係性から生まれる信用で買ってると思うんです。だから最初、カップルや友達で来たときには、その関係に着目して、彼らの関係性を尊重した上で販売員として何ができるかを考える。そうすると少しずつだけど自分を受け入れてくれるようにもなる。そこに小さな信用が生まれて、そういう上積みを続けていくことが継続性のある関係を生む大切な要素だと思っています。

個人店には小難しそうな店主がいて、服に詳しくないと入れないみたいに感じたり、思ってしまったりする人もいるかもしれないので、ぼくらもできる限りストレスのない、リラックスできる場の空気感をつくっていきたい。最終的に「来てよかった。楽しかった」と自然に言ってもらえる店がいいなと。あくまで場所や空間にこだわりたい。もともとお互い知らない者同士が、店や場所を通じて価値観を共有していく訳だから、服の売買を前提とした回路じゃなくて、そこに向かうために何が大事なんだろうとその前後関係を重要視しているところがあって、人と人のリアルな関わり合いの中でしか生まれない物事はまだまだたくさんあると思っています。

店内に置かれたサボテンの数々。2階に上がって左側には業務用のキッチンが配置されている。

ー ポップアップなどのイベントもやられてますけど、それは服以外にも何かやっていきたいっていうことなんですか?

纐纈:前提として、服以外に何かをやらなくてはいけないと実はあまり思ってなくて。SNS上では目立って服の情報があんまりなくって、催事告知なんかがより際立って見えたりすると、一瞬、何をしているお店なんだろうと思われることがあるのですが、出店して頂いている方々のほとんどが昔からのお客さんだったり、そこからまた繋がった縁のある方が、脱サラして新しい事業をはじめたり、ずっと好きでやってきたことが後々形になったりとか。そういう自由な発想や生き方をしている人たちとの出会いがポップアップに繋がってる。ポップアップショップとかライフスタイルショップというキーワードが先にあってという訳ではなく、結果として、あくまで自然な流れの中、興味の枠が広がることで、さまざまな関心事とイベントが長いお付き合いの中から広がっているという感じでしょうか。

お客さんとかいろいろな人との出会いの中で「いまは会社勤めなんだけど、将来的にはこうなりたい」とか「ぼくも自分で何かやりたい」って耳にすることも増えたし、だったら何かはじめる最初のきっかけがウチのお店で何かできることだったりしたら面白いかなと。豊川に引っ越して、2階にキッチンスペースをつくったり、フリースペースをつくったのも、誰でも何かをやってみるきっかけとして使ってもいいだろうし、何かが生まれる場所になればいいというか。ヒトが何かを表現するきっかけがつくれる場所。そういう人が増えてきているから表現の場になったりするのは嬉しいことですね。

ウィズコロナの時代でも分断されないもの。

ー 改めてコロナについてなんですが、コロナによってファッション業界の問題も浮き彫りになりましたよね。諸問題にまつわる議論でなるほどなって納得できたことはありますか?

纐纈:ありました。シーズンやショーという形式は考え直すという(アレッサンドロ・)ミケーレの発言が象徴的でした。コロナの前から展示会の在り方みたいな話はブランドから出ていたり、そうした時にぼくらも考え直すべきところはあるなと感じます。業界全体が大きく変わるというのもすぐには色んな面で難しいところもある気がします。展示会のタイミングとかブランドや店ごとにやり方、考え方が微妙に違ったりもするから、ブランドと販売店の関係性もいろいろと再考していく時代でもあると思います。

あと、オリジナルの商品を製作するようになって、さまざまな提案の方向性を模索できるようになってきたのも大きい。だからこそ、ブランドを続ける人たちのすごさをより感じるようにもなったし、ものづくりやブランドはこうあるべきだと正解を求めるのではなく、それぞれにこういったやり方もあるんじゃないかと柔軟に受け止める姿勢も大切な気がします。たとえば、ものづくりにおける、地産地消とかサスティナブルも言葉だけではなく、実際どういうことをどんな風に考えてやっているのか具体的に知りたいなと思ったりします。

「analog / tool」がオリジナルでつくるレザージャケット。初期はオーソドックスなライダーズが原型だったが、試作を繰り返すうちに、ノーカラーになり、ミシン目を表に出さない仕様にするなど、上品かつノーブルな仕上がりに。表地は牛革で、背面のボアがインパクト大。¥108,000+TAX

ー コロナ以前、以後で変わったもの、変わらなかったものってありますか?

纐纈:ある人が言ってたんですが、いままでもコロナ以外にも世の中にはさまざまなリスクがあったし、その中でどうやっていくかっていうのを考えてきたわけですよね。“リスクと共に生きる” じゃないですけど、起業するにもリスクはあるし、スポーツするにしても怪我のリスクはある。リスクをゼロにするという考え方自体があらゆる行動を止めてしまうことで解決できるとも思えないんです。何を信じたらいいのか混乱してしまう時こそ、自分が信頼できるヒトがいることの重要性を感じます。ぼんやりとした最もらしい情報よりも、目の前の身近に感じられる人に大丈夫だって言ってもらえる方が救いになる。そういうリアルな繋がりを人なり、お店なりに宿していくことが大事。これからも人災とか天災は何かしら起きてしまう可能性はあるでしょうけど、信頼できる繋がりがあることで乗り切れるきっかけになるのではないかと思っています。

ー いま(8月中旬)の客足はどんな感じですか?

纐纈:いまは以前とそんなに変わらない感じです。見えないモノ(コロナ)に対してできる対策はちゃんとやりながら、元の流れに戻りつつある。どんなことでもそうだと思いますが、服好きの子にとってはファッションは不要不急以上の存在なんだと思う。言ってしまえば、生きがいだし。誰かが決めた不要不急で片付けられるほど、単純なものでもない。大事にしている物事は人それぞれだから、各々を尊重して互いの価値観や個性を認め合うことができるといいなと思っています。

2階の本棚には纐纈さんが趣味で集めたというアート本がずらりと並ぶ。アリ・マルコポロスやヴォルフガング・ティルマンス、ユルゲン・テラーといったフォトグラファーの貴重な写真集などを販売。業務用冷蔵庫にはフイナムでもお馴染み、加賀美健さんのステッカーが貼られている。

ー ファッションは不要不急だって思われてますけど、確かにそうじゃない人もいますしね。

纐纈:ちょっと古い日本人の考えだとどうしても勉強や仕事が最優先されて、ゲームをやるとか趣味を楽しむっていうのは、時間が余ったらやりなさいっていう感覚があるじゃないですか。自分の好きなことをずっとやっていたら、その中から何かを見つけて生み出す可能性はあるし、仮にそうじゃなかったとしても、そういう時の責任はその人自ら負う気持ちになると思うんです。

お客さんが「今日は満足したから、また明日から仕事頑張る」みたいなことを言ってくれたりするんだけれど、その一言がすべてだなと思ったりします。お金よりも大事なことがあるっていうのは、若い時はあまりリアリティを感じなかったけど、いまの歳になって感じ方が変わってきた部分はあります。お客さんが遊びに来てくれるだけで嬉しいとか。スタッフが継続して働いてくれてることが当たり前じゃないなとか。

ー コロナがきっかけで変わっていってほしい、ファッションの未来像というのはありますか?

纐纈:需要と供給のバランスが取れてロス(在庫)が少なくなれば、ひょっとしたら環境の改善にも繋がるかもしれないですね。たとえば、ぼくの店だと在庫は半期ごとにある程度きれいに消化できていますっていうと、「在庫ってそんなにきれいになくなるものなんですか!」って聞かれたことがあるんだけれど、そもそも売り上げベースを上げるための仕入れの仕方より、ある程度、需要と供給のバランスに無理のないやり方が継続を考える上でも重要だと思うし、お客さんが増えていくっていうのはとても嬉しいけど、急激な右肩上がりというのはありえないし、需要を増やすために、こういう売買をしましょうっていう戦略的なものもあまり考えたことがない。お客さんが気になることや感じてることに対して、一つひとつできることを提示していくだけです。

企業の場合は、描きたい未来像や目標を数値化して掲げていくのが大事だったりするのかもしれないけど、ぼくの場合は実際に起きている目の前のことから少しずつ未来をつくっていくのがいいなと。あとは、当たり前かもしれないですが、関わって頂いているすべてのつくり手、買い手をはじめ、みなさんをリスペクトする気持ちを大事にする。個人と個人が対等でいたいから、日々の本当に小さい気づきに注視できる。そういう積み重ねと繋がりに手応えを感じながら、お店を継続させて頂けているのはとてもありがたいことだと思っています。

analog / tool
2005年愛知県にオープンしたセレクトショップ。18年に豊橋市から現在の豊川市に移転する。以前は空調設備会社だった一軒家の建物を改装し、1階にメンズ・ウィメンズの服や雑貨を陳列。取り扱いは、〈コム デ ギャルソン〉〈エンジニアド ガーメンツ〉〈アーツ&サイエンス〉〈サンリミット〉〈サスクワァッチファブリックス〉〈ホーク〉などドメスティックブランドを中心にしたラインナップ。2階に蔵書(一部販売)、キッチン、フリースペース、風呂場を改造した水槽と植物スペースを配置するなどオーナー纐纈さんの趣味性が強く出ている。1階入り口には浜松の染色家・山内武志氏に特注した暖簾が吊り下げられ、2階の畳敷きの小上がりには〈アルテック〉のスピーカーが置かれていたりと、そのこだわりと世界観は圧巻。この場所に行くことに価値があると感じさせられる。

住所:愛知県豊川市新桜町通1-3-2
電話:0533-56-2818
時間:11:00〜20:00(火曜定休)
オフィシャルサイト

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