自転車は人間のポテンシャルを
広げる道具である。
出発してから1時間半ほどで、「カングー」は目的地である小田原のキャンプ場に到着。ここにキャンプサイトを設営してから、マウンテンバイクのコースへでる予定です。


「マウンテンバイクはアメリカのヒッピーたちが砂浜を走るビーチクルザーを改造して、山で乗り始めたんです。70年代末のカリフォルニアでのことです。いまぼくがマウンテンバイクに乗っているのは、そんなヒッピー的な精神性に惹かれていたり、舗装された道を走るだけじゃ物足りないというのもあるかもしれません」


北澤さんは国内におけるバイクパッキングの第一人者でもあります。普段自転車で旅をするときと同じように、こうしてオートキャンプする際も、設備はミニマル。「まだ“バイクパッキング”という言葉もない頃、北海道へ自転車の旅にでた」と、手際よく設営をしながら語りだします。
「北海道は10日間ほど行ってきました。当時は普段着で、装備も適当だったし、ヘルメットも持っていなくて。自転車に乗って、釣りをして、夜はキャンプして寝るという原始的な営みなんですけど、それがすごくおもしろくてハマってしまったんです」

そうして国内はもちろん、海外はモロッコやモンゴル、アメリカのオレゴン州など、自転車に乗ってさまざまな土地を旅してきました。もともとはフェアトレードなどの仕事や、アフリカや東南アジアなどの途上国でNGOの活動に関わるなどしていた北澤さんですが、副業としてやっていたマウンテンバイクのパーツの輸入業が軌道に乗ったこともあり、2009年に現在オーナーをつとめる「オルタナティブ・バイシクルズ」をスタートしました。
「自転車ってクルマと同じで、自由なマシーンみたいなところがあるんです。誰にも縛られることなくどこにでもいける。その自立したところ、自由なところがおもしろい。あのスティーブ・ジョブスは“知の自転車”をつくりたいと言って、マックのコンピューターを完成させました。自転車という乗り物は人間のポテンシャルを広げる道具であるということです。道があれば何百キロでも走れますし、楽しさを広げてくれるんですよ」