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BACK TO BAG vol.2 あの頃とこれから。バッグと巡る旅の記憶。
MONTHLY JOURNAL OCT.2020

BACK TO BAG vol.2
あの頃とこれから。バッグと巡る旅の記憶。

コロナ禍により失われた最たるものの1つに、旅があります。中でも、海外への旅はいまなおハードルが高いといえるでしょう。さて、旅の必需品といえばバッグということで、今回は旅とバッグにフォーカスしました。モノにはそれにまつわる記憶が刻印されていきますが、バッグにはとりわけ旅の記憶が刻まれます。辺境地へ向かう写真家、ニューヨークを毎年訪れるフードディレクター、アメリカを縦横する古着屋オーナーの3人に、旅とバッグについてお話を伺いました。コロナ禍が明けたら、あなたはどこへ行きたいですか?

03 古着バイヤーとアメリカ。

PROFILE

斎須康孝
「アームズクロージングストア」オーナー

状態のいいオーセンティックなものが多く、ファッション業界人も足繁く通う、祐天寺の古着屋「アームズクロージングストア(ARMS Clothing Store)」代表兼バイヤー。20歳で原宿の老舗古着店に入り、古着業界へ。以降、21歳からバイヤーとしてアメリカ各地を飛び回る。現在もアメリカを古着ハンティングの主戦場とし、スケート、バイク、映画、音楽などを中心としたアメリカンカルチャーへの造詣も深い。フイナム内のユーズドものキュレーションサイト「Houyhnhnm’s」にも出店中。
armsclothingstore.com/
instagram@armsclothingstore

ロストバゲージしないためのバッグ。

ー キャリーバッグは、〈アークテリクス(Arc’teryx)〉と〈ザ・ノース・フェイス〉ですね。スーツケースブランドではなく、アウトドアブランドを選んだのはなぜですか?

斎須: ハードケースでもいいんですが、みんな持っているから、空港到着口のベルトコンベアで見分けづらいんですよね。その点これらは見分けがつくので、見逃すことがないんです。昔は軍モノのダッフルバッグばかり使っていたましたが、アメリカの軍人にも笑われていました(笑)。〈アークテリクス〉のはまだ新しく、軽くて耐久性も十分。〈ザ・ノース・フェイス〉のは、年式的に新しいので良くなっているだろうと、2年前くらいに買いました。ちょうど機内持ち込みサイズです。

ー アパレル周りでいえば、こういうアウトドア系のキャリーバッグは珍しくないですが、一般的には少ないんでしょうね。

斎須: そうですね。ハードケースが多いので被りません。海外のトランジットでロストバゲージしたりして、時間をロスするのが嫌なので、見分けがつくようにしています。

ー なにかロストバゲージしないように対処している方法はあるんですか?

斎須: できることは限られるんですが、なるべく直行便で、乗り継ぎしないようにしています。16年ぐらい海外へバイイングに行ってますが、一度もロストバゲージの経験はないですね。それでも、トラブルはあります。

ー それは“バイヤーあるある”なんですか?

斎須: そうです。みんな気をつけているかはわからないですが、話を聞くとロストバゲージで、運もありますが、どこかに行ってしまうことがあるらしいと。買い付けっていい物を仕入れるのは当たり前なんですが、無事に帰ってくるということが一番ですからね。

ー 他にも難所があるのでしょうか?

斎須: 空港に着くとイミグレーションがあって、若かりし頃は〈ディッキーズ〉とか着ていて気にしてなかったのですが、頻繁に行き来しているとたまに止められることがあるんです。といっても、どれだけ荷物を持っていても、止められた経験はないんですが。なので、ジャケットとシャツに、まともに見えるパンツで1セットは必須です。そこを通りさえすれば後は大丈夫なので、Tシャツとかスエット、ギア系のアウターを着ますね。

ー ウエストバックはどちらのですか?

斎須: 〈フラグスタフ(F-LAGSTUF-F)〉ですね。眼鏡や箸、ペンに小銭、パスポートとか、すぐに出して使いたいものを入れています。背面にベルトがあって、キャリーバッグのハンドルにかけられるんです。このブランドは元古着屋のひとがやっているので、便利という点に共感して買いました。大事なものが全部入りますし、似てるバッグは数あれど、僕の中ではこれが一番。買い付け中の必需品です。

〈フラグスタフ〉のウエストバッグは、背面ベルトによりキャリーバッグに装着できる仕様。

斎須: とはいえ、最近ではこれさえ持ち歩かず、パスポートと財布をまとめて首から下げているときもあります。無くしたくないのは、クレジットカードとパスポートぐらいなので。キャッシュもほとんど持って行くことはありません。向こうに日本とアメリカをリンクさせた口座もあるし、クレジットカードからキャッシングもできますし。キャッシュのが安いんですが、還元率のいいカードを使って、ポイントを貯めて旅券に変えています。

ー 服とか下着は何日分を持っていくのでしょう。

斎須: 下着は現地で買います。スリフトショップを1日10件ぐらい回っているので、潰れたお店などから出た未使用品を1日着て、毎日捨てています。もちろん続けて着ることもありますが、Tシャツ、靴下、パンツは捨てるスタイルですね。夜は長距離トラックの運転手が休む、日本でいうサービスエリア的な大きなガソリンスタンドがあるんですが、そこのコインシャワーでシャワーを浴びて寝ます。最近は疲れるからモーテルとかですね。

バイヤーだから語れる古着の世界。

ー バイイング歴は何年くらいになるんですか?

斎須: 「アームズクロージングストア」をはじめて9年、その前は原宿にあった老舗の古着屋で21歳からバイヤーをしていたので、合わせて16年ですね。そのときからアメリカがメインで、個人になってからは、ブランドのアーカイブを探しにヨーロッパを回ったこともあります。ルートは決まっているところもあれば、その時々でこの時期だからこういうアイテムが欲しいなというのを考えます。

ー アイテムはどのように狙い撃ちしているんでしょう。

斎須: 例えば、シャツでも東と西で出やすいメーカーに違いがあります。寒暖の差や、人種、土地の文化、昔流行ったもの、どういう仕事が盛んだった、レジャーはどうとか、そういうのを参考にしています。ある程度検証してますが、当たり・ハズレがあります。ですが、何も出ないというのはありません。お客さんにも「モノはあるんですか?」って聞かれるんですけど、取ってくるのが仕事なので(笑)。

ー 1回の滞在期間はどれくらいなんですか?

斎須: 10日間~2週間くらいですね。それを細かなスパンで繰り返していて、去年は10回行きました。行くときは1人で、飛行機で北から南へとかの移動もありますが、基本は車移動ですね。

ー 買い付け予算の大枠は決めていくんでしょうか。

斎須: ある程度は決めてますが、出たら買うしかないのでそこは無視して、買えるだけ買っちゃいます。古着なので、ブランドと違ってすぐ売れなくても、来年や再来年にも売れるということが普通にあるんです。長くやっているから、これは今後市場に出なくなってくると判断して、買っておいて時期を見て出すこともあります。数がなくても面白ければ買いますし。

ー 買い付ける場所もある程度決まっているんでしょうね。

斎須: スリフト、ディーラー、フリマ、そしてラグハウスという服が積み上がっている倉庫みたいなところが仕入れの場です。前職ではラグハウスばかりだったんですけど、いまはスリフト、ディーラーあたりがメインですね。プラスでラグハウス。付き合いがないと入れないので、なかなか難しいところでもあります。

ー アメリカの動向は常にチェックしていますか?

斎須: ある程度はします。でも、あちらも日本の動向をすごいチェックしていて、日本でいくらで売っているのかを知っているんです。相場のつけ方って、例えば2000円で買うって言ったら次から2000円になって、同じのを3000円で買うっていうひとが出てきたらその時から3000円になるんですよ。それがいまは全世界で起こっていて、常に値が上がっています。

店内にはブラウンズビーチジャケットやコンバースと一緒にバイクのヘルメットが並ぶ。

ー 世界レベルでのお話なんですね。情報があるから誰でもできちゃう時代ですか?

斎須: 古着という狭い世界のことではあるんですが、村で起きていたことが街レベルになったぐらいのイメージです。一般のお客さんも「メルカリ」や「ヤフオク」で、それが見れる。逆にいまは古着屋に来ることを楽しんでくれるひとが増えていると感じます。やっぱり実物を見ないとねってムード、ありますね。

ー 確かにオンラインショッピングって質感がわかりにくいから、たまに失敗するんですよね。

斎須: 僕たちは失敗しても長いスパンで見れば売れるかもしれないのでいいですけどね。最近は世の中的に、右向け右という買い方をしなくなり、誰々が着ていたこれが欲しいというのは風潮は少なくなってきたと感じています。

何度も行くアメリカをどう楽しむか。

ー ところで、旅行中の楽しみはなんですか?

斎須: 一番は食べ物です。風景はちょっと見飽きました(笑)。ずっと車を運転するんで、ものを運ぶ長距離運転手みたいなものですよ。食べるのは現地B級グルメ。古着を探すように、この土地は何が有名というのを現地で聞いて情報収集します。あとは、アメリカ版食べログみたいなのサイトや「Google マップ」も参考にします。あとはギャラリー、美術館巡りも行きます。お土産屋さんを見るのが好きで、個人用として買ってきているんです。

インディアンのタンドリーチキンやメキシカンのファヒータ、カリビアンのキューバンサンドなど、
各国の食事を楽しめるのも魅力。

ー 服を好きな人って、服だけじゃなく文化を好きな人が多いですよね。

斎須: 服が先か文化が先かで違いますよね。僕の場合は音楽、映画、スケボー、バイクから服装が後でついてきました。若い頃から20代半ばくらいまでは3ヶ月間アメリカにいて、2ヶ月間は日本に戻る、みたいなのを繰り返していて。メキシカンの元ギャングのひと達ばかりがいるような、ゲットーみたいなところに住んでいて、ここでは言えないような面白い経験を沢山させてもらいました。

ー 美術館の話が出ましたが、アートはコレクターや美術館が価値ある作品を保持して、保護しますよね。服は古着屋がそういう役割を担っているんでしょうか?

斎須: そうですね。そういうのは、ブランドだと〈リーバイス〉くらいしかないですよね。あとは、ハワイアンシャツはアート感覚が強くて、最近だとTシャツも同じ感覚なのなのかなと。ずっと本物を見て、買っている側からすれば、偽物?って思うものが増えたなと感じています。まあ、自分で買ってみないことにはわからないですよね。

ー 他に自分用に買うものはありますか?

斎須: 古着屋なのにガジェットは最新のモノが好きで、かなりリサーチして買っています。〈ボーズ〉のサングラス型のヘッドホンは、日本よりも早く販売したのでアメリカで買いました。車で運転しながら話せて、眩しくもないから便利なんです。iPhoneの周辺機器も日本と違うので見比べたり、アウトドアのお店も好きですね。「アマゾン」も日本版とアメリカ版の両方を見ています。古着屋だけでなく、ブランドのショップや新しい商業施設を見に行っていて…まあ、ただのオタクですよね(笑)。

所狭しと商品が並ぶ祐天寺のお店が人気となり、現在は下北沢のお店など、全3店舗を経営している。

ー そういう楽しさを見いだせる人は、何度同じところに行っても楽しいんでしょうね。

斎須: 極論すれば、お店という場所があればなんでも売れますからね。自分が欲しいモノを子供のようにひたすら買って、それを売るのに頭をひねってる感じです。最近は古い釣り道具が面白くて、ヴィンテージのルアーやロッドに注目しています。道具の良し悪しとか分からなかったんですが、釣りをする友達と一緒にやるようになって覚えてきました。今まで知らなかったことを始めて、ひとと話をするのは楽しいですね。それで新しいひとが来てくれることもありますし。

ー コロナで人と会えないこともストレスでしたからね。ネットは利用しつつも、結局ひとに会うことが楽しいのかもしれませんね。

斎須: お店の考えとしては、流行り物ばかりを買い付けて来る云々よりも、生っぽい感じでいま自分たちがこういう遊びが好きで興味があり、それを踏まえてこういうスタイルで提案しているというお店のほうが、お客さんも自分たちも楽しめるんじゃないかなと考えています。お客さんよりも店員が沢山買い物しているぐらいの方がいいと思うんです。

ー そうですね。いまはアメリカに行きづらいでしょうけど、コロナが収束したら何をしに行きたいですか?

斎須: 少しずつ行く予定を立てていて、常に現地や大使館から情報は集めています。州によっては2週間隔離のレベルが、強制から要請に変わってきていているらしいんですよ。まだいろいろとリスクはあると思うんですが、釣りとか趣味の道具を探すのも楽しいんじゃないかなと思いますね。

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