第四講
阿部孝史

‘30s HEAD LIGHT COVERALL JACKET
阿部: というわけで、ぼくのひとつめは裕くんからのカバーオールつながり。1930年代頃の〈ヘッドライト〉のものなんだけど、いろいろ変わってるんだよね。
藤原: ぼくは以前、同型のモデルを3回ほど見ていますが、いろいろ検証したらカナダ製じゃないかとの声も一部ありまして。
今野: 確かにカナダぽさあるかも。
阿部: だよね。

今野: 生地の染まり具合が全体的に浅いというか。粗さはあるものの、退色していくと浅めな色になるんですよね。代表的なところで例えるなら〈GWG〉(GREAT WESTERN GARMENT。古着サミット4を参照)のGジャンやカバーオールがそうですけど。


阿部: そもそも同年代の〈ヘッドライト〉でプリントタグを使ったものはまず見たことないし、他にも不確定要素が多すぎて。栗くんはどう思う?
栗原: どうでしょうね。でも、同年代のアメリカ製であれば、ある程度基本的なディテールがあるじゃないですか? チンストだったり、チェンジボタンだったり。それが両方ともないですし。
藤原: ですね。それ以上に旧いものであれば、ムービングボタンになってくるので。
今野: それこそ〈GWG〉の工場で作ったものなんじゃないかな? ボタンのサイズとか、赤目の〈GDG〉の物にかなり近しい感じもするし。
栗原: ああ、確かに。ポケットの形状とかも似てるといえば似てるので。

阿部: 気に入っているんだけど、アメリカ製と比べると若干プレミア感は劣るよね。
藤原: いやいや全然。〈カーハート〉なども同時期にアメリカ製とカナダ製の2種類ありますが、かといってカナダ製の方が人気がないわけでもないですし。
栗原: アメリカ製だろうがカナダ製だろうが、やっぱりもの自体のクオリティが高ければ当然評価に繋がりますし、逆にイレギュラーとしてのレア感もあるわけで。
阿部: 裕くんも言うように、ぼくは以前からカバーオールを推しているけど、やっぱり単純に好きなんだよね。ブランドごとに異なるポケットの形状とか、未見のものはいまでも気になる。この〈ヘッドライト〉も最終的な決め手は未見だったからだし。まあ、カナダでもかっこよければいいよね…。
栗原: すごい気にしてるじゃないですか(笑)
一同: (笑)
「XXだと思って買ったら、507でした。謎は深まるばかり」

’60s LEVI’S 507
阿部: 2つめは〈リーバイス〉の507。かたちはいわゆるセカンドモデルだけど507XXではなく507。つまりはXXデニムを使っていないセカンドタイプで。最初に見つけた時は507XXだと思ったんだけど、ディテールを見て507だと。色も悪いし(笑)


藤原: これもいろいろ謎の多いモデルですよね。XX仕様のデニムジャケットは必ずポケットフラップの裏にオンスの低いデニムを使っていますし、ボタン裏の刻印も一定のイニシャルです。それらの要素がひとつもないってことは、サードモデル(557XX)のデビュー以降に作られた可能性が高いわけで。
阿部: そうそう。アームのリベットもないし、ステッチワークもちょっと変わっていて。
今野: どこですか?

阿部: プリーツ部分のボックスステッチがポケットまでそのまま伸びていたり、背面のアジャスター補強も1本取りに簡略化されていたりして。
栗原: でも、557XXより後に製造されたって何か確証はあるの?
藤原: 507XXから557XXに変遷して、その557XXが557、70505へと変遷する中でXXではなくなったタイミング、つまり557がリリースされた1966年以降なんじゃないかと。ボタンも70505以前に使われていた“O”刻印のボタンですから。ただ、当時の本国版カタログには掲載されていないんですよ…。
栗原: そうなんだ。歴史を遡ったモデルを作った理由が謎だよね? 同時期にシェイプをちょっと変えたり、廉価版として作っているならまだ理解はできるんだけど。

阿部: さっきもちょっとだけ話に出たけど、ボタン裏の刻印のイニシャルや数字から具体的な工場名とかまだは判明してないの?
藤原: そこまでは判明していないですね。ただ、“O”刻印のものはちょっと変わったものを作っている印象です。“O”刻印はセカンド以降に登場する刻印なんですが、557XXでもフラップ裏が共布だったり、イレギュラーな仕様が多くて。
阿部: まだまだ謎が多いんだね。