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FASHION ISN’T DEAD.いま売れているファッション。前編
MONTHLY JOURNAL MAR.2021

FASHION ISN’T DEAD.
いま売れているファッション。前編

服が売れないと言われる日本のファッション業界。年々下がるアパレル消費、相次ぐ大手企業の破産やショップの閉店など、目を背けたくなる報道ばかりが目立ちますが、実はその裏でしっかり売れてるものもあるんです。例えば、ステイホームで需要高まるルームウェア、ベストから一気に火がついたフィッシングウェアなんかがそう。でも、それだけではありません。今回のマンスリージャーナルでは、隠れた人気ブランドやヒット商品にフォーカス。ファッションに精通する5人のインタビューからいまの時代に求められているものを探ります。前編では、いま話題のブランドを世に送り出している「アンシングス」の代表・重松一真さんと、「ビームス」のメンズカジュアルチーフバイヤー柴崎智典さん、そしてスタイリストとして活躍しながら自身のブランド〈サンセサンセ〉も手掛ける梶雄太さんに話を聞きました。

  • Photo_Shintaro Yoshimatsu, Yuco Nakamura
  • Text_Naoki Masuyama, Shogo Komatsu
  • Edit_Yuri Sudo

PROFILE

重松一真

1988年生まれ。インポーターの経験をもとに、2017年に〈アンシングス(anthings)〉を設立。国内外のブランドのコンサルティング、プロデュース、セールスなど多角的に活躍する。「趣味は仕事」と言い切るも、最近はサウナへの熱が上昇中。

嘘が通じない今こそ、“ひと”が軸になっていく。

ー 服が売れなくなっている実感はありますか?

重松:買うひとがシンプルに減っていますし、売れる服と売れない服の差が大きくなっていると思います。ひとつはっきり言えるのは、消費のサイクルが短くなりましたね。インスタグラムなどはすでに情報過多で、YouTuberたちがトレンドを発信することも当たり前になった。じゃあ、次はどうなんだという。

ー なにか打開策はあるのでしょうか?

重松:軸になるのは、やはり“ひと”だと思っています。ただし、従来のやり方以上に一歩踏み込んだ、鋭い提案が大事になってくるかなと。誤解を恐れずに言えば、ますます“嘘”が通じない世の中になってきているんですよ。ファッションに限ったことではないですが、SNSなどを通して情報が簡単に取れることにより誤魔化しが効かなくなったのだと思います。一方でブランドやお店などの情報よりパーソナルな発信の方がよりリアルなので、そこに共感するひとが多いんだと思います。

ー サイクルが早いからこそ、より本質的なものが求められていると?

重松:そういった側面はあると思います。アイテムで見ても、ヴィンテージ古着などクラシック回帰の向きが強い。ハイテクな機能服から天然素材の服への動きも顕著ですね。「無駄な買いものをしたくない」という、コロナ禍の消費者変化も大きな要因だと思います。

ー 昨年に立ち上げた〈IAC〉は、そのあたりを見据えた動きですね。

重松:そうです。平たく言えば、感覚的に合うメンバーと一緒に素直な感情を発信しようということ。〈THE COOP〉のようなコラボレーションはひとつの形ですし、「インベントリー」というひとにフォーカスしたECモールサイトも実験的にスタートさせました。

ー 海外ブランドの現状はいかがでしょう?

重松:日本以上にダメージが大きいと思います。グローバルな大量流通が前提にあるので、なにかにつけてアクションが起こしにくい。そもそもサンプルをつくるかつくらないかで四苦八苦しているブランドも数多くあります。当然、バイヤーへの対応も後手後手になりますし。相対的にドメスティックブランドが元気に見えますね。

ー では、具体的に売れているアイテムを教えてください。

重松:先ほどお話しした「インベントリー」で購入できるアイテムですが、ブランド名はありません。というのも、このシャツは「レショップ」の金子恵治さんが個人的に欲しいシャツを具現化したもの。いわゆるパーソナルオーダーです。1着で10万円しますが、人気です。

ブランド名なし、BDセミハンドシャツ(左)、レギュラーカラーセミハンドシャツ(右)。各¥100,000+TAX(INVENTRY公式サイト

ー 個人的な熱量が伝わってきます。

重松:ストレートに、いまの金子さんが着たいシャツをつくったらこうなった、というアイテムです。イタリアの高級ブランド〈カルロ・リーバ〉に別注をかけた生地を使い、カッティングから縫製、カラーやヨークの佇まいにいたるまで、すべて金子さん本人が一から手掛けています。多くの需要を望んでいるわけではないぶん、やりたい放題(笑)。狂気じみたこだわりの詳細は、ぜひ「インベントリー」のブログを読んでいただければ幸いです。

ー まさに“ひと”がキーワードになった服ですね。

重松:そうです。〈ETSマテリオ〉のパンツも、そういった理由から売れているアイテムです。2000年代前半にあった渋谷ファイヤー通りのショップ「マテリオ」の世界観がベースになっていますが、そこには「アナトミカ」のDNAが宿っていて。当時は数多くの業界人で賑わっていたそうですが、そのなかで1年間だけ金子さんがバイヤーを務めていたんです。で、今年の3月に金子さんが指揮をとり、めでたくブランドとして復活。新宿のフラッグストアをはじめ全国で13店舗に絞って展開していますが、すでにオーダーが好調です。

〈ETSマテリオ〉フレンチアーミー M47、¥32,000+TAX(ETS.MATERIAUX、03-5369-6428)

ー こちらも金子さんの想いが乗ったパンツですか?

重松:金子さん的なフレンチカジュアルが大きな世界観としてはありますが、〈ETSマテリオ〉はシーズンを通してふたりのデザイナーを立てているんです。〈ウティ〉の宇多悠也さんと、〈ブラームス〉の村上圭吾さん。彼らの思いとエッセンスが混ざり合って、すごくモダンでユニークなパンツになっています。

ー モチーフはヨーロッパのミリタリーパンツでしょうか。

重松:M-47にアレンジを加えています。地厚のコットン生地でワイドに仕立てていますが、非常に平面的な見え方が特長です。一方で、テーパードラインやヒップの出し方などにこだわり、上品なオーバーサイジングを提案しています。

〈モノリス〉バックパックプロ L、¥40,000+TAX(MONOLITH公式サイト

ー こちらのバッグは?

重松:昨年末にスタートした〈モノリス〉というブランドです。ご存知〈ムロフィス〉の中室太輔さんと、ランドセル業界で大きなシェアを誇る「セイバン」によるプロジェクト。話題性があって、実際に売れ行きも好調のようです。

ー アノニマスで使い勝手がよさそうです。

重松:細かく見てもポケットの位置や数がちょうどよかったり、すごくつくり込まれているなと感心します。また、中室さんをよく知っているひとから見れば、非常に彼らしいバッグだと思えるんです。というのも、中室さんってアウトドア好きでキレイ好き。身の回りの整理整頓とか、すべてにおいてきっちりされているんですよ。まあ、時間にはルーズだったりするんですが(笑)。いずれにせよ、このバッグにはすごく中室さんらしさを感じる。コラボレーションの意外性のあるアプローチも含めて、価値のあるバッグですよね。

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