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FEATURE
FASHION ISN’T DEAD.いま売れているファッション。前編
MONTHLY JOURNAL MAR.2021

FASHION ISN’T DEAD.
いま売れているファッション。前編

服が売れないと言われる日本のファッション業界。年々下がるアパレル消費、相次ぐ大手企業の破産やショップの閉店など、目を背けたくなる報道ばかりが目立ちますが、実はその裏でしっかり売れてるものもあるんです。例えば、ステイホームで需要高まるルームウェア、ベストから一気に火がついたフィッシングウェアなんかがそう。でも、それだけではありません。今回のマンスリージャーナルでは、隠れた人気ブランドやヒット商品にフォーカス。ファッションに精通する5人のインタビューからいまの時代に求められているものを探ります。前編では、いま話題のブランドを世に送り出している「アンシングス」の代表・重松一真さんと、「ビームス」のメンズカジュアルチーフバイヤー柴崎智典さん、そしてスタイリストとして活躍しながら自身のブランド〈サンセサンセ〉も手掛ける梶雄太さんに話を聞きました。

  • Photo_Shintaro Yoshimatsu, Yuco Nakamura
  • Text_Naoki Masuyama, Shogo Komatsu
  • Edit_Yuri Sudo

PROFILE

柴﨑智典

1980年生まれ。2005年に「ビームス(BEAMS)」へ入社し、現在はメンズカジュアルチーフバイヤーを担当。アメリカントラディショナルなアイビースタイルを好み、その流れを汲んだアメカジのスタイリングも守備範囲。休日は家でゆっくりと過ごす派。

日本ファッション史に名を残す「渋カジ」の再燃。

ー 「ビームス」では、昨年と比べて、今年はどんなものが人気ですか?

柴﨑:うちだけに限らないかもしれませんが、よりベーシック化が進んだように感じています。簡単に言えば、無地のアイテム。柄もスタンダードなデザインが人気です。アイテムなら、スエットやデニム。色も、スタンダードなものが好評です。

ー それが今春のトレンドなんですね。

柴﨑:ドメスティックブランドを中心に、展示会を回って今季の新作見てみたら、スエットやデニムが多い印象でした。スエットはセットアップで展開されていて、デニムはインディゴ以外にナチュラルカラーがラインナップされていました。とにかくシンプルになったイメージです。

ー 他には、どんな潮流を感じていますか?

柴﨑:若い世代を中心とした、90年代のレギュラー古着の旋風が巻き起こっているのが気になります。ぼくもそうですけど、30〜40代のひとたちは、90年代のアメカジブームを通ってきているので、懐かしさと安心感があるから、結局、全世代を網羅するトレンドになっているのではないでしょうか。

ー コロナ禍の影響で、安いから売れる、高いから売れないという訳ではなさそうですね。

柴﨑:このコロナ禍でも、ハイブランドは変わらずに売れているし、高級車も売れているらしいです。機能やコンセプトがしっかり伝われば、どこの価格帯でも戦えると思うんですよ。このくらいの値段で、これくらいのものをつくれば、売れるでしょ、という考えでは、以前に増して売れなくなったはず。誰をターゲットにするのか、購入者にどんな付加価値を与えたいのか、そこまで緻密に考え抜いたブランドが、いい結果に繋がっています。

ー いま「ビームス」で売れているのが、こちらのオリジナルアイテムですね。

柴﨑:今季のテーマは、80年代後半から90年代のアメカジ。要は、“渋カジ”です。日本でアメカジが盛り上がっていた時期のスタイルにフォーカスしています。育ちのいい人が着ていて、清潔感と行儀のよさを感じるけれど、それを着崩した不良的な部分も踏襲しているんですよ。現代に置き換えているので、素材はいいものを使っていて、シルエットは大きめ。そこはいまの気分を取り入れています。

〈ビームス〉ペイントワイドチノパンツ、¥13,200(ビームス 原宿、03-3470-3947)

ー こちらは、先ほどトレンドに挙げていただいたデニムパンツ。柔和なカラーがさわやかですね。

柴﨑:このパンツは、まさにいまの気分。ペイント加工を施したのでユーズド感があるけれど、どこかクリーンな印象です。普通だったらインディゴのデニムでつくるところですが、最初に話したように、ナチュラルカラーがトレンドにあるので、この色味で表現しました。

ー ゆったりとしたシルエットが、いまっぽさもありますね。

柴﨑:そうですね。シルエットは、やや太めのストレート。ちょうどこれからの季節にちょうどいい厚地です。

〈ビームス〉ルーズダブルライダースジャケット、¥19,800(ビームス 原宿、03-3470-3947)

ー こちらもデニム生地を使ったライダースジャケット。

柴﨑:これ、めちゃくちゃストレッチが効いているんですよ。レザーのハードさを、デニムのカジュアルさに差し替えたので、コーディネートの幅が広がるはずです。

ー ライダースジャケットを着たことがないひとでも、コーディネートしやすそうですね。

柴﨑:オリジナルを企画しているのは半年から10ヵ月も前なんです。いまはデニムが流行のど真ん中で人気と言えますけど、企画段階では不確かなものでした。そこで大事になのは、海外ブランドの動向はもちろんですけど、結果的にその時の気分がいちばん重要なんです。

〈ビームス〉グラデーションボーダークルーネック、¥6,600(ビームス 原宿、03-3470-3947)

ー やっぱり、フィーリングが大事なんですね。そして最後に、ボーダーのロンTです。

柴﨑:このボーダーは、ザ・90年代と言わんばかり。ピッチの太さや配色が肝となり、それがシーズンを表します。ボーダーって、意外とたくさん種類がありますけど、そこにはトレンドが濃縮して反映されるからおもしろいんですよ。

ー たしかに、90年代っぽい!

柴﨑:90年代のボーダーは限られているけど、みんなが共感してくれるように、ボーダーの配色やピッチについて話し合いを重ねて完成させました。

ー 90年代のシーンや渋カジはどんなものでしたか?

柴﨑:シーンを引っ張ってきた大先輩がたくさんいるから、ぼくが語るほどではありませんが(笑)。ストリートから生まれた、カルチャーやジャンルをそれぞれが自由に表現していて、そこからかっこいいと思うものを抽出されていったのが、90年代のファッションと個人的に思っています。目まぐるしく、いろんなものがクロスオーバーしていった時代でした。なんて言ったらいいんだろう……。語りきれません(笑)。

ー 多様性が叫ばれ、オリジナリティ豊かな個々で発信しているいまの時代と、90年代が似ているように感じました。

柴﨑:たしかに、それは同感です。ファッションも音楽も、20代の活躍ぶりは、当時を思わせる熱量があります。どちらも、事務所や大御所が認める前に、世の中が認めれば勝ちとなる時代ですから。そのムードと相まって、90年代のニュアンスを反映した、これらのアイテムが売れているのかもしれません。

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