自分で探した正解を表現するセンスが必要。
ー おふたりは、ファッションも含めて自分たちの表現していることに対して、100%理解されたいと思いますか?
加賀美:「なんだかわからないけどおもしろい」っていうくらいが、ちょうどいい気もするけど。
梶:健くんも俺も、ある程度みんながわかりやすい表現をしようと思ってるはず。だからそんなにひねくれてはいないかな。そういう意味では俺たちいつでもメインストリームに立てるんだよ。この20年間でその準備をしてきたつもりだから(笑)。
加賀美:やるやる!
一同:笑

梶:そろそろ話が来てもいいはずだよね(笑)。俺も健くんも理解されたくないなんて思ってない。楽しいに越したことはないから。
加賀美:もちろん来てくれるのはウェルカムなんだけど、長年やってて思うのは、「加賀美さんおもしろい」って思ってくれる人がいたとしても、結局来ないんだよね。ちょっと離れて見てるというかさ。実際に服もアートも、みんなが口を揃えて「いいよね」って言われるものしか売れてないような気がしていて。とくに東京はそういう傾向が強い。インフルエンサーと呼ばれる人たちが「いいね」と言って、そのフォロワーたちはそれを信じて、アート作品の値段がどかーんと上がっちゃう。自分はそこには行きたくないというか、そもそもフックアップすらされてないんだけど、モヤモヤしたものは感じるかな。
梶:健くんも俺も、上の人たちに期待なんてしてこなかったじゃん。自分たちの力でやってきたというか。
加賀美:そうだね。20年前からそうゆう構図は変わってないような気がするな。
ー おふたりともそうしたシーンに対するアンチテーゼというか、反抗心みたいなお気持ちはあるんですか?
梶:少なからずそういう気持ちはあるよ。
加賀美:俺にとってはひとつのテーマでもあるよ。それが原動力になっている部分があるから。だけど、それを表に出すと角が立つ。だから伝え方にもセンスが必要だよね。
ー 「伝え方のセンス」。これもひとつメモの箇所ですね。
加賀美:みんなわかりやすいものが好きなんだと思う。アートもファッションも。インスタグラムとか見てても、そうゆうものにしか反応してないから。

梶:だけど、コロナでその価値観がちょっと揺らいだ気がする。ハイブランドとか、人気ブランドとか、そういう記号的なものに答えを求めていた人たちの自信がなくなっているというか。コロナによって世界中が混沌として、答えがなくなってきているでしょ。だから、いままでは俺たちに対して訝しげだった人たちが、「実はこっちもいいんじゃない?」って思う流れができたというかさ。
加賀美:若い子たちが表現していることを大御所やインフルエンサーたちがフックアップして、それをそのフォロワーたちが見るっていう仕組みになってるじゃない? それがすごくもどかしい。大御所やインフルエンサーの視点なんてどうでもいいはずなのに。そんなにその表現がいいと思うなら、自分でダイレクトに見ればいいのにさ。
梶:さっきも話したけど、俺は20年以上スタイリストをやってきて、誰にも期待してこなかった。もちろん家族や友人たちは大事にしてるよ。だけど、なんで続けてこられたかというと、いつか若い人たちに伝わるかもしれないと思ってたからなんだよね。自分の表現に対して、若い子たちが共感してくれたら、風向きが変わると思ったの。きっと若い子たちも気づいてるんじゃないかな。大御所やインフルエンサーは関係ないって。感覚的にそう思っててほしいけど。
ー いまの若い世代の人たちはモノの見方が上下じゃなくて、もっとフラットに見ているような気がします。だからトップダウンみたいなものは、以前よりも通用しなくなってきているように思います。
梶:そうかもしれないね。だから雑誌が売れないのもそういうことなのかもしれない。いままでは「これが正解」という情報を与えてきたけど、もはや正解は自分で探す時代でしょ。その上でさっき健くんが言ってたみたいに、センスが必要になってくるんじゃない? 自分で探した正解を表現するセンスが。