自分の色に染めるっていうのを、ちょっとした歌い出しでできちゃう。ぼくはそこに心揺さぶられたんだろうな。

ー そういえば茂木さんは、佐藤さんと出会う前は、ドラムボーカルをするつもりだったんですよね。
茂木:思ってはいたけれど、そんなの青い話ですよ!(笑)。大学のサークルへ入った時に、すごい人が沢山いるなって思いましたもん。特に佐藤くんに出会った時は、恐れ入りましたって感じで。どう考えてもこの才能は普通じゃないぞと、会った瞬間に思ったんで。絶対にこの人とバンドを組もうって思いましたから。
ー その当時から、他の人と違う雰囲気があったんですね。
茂木:まったく違いましたね。カバーを演奏していても、佐藤くんが歌い出すと楽曲の生命力が変わるというか。ビシッと緊張感が入って、カバーをしているように見えないんですよ。
ー 佐藤さんとの学生時代のエピソードがあれば、お聞きしたいです。
茂木:ブルーハーツの『NONONO』って曲を誰かが練習しているのを眺めていたら、ボーカルの歌い出しが分からないって時があったんですよ。そこにちょうど佐藤くんが部屋に入って来て。佐藤くんはブルーハーツがすごく好きだから、全部分かっていたんですよね。「ちょっと待った!」って入って行って「出だしはこういう感じだよ」って、「どこかで誰かが泣いて~」って歌いだしたんですよ。
ー 佐藤さんのブルーハーツ……聴いてみたいです!
茂木:それがただ教えてるっていうよりも、もう佐藤くんの色に染まっちゃっていて「カッコいいこの人!」ってなっちゃったんだよね。自分の色に染めるっていうのを、ちょっとした歌い出しでできちゃう。ぼくはそこに心揺さぶられたんだろうな。一緒にやり始めて、オリジナルの曲を最初に4曲ぐらいつくったんですけど、もう着いていくしかないって思いましたからね。

ー その頃のフィッシュマンズはどんな感じでだったんですか?
茂木:最初は3人だったので、佐藤くんはベースボーカルをやっていて、小嶋さんがギターで、ぼくがドラム。このリハーサルがまたすごいんですよ! 都立大学にあるスタジオで練習していたんですが、始めたばかりの頃は初期のクラッシュみたいな感じの速いエイトビートの曲をやっていて。佐藤くんはベースを弾いて歌いながら、ずっとジャンプしてるんです(笑)
一同:(笑)
茂木:小嶋さんも跳ねまくりで圧倒されちゃって!リハーサルスタジオでそんな風景を見たことなかったですからね。しかも、練習していた曲ってまっさらな新曲ですよ? 新曲のはずなのに、当たり前のようにジャンプして、自信満々でやっているから驚きましたよ。そういう意味では当時から自信があったんですかね。「どう、この曲いいでしょ?」って、当時からのめり込んでいたんですよ。
miu:素敵ですね、本能というか。
茂木:本当にそう。本能的な感じは出会った最初のリハーサルから「男達の別れ」まで、ずっと変わらなかったね。音が鳴り始めると、ただただ自分の楽曲にのめり込んでいるというか。佐藤くんの中でいろいろ研ぎ澄まして、クオリティーをどんどん上げていくって感じもあったね。