CLOSE
FEATURE
FASHION IN TURBULENT TIMESファッションにおける主観と客観。VOL.01
MONTHLY JOURNAL SEP. 2021

FASHION IN TURBULENT TIMES
ファッションにおける主観と客観。VOL.01

ますます細分化されていくファッションの世界。もはや絶対的な正解は存在せず、ひとそれぞれが自分の好き・嫌いを楽しむマイクロトレンド時代が到来しました。そんななかでのファッション特集、テーマは “主観” と “客観” です。いまフイナムが注目するブランドと、ショップバイヤーに聞く、ダイナミックなトレンド動向を一本ずつの記事にまとめます。まずは “主観” 編。今シーズン、日本に本格上陸した〈タイガ タカハシ(Taiga Takahashi)〉と3Dコンピューター・ニッティングという先進的な技術を駆使する〈シーエフシーエル(CFCL)〉を取り上げます。服づくりに対するアプローチは違えど、同じくらいの熱量でファッションと真摯に向き合う二つのブランドがいま浮き彫りにするものとは。

PROFILE

高橋悠介

1985年、東京生まれ。2010年、「文化ファッション大学院大学」を修了後、「三宅デザイン事務所」に入社。13年、〈イッセイ ミヤケ メン〉のデザイナーに就任。20年、自身の会社を設立し、〈CFCL〉をスタート。21年、「第39回毎日ファッション大賞」の新人賞・資生堂奨励賞と「FASHION PRIZE OF TOKYO」を受賞。

現代生活と社会に対峙する、3Dコンピューター・ニッティングとデザイン。

ー はじめに、クロージング・フォー・コンテンポラリー・ライフ(現代生活のための衣服)の頭文字を取ったブランドネーム〈CFCL〉の根幹にある考え方について教えてください。

第一に社会に対して、どういうメッセージを持つ企業、ブランドであるか明快であるべきと考えるなかで、〈BMW〉や〈HSBC〉のようにアルファベットが並ぶ端的な名前にしつつ、スケールとコーポレート感があるような印象が大事だと考えました。例えば、「MoMA」はモダンアートの美術館だと明確で、レム・コールハースの建築事務所「OMA(Office for Metropolitan Architecture)」は、都市のための建築をしているのだとはっきり分かる。日々刻々と変化していく現代生活をおくる人々に必要な服をつくることが柱である〈CFCL〉には3つのポイントがあります。

ひとつ目は「ソフィスティケーション(洗練)」。自宅でのリモートワークでも、レストランやレセプションの場面など、都会で暮らす生活のすべての基準に対応できる品格があることを意味しています。二つ目が「コンフォート&イージケア」。ほとんどの商品は洗濯機で洗え、速乾性があり、シワになりにくいことを基本にしています。三つ目の「コンシャスネス」は、サステナブルな素材の使用と最小限の廃棄物、トレーサビリティをしっかり持つといったレスポンシビリティ(業務遂行責任)の観点ですね。これら3つが揃わないと、〈CFCL〉のタグは付けられないという意識を持っています。

それから、サステナブルという言葉自体がひとり歩きしているところもありますが、〈CFCL〉では主に再生素材を使い、「LCA(ライフサイクルアセスメント)」という環境負荷に当たる温室効果ガス排出量を定量的に評価する手法を採用している他、地球環境や基本的⼈権への責任が認証された「グローバル・リサイクル・スタンダード(GRS)」などの国際的な基準を満たした素材の使用率の算出をしています。今シーズンの使用率は、58.84パーセントです。スポットも含めて、すべての量産された商品のなかで使用されている素材を割り出して公表しています。

ー 「LCA」の実施は日本のファッション・アパレル業界でははじめてで、半年に一度、自社で作成する「サステナビリティ・レポート」も公開していますね。

2020年に起業する上で環境に配慮していないということ自体が不自然な話だと思います。偏った視点やグリーンウォッシュの問題など矛盾していることがたくさんあるなかでスタンスを明確に出さなければいけない。ぼく自身は専門家ではないのでCSO(チーフ・サステナブル・オフィサー)を立ててできる限り “見える化” しながら、取り組む必要のある要素を明らかにしています。「LCA」の実施と公表を継続しながら、サプライヤーや工場、糸屋、附属屋まで全13クライアントに、「SDGs パフォーマンスガイドライン」として151の質問をまとめたアンケートを実施しました。サプライヤー全体で現状を把握することで、〈CFCL〉のコンセプトのひとつ「コンシャスネス」の輪を広げていくことが目的です。SDGsに代表される課題解決の他、日本政府が掲げる、2050年までのカーボンニュートラルの達成に先駆け、〈CFCL〉は2030年までの温室効果ガス排出量実質ゼロを会社として目指しています。

各アイテムに記されているのは、製品一着の原料調達から廃棄処分を通じての温室効果ガス排出量。今回はシーズン全体36型のうち4型を計測しているが、2025年までに全型を対象範囲とすることを目指している。

こちらは地球環境や基本的人権への責任が認証された生産原料の使用率。「グローバル・リサイクル・スタンダード(GRS)」などの国際的な基準を満たした素材がどのくらい使われているのかをすべての商品から算出している。〈CFCL〉は2030年までに再生繊維100パーセントの服づくりを目標に掲げている。

最後はインタビューでも高橋さんが話していた「SDGs パフォーマンスガイドライン」のアンケート結果をまとめたもの。このガイドラインには151のチェック項目があり、それぞれA~Eの5段階で評価、及び、コメントをもらうことになっている。関係各社に自主評価してもらうことで、今後の取り組みの強化を目的としている。

ー 地球や社会における問題への意識はどのようなきっかけから持つようになったのですか。

母が社会派のライターであった一面もあり、環境問題や公共事業が破壊する人間の暮らしや自然などに対して敏感だったので、そうした知識や関心というのは幼い頃からありました。以前から地球環境や社会問題への意識を持つアクティビストの方々が活動をしていたと思いますが、2019年頃、グレタ・トゥーンベリさんたちが声を上げはじめてからちょっと潮目が変わったのではないでしょうか。ぼくが起業のためにリサーチを重ねるタイミングで時代の変化や、さまざまな繋がりがはっきりと見えました。SDGsだけでなく、AIや5G、IoT、リモートワークといった現代生活の変化に関わることをパンデミック以前からずっと考えていたこともブランドのビジョンに内包されています。

ー 〈CFCL〉のホールガーメント(無縫製)によるニットは、素材の余剰、いわゆる廃棄物が出ないことも特徴だと思います。

再生ポリエステルの糸を100パーセント使用したアイテムもありますし、もちろん地球環境への配慮をしています。ただ、“サステナブル” という言葉自体が売り文句にはなり得ません。売り文句とは他社製品と比べた自社製品の強みです。地球環境への配慮が当たり前になるなか、“サステナブル” という言葉自体が売り文句になるという状況には矛盾が生じます。〈CFCL〉がつくるのは「現代生活のための衣服」です。ブランドをはじめるタイミングで、世のなかのSDGsへの関心が高まり、パンデミックになったことも含め、人々の意識がこれから必要な服とは何かという方向に向かったことで自分が多面的に考えていたことが共感を生みやすかったのではないかと思います。

取材は東京・青山の骨董通りから一本なかに入ったビルにある〈CFCL〉のオフィスで行われた。

ー デビューコレクションから象徴的な「POTTERY(陶器)」と冠した、温かみのあるニットのイメージが刷新されるようなシャープなシェイプを描いたドレスがとても印象的でした。

50年以上の歴史があるパリ・コレクションのなかで、いわゆる新しくてびっくりするようなシルエットをつくり続けることは難しいことだと思います。それでも、例えば、女性らしいとされるフォルムはウエストとヒップのバランスから生み出されたり、「美しい」と思う人間の心理を捉える美意識のようなものは、時代が変わっても大枠は変わらないように思います。〈CFCL〉は、そうしたポイントをしっかりと押さえながら現代の手法、つまり3Dコンピューター・ニッティングでつくるということで還って時代を捉えようと試みています。

ぼくは学生の頃から3Dコンピューター・ニッティングを用い、ドレスをつくってきましたが、糸をセットしてボタン押すとそれだけで一着のドレスができ上がるんです。ただ、当時はモードなニットドレスでパリ・コレクションで発表しているデザイナーも、マーケットもほとんどなかった。一方、カジュアル化が進んだ現代は、より柔軟に受け入れる土壌ができている、自分が前々からやりたいと思ったことを実行するにはいいタイミングになってきたと思っています。〈CFCL〉ほど徹底して3Dコンピューター・ニッティングに注力し、しかも、ウォッシャブルでサステナブル素材を使っているニットブランドは世界のどこにもありません。だから、世界中で受け入れてもらえるはずだという自負もあるんです。

〈CFCL〉の代表作のひとつ「COLUMN」。その名の通り、イオニア式の柱のような独特のシェープを描くドレスだ。

ー 〈CFCL〉のVOL.2のコレクションについても教えてください。

まず、デビューシーズン(VOL.1)は〈CFCL〉のプレーンでニュートラルな世界観を大事にしています。つまりコンセプト=テーマと並列した形になっている。テーマは「Knit-Ware」。テーブルウェアやソフトウェアといった「ウェア(Ware)」のスペルで、意味は「器」。着る「ウェア(Wear)」と重ね合わせることでニットを体を包む器と捉えて、陶芸的なイメージを投影しています。器も服も人間の文明が生まれてからずっと一緒にあるものです。なぜなら、生活に必要なものだから。にもかかわらず、一過性のトレンドによりアンエッセンシャルな服が過剰に生産され、社会問題になっているのが現状です。〈CFCL〉は本来の意味で言う必要とされる服でありたいというメッセージも込めています。

VOL.2は「ウェア(Ware)」の概念を建築のスケールまで拡張しています。建築もまた人間を自然環境から守るため、暮らしや文明のなかで生まれた生活の器と捉えました。ニットの持つあたたかく柔らかいイメージや時代背景に対して、堅牢なイメージの建築という言葉を重ね合わせることで、ニットの概念を拡張することができると考えました。

〈CFCL〉のVol.2のコレクションは、古代ギリシャの神殿から近代の高層ビル群に至るまで、堅牢な建築物がインスピレーション源になった。

ー 人々の暮らしの歴史と関わり合ってきた広義での「Ware」をニットの概念と共に拡張している。それは、ライフスタイル、ひいてはひとの生き方というものにも関連していくのでしょうか?

そうだと思います。例えば、〈CFCL〉はロゴを服のデザインに使いません。結局、ブランドが分かりやすいものは、ある意味で強くなれる “甲冑” のようだと思っていて、そうした要素を邪魔だと感じるひとたちにこそ〈CFCL〉を着てほしいと思います。甲冑を不要とするひととは、自分が何者であるか、社会と向き合って答えを出しているひとたちなのではないかと。例えば、AIが人間の仕事を取っていくことによっても、自身のスペシャリティをすでに見出していて、時代の移ろいにもポジティブなひとたちが〈CFCL〉におけるペルソナだったりもします。そのような人々にとって、派手さやロゴは邪魔だし、ニュートラルで、着るひとのありのままの姿がスタイルとして成立する方がいい。〈CFCL〉の衣服はそれをサポートする “薄皮” のような服であるべきじゃないかと思うんです。いま、環境問題やエシカル、人権問題などに意識が高いひとたちが着る服が少ないのではないでしょうか。〈CFCL〉は、あらゆる面でコンシャスネスを追求しますし、そのような人々にとっても安心して着られるようなブランドでありたいと考えているのです。

高橋さんが着ているのは〈CFCL〉のモックネックのTシャツ。

ー ファッション・アパレル業界は環境負荷の責任が非常に大きいと叫ばれています。

CSOとよく話すのが、アパレルは悪者になりがちですが、実際、環境に大きな負荷を掛けているのはアパレルだけではないんです。ただ、ファッションは非常に身近なものだから光が当たりやすい。環境大臣も言っていましたが、逆に言い換えると、身近なものだからこそファッションは、ひとのマインドを変える力がある。ファッションで世のなかを変えることができるかもしれません。一方、パリ・コレクションを中心に新しいものを生み出し続けてきたファッション業界に「本当に新しいものがいいものなのか?」という問いが突きつけられています。しかし、この問い自体が新しい潮流であるという捉え方もできます。大事なのはいまの時代だけでなく、次の時代でも欲しいと思う服をつくり続ける姿勢です。

INFORMATION

Taiga Takahashi

Instagram:@taigatakahashi

このエントリーをはてなブックマークに追加

関連記事#MONTHLY JOURNAL

もっと見る