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ALL ABOUT LEATHER SHOES 2022いま革靴を履くべき10の理由。前編
MONTHLY JOURNAL MAR. 2022

ALL ABOUT LEATHER SHOES 2022
いま革靴を履くべき10の理由。前編

スニーカーブームがひと段落し、いま改めて見直したいものといえば革靴です。思い返すと10年以上前、メンズファッション界を席巻したのはアメトラでした。〈オールデン〉をはじめとするシューメーカーが台頭し、足元はアメリカ由来のもの一色。カジュアルな格好にドレスシューズを合わせることが当たり前とされていました。そして時は流れて2022年。アメカジの復権と共に再び革靴にスポットライトが当たりはじめています。ここでは業界のキーマンたちへのインタビュー取材に加え、いま押さえるべきブランドをピックアップ。前後編合わせて10のトピックスから今年の足元の最適解を探ります。まずは前編をご覧ください。

02 : INTERVIEW WITH SOTA MIYASHITA この春はローファー祭り。

PROFILE

宮下創太

伊勢丹新宿店 メンズ館 紳士靴 バイヤー。慶應義塾大学卒業後、三越伊勢丹入社。春夏合わせて3度甲子園の土を踏んだ野球少年だが、最後の夏が終わるとその翌日には古着屋でアルバイトをはじめたという根っからのファッション好き。

いわずと知れた世界屈指の紳士靴の殿堂「伊勢丹新宿店 メンズ館 シューズ売り場」。コロナ禍は御多分に洩れず足踏みを余儀なくされましたが、革靴回帰で息を吹き返しつつあります。鈴虫の声が聞こえるようになると、サイドゴアブーツやUチップが想像をはるかに超えて売れたのです。そんな “イセタンメンズ” がこの春、満を持して売り場に並べたのがローファー。この靴に特化したポップアップも3月22日(火)まで行われています。

ー 革靴が動き出す兆しは去年の夏からあったとか。

宮下:グルカサンダルが飛ぶように売れました。グルカはイギリス軍傭兵部隊であるグルカ兵が履いていたシューズをルーツに持つ、レザーを編み込んだサンダルです。これまではスニーカーやスポサン一辺倒でしたからね。明らかに、風向きが変わったのを感じました。もしやと思ってデザイナーブランドのルックをチェックすると、足元は見事なまでに革靴へとシフトしていたんです。

革靴回帰を確信し、カジュアルにも履けるサイドゴアやUチップを大量に仕込んで秋冬商戦に臨んだ結果、この読みはずばり当たりました。追い風の効果はイベントにもあらわれました。秋の風物詩として定着した「ISETAN 靴博」もヴィンテージショップの名門老舗「SAFARI」とタッグを組んだ「THE MUSEUM OF VINTAGE SHOES」も入場制限しなければならないほどの行列ができたんです。

ー 久しぶりに明るいニュースを聞いて嬉しくなりました。

宮下:革靴を履きたい気分が盛り上がっているのは確かですが、ひと昔前とは様子が異なります。

ー というと?

宮下:いま求められているのはストレートチップのような、いわゆる “スーツに合わせる革靴” ではありません。ビジネススタイルがカジュアル化する流れを受けて、チノーズやデニムと相性のいい靴が売れたんです。それがサイドゴアだったりUチップだったりしました。もうひとつ挙げられる傾向は7〜8万円クラスのブランドの動きがよいということです。ビジネスマンはテレワークの浸透で毎日出勤する必要が無くなりましたよね。ライフスタイルが変わったことで、履き潰す靴よりもじっくり付き合える靴を選ぶようになったんです。シューケアグッズが売れているのも同じ文脈で考えられます。

ー そのような状況を踏まえ、この春に仕込んだのは?

宮下:本命が、ローファー。春夏商戦の立ち上がりである明日(2月23日)からローファーをずらりと揃えたポップアップをスタートさせます。〈ジェイエムウエストン〉や〈ジョンロブ〉、〈クロケット&ジョーンズ〉といった老舗の永世定番と時代感を踏まえた別注の二本立てです。

ー なぜローファーに注目したのですか?

宮下:スニーカーに慣れ親しんだ世代にとって、革靴は重くて硬いもの。彼らが抵抗なく履き替えることのできる靴がローファーだからです。脱ぎ履きが楽、かつシンプルなコンストラクションのローファーは足馴染みもいい。ただ、ローファーは紐で調整できない構造上、木型のよし悪しが履き心地を大きく左右します。バイイングでは、そこを意識しました。

好例が、〈クロケット&ジョーンズ〉からピックアップした「キャベンディッシュ3」。二の甲が低く、踵が小さいフォルムにアップデートされたモデルです。ブランドオリジナルのラバーソールのシティ・ソールと相まって、その履き心地は至福のひと言。タッセルをあしらった「キャベンディッシュ3」はあらゆるスタイルを格上げしてくれる風格もあります。

〈クロケット&ジョーンズ(CROCKETT&JONES)〉のタッセルローファー「キャベンディッシュ3」。日本人の足にフィットしやすい木型、ラバーソールのシティ・ソール、瀟洒なタッセルが見どころ。¥90,200

ー 対抗馬は?

宮下:秋から継続して人気のUチップですね。ラギッド色の強いUチップはカジュアルスタイルの仕上げに相応しい。イギリスで生まれたカントリーシューズを出自とするこの靴は雨に強く、頑強なものが多いんです。ケアに神経質になる必要がないというのもスニーカー世代にはとっつきやすいでしょう。

ー 〈ジェイエムウエストン〉の「ヨット」は宮下さんも2足目を買ったばかりとか。

宮下:「ヨット」は知るひとぞ知る隠れた名作でした。Tシャツやポロシャツに溶け込む面構えながら、コートの足元に合わせても見劣りしない。油分をたっぷり含んだ「デュプイ」のロシアンカーフ、トーンオントーンの刻印、ラギッドなトレッドパターンが醸し出す高級感にはどんなデッキシューズも敵いません。

〈ジェイエムウエストン(J.M. WESTON)〉の知られざる名作「ヨット」。ロシアンカーフと名づけられた「デュプイ」のレザーに象徴されるマスキュリンでエレガントな面構えは圧巻の域。¥143,000

ー ダークホースは?

宮下:ファッション感度の高い人々の間でいままた注目を集めている〈フラテッリ ジャコメッティ〉です。フォルムといい、パターンワークといい、ドレススタイルのみならずモードやメゾンのウェアにも合わせられる懐の深さがあって、うちのスタッフにも広く支持されています。おすすめはシングルモンク。繊細なストラップに艶やかな尾錠。いまの気分にぴったりです。

〈フラテッリ ジャコメッティ(F.LLI Giacometti)〉のシングルモンク。抑揚を利かせたフォルムに繊細なモンクストラップと尾錠が映える。¥107,800

ー 宮下さんが去年から推しているのが〈バーウィック〉ですね。

宮下:革靴のエントリーモデルにまたとないブランドです。スペイン製でアンダー3万円ですからね。それだけでも財布の紐を緩めたくなりますが、細部にわたって抜かりはありません。アッパーはスペインの名門タンナー「ピクーサ」のワックスコーティングレザー。雨や汚れに強く、さっと拭いただけでぴかぴかに。この手の革は乳化性クリームがなかなか入っていきませんが、薄く仕上げたこいつなら心配はいりません。「ビブラム」社の新機軸である「ビブラムガムライトソール」もポイント。ゴムを発泡させることで従来の2分の1の軽さを実現したといいます。

スペインのブランド〈バーウィック(Berwick1707)〉。雨や汚れに強いワックスコーティングレザー、従来の2分の1の軽さを実現した「ビブラムガムライトソール」を採用。底付けはグッドイヤーウェルト製法。¥29,700

ー 昨年夏に買取サービスの「ISETAN VINTAGE PROJECT」を立ち上げるなど、“イセタンメンズ” は従来の “靴屋” にはない取り組みも光ります。2022年度はどんな青写真を描いていますか。

宮下:まだ少し先の話ですが、この秋には保管サービスをはじめます。靴好きが頭を悩ませるのが保管と管理。これを解決するサービスです。「ISETAN VINTAGE PROJECT」に続くこのサービスのローンチで、紳士靴売り場は靴の “ゆりかごから墓場まで” がかたちになります。ぜひご期待ください。

INFORMATION

伊勢丹新宿店

電話:03-3352-1111(大代表)
オフィシャルサイト
Instagram : @isetanmens_shoes

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