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バンブーシュート×マウンテンリサーチ、横道トレックのススメ。
The New Back Road Walker

バンブーシュート×マウンテンリサーチ、
横道トレックのススメ。

暮らしが大きく変わったこの数年で、アウトドア人口は一気に増えた。自然や野生動物を愛でる人、悪路や未踏に挑む人。ハマった理由はそれぞれでも、ハイテクなギアや特別な装備を嬉々として取り入れがちなのはみんな大体同じだ。でも、〈バンブーシュート〉の甲斐一彦さんと、〈マウンテンリサーチ〉の小林節正さんはそのずっと前から傾倒してきたにも関わらず、普段と同じような格好で山へ向かう。本当にいつも通り、中目黒で見かける時とほぼ変わらない。そんな日常着での山歩きを是とする両者による恒例コラボの最新回では、やっぱりありふれた、でもどこかが確かに違う5つのアイテムが出揃った。彼らは山と、そこでの装いに何を求めてこれらの服をつくるに至ったのか。すべてのモデルを手掛けたパタンナーの矢實朋さんも交えたトークセッション。王道のトレイルからはちょっと逸れた、彼らのトレックスタイルが見えてきそうだ。

※BAMBOO SHOOTS ONLINEでは5つのコラボアイテムをそれぞれより詳細に掘り下げたインタビューを掲載。アクセスはこちらから。
  • Photo_Yuma Yoshitsugu
  • Text_Rui Konno
  • Edit_Ado Ishino

出る杭、打たれてもまだやり続けるというか(矢實)

ー コラボの輪郭が見えてきた所で矢實さんにお伺いしたいんですが、普段色々なファッションデザインのパターンを手がける時と、このコラボシリーズに携わるのとでは、感覚は違いますか?

矢實:正直そんなに変わらないですね。ぼくのクライアントに限ると思うんですけど、基本的にみんな古着が好きで、古着にまつわるものづくりに慣れてる方ばかりなので。だからやりやすかったし、理解しやすかった印象です。

ー 矢實さんみたいな方は少数派なんでしょうね。

小林:俺の経験だと、みんな仕事で受けてはくれるけど、こっちが思っている分量感とか、ディテールの処理の仕方やおさめ方とかを汲んで、出来上がったものでスカッとさせてくれる仕事ができる人は何人もいないかな。最初は彼が自分でやってる〈スタビライザー(ジーンズ)〉の展示会に(スタイリストの)岡部(文彦さん)に連れてってもらって、紹介されて。ところがその展示会、当たり前だけどデニムしかなくて。俺、デニムだけ分からないのよ、長年生きてきて一度も通らなかったから(笑)。本当に申し訳ないんだけど、正直あんまり興味なくて「俺はいいかな」って出てきちゃた。

矢實:「俺、デニム穿かねぇからなぁ」って小林さんの一言で、俺はもう小林さんとは喋れねぇ…って期間がそれから10年ぐらい続きまして(笑)。

ー 素敵な初邂逅のエピソードではないですね(笑)。

小林:俺の懐の狭さが出ちゃったね!(爆笑)。だけど今回、「矢實くんがやったパターンです」って矢實の仕事をいくつか甲斐に見せてもらったわけなんだけど…決定的なのはこのベスト。これにはもちろん元ネタがあって、パッと見一緒なんだけど矢實が表現してくれたものは分量感が全然違う。「こういう風につくって下さい」って言っても、仮に元ネタがすごい大きいサイズだったりすると、うまくサイズのところに収まらなくなるんだよね、元ネタに振られちゃって。だけど、彼はそれを完璧に仕上げて来てくれたから、思わず「すげぇな…」と思ったのが、彼に対しての最初の印象。

こちらがそのベスト。サンプリングソースはイギリス軍機甲部隊(AFV)のクルーマンズベストで、大きなフロントの左右の収納を開くと、さらに細かいポケットが現れる仕組み。オリジナルは重量はもちろんパーツの多さや布の分量含めてかなりヘビーだが、今回のコラボでは軽くて丈夫なロクヨンクロスを使って快適に仕上げている。トレックベスト 60/40 ナイロン ¥30,800

ー ようやくおふたりの心の距離が縮まりましたね。

小林:今、バンブーとは別に自分の某プロジェクトでライディングウェアを一緒につくってるんだけど、そっちの話も甲斐からOKをもらって矢實にお願いしてたりするくらい。

矢實:2年ぐらい前から〈バンブーシュート〉のパターンを引き始めたんですけど、その時コラボの打ち合わせで急遽小林さんのとこに連れてってもらったので、あの時を思い出して緊張してました。

甲斐:(笑)。

矢實:あれを言われてから久しぶりにお会いした時にもまだ自分はデニムをつくり続けているから、そう意味では良かったなって思います。出る杭、打たれてもまだやり続けるというか。

小林:打ってないから俺は(笑)。

矢實:(笑)。結局〈バンブーシュート〉とのコラボレーションの話から、小林さんご自身のプロダクトまで携われるようになったので、やり甲斐があります。

ー そもそも甲斐さんが矢實さんにパターンを託したのは、何かしらの光明が見えていたからだと思いますが、その辺りを聞かせてください。

甲斐:矢實くんとの付き合いはぼくが21とか、22歳の頃からだからかれこれ25年とか?

小林:そんな前からなの!?

矢實:はい。その頃、ぼくは文化服装学院に通いながら「ヌードトランプ」っていう古着屋でアルバイトしてて、甲斐さんは店に古着を委託しに来てたんですよ。

甲斐:ヌードトランプのボスの松村(逸夫)さんが自分たちの先輩で、よく面倒見てもらってました。そこから渋谷にヌードトランプができて、先輩らとヴィンテージの古着を委託で売ってもらってました。ガッツリ委託用の古着をヌードに持って行った時にちょうど矢實くんがいたと。

矢實:ぼくは文化に1年遅れて入ってるから当時は二十歳とかですかね。

甲斐:その時にはもう、パタンナーになるって話をしてたよね。それからも遊んだり飲んだり、ウチにも買い物しに来てくれたりして関係はずっと続いていて。古着も知ってて話しやすいし、頼むなら絶対この人なんだろうなぁって思ってた。

矢實:今考えるとほんとぼくは小僧でしたね。今もですけど。当時のヌードトランプって、そこら中の古着屋の店員が委託しにきていて、値札の裏を見ると普通に「甲斐」って書いてあるんですよ。それこそ「尾花」とかもありましたし。尾花大輔さんは当時ゴーゲッターのスタッフでした。

小林:最高だね、その商売!(爆笑)。「尾花」って書いてあったらとりあえず嫌いな物でも一回買っといた方が良さそうだよな(笑)。

矢實:毎回アメリカに行って100パッキンくらい古着を買ってきてるのに、それでも足りなくて人の委託品を置いてる店ってなかなかないよなと思いますね。第三次くらいのヴィンテージブームの真っ最中でした。

ー みなさんのバックボーンも少しずつ見えてきましたけど、またものづくりの話に戻ります。コラボも回数を重ねて、ここに来て一番甲斐さんらしい5型だなと思いました。

甲斐:そうですね。特に今回は自分が一番大好きなシャンブレーシャツとファティーグパンツの企画から詰めていきました。昔、〈シナジーワークス〉というちょっと変態なアウトドアブランドがあって、’70年代ぐらいですかね? タグも格好良いし好きだったんですけど、その話ができる人は少なくて。でも小林さんから〈シナジーワークス〉の名前が出てきて、すごくしっくりきました。それがこの取り組みの共通ギミックになっているベンチレーションの話にもつながってるんですけど、そういう話ができているので、形になっていくのは早かったです。

袖口から身頃の裾までが、ボタンで完全に開閉出来るという圧巻のギミックを採り入れたシャンブレーシャツ 。オーセンティックな米国海軍のアーカイブが元ネタで、普通に着ている分には極々正統派の1枚に見える。フロントには“Ph”の刺しゅう、背中には「DEEP IN THE WOODS」のステンシルがあしらわれている。シャンブレートレックシャツ ¥28,600

ー シャツの袖下のベンチレーションのことですよね。コレ、開くとすごいことになりますね。一見普通なのに、驚きました。

小林:まぁそうだよね。普通は気づかないもんね。

甲斐:これ、着てると本当にここ(脇)から風が抜けてくの。スースーして寒いくらい。これで夏の山に行ったら涼しいだろうなって。

ー 山で着るものと言うといわゆるテック系のギアをイメージする人が多いと思います。そういうものとの距離感はどんな風に考えられていますか?

小林:どの世代もみんな好きでしょ、ナイロンの発色だったり軽さだったり。もちろん俺たちだって’70年代から始まるああいったものが大好きなんだけど。…後日、ネイチャー系の人たちの意見にも感化されるにあたり、極限状態じゃないところであればなるべくウールとかコットンで過ごしたいと思うようにもなってくるんだよね。それが(ヘンリー・デイヴィット)ソローが言う「常にシンプルに暮らし、シンプルに考えるようにしましょう」という話の根本のところなんだと思うんだけど。この現代で石油系の素材でできているものすべてを排除するのは無理があるけど、あるパートではできるだろうなと思ってたりはする。

ー オーガニックやナチュラルに固執しすぎても現代では不自然になりそうですよね。

小林:日本は山と都市との距離が近いから、メンドくさくなったり、ツラくなったらさっさと帰ってくればいいわけ(笑)。アメリカみたいに一度山に行っちゃったらそうそう戻っては来れない…覚悟決めないと大変だ、みたいな距離じゃないから。日本にはそういう楽しみ方があると思うし、それはアメリカの感覚とも違う。そこがポイントなんじゃないかな。その代わり、アメリカで俺たちみたいなことをやっても面白がられないかも知れないね。

甲斐:自分の友人がとうとう、一般社団法人としてトレイル開発の仕事を始めるみたいで。

小林:すごいね、それ。

甲斐:ピークハンティングじゃなくて、アクロバティックでもなく、淡々と歩けるトレイルが世の中にできてくるみたいですよ。

INFORMATION

今回のコラボモデルも擁する〈バンブーシュート〉2022年春夏の最新ルックのzineが限定配布中。登場するのは中目黒に集う21人のいつもの仲間たちのポートレート。中目黒の「バンブーシュート」はもちろん、同じ目黒川沿いにある小林さんのお店「ジェネラルストア」、お隣の「カウブックス」などでも配布予定。詳細はバンブーシュートオンラインにて。

バンブーシュート

住所:東京都上目黒1-5-10 中目黒マンション107号
電話:03-5720-1677
時間:11:00~20:00

バンブーシュートオンライン
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