ANC-WISM-02 (TAPERED)

¥39,600 SIZE: 1,2,3
先のワイドデニムと同様に、旧式のシャトル織機で時間をかけて織られた13.5ozのセルヴィッチデニムを使用。シルエットはやや細身のスリムテーパードで、裾をカットオフした5ポケット。着用した際に足がすっきりと見えるパターンを組み込んでいる。


左足の千鳥ステッチは、破れた箇所に誤って足を通した際にできる縦の穴を作り、そこに当て布をしてふさぐというストーリーを意識しているとか。そうしたリアルでデイリーなイメージの加工と、デザイン的要素の加工を入れ込んだ、生地・縫製・加工の要素がしっかりと噛み合った一本。
ー このデニムを最初につくるときは、やっぱりかなり試行錯誤されたんですか?
山近:そうですね。0から1をつくるっていうのが、やっぱりすごく大変でした。とにかく自分で本当に穿くものを作りたいと思ったときに、自分がそのときよく穿いてたのが〈リー〉のマタニティパンツだったんです。なのでそれをベースにしたんですが、結局全然違うものになりましたね。
堀家:そうだったんですね。
山近:学校を卒業して児島に帰ってきて、一回こっちで修行してたんです。そのとき見た加工の感じと、東京でデザイナーズブランドにいたときに見たもののハイブリッドがこれです。このデニムは街で穿いていても、〈アンセルム〉のものだってわかってもらえるのかなって思います。

堀家:加工のデニムって普段穿かないんですけど、これは素直にいいなって思えたんです。あと、今回別注をやらせてもらったのは、最初のインラインが買えなかったからでもあるんです。だからなんか穿きたいの作ってよっていう(笑)。
山近:僕もいわゆる加工デニムは穿かなかったですね。どこかで古着じゃないのにな、っていうのがあったんです。
堀家:だからそこから離れるようなことを考えてた、ってことなんですよね?
山近:そうなんです。
ー 聞けば聞くほど、一言では語り尽くせないデニムですね。デニム生地を使ったボトムスではあるんだけど、っていう。
堀家:今っていろんな服があって、いろんな目立ち方があるんです。例えばレングスが2メートルあるボトムスとか。けど、そういうことではなくてある種の規制のなかで世の中にない服という部分では、落とし所とかアプローチが完璧な気がしますね。

取材時に山近さんが着ていた〈アンセルム〉のサーマルカットソー。見事としか言いようのない完成度。
山近:意外だったんですけど、いわゆる90年代のストリートを見てきたような方にも穿いていただけていて、それはすごく嬉しいですね。若い方はヴィンテージデニムを穿いてきてないと思うので、もっとフラットに見てもらっているのかなと思います。
堀家:正直に言って、山近さんってマーケットがそんなに見えている方ではないと思うんです、いや悪い意味じゃなくて(笑)。単純にまず自分が欲しい、というものを形にしているというか。
ー いわゆるマーケットインではなく、プロダクトアウトというやつですね。
堀家:あと、まだどの層に対して球を投げたらいいのかが、そんなにはっきりしてない気もするんです。
山近:はい、絶賛アジャスト中です。。
堀家:それがすごいですよね。アジャスト中なのに、クオリティだけがめちゃくちゃ高いという(笑)。それで思い出したんですが、僕は自分が信用している人の意見とか視点を大事にしているんです。近くの人の心が動かないんだったら、その後ろにいるたくさんの人たちには響かないだろうっていう。
ー すごくよくわかります。個人的な好みこそが、結果としてたくさんの人に刺さることってすごくありますよね。

入ってすぐのところにあるヒゲ台。その名の通りヒゲをつけるための型。こういうのを開発した伝説の加工職人がいるらしい。
堀家:そう、だから〈アンセルム〉のどこに何を投げるかが決まってないっていうのは面白いなって思います。
山近:我ながら球種はめちゃくちゃあると思うんですけどね。ただ、どれを投げたらいいのかなっていう。
ー 展示会で拝見した服にしても、加工物だけではなくて、すごく美しくてスマートな服もあったわけで。
山近:そうですね。そういう綺麗な服に、このデニムを合わせるっていうのがいいと思ってるんです。そうじゃないと、全部の服が破れていっちゃうんで(笑)。


ブランドオリジナルの薬品を使って、生地の表情に強弱、陰影をつける。手作業でひたすらムラに吹いていく。
ここまで二つの工場を巡りながら、真摯なデザイナーと、そのものづくりに惚れ込んだバイヤーとのやりとりをお届けしてきました。どこか謎に満ちていた〈アンセルム〉というブランドが大事にしていること、譲れないことがわかっていただけたのではないでしょうか。
それと特筆すべき点がもう一つ。〈アンセルム〉は山近さんがそれまでいたブランドで使っていた生産背景、工場をほぼ使っていないのだそう。これがどれだけ骨が折れることか、想像するに難くありません。
コミュニケーション、人と人、そういうもので〈アンセルム〉はできているのだと思います。

デビューから3シーズン目を迎え、徐々にその認知度が高まってきている〈アンセルム〉。堀家さんの言葉を借りれば、ぼちぼち“見つかってきている”のだと思います。ただ、そうした追い風ムードに安易に流されるようなブランド、デザイナーではないことは、一泊二日の取材を終えた今、よくわかります。
加工や経年変化をデザインする、というのがブランドのテーマではありますが、ものづくりの姿勢そのものをデザインするという言葉が、このブランドには似合うのではないでしょうか。今後が本当に楽しみです。

美しき内海、瀬戸内海。この海の近くで〈アンセルム〉は作られています。児島最高。