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家から考える日本人の心地よいツボ。NIHON NOIE PROJECTが手がける現代の和の家。
What is Japaneseness?

家から考える日本人の心地よいツボ。
NIHON NOIE PROJECTが手がける現代の和の家。

住宅ブランド〈ドライブ(Dolive)〉が「株式会社社外取締役」と京都の人気テキスタイルブランド〈ソウソウ(SOU・SOU)〉と手を組み、和の家を手がけるという。「株式会社社外取締役」といえば、建築家・起業家の谷尻誠氏、〈ビームス(BEAMS)〉コミュニケーションディレクター⼟井地博⽒、「BETSUDAI Inc. TOKYO」のCEO・林哲平氏がメンバーの百戦錬磨のクリエイティブプロダクション。となれば、どんな空間に仕上がっているのか興味は尽きないということで、モデルハウスが立つ大分の温泉地・湯布院に飛びました。空間を味わい、座談会から浮かび上がってきたのは、日本人の原風景やアフターコロナの暮らし方、地方がもつポテンシャルなど、これからの時代に考える新しい暮らし方のヒントでした。

  • Photo_Mina Soma
  • Text_Shinri Kobayashi
  • Edit_Ryo Komuta

家は明るいければいいってわけでもない。

和の家と一言でいっても、年代でも違うだろうし、一人ひとりでもイメージが違うだろう。和とは一体なんなのか、という命題のもと、深層にもぐり、和のエッセンスへとたどり着かなくてはいけない。そのエッセンスについて、谷尻さんは住んだときの心地よさから紐解いていく。

「僕は現代建築をメインに手がけてきたので、正直なところ伝統的な“和”には元々それほど興味はなかったんです。でも、年齢とともになんか惹かれて心地よく感じるところが出てきました。例えば、窓が大きくて室内がパッと明るいというよりは、ちょっと暗くてしっとりとした室内から明るい外を見て落ち着いてるような状態とか」(谷尻さん)

「(谷尻)誠さんが言うように、影を作ることこそ日本人が思う気持ちよさなんじゃないんのかなと思います。企画段階でも(谷尻)誠さんが『軒はもっと落とした方がいい、もっと低く取った方がいい。和というものには、そういうところに情緒があるから』って。そのことを再認識しました。外はこれでもかっていうくらい日が照っていても、軒が深いから室内はこれくらいの明るさになるんです」(林さん)

「みんな大きな窓を作って採光しても、結局ブラインドカーテンを閉めて生活しているから意味ないじゃんっていつも言うんですよね(笑)。だから、空間の明るさとしては、これくらいがちょうど気持ちいいのかなと。軒が深くて立つと外は見えないけど、座ると窓から視線が抜ける。座った瞬間に、視線がぱっと抜けるこの感じ。和というと、みんな表層的に竹や畳のようにわかりやすいアイコンに置き換えてしまいがちだけど、本当はそうじゃない」(谷尻さん)

「和の要素というのは、例えば光の行灯が低くある様子とか、しっとりとした室内から明るい中庭を見るとか。本当はDNA的に何か持っている部分、心地よく感じる部分というものは絶対あると思うんです。その部分をちゃんと守れば、現代の建材やクロスで作ったり、現代的なキッチンを設えたりしても、どことなく和だよねという要素は必ず残ると思います」(谷尻さん)

光と影。まさに谷崎潤一郎の『陰翳礼讃』の世界観が現代に蘇る。

他にも「NIHON NOIE PROJECT by SOU・SOU」の建築を特徴づけている土間の使い方にも、日本的な暮らし方を見出すことができる。例えば、古くから日本人は和室を、時には食卓を囲むダイニングとして、ときにみんなが憩うリビングとして、時に布団を敷く寝室として使うなど、一つの空間を多用途に使うのが当たり前だった。

「昔は靴履いたまま、他人の家にお邪魔できるような場所として土間や軒下がありました。入っているけど入りきってないという中間領域があるのが、和の要素でもあるんです。この建物では、中間領域となるようなスペースを作って和の要素を引き継いでいます」(谷尻さん)

そして、今の時代に即した視点でこの場所の有用性を提言してくれた。

「こういうファサード(外観)に、〈ソウソウ〉さんのかわいいのれんがかかっていたら、お店だと思う人もおそらくいるじゃないですか。かつて職住一体だった家ですが、いつの間にか働く場所と住む場所をそれぞれファーストプレイス、セカンドプレイスと分けるようになりました。でも、コロナ以降のこれからの住宅は、家が仕事場であり、お店であり、住む場所というように、混ざってくる時代になってくると思うんです。こういう住まいであれば、使い方によっては土間が料理教室でも、レストランでも、陶芸教室でもいいと思うんです」(谷尻さん)

「これからの時代、家は生活するためだけの場所じゃなくなると思うんです。昔の和の家は、内土間があり、そこで商いをすることも、人をもてなすこともできる空間でした。だから和というのはそうやって、いろいろなものをうまく抽象的に網羅できる要素があるからこそ、今の時代と合っている気がします。コロナ禍になってなおさらそうですが、その辺がミックスしたり共存する時代になってくるから、家の価値というものが明らかに変わってくると感じています」(土井地さん)

「性能やスペック、プライスという条件だけではなく、そこでどんなことができるか、どんな趣味を始められるかとか、人を招くことができるかどうかとかという考えで、家を捉えるようになっていくじゃないかと。それこそ、フイナム読者のような若い方にこそ、いつか家を建てようではなく、今からしっかりプランを考えて欲しいですね」(土井地さん)

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